童貞虎獣人の筆おろしをしたらそのまま付き合うことになったビッチ狼獣人の話

  一

  「か、彼氏ができねえよ~~~っ!」

  「ぎゃははは! ばーかばーか!」

  日付が変わって、終電の時間が終わった二丁目のバーは、ある種の混沌が満ちている。金曜日——さっき土曜になったばかりで、朝まで飲むことを決めた酔漢たちの喧騒で薄暗い店内は騒がしい。誰も彼もが恋愛とセックスとゴシップを弄んでいた。俺たちもそうだ。

  金宮焼酎のソーダ割を飲み干すと、手の空いている店子がすかさずお代わりを作ってくれる。手慣れたもので、ソーダかどうかも聞かない。いやいいんだけど。どうせソーダ割を頼むし。

  「なに、圭ちゃんあんたまた振られたの?」

  呆れたような半笑いで、獅子の店子が言う。

  圭ちゃん。しばらく前に知り合った虎獣人の友人だ。たぶん同年代で、けっこう気のいい相手なのだけれど、なぜか男運がなくていつも「今度はうまくいきそう!」→「振られた~!」を繰り返している。

  「まだ振られたわけじゃねえって! れ、連絡が取れないだけ……」

  「それを振られたっていうんだよ。次行けよ次」

  「うう、次に行ける奴はみんなそう言う……」

  圭は圭で虎獣人らしい、かなり大柄な体格をしているので、アプリでも真面目にやれば入れ食い状態なのではないか、とも思うが、なかなかうまくいかないようだった。オラオラした感じの性格を求められがちな虎獣人の見た目に、身体もがっちりしているのが拍車をかけている。でも本人の性格はこの通りだ。

  眉は太いし、一重の三白眼、太い口吻。生まれつきの体質か、筋肉はかなりのもので、首筋から肩の流れは山脈みたいで、腕や脚だって丸太を思わせる。着ている服だって、膝丈のカーゴパンツにタンクトップと、別に変な感じはしない。でも本人の性格はそういう感じが全くないので、需要に応えられないのだ。大雑把でもなく、むしろ繊細な方で、振られるたびに新鮮にがっくり来るくらい。うっすら涙目になってるし。見た目がいいかどうかと、モテるかどうかって別の話だしな……。

  とはいえ、狼獣人の俺だって同じようなことは数え切れないくらいある。銀に近い灰色と白の毛並みは精悍な印象を与えるようで、タチを求めてウケの相手から連絡が来ることは多い。しかし実際は俺もウケなので、すぐに音信不通になったりする(アプリには明記してあるのに、なぜかタチを求められる。意味不明だ)。いちいちそんなことに傷ついていられないし、ぶっちゃけ圭の慣れが足りない……という気持ちもなくはない。なくはないが、それをわざわざ言うほどでもなかった。

  圭はグラスの酒を半分ほど飲み干して、カウンターに突っ伏する。

  「一生セックスできねえまんま寂しく死んじまうんだ、俺……」

  「彼氏とセックスを結び付けるのは面白すぎるって! もっといろいろ手続きあるだろ!」

  「り、倫理が早すぎる……、俺はただみんながしていることをただしてみたいだけなのに……」

  必修科目みたいにするのもどうかと思う。

  まあでも、本人にとって必修みたいに見えるならそうなんだろう。俺がわざわざ介入するところでもない。

  ソーダ割を飲む。だいぶ圭も俺も酔いが進んでいる。というかかなり酔っている。だから普段なら絶対言わないことを言った。

  「っていうか、なんでそんなにセックスとか恋愛にこだわんの?」

  「あん?」

  「付き合うとセックスは別じゃん。セックスしたって寂しい奴は寂しいし、寂しくない奴はセックスしなくたって寂しくないよ。恋愛だって同じだよ。それに恋人がいたほうが寂しいことだってあるだろうし」

  圭はまた酒を飲んだ。細い髭が照明を受けて淡く光る。

  「そうかなあ」

  「だってセックスなんてコミュニケーションの一種なだけじゃん。セックスよりケーキがいい奴もいるかもしれない。もしかしたら圭はそういうタイプなのかもしれない」

  「毎日三回抜いてるのに!?」

  「抜きすぎだろ! ちんこ痛くならねえの?」

  「でも一人だと寂しいものは寂しいし、それはどうしようもないんだよ。せ、セックスして、朝起きて、相手がまだ隣にいたら寂しくないのかもしれない。知らないけど……」

  掛け合いを吹っかけてきたくせに、圭は俺の返しをスルーして、突っ伏したまま呟く。たぶん痛くならないんだろう。

  それにしても重症だ。

  でも寂しいって気持ち、何かいいな……。新鮮だ。光源氏だって恋煩いをした息子——息子だっけ?——に色っぽさを感じてたし。清少納言だって虫歯で苦しむ美女がたまらないとか書いてるし。俺が性格悪いわけじゃない。一般的な感性だ。うんうん。がっつり落ち込んでいる圭がうっかり可愛く見えちゃったりすることだってあるはずだ。

  俺はもうそれなりに遊び相手がいて、人恋しくなれば何人かのセフレがいるからそういう気持ちにはならない。ならないようなムーブを取ることができる。だからまあ、そういうのって、なんか綺麗に見えるんだよな。ずいぶん前に捨ててしまったはずのビー玉が、自分の部屋の片隅に眠っていたのを見つけたときみたいな気持ちになる。

  グラスを干して、俺も圭の隣に突っ伏してみる。目線が合うと、圭が照れ笑いする。こげ茶色の瞳が、酔って潤んでいる。

  「近えよ」

  「セックスしてみて、寂しいかどうか、試してみる?」[newpage]

  二

  ホテルに友人を連れ込む。俺にとってはイベントにもならない慣れたルーティンだけど圭にとってはそうじゃないのだろう。部屋を選ぶときも、受付をするときも、圭はずっとどぎまぎしていて、真っ赤な顔をしている。虎縞の尻尾が絶え間なくゆらゆらしていて、気まずそうだ。座っていると意識しないが、立って並んでみるとそれなりに身長差があって、目線が圭の肩辺りになる。俺が180センチぴったりだから……圭は200は越えてるな。特にスポーツもしていないのに、種族柄だろう恵まれた体格で、筋骨隆々という表現がぴったりだ。

  エレベーターでも圭は俺と目を合わせないように、あらぬ方向を向いている。斜め上て。階数表示でもないじゃん。

  「…………」

  圭の手を取った。

  特別サービスだ、俺だって気恥ずかしいが、恋人繋ぎをしようとする。

  「だひゃあ!」

  だひゃあ、て。

  手を跳ねのけられる。ショックよりもおかしさが勝って、俺は笑ってしまう。

  「おいおい、これからセックスしようってのに、ひどくねえ?」

  「わ、悪い、なんか、すごく、意識しちゃって……」

  エレベーターを降りると、圭は数回ほど手を握ったり開いたりしてから、俺に差し出してくれる。太くてごつごつした指は、うっすらと湿気っている。ホテルの間接照明に濡れて、俺の毛並みと合わさると銀と金みたいにつやめいていた。

  握ると、握り返してくれる。恋人繋ぎだ。まるで肉球が絡み合うみたいだった。

  「手汗やべー」

  「言うなって! 緊張してんだよこっちは!」

  握ったまま、廊下を歩く。俺は彼の手を持ち上げて唇を付けた。体臭と汗と酒の匂いが混ざって香ばしい。圭が息を呑んだのが分かった。

  「ひえ……、なんか、印象違うな……」

  「実は俺もちょっと緊張してる」

  「そ、その感じで……?」

  にっこりと笑う。

  ナンバーのついた鍵で、部屋のドアを開けて入る。

  灯りをつけて、部屋に進む。玄関から右手に浴室、左手にベッドルームという間取りだ。清潔でおかしげな所はない。俺はベッドルームの入り口で、圭と繋いでいた手をぱっと放した。俺はできるだけ表情に嫌な感じが出ないように、いつも通りを意識する。

  「さてさて、筆おろしをしにホテルに連れ込んだわけですが」

  「あ、改めて言われると嫌だな……」

  「ちなみに、ここから普通のホテル飲み会に移行できるけど、圭はどうする?」

  「はぁ?」

  「いや、だっていざホテルに来たらビビったりするじゃん。やっぱ俺とはしないルートでいたいとかある? あるなら……」

  俺は言葉を止めた。圭が俺の手を握っていた。

  「そういうのいいだろ。ホテルに来る時点でさ、もう」

  「……おりゃ」

  荷物を放り投げて、俺は圭の手を握ったままベッドに飛び込む。圭が引き倒されるようにしてついてくる。だから、俺の上に圭が覆いかぶさるみたいな姿勢になる。

  「あっぶねえ……」

  「わはは、リードされるのうめー」

  「お前なあ、どうすんだよこれ」

  「んん? どうするとか、決まってんじゃん」

  四つん這いみたいになった圭の下で、俺は彼の背に腕を回す。力を込めるまでもなく、スムーズに圭は俺の唇に口吻の先を置いた。圭の唇は思ったよりも熱を持っていて、互いの髭が擦れてくすぐったくて、それがおかしくてちょっと笑う。

  「? な、なんかおかしかったか?」

  「いいや。ただ楽しいだけ」

  「楽しいって……俺は緊張でそれどころじゃないんだけど」

  「ほらほら、こういうのはリラックスから始まるんだよ」

  「あ、こら……!」

  脚も抱きつくみたいにして圭の腰に回す。そのまま圭はオレにのしかかるようにしてくれる。でも体重をかけすぎないように膝が踏ん張っているのが分かる。

  「お前意外とべたべたするの好きなんだな……」

  「べたべたするのが嫌いな奴にはしないよ」

  「……ああそう……」

  圭が息をついて脱力する。少し重いが、重すぎるほどじゃない。全然平気だ。

  タンクトップ越しの圭の身体は、思ったよりも柔らかくて、腹はむにっとして柔らかく、背中には十分な弾力がある。匂いだって手の平よりもずっと濃い。香ばしい日光の匂いと汗の混ざった匂いがする。

  俺たちはそのまましばらくの間ベッドの上で、何もせずただ抱き合っていた。圭の身体は俺にとっては十分に魅力的(そもそも俺にタイプというものはない。ほとんどの場合、友愛のレベルがそのまま性的な好みに連結する)だったし、体温も匂いも好ましかった。圭にとっても俺が悪くない相手だったらいい、と思った。

  もう一度キスをした。唇を合わせるだけの浅いキスだった。圭の瞳が酔いと恍惚でとろんとしている。様子をうかがいつつ、拒否があったらすぐに引こうと思いながら唇を割り開くように舌を差し込むと、さしたる抵抗もなく彼は俺を迎え入れた。

  「ん……ちゅ、ふあ……」

  「んん……」

  熱くて柔らかい肉が、俺の舌に乗る。しかし動き方がよく分からないようだ。俺は唇の端だけで笑うと、圭の舌に自分の舌を絡み合わせた。手を引いていくみたいにリードをするキスは新鮮で気持ちいい。分厚い舌の側面をなぞったり、棘の一本一本を数えるようにねぶり、口蓋や牙に舌先を滑らせる。

  「うぅ……っ、んぐ……」

  牙の先をゆっくりと舌先で舐めると、圭が声を漏らす。先端の危険な鋭角をなぞると、びくりと圭の背中が震えた。

  唾液が舌を伝って俺の口に流れてくる。酒の匂いと、バーでつまんだスナック菓子の味がする。圭の舌をちゅるりと吸って、唾液と一緒に俺の口内に引き込む。いっぱいいっぱいのようで、眉を寄せて苦しそうにしている。

  マズルで繋がったまま、俺は圭の頭に手を添えて逃げられないようにする。

  サービス、というか、せっかくなので圭にも気持ちよくなってもらおう。遊びのセックスなんだし、俺ばかり気持ちよくなるっていうのもね。楽しんでもらうのもエッチでビッチなお兄さんの仕事なのだし。いや同い年くらいなんだけど。

  キスを続ける。俺の唇から、どちらのものか分からない唾液が流れ落ちていくのを無視して、舌を絡めながら圭の耳や背中を撫でる。

  「あう……っ」

  尻尾の付け根に触れると、圭がびくっと身体を震わせ、弓なりに反る。

  うお、可愛い反応する……!

  猫系の獣人はここが弱いのだ。

  慣れてる相手だったら、問答無用で進めていくが、相手はビギナーだ。嫌悪も快楽も、たぶん俺が定義することになるはず。俺が初めてセックスをしたときはそうだったから。

  ……あれ?

  じゃあもしかして、筆下ろしってラフな遊びのノリじゃない方がいい?

  まあ……なるようになるか。

  俺は口を離して、軽く微笑みかける。

  「尻尾の付け根は気持ちいい?」

  聞くと、圭は恍惚としたまま、太い眉を曲げて困ったような顔をする。

  「な、なんか変な感じ……。あんまりしてほしくない、かもしれん」

  「そかそか。じゃあやめておこう」

  ちぇー。

  と思うが、まあそれは今後誰かが触るうちに性感帯になっていくだろう。それは俺の仕事でなくてもいい。

  次の段階に進む。

  俺は身体をずらして圭の下から抜け出す。何をするんだ? と言わんばかりにこちらを見る圭に、ちょっとだけ笑いかけて、仰向けになってもらう。圭の股間は高く盛り上がっている。

  「お、勃ってるな。よしよし」

  「あんなことやれば、そりゃあ……」

  「いやいや、もっとすごいことをやるんだよ、これから」

  圭の太腿をまたぐようにして、股間にマズルを寄せる。

  「風俗には行ったことある?」

  「な、ないけど……」

  「お、じゃあマジで未使用? へっへへ、可愛いなあ」

  冗談めかしながら、俺はジッパーを下ろす。あまり意味を持たせたくはなかった。初めてなどに大きな意味などないのだ。どうせ遅かれ早かれ性欲があれば、圭ほどの容姿と性格なら情事は向こうからやってくるだろうし。

  布の割れ目から、濃い雄の匂いが立ち昇ってくる。俺はその源に鼻先をうずめた。

  「んはぁ……」

  た、たまらん……。

  圭は丁寧なことに洗濯の時には匂いの控えめな柔軟剤を使っている。だからいつもいい匂いなのだけれど、それに、股間のフェロモンが蒸されている。アクア系の香りに、フェロモン、汗、そして尿の残滓で編み上げられた、甘くくらくらするような雄のムスクが俺の鼻孔を犯していく。かろうじて甘勃ちにとどまっていた俺のペニスも、圭の匂いでばきばきに勃起してしまう。

  「お、おい、あんまり……嗅ぐとこじゃないぞ、そこ……」

  「んんー……ある種のニンゲンにとっては、嗅ぐとこなんだよなあ」

  「ええ……そういうもんなのか……」

  圭は大人しく流されてくれる。

  可愛いなあ。

  俺は先走りが染みを作っている下着にそっと指を這わせる。布の下で、剛直がびくりと跳ねる。

  「ん……っく……」

  切なげな声が上がって、染みが大きくなる。

  あんまりからかって終わらせてしまうのもかわいそうだし、手早く行くか。

  前開きから剛直を引き出す。てらてらとした肉色の塔が、ホテルの照明を受けて淫らな光沢を帯びている。

  太いな、これ……。

  俺は一瞬だけ圭の様子を見る。恥ずかしそうにしているが、拒否の姿勢はない。OK。続けよう。

  「でかいなあ。よく言われない?」

  「く、比べたことなんかねえよ……!」

  「わはは」

  俺は唾液を舌に絡めると、マズルに収めるようにして肉棒を咥える。

  口蓋に亀頭を押し付けながら、カリ全体に唾液をまぶしつける。あまり強い刺激よりは緩い刺激がいいだろうから、バキュームは入れない。

  じゅぷ、じゅぷ、じゅぷ……。

  「んっ……んく……」

  アイスキャンディをしゃぶるように、俺は丹念にフェラチオを施す。その間も圭の匂いがひっきりなしに脳を犯していて、たまらない気持ちになる。俺が狼獣人だからかもしれないけれど、セックスにおいていい匂いはいつだって重要だ。

  「うぅ……っ!」

  圭が声を漏らす。

  こういう時、しゃぶられている側は、相手の頭を撫でたり胸を責めたりと、やることはないわけじゃない。相手によってはゲームしたり、AV見たりもアリだ。でも圭はぎゅっと拳を握って快楽に耐えている。

  わあいじらしい。もうほとんど可憐だ。

  でも爪が食い込みそうなほど強く握られた拳が痛そうで、俺は膝で身体を支えながら、圭の拳に自分の手の平を重ねる。しゃぶりながら、彼の拳をほどいてやって、指を絡める。

  「あ、やば……」

  「おっと」

  口を離す。

  ひくひくと切なそうに張り詰めた肉槍が脈動する。

  「イきそうだった?」

  「な、なんか、手ぇ握られると……」

  「えーまじ? なにそれ可愛いー!」

  やべ、本音が出た。

  圭の首に抱きついてごまかす。

  「嬉しいけど、イくのはこっち……な?」

  俺は身体を離すと、手早く服を脱いだ。着衣でするのも好きだが、着替えを持っていないから、圭に変な抵抗感を持たせたくない。それにせっかくの初めてなのだから、裸でくっつくことだって楽しいことを知らせたい気持ちだった。

  「はいばんざーい」

  おちゃらけて言ってみると、呆れ顔をしながら、彼は両手を上げてくれる。タンクトップを脱がせ、ズボンを下ろす。圭の毛皮は鮮やかな橙色に、深い黒色の縞が走っている。俺の毛並みは銀に近い灰色。二人とも腹や内股は白い。それなりに関係ができてからセックスするのなんていつぶりだろう。俺は少しだけ気恥ずかしい。圭はたぶんもっと恥ずかしいのだろう。

  二人で裸になると、圭は身体を起こし、ハグをして、またキスをした。

  「手際がいいな」

  「んー? 慣れてるだけだよ」

  圭の耳に軽いキスをして、俺はヘッドボードに置かれたローションを取り出して、剛直に塗りたくる。亀頭を肛門に当てると、俺は少しずつ体重をかけていく。

  き……きっつ……。

  入らないわけじゃないけれど、スムーズにはいかない。圭のペニスは大きい方だし、丁寧なほぐしもしていない。少しずつ俺の門は開き、圭を迎えるけれど、それは遅々としている。みちみちと筋線維を押しのけていく感触がする。まずいんじゃないのこれ。

  「お、おい、あんまり無理せず……」

  無理せず?

  俺は反射的に鼻で笑ってしまう。虚勢だ。

  「無理じゃない。それよりも、ちゃんと集中しろよ。念願の脱童貞なんだから……」

  呼吸をするたびに、直腸は淫らな蛇のように収縮して絡みつき、圭の純潔を飲み込んでいく。痛い、が、俺がここで退くわけにはいかなかった。

  亀頭を飲み込む。

  「っあ、はあぁ……」

  巨大な先端が飲み込まれると、前立腺が強く圧迫される。苦しさとないまぜになった快感で、俺は声を漏らしてしまう。

  でも一番太いところを過ぎるとぐっと楽になった。ゆっくりと俺の門戸は開ききって、圭の全てを胎内に収める。あぐらをかいた圭の上に俺が腰を下ろすような体勢。圭が抱きしめるみたいにして俺の身体を支えてくれる。

  対面座位だ。

  「っへ、へへへ……入った……」

  「す、すげえ、入るんだ……」

  「悪い、馴染むまでちょっとこのまま……」

  「ん、ああ……」

  圭の肩に腕を回して、俺たちはまたキスをする。

  強面でガタイがよくて声も低いから、オラオラ系の振る舞いを求められるのに、実際は押しに弱くて繊細な男だからうまくいかない俺の友人。

  こいつの童貞を今俺が食ったのだ、という奇妙な幸福感と征服感でぞくぞくする。

  足に踏ん張りを入れて、ゆっくりと俺は上下運動を始める。肉孔の口が圭の剛直に沿って収縮する。

  「くうぅ……」

  気持ちいい。開ききった雌穴に、雄槍が圧倒的な存在感を主張している。慣れている俺の雌はすぐに圭の雄を受け入れていく。引きつるような痛みは消えて、緩くもったりした快感がさざ波のようにわだかまる。俺と圭の白い腹に挟まれて、俺の萎えたペニスが震えた。不随意に直腸が蠕動して圭自身に絡みついていくのが分かる。

  「童貞卒業、おめでとう、だな?」

  「う、うん……」

  「初の生アナルだぞお? ちょっと緩いかもしれんけど」

  「ふわふわしている……。これって言っていいやつ?」

  「それは誉め言葉だ」

  唇を重ねて、首に回した腕を支点にして、少しずつピストンを早めていく。

  ずっちゅ、ずっちゅ、ずっちゅ……。

  「うぅ……っ。はああぁぁぁぁ……」

  繰り返すピストンに晒されて、圭が脱力しきった声を漏らす。それはとても可愛らしく聞こえる。

  ローションを纏ったペニスが軸になって、俺の尻と圭の下腹がぶつかる肉が、淫らな水音を響かせる。その度に圭の亀頭が前立腺をえぐり、快楽の火花が激しく散る。腹に擦れるペニスが淡く刺激される。何かが押し出されるような感覚が、腿の付け根に溜まってくる。胎内で圭のペニスも硬さを増してくる。

  ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん……!

  圭が俺の身体を抱きしめる。正直動きづらくなるが、それでも絶頂が近くなってくるとともに膨れ上がる浮遊感や孤独感の中では関係なかった。圭の太い腕はものすごく頼もしく甘美な強さだった。

  「ん……、俺、もう……」

  低い声で圭が言う。

  イってしまえ、俺の中でイけ。俺は心の中で叫ぶ。深いところまで、俺は圭を導いていく。圭の精液の熱さで絶頂を迎えたい。この際限なく続く快感のきざはしから、お前の手の中で突き落とされたい。そしてお前を突き落としたい。俺たちはずっと寂しいままだということを、お前は知らないから。

  腕の力が増す。俺の背骨折る気か? でも折ってもいい。本当にそう思った。嵐のような焦燥と欲情が俺の思考を混濁させて、残酷さを誇張させている。

  俺の雌の中で、雄が硬く熱く脈動する。

  「あああっ……! おれ、おれ、先に、もう……!」

  圭が宣言する。切迫した響きだった。俺は肛門に強く力を込める。ペニスくらい捩じ切ってしまっても構わない。誇張された願望が俺を走らせる。圭が腰を激しく動かす。それに合わせて俺は上下の運動をやめて、圭のペースに身を任せた。腸壁が蠕動して亀頭に絡みつき、筋肉の輪がカリを扱く。俺の排泄器官は今だけはお前のためにあるんだ。

  「ああぁぁぁ……っ! イくイくイくぅぅ……っ!」

  剛直が激しく跳ねる。そしてその度に亀頭が前立腺を圧迫する。押し出されるようにして、俺は圭の射精に手を引かれ、二人の腹に挟まれて漏らしてしまう。一瞬だけ、セックスが初めての相手の腹にぶちまけてしまった後悔がよぎるが、それもすぐに快楽に溶かされてしまう。

  とても高いところから落ちていく落下の感じが、俺を真っ白にさせる。雄孔の中で、圭は射精を繰り返す。抱擁の力は緩まない。俺もできるだけの力で抱擁を返す。射精と同じくしてやってくる悲しみと孤独に流されないよう耐えるには、圭はあまりに頼りなかった。

  そのまま俺たちは射精が終わるまで抱き合って、沈黙を分かち合った。その静けさは、俺がこれまでいなしてきたもとのは全然違った色合いをしていた。慣れた男たちはこの射精に伴う孤独をうまくやり過ごし、むしろ楽しむための術を心得ていた。でも圭は違う。同じようなものでも、形質の違う人間といると、たぶん景色が違ってくるのだろう。圭がどのようにこの沈黙と関わるのか、俺は知りたくなる。

  やがて呼吸が整うと、俺たちはまたキスをした。そのうちに萎えたペニスがずるりと俺の胎内から漏れた。俺がちょっと笑うと、困ったように圭も笑い返した。[newpage]

  三

  翌朝。

  俺は誰かとベッドに入ると眠りがひどく浅くなるから、朝方に目が覚めてしまう。しかし圭が目を覚まして隣に俺がいるという状況を作ってやるために、俺はベッドにもぐりこんだままスマホをぽちぽちやっていた。ソシャゲのログイン報酬と、デイリーを消化するだけで数十分の時間潰しにはなる。

  「…………」

  ソシャゲが終わると、SNSを回遊する。お、この店今度行きたいな。ブクマしとこう。ソシャゲの復刻イベに新規キャラ実装だ。いいね。そうやってると、隣で圭がもぞもぞやり始める。

  起床だ、と思って顔を向けると、寝惚け眼と目が合う。

  「おはよう」

  「おはよう……」

  がらがら声だ。

  昨日の夜、圭が眠る前に半分ほど飲んで、枕元に放置していたミネラルウォーターのボトルを渡す。それは寝たまま器用に飲み干す。

  「ぬるい」

  「冷蔵庫に入れとけよ」

  「だって疲れたし……」

  空のボトルをベッドの隅に転がして、持て余すような沈黙が差し込まれる。だから俺は直接聞くことにする。

  「どうだい、今は寂しい?」

  「……分からない」

  「ふうん?」

  「隣にお前がいたら確かに寂しくなかった。でもお前は色んな人とこういう事をしてるんだろう。それはなんだか……寂しい気持ちになる」

  ぐあ。

  やっぱ意味が産まれちゃったか。

  こういう相手の気持ちを蔑ろにして友人関係を維持すると、いつか絶対ぶっ壊れてろくなことにならないから、切るしかない。

  切るしかないんだけど。

  「お前のやり方に口を出すつもりじゃないけど……、こんな気持ちになるんだな」

  「…………」

  圭は黙った。たぶん次に言うことは決まっていて、それを最小の傷つきで収めるための言葉を探していた。いつも新鮮に痛むくせに、痛みを恐れないところが圭の一番の美点だった。俺にはできない芸当だ。セックスがあれば大抵の痛みは快楽で流れていってしまうから。

  押しに弱くて、繊細で、それでもナイーブさを麻痺させない虎。

  この男を心からリスペクトする。

  「つ……付き合おうって言ったら、お前、どうする?」

  この弱気な告白をからかおうか迷ったけれど、やめた。

  俺はスマホを放って、圭に背を向けると身体をくっつけた。布団に暖められた圭の体温が背後に当たる。

  「いいよ、付き合おう」

  あーあ、と思った。たぶん圭は他のセフレと遊ぶことをよく思わないだろう。よく思わないが、全員切れとも言えないだろう。もちろん俺は圭を優先するし、セフレと遊ぶことはなくなるだろうけれど、セックスへのスタンスが違いすぎる。遊びでセックスした翌朝に告白ってところで、顕著に出ている。

  あんまりいい未来は見えない気もする。細かいところの積み重ねで、たぶん俺が嫌になるか、圭が傷ついて終わるだけだ。

  でも圭の寂しさに付き合うのも悪くないと思った。圭自身が傷つくことを恐れながら申し出たのだから、俺だって傷ついてみてもいいだろうと思った。それはたぶん好意と読み替えてもいいのかもしれなかった。