クインビーへの目覚め

  地球は、地底より現れた異形の怪蟲・地底帝国ムシトピアから侵略を受けていた。

  しかし、そんな彼らに屈せず立ち向かう者がいる。

  お稲荷様から力を授かり狐の力で戦う正義のヒーロー・テイルフォクサーだ。

  尻尾を模した二本のテイルソードを武器にバッタバッタとムシトピアの怪蟲を倒していく彼は、正に希望の象徴だった。

  「喰らえ!必殺…、お稲荷三連斬り!!!」

  「むっ…、ムシトピアに栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

  目にもとまらぬ速さで繰り出されるテイルフォクサーの三連続攻撃に成す術も無く、ムシトピアのアリ怪蟲・アントラーは断末魔と共に爆死する。

  「やったぞ!今日もテイルフォクサーが怪蟲を倒した~!」

  「ありがとう、テイルフォクサー!!!」

  「かっこいい~!!!」

  町を襲うアントラーの死を見届けた住人たちは、口々に彼らの英雄を称える。

  観衆をまいて人目のつかない所に逃げて来たテイルフォクサーは、腕に巻いたブレスレットから下がる鈴を指でチリンと鳴らした。

  すると、テイルフォクサーの全身が光に包まれ、中からブレザー姿の男子高校生が現れた。

  「…ふぅ、今日は犠牲者を一人も出さずに倒せたぞ。

  一件落着だな」

  彼こそがお稲荷様から力を授かり、人知れずムシトピアと戦うテイルフォクサーの正体…、今野福助(こんの ふくすけ)だ。

  彼はつい先日までごく普通の高校2年生だったが、ある日たまたま訪れた近所の神社でお稲荷様と出会い、人々をムシトピアから守るためにテイルフォクサーとして戦う事を選択した。

  そんな福助の下に、遠くから駆け寄って来る少女の姿が…。

  「あっ、福助く~ん!探したよぉ、デート中に急にいなくなっちゃうから!」

  「蜜樹!悪い悪い、急にトイレ行きたくなっちゃってさぁ。

  それより、近くにムシトピアの怪蟲が出たってほんとなのか!?」」

  彼女は福助の同級生にして恋人でもある、蜂須賀蜜樹(はちすか みつき)。

  美しい黒髪が特徴的な、心優しい少女である。

  「うん、けどもうテイルフォクサー様がバッチリ倒してくれたって!

  ほら観て、テイルフォクサー様がアリの化け物を華麗にぶっ倒すところがSNSに上がってる!

  あぁ~…、かっこいいなぁ♡テイルフォクサー様♡

  いつかこの目で生でお会いしたい!!!」

  「そ、そうか…ハハハ」

  彼女を危険に巻き込まないために、福助は自身がテイルフォクサーである事を蜜樹には内緒にしている。

  そのため、蜜樹は正体を知らぬままテイルフォクサーにメロメロとなっており、同じ自分であるにも関わらず彼氏である福助としては蜜樹がテイルフォクサーにお熱な事に複雑な心境を抱かずにはいられない。

  (蜜樹、最近普段の俺よりテイルフォクサーに夢中になってるような気がするな…。

  けど…、俺は決めたんだ。

  蜜樹を始めとした大切な人を、この手で守るって!

  そのために俺はテイルフォクサーになったんだ)

  テイルフォクサーの動画に夢中の蜜樹を他所に、福助は一人右手をグッと握りしめて決意を新たにするのであった。

  数日後、日曜日の午前中からショッピングモールに新たな怪蟲が現れたと知った福助は、早速テイルフォクサーに変身し現場に急行する。

  ショッピングモールに辿り着いたテイルフォクサーだったが、現場に佇む怪蟲と相対した瞬間何か様子がおかしい事に気が付く。

  その怪蟲はまるでクワガタムシを模したような外見だったが、ただ暴れる事しか能がないようなこれまで倒してきた敵と異なり冷静沈着だ。

  (何だ…?この緊張感。

  今までの怪蟲とは明らかに格が違う!!!)

  「フフフ…、お初にお目にかかりますねテイルフォクサー。

  僕の名前はスタッグン、地底帝国ムシトピアの現・最高幹部です」

  「なっ…、最高幹部だって!?!?!?」

  何と、これまで一度も姿を現した事の無かったムシトピアの最高幹部が直々にお出ましだ。

  テイルフォクサーはこれまで幹部級の怪蟲と戦う機会は何度かあったが、最高幹部と名がついている事を考えれば恐らく過去最大級の強敵だろう。

  流石に体中から震えが湧き上がる。

  しかし、退くわけには行かない。

  「…上等だ。

  たとえ最高幹部だろうと、絶対に倒して見せる!!!」

  「やれやれ…、今日はあなたとかち合うつもりは無かったのですがね。

  まぁ、愚かな反逆者にムシトピアの偉大さを知らしめられる良い機会でしょう。

  お相手いたします」

  その言葉と共に、物凄い速度でテイルフォクサーの接近するスタッグン。

  「何っ!?」

  「動きが遅い!」

  スタッグンからみぞおちに強烈な一撃を喰らうテイルフォクサー。

  一瞬ひるんでしまった隙に、スタッグンは頭のハサミでテイルフォクサーの胴体をチョッキンと攻撃。

  大ダメージを喰らってしまう。

  「グァァァァァァあああああああああっ!!!!!!!!!」

  大きく後ろに吹き飛ばされ、テイルフォクサーは地面にはいつくばる。

  「おやおや、何人もの怪蟲を葬り去ってきたと聞いていましたが…、とんだ雑魚ですね。

  この程度の相手に苦戦して逃げ帰る幹部が何人もいたとは、我が帝国も士気が下がっているようです」

  (クソッ、あまりにも格が違う…!

  今の俺じゃコイツには指一本触れられない……!!!)

  嫌という程力量差を痛感させられ、テイルフォクサーは絶望の淵に立たされた。

  「さて、今後の迅速な侵略のためにもとどめを刺しておきますか。

  ……おやぁ???」

  ふと、スタッグンの手が止まる。

  彼の視線の先には、逃げ遅れた一般人が一名取り残されていた。

  「一人、逃げ遅れてしまった可哀想なお方がいらっしゃるようですねぇ」

  (…おい、嘘だろ?)

  その一般人とは…。

  (蜜樹…!?)

  そう、福助の大切な彼女である蜜樹である。

  友達とショッピングに来たのだが、スタッグンの襲撃により友達とはぐれてしまったため物陰に隠れていたのだ。

  「ひっ…、ひぃぃぃっ!?」

  スタッグンに気づかれた事を察知し、思わず身体が硬直してしまう蜜樹。

  「蜜樹ぃぃぃっ!!!逃げろぉぉぉっ!!!」

  テイルフォクサーに変身している事も忘れて、無我夢中で蜜樹に逃げるように呼び掛ける。

  「えっ…、テイルフォクサー様?何で…私の名前を……」

  「ほう、どうやらあの民間人はあなたの大切な人のようですね。

  それなら…こうするのが一番手っ取り早いでしょうか?」

  右手に樹液エナジーを凝縮した波動弾を作り出すと、スタッグンはそれを蜜樹に向かって放った!

  ショッピングモール内が攻撃された際に右足を負傷してしまったため、蜜樹は弾道から満足に回避出来ない。

  「あぁっ…、嫌ぁっ……!!!」

  「蜜樹ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!!!!!!!」

  咄嗟に、あれ程重症で動かなかった体が火事場の馬鹿力で動く。

  テイルフォクサーは全速力で走り蜜樹の前に立つと、手のひらを大きく広げて蜜樹に当たるはずだった樹液エナジー弾を全て自身の体で受けてしまった……!

  瞬間、大きな光に包まれ、巨大な爆発音がモール中に響き渡った…。

  光が収まり、蜜樹が目を開けると、目の前に倒れているはずのテイルフォクサーの姿がどこにも見当たらない。

  代わりに倒れているのは、あまりにも身近で大切な想い人で…。

  「えっ…、福助くん!?!?!?」

  自身を庇い大ダメージを負ったはずのテイルフォクサー、彼は何故か会った事の無いはずの自分の名前を知っている、そして爆風の止んだ後に倒れているのは自身の恋人である今野福助…。

  今思えば、福助が不自然に自分の前から消えるのは、必ずムシトピアの怪蟲が現れる時だ。

  蜜樹の中で、点と点が繋がり全てを察してしまう。

  「……そんな。まさか、テイルフォクサー様の正体って…、福助くんだったの!?」

  蜜樹はケガした右足を何とか動かしながら、全身ボロボロになって横たわる福助の下へ駆け寄った。

  「福助くん!!!しっかりして、福助くんっ!!!!!!」

  「あ、ぁ……。良かった、無事…だったんだな、みつ、き」

  「福助くん…、今までたった一人で、こんなに辛い戦いをしてたなんて……。

  なのに私はそんな事にも気が付かず、呑気に変身したあなたの姿にうつつを抜かしていたのね…ごめんなさい……福助くんの苦しみに気が付いてあげられなくて……!」

  「良い、んだ…。

  俺はただ…蜜樹や皆を…守りたかった……。

  巻き込みたくなくて黙ってたんだ…、だから、気に病まないで…くれ……」

  涙目になりながらこれまで福助が背負ってきた重い宿命に気が付けなかった自分を恥じる蜜樹の肩を、福助は重傷の体に鞭打って右手でそっと掴んだ。

  「フフフ…、やはりこの方法が一番確実にあなたにダメージを与えられると思いましたよ。

  あなたに直接攻撃するのではなく、あなたの大切な人に向けて攻撃を放てば、それを庇って確実にダメージを受ける…。

  ヒーローとは、何と単純な存在なのでしょうか!!!」

  「ひどい…。こんなのあんまりだよぉ!!!」

  スタッグンの悪辣な手法に、蜜樹は非難の声を浴びせる。

  しかし、ふと、蜜樹に視線を向けるスタッグンの体がピクッと震える。

  「……おやぁ?

  ふ~む……」

  まじまじと、複眼で蜜樹の姿を凝視するスタッグン。

  「な、何ですかジロジロと……!」

  「……素晴らしい!!!

  やはり、僕の目に狂いは無かった!!!

  僕が感知した波動はこの近辺から発せられている事までは把握済みでしたが、いやはや…。

  まさか、僕の探し求めていたものがこんなに簡単に見つかるとは!!!」

  蜜樹をじっくりと観察したスタッグンは、何故だかテンションが上がっている。

  「な…、何の話だ!?」

  福助が必死の思いで叫ぶと、スタッグンはご機嫌な様子で蜜樹に語り掛けた。

  「蜜樹さん…、と言いましたか?

  僕と一つ、取引をしませんか???」

  「取引…?」

  恐怖心と疑念を抱きながら、蜜樹は反応する。

  「あなたはテイルフォクサーであるその男の事が何よりも大切なんですよね?

  このままでは僕は、その男にトドメを刺して命を奪わなければなりません。

  ですが…、もしも蜜樹さん、あなたが我々と同行して下さると言うのであれば、僕はその男の命を奪わず、絶対にこれ以上の手出しはしないと約束いたしましょう」

  「なっ…!?」

  福助は驚いた。

  何故ムシトピアの最高幹部が蜜樹を欲しているのか???

  しかし、その理由を考える以前に、あまりにも怪しいその取引内容に福助は憤慨する。

  「ダメだ蜜樹!!!

  そんなの、罠に決まってる…!

  俺の事は良い、君だけでも逃げてくれっ!!!!!!」

  しかし、重傷で勢いよく身体を起こして大声で叫んでしまったため、福助の全身に激痛が走る。

  「グッ…、がああああああっ!!!!!!!!!」

  あまりの痛みに、再び崩れ落ちて床に伏してしまう。

  「福助くんっ!!!」

  「たとえこのまま僕から逃れられたとしても、その男の傷では治療を受けてももう完治はしないでしょう。

  必ず後遺症が残り、もはやテイルフォクサーとして戦線に復帰するのは不可能!

  しかし、君が僕に付いてきてくれる事を了承してくれたら、その男の傷も我々の技術力で完全に治療してさしあげる事をお約束いたします!」

  「……」

  蜜樹は悩んだ。

  目の前のクワガタの化け物が言っている事は福助の言う通り信用ならない。

  きっと何かしらの罠である事は明白だ。

  しかし、福助の傷の具合を見ていると、彼の言う通りもはや福助の完治は困難である事は嫌でも察せられる。

  (福助くんは、テイルフォクサーは私を庇ってこんな重い傷を負ってしまった…!

  こうなったのは全部私のせいだよ…。

  私は福助くんに死んで欲しくない。

  まだまだ恋人としてやりたい事がたくさんあるし、それに今ここでテイルフォクサーが死んでしまったら、もうこの地球を守れる人がいなくなっちゃう……!!!)

  一筋の涙を目から流し、蜜樹は決意した。

  「…わかりました。

  私は、あなたについて行きます。

  だからこれ以上、私の大切な彼氏を…、皆のヒーローを傷付けないで下さい!!!!!!」

  「そん…な……」

  「交渉成立、ですね」

  絶望にうしひしがれる福助を他所に、スタッグンは満面の笑みを浮かべる。

  そして高速移動で蜜樹に接近したかと思えば、軽く蜜樹のお腹を殴り気絶させてしまう。

  「ガハッ…」

  「蜜樹ぃ!」

  「安心して下さい、少し眠って貰っただけですから。

  あなたも、ムシトピアに着くまで眠っててくださいね」

  その言葉と共に、福助のうなじにトンっと衝撃が走り、福助は意識を失った…。

  「っ…、ぐぅ……!?」

  福助が目を覚ますと、そこは異様な光景に包まれた気味の悪い空間だった。

  辺り一面が茶色く、まるで虫の巣の中にでもいるような感覚だ。

  「そうか、俺はあいつに気絶させられて…。

  蜜樹はどこだ!?

  蜜樹~!!!」

  あれ程ボロボロだった体はすっかり回復している。

  恐らくスタッグンが蜜樹との約束を守って回復させたのだろう。

  早速立ち上がって蜜樹を探しに行こうとするが、両腕には手錠が、足には鎖が繋がれ、その場から動けない。

  「クソッ、俺は捕まっちまったのか…!」

  「お目覚めですか、テイルフォクサーさん?

  地底帝国ムシトピアへようこそ」

  後ろからヌッと姿を現すスタッグン。

  「貴様…!

  よくも蜜樹を連れ去ったな!!!」

  「連れ去ったとは人聞きの悪い。

  彼女は自らの意思で、僕に付いてきてくれたんですよ?

  それも恋人であるあなたの命を救うために…、健気ですよねぇ。

  あなたが僕に負けなければ、そもそもこんな状況にはなっていなかったのに」

  「クッ…」

  図星を突かれ、福助はばつが悪い。

  「大切な彼女さんでしたら、あそこにいらっしゃいますよ」

  スタッグンが指さした上の方へ視線を寄せると、まるで祭壇の様な場所の壁に、蜜樹が磔にされているのを発見する。

  「蜜樹ぃぃぃ!!!」

  その言葉に、今まで意識を失っていた蜜樹も目を覚ます。

  「っ…、福助、くん?

  私、どうして…。

  えっ、ここはどこ!?

  う…動けない……!」

  「お目覚めですか、蜜樹さん。

  いえ…、これから我が帝国を統べる事となる、未来の女王様?」

  「女王…、何の話だ?」

  福助の疑問に、スタッグンは丁寧に回答する。

  「ムシトピア現・最高幹部である僕が何故わざわざ部下を差し置いて直接地上に出向いていたのか、君は不思議には思いませんでしたか?

  その答えは、僕にしか感知できない、"女王適性"を持った人間の波動を探して追っていたからです!」

  そして、スタッグンはムシトピアという国の構造を解説し始める。

  「このムシトピアは、遥か古代に虫と人間の遺伝子を宿した特別な者たちが下等な人間たちに見切りをつけて、地底に赴いて築いた一大帝国です。

  代々、適性のある者が女王として君臨し、国を治めてきました。

  しかしながら先日、地上侵略を計画なされた偉大なる先代女王が寿命により亡くなってしまいましてねぇ。

  我々は至急、帝国中の住民を検査して次代の女王適性を持つ者を探したのですが…、どういうわけか現在この国で暮らしている怪蟲の中には適性を持つ者が一人としていなかったのです。

  仕方がなく、先代女王の付き人を務めていた僕が臨時で最高幹部に就任しましたが、女王の不在は帝国の士気を下げてしまいます。

  一刻も早く次代女王を擁立しなければと考えていた際に…、僕はひらめいたのです。

  地上人は下等生物とはいえ、元をたどれば我々と同じ先祖を持つ存在。

  地上人の中にも、我らムシトピアの女王となれる適性を持った者がいる可能性があるのではないか、と。

  僕は部下に地上侵略をさせる傍ら、長年女王の付き人だった僕だけが感知できる"女王適性波動"をキャッチ出来ないか常に探っていました。

  そして今日、ついに!

  先程まで我々がいたショッピングモールにて、微弱ながら"女王適性波動"が発せられている事を感知したのです!!!」

  「だから最高幹部であるお前がわざわざショッピングモールに現れていたのか…!?」

  「そしてその微弱な波動の発生源を探すため破壊活動を行う中…、ついにその発生源が彼女…、蜜樹さんから出ている事を発見したのですよ!!!!!!

  次代女王を発見できたのもあなたが彼女を庇ってくれたおかげ…、感謝しますよテイルフォクサー!!!!!!」

  「な…、何だって!?!?!?」

  「私が…、女王……???」

  蜜樹も福助も、衝撃の事実にただただ驚くしかない。

  「だ、だけど蜜樹は人間だ…!

  怪蟲じゃない!!!

  いくら適性があろうと、ただの人間の蜜樹がお前達の女王になんてなれないはずだ!!!」

  「私だって…、あなたについていくって言っただけで、女王になるなんて一言も言ってないです!!!」

  口々に反論する二人。

  しかし、スタッグンはニヤニヤと笑みを浮かべる。

  「ところが、なれちゃうんですねぇ……。

  言ったでしょう?

  僕達の先祖は虫の遺伝子を持った人間だったと。

  つまり、今は下等な地上人だとしても、ムシトピアの遺伝子を後天的に組み込めば怪蟲にする等容易い。

  現に、我々は戦力増強のため、既に幾度も才能のある地上人をここへお連れして同胞になっていただいています」

  「何…だって……?」

  その言葉に、福助は全身から血の気が引いていく。

  これまで、何度も倒してきたムシトピアの怪蟲。

  その中に、元は地上人だった者が混ざっている…???

  「そうそう、最近だと優秀な柔道選手をムシトピアへお連れして、アリの遺伝子を持った戦士・アントラーに改造させて頂いた事もありました。

  まぁ、残念ながら期待していた程強くは無かったのであなたに殺されちゃいましたが」

  「っ……!?!?!?」

  福助の脳裏にフラッシュバックする、数日前の記憶。

  『喰らえ!必殺…、お稲荷三連斬り!!!』

  『むっ…、ムシトピアに栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

  数日前、町に現れて暴れていたアントラーを、福助はテイルフォクサーとして葬り去り、殺した。

  「あれが……、俺達と同じ地上人……???」

  アントラーの見た目は誰がどう見ても他の怪蟲と遜色ない化け物で、人型のアリと言った風貌だ。

  その言動もとても元地上人とは思えぬ程ムシトピアのためだけに命令を遂行し、ムシトピアのために命を散らしていた。

  「俺が今まで戦ってきた怪蟲は……、みんな元地上人だったのか……?」

  「全て、というわけではありませんが…、ムシトピアの住民には非戦闘タイプの方も大勢いらっしゃる以上、戦力の不足はどうしてもありますからね。

  4割程度は元地上人でしたよ」

  「うぷっ…おえぇぇぇっ!ウゲェェェェェェッ……!!!」

  勢いよく嘔吐する福助。

  ムシトピアには人間を怪蟲に出来る技術がある事、体だけでなく恐らくその精神もムシトピアに相応しいものに書き換えられる事、そして何より、自分が守るはずだった地上人を自分の手で殺してしまっていた事。

  それらの事実に耐えられなくなった福助は、罪悪感とムシトピアへの嫌悪感で吐かずにはいられなかった。

  「ごめん…なさいっ……!ごめんなさい……!!!ごめんなさい……」

  ある程度吐き終わると、今度は泣きはらしながらうわ言の様に今まで自分の手で命を奪ってしまった人々への謝罪を始める福助。

  それを見てスタッグンは腹を抱えながら爆笑する。

  「フハハハハ!!!これは傑作ですねェ!

  守るべきだった相手を自分の手で葬り去っていた衝撃の事実に泣き叫ぶヒーローの姿…。

  是非とも地上人の皆さんに生中継で見て頂きたいものですよ!」

  「ふ…、福助くんっ……!」

  慟哭する福助の様子を見て、蜜樹はいたたまれない気持ちになる。

  しかし、これから自分もまた他の怪蟲と同じ様にムシトピアに相応しい心身に作り変えられてしまう事を思うと、彼を励ます言葉が思い浮かばなかった。

  「さて、と…。

  面白いものが見れた所で、そろそろ蜜樹さんに我らの女王に生まれ変わっていただきましょうか。

  今彼女が磔にされて捧げられているこの祭壇こそ、我らがムシトピアが誇る『転生の祭壇』!

  ここに地上人を捧げれば、その者に相応しい遺伝子が注入され、ムシトピアの怪蟲に早変わり!

  当然、体だけでなくその心もムシトピアに相応しい精神に作り変えられるのです。

  この『転生の儀式』のシステムはたとえ作り変える対象が女王であろうとも変わりません!」

  「ひっ…!?」

  いよいよ自分の転生が始まってしまう事に、蜜樹は思わず恐怖の声を漏らす。

  「や……、やめろぉ……!

  俺はどうなってもいい。

  でも、お願いだから、それだけは…蜜樹を女王にするのだけはやめてくれぇっ……!」

  さっきまでボソボソと被害者に謝罪を続けていた福助も、顔を上げてスタッグンに転生の儀式を止めるよう頼み込む。

  普段の福助であればそんな無駄な頼み込みはしなかっただろう。

  しかし、何よりも大切な彼女である蜜樹が今にも奴らの仲間…、それも元締めに無理やりさせられそうになっているのだから、無駄だとわかりきっていても言わずにはいられなかった。

  「やっ…、嫌っ……」

  ガタガタと震えながら、恐怖の言葉を漏らす蜜樹。

  本当は福助に対して『助けて』と助けを請いたくて仕方がない。

  しかし、福助が…テイルフォクサーが今自分を助けに来れる状況ではない事は嫌でもわかっていたため、必死にその言葉を飲み込んでいる。

  「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

  「『転生の儀式』、開始です!!!」

  その声と共に、スタッグンは祭壇の前についているレバーを倒し、転生の祭壇がゴワンゴワンと音を発しながら動き出した!

  まずは、蜜樹が磔にされている上部から、黄色いスライムのような物体がドロドロと流れ始める。

  そのドロドロは時々蜜樹の体にかかりながらも、周囲に流れる事は無く、まるで容器に入れて注いでいるように蜜樹の周囲に少しずつ少しずつ溜まり始めた。

  チャプ、と蜜樹の足から順にどんどん全身が黄色いドロドロに覆われていく。

  「ひゃっ…、何これ。

  ヌメヌメして気持ち悪いっ…!」

  「それは"転生蜜"と言いまして、地上人の肉体に虫の遺伝子を混ぜ込んで作り変える効果を持つ不思議な蜜です」

  腰、胴体、肩、とどんどん蜜樹の体が転生蜜に沈んで行き、ついに顔の部分も浸かってしまう。

  「だ、ダメっ…!息出来なくなっちゃ…あぶぶぶぶ……」

  「蜜樹ぃ!」

  このままでは窒息死してしまいそうだ。

  「あぁ、ご安心ください。

  あの蜜は肺の中に行き渡れば自動的に酸素を送り込んでくれる効果があるのです。

  もうじき普通に呼吸が出来るようになりますよ」

  その言葉の通り、しばらくは苦しそうにしていた蜜樹だったが、やがて肺の中が転生蜜で満たされると

  『ぷはぁっ…!あ、あれっ?私、息出来る…。

  それに液体の中なのに普通に声が出せるなんて……』

  と、ごく自然に振舞い始めた。

  やがて、頭の上まですっぽりと転生蜜に包まれ、頭上からの蜜の流入がストップした。

  しかし、本番はここからである。

  ブクブクブク…!

  転生蜜の塊の中から、突如大量の泡が発せられる。

  その発生源は、蜜樹が着ている衣服であった。

  ジュワ~…。

  何と、蜜樹が身に着けていた全ての衣類が、見る見るうちに溶け始めたのだ。

  『嫌ぁぁぁっ!!!』

  上着やスカート、果ては下着まで全て蜜の力で消化されてしまい、あっという間に全裸になってしまう。

  恋人である福助は良いとして、スタッグンに見られている事が恥ずかしく、両腕で秘所を隠したくてたまらない蜜樹だが、壁に磔にされているためあるがままを丸出しにせざるを得なかった。

  「クソォ…!てめぇ蜜樹の裸を見るんじゃねぇ!!!」

  「失敬な、地上人の裸なんて僕は微塵も興味ありませんよ!」

  衣服の消化は全て終わったが、未だ蜜内の泡は止まらない。

  「蜜樹…、お前、髪の毛が…!」

  『へ…?』

  頭部からポコポコと小さな泡が出ると、蜜樹の綺麗な黒髪が少しずつ溶かされ始めていた。

  『嫌っ…、私の大切な髪の毛がっ……!』

  ポコポコポコ…とこれまで蜜樹が大切にケアしてきた美しい長髪が全て消化され、次の瞬間には蜜樹は完全なスキンヘッドになっていた。

  『あ、あぁぁ…そん…な…』

  「ひ、ひでぇ…!蜜樹が大切にしていた髪の毛を…!」

  「毛髪など、ムシトピアの怪蟲には必要ありませんからね」

  そして、今度の発生源は…、蜜樹の肉体だ!

  「み…、蜜樹!?!?!?蜜樹の足が、腕が、胴体が……!!!」

  『へ…?嘘、何これ…私の体が、溶けて……!?!?!?』

  ボコボコボコ…!

  蜜樹の全身が大量の気泡に包まれ、痛みも感じないまま次々と溶けていく。

  皮は剥がれ、中の筋肉が剥き出しになった。

  まるで理科室にある人体模型のようなグロテスクな外見となった蜜樹。

  さらにはその筋肉も凄い勢いで消化され、ついには脳味噌を除く全ての筋肉が跡形もなく消化されてしまった…!

  『嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!

  ねぇ、どうなってるのよこれ!

  何も見えない、何も聞こえない、何も感じない!!!

  怖い!

  怖いよォ!!!

  誰かっ…助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!』

  目も耳も溶かされてしまった今の蜜樹は周囲の状況を何も感じ取れず、暗闇の牢獄に囚われた状態だった。

  「そ、そんな…。蜜樹が、溶かされてしまった……」

  蜜樹はもはや、お化け屋敷に出て来るような骸骨の姿になっている。

  通常であれば脳味噌と骨だけしか残っていないこの状態は既に死亡しているはずだが…。

  「転生蜜は万能です。

  体を作り変える過程で肉体のほとんどを消化しても、脳味噌さえ残っていればそこに魂は宿り、このように声も聴く事が出来る。

  ま、人間としての蜜樹さんの肉体はこれで死んでしまったと言っても過言ではありませんけどね」

  「このクソクワガタぁ…!!!」

  スタッグンの飄々とした態度に、福助は怒り心頭だ。

  「ほら、見て下さい。

  いよいよ彼女の女王としての肉体の生成が始まりますよ!」

  祭壇を指さすスタッグン。

  転生蜜の中に残された骨格の周囲に、新しい筋肉が生成されはじめたのだ。

  蜜樹の脚の骨に、次々と黄色い外骨格が覆われていく。

  胴体や腕にも同様に黄色の外骨格が生成され、外骨格と外骨格の境目や外骨格の無い手のひらは黒い皮で覆われた。

  『ん…、何だか段々、あったかくなってきたような…。

  怖かった気持ちも薄れて来た気がする…』

  肉体の生成と同時に、転生蜜から発せられる蜜樹の声色が少し落ち着き始めているようだ。

  手の甲は黄色の外殻に覆われると共に、爪の部分が鋭く尖る。

  足部分にはかかとから黄色く長い特殊な外骨格が形成され、まるでハイヒールのような形状に。

  背中に薄く透明な一対の翅が生えると、お尻の辺りから通常の人間には存在しない巨大な蜂としての"腹部"が形成され、その先端は白い針状に。

  『なんだかきもちがいいなぁ…。

  いままでいやだったことも、くるしかったことも、ぜんぶどうでもよくなるような、そんなかいほうかん…。

  これがむしとぴあの、"かいちゅう"としての、きもち……?』

  「っ…!?

  おい蜜樹!

  しっかりしろ!!!

  あいつらの洗脳に飲み込まれちゃダメだ!!!」

  蜜樹の意識が徐々にムシトピアのものに呑み込まれ始めている。

  そう察した福助は必死に蜜樹に呼びかけるが、今の蜜樹は周囲の音を聞く器官がまだ生成されていないので何も届いていなかった。

  胸部に黒い渦巻きが描かれた巨大な乳房が生成されると、その柔らかな巨乳とは裏腹にその下の腹部にはボディビルダーの如くしっかりと6つに割れたバキバキの腹筋が生成。

  頭蓋骨が黄色い外骨格に覆われると、六角形の黒い複眼がいくつも形成され、鋭い形状に。

  口は左右に開く大顎の形状となり、額からは黒く細長い一対の触覚が生える。

  『ふあぁ…、わた、し。

  わら、わ…?

  むしとぴあの、いだいさ…。

  じょうおうとしての、ほこり……。

  そうか…、そうだった、な…。

  わらわ、は……』

  いよいよ蜜樹の精神の洗脳が最終段階に達しようとしている。

  「蜜樹ぃぃぃぃぃぃ!!!

  女王になんてなっちゃダメだぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!

  本当の自分を思い出してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!

  みぃぃぃぃぃぃつきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

  福助は大声で、声が枯れるまで何度も何度も蜜樹に呼びかけた。

  しかし、全く効果が無い。

  「無駄ですよ。

  ここまで転生の儀式が進んでしまえば、聴覚が復活した所でもはや外部からどんな雑音が入ろうと精神改竄に影響はありません。

  あぁ、ついに我らの偉大なる女王様が誕生なさるのですねっ……!!!」

  待ち望んだ女王の誕生に、スタッグンは興奮が収まらず全身を震わせる。

  そして、蜜樹の首元に女王の証たるモフモフとした白い毛が生えると…。

  蜜樹の全身を覆う転生蜜の塊が、突然濁って中が見えなくなる。

  それだけでなく、あの柔らかそうだったブヨブヨとした塊が、一瞬のうちに黒く固く凝固してしまった。

  「おぉ…、あれこそ転生の終了を意味する"転生蜜の蛹化"です!

  あの蛹から出て来た瞬間に、蜜樹さんはムシトピアの女王としてこの世に新たなる生を受けるのですよ!!!」

  ピシッ!!!

  固体化した蛹の上部にヒビが入ったかと思えば、そのヒビが次々と広がって行く。

  そしてグググ…と蛹が左右に割れ、中からモゾモゾと"何か"が出てこようとしている。

  それを見た瞬間スタッグンはその場に跪き、叫んだ。

  「さぁ、伏して拝みなさい!

  新たなる女王の誕生です!!!」

  「なっ…、あっ……」

  蛹の中から出て来たその姿を見た瞬間、福助の全身から血の気が引いた。

  そして同時に、耐えがたい絶望感が彼を襲った。

  蛹から出て来たのは、先程転生の儀式を経て女王蜂への生まれ変わった蜜樹である。

  しかし、その存在感はついさっきまでなされるがままに肉体を作り変えられていた時のものとは訳が違う。

  圧倒的な威圧感とプレッシャーを常時周囲に撒き散らしているのだ。

  「んあ、ぁ…。

  ふむ、実に良い気分じゃ…♡」

  それは、蜜樹の声だったが、明らかに蜜樹の声色とは違っている。

  上に立つ者としてのカリスマ感と威厳に満ち溢れた声色だ。

  その口調もまるで悠久の時を生きたかのように成熟しており、とても女子高生・蜂須賀蜜樹と同一人物とは思えない。

  全身を黄色い外骨格と黒い皮に包み、巨大な翅と鋭い針を持った人型の蜂。

  ハイヒールのようなかかとと柔らかい乳房が圧倒的なオーラを醸し出す。

  感情の感じられない鋭い複眼、どんな物でも捕食出来そうな巨大な大顎。

  そして、女王の証たる首元の白い毛…。

  蜜樹の骨格を元に再生成された肉体ではあるが、その伸長とシルエットを除いた全てのビジュアルに、福助のよく知る蜜樹の面影が一切感じられなかった。

  「わらわは、地底帝国ムシトピア女王、クインビー…!

  スタッグンよ、わらわの誕生のためのそなたの働き、実に見事であったぞ?」

  「ははぁーっ!!!

  クインビー様、あなたの誕生を誰よりもお待ちしておりました!!!!!!」

  何度も何度も地面に頭を擦り付けて跪くスタッグン。

  その姿は、先ほどまで元・最高幹部だったとは思えないほどの忠臣っぷりだ。

  「あ、あぁぁぁ、ぁ……」

  その一連のやり取りを見た瞬間、福助は、全てを悟った。

  もう、自分の知る蜂須賀蜜樹という人間はこの世には存在しない。

  その肉体も、精神も、全てムシトピアの女王クインビーに相応しいものへと作り変えられ、消えてしまったのだと……。

  「クインビー様、先代女王の死後、我が帝国は著しい士気の低下に見舞われています。

  今こそ、あなた様の存在を帝国中に轟かせ、再び地上侵略のため全国民の心を重ね合わせましょう!!!」

  「そうじゃなぁ…。

  じゃが、その前に少し時間をくれんかのう?

  そこに囚われている彼奴に、すこ~し用があるんじゃが」

  彼奴とは、当然福助の事である。

  「し、しかし一刻の猶予を争う事態です!

  士気の低下により幹部でありながらテイルフォクサーに負けてむざむざと逃げ帰って来た情けない者が多く現れている以上、今すぐにでも戴冠式を行い全国民の前で即位宣言を行った方が…」

  スタッグンのその言葉に、クインビーはピクリと反応する。

  「……ほう?

  貴様は、わらわに反抗すると言うのか。

  ムシトピアにおいて女王の命令は"絶対"じゃぞ……?

  それ位前女王に仕えていた貴様ならわかるはずじゃが」

  複眼であるため動かないが、まるでスタッグンを睨みつけるかのように凝視し、怒りに満ち溢れた冷酷な声色でスタッグンに告げるクインビー。

  「い、いえぇ!

  そのような事があろうはずがございません!!!

  待ちます、あなた様の気が済むまでいつまででも待たせて頂きます!!!!!!

  だからどうかお許し下さい!!!!!!」

  スタッグンはすぐさま跪き、何度も何度も頭を下げて女王に許しを請う。

  「それでよい♪」

  機嫌を直したクインビーはスタッグンを許し、絶望にうちひしがれる福助に近づいた。

  カツン、カツン…。

  クインビーのハイヒールが音を立てて、一歩ずつ福助に接近していく。

  「あはぁ…!

  高ぶってしまうのう…♡」

  足音が聞こえる度に、福助の体はブルっと震え上がる。

  「っ…、あぁぁぁ……」

  福助は察した。

  蜜樹は、きっと今からムシトピア女王・クインビーとしてこれまで幾度も帝国に仇なし怪蟲たちを葬り去って来た自分を殺すのだと。

  これまでの人生で最大級の恐怖が福助の全身を駆け巡る。

  だがそれは、自分が死ぬ事への恐怖ではない。

  あの心優しい蜜樹が、大好きな彼女が、躊躇なく自分を殺してしまう程その精神が変わり果ててしまっているであろう事への恐怖だった。

  ついに、福助の間近に辿り着くクインビー。

  「今野福助…、いや、テイルフォクサー…。

  わらわが生まれ変わる直前まで会話を交わしていたというのに、まるで一千年ぶりに会ったかのような久しい感覚じゃ♡」

  「……やるなら、一思いにやってくれ」

  これ以上、変わり果てた蜜樹の面影の無い言動を聞きたくない。

  本来であればヒーローとして自ら死を望む等あってはならない発言だが、脱出の手立ては無く、自分の愛した蜜樹が消えた事で絶望の底に沈んだ今の福助には、最早『皆を守りたい』という思いを維持出来なかった。

  「ほう…、お主も中々欲しがり屋さんじゃのう。

  良かろう、その肝に免じて…一気に済ませてやるわ」

  クインビーが大顎を開きながら、ゆっくりと顔を近づけてくる。

  大方、その強靭な顎で福助を頭から噛み千切り、食して殺すのだろう。

  覚悟を決めた福助は目を閉じ、その時が来るのを待った。

  (あぁ…。

  俺、お前を守るためにテイルフォクサーになったのに…。

  お稲荷様から借り物の力をもらっただけの俺は結局無力だった。

  守るどころか、お前をムシトピアの女王にしてしまうなんて。

  こんなのヒーロー失格だ。

  自分が情けなくって仕方がないよ。

  女王として生まれ変わった蜜樹に殺されるのも、因果応報なのかもしれないな。

  ……ごめんな)

  その瞬間、今野福助の意識は暗闇に落ちる…。

  はずだった。

  ムチュッ。

  福助に走ったのは、強靭な大顎の噛みつきの激痛ではなく、口の中に舌を突っ込まれる感覚だった。

  口中にあま~いハチミツの味が広がり、甘ったるい気持ちになる。

  (…え、何だこれ?)

  恐る恐る目を開けると、そこには何と、大顎を左右に開き、その中にある舌を全力で口の中に入れてディープキスを行うクインビーの姿があった。

  「あぁ…、福助くん♡テイルフォクサー様ぁ♡

  しゅき♡

  大好きじゃ♡♡♡

  愛しておる…!!!

  お主はわらわの物じゃ♪」

  「うぷっ…、えええええええええええっっっ!?!?!?!?!?!?」

  口に舌を突っ込まれながら、福助は驚愕の雄叫びを上げる。

  (ど…、どういう事だ!?

  何でムシトピアの女王として転生した蜜樹が、俺にキスを……)

  「く……、クインビー様ぁ!?!?!?」

  女王の突然の行動に、スタッグンも驚きを隠せないようだ。

  「「ぷはぁっ」」

  舌を福助の口から抜き、ディープキスを終えると、今度は舌でベロン、ベロンと何度も福助の顔を舐め始めるクインビー。

  「あぁ…、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡

  好きじゃっ!福助くん!

  そして、テイルフォクサー様♪

  わらわはどちらのお主も、好きで好きでたまらん♡♡♡

  このあふれ出る愛を、女王となった今のわらわはどういうわけか全く抑えられぬのじゃ♡

  地上人じゃった頃からずっと…!

  わらわはお主とこうしたかったんじゃああああああっ!!!!!!!!!」

  クインビーは唾液がハチミツになっているため、福助はもう顔中ベタベタのハチミツだらけだ。

  しばらくあっけに取られてなされるがままになっていた福助だが、やがて正気に返り、恐る恐るクインビーに話しかけてみる。

  「えっ、と…。

  お前は…俺の知っている蜂須賀蜜樹……なのか?」

  「厳密には違うのう。

  今のわらわは地底帝国ムシトピアの新たなる女王・クインビーじゃ!

  じゃが、同時にお主を愛し、お主に愛された地上人…蜂須賀蜜樹の全てを受け継いで転生した存在でもある。

  少なくとも自意識は蜂須賀蜜樹から継続しておるから、同一人物と言っても過言では無いな。

  じゃからお主がそう呼びたいなら、蜜樹と呼んでくれても構わぬぞ♡」

  時々福助の顔を舐めながら、うっとりとした声色で語るクインビー。

  「…そう、か。

  お前は…儀式で心を書き換えられても消えてなんかいなかったんだな、蜜樹……!」

  福助はまだ頭の整理がつかないながらも、クインビーになった蜜樹の精神が完全に書き換えられていたわけでは無い事実に深く深く安堵する。

  (…さっきの言葉を信じるなら、蜜樹ってその姿になる前からこんな風に俺の顔をベロベロ舐めたかったって事なのか…?

  ぜ、全然知らなかったが……)

  蜜樹がこれまで隠してきた性癖(?)に少しビックリする福助。

  これまで二人は恋人として幾度となく唇を重ねて愛を表現してきたが、蜜樹はいつも大人しく、恥ずかしがりながらそっとキスをしていた。

  しかし、どうやら心の奥底では福助とディープなキスで舌を絡め合い、果ては愛しの彼氏の顔を舐めたい衝動に駆られていたようだ。

  その秘めた欲求が、女王として生まれ変わった際に表に出しても恥ずかしくないと思う精神に書き換えられてしまったのである。

  「ちょ…、ちょっと待ってくださいよクインビー様!!!

  あなた、今ご自分が何をしていらっしゃるかわかっているのですか!?!?!?」

  一義でも二義でも甘ったるい二人の空間を遮り、パニックになった様子でスタッグンは叫ぶ、

  「その男は、脆弱とは言え何人もの同胞を葬り去ったムシトピアの敵です!!!

  ましてや、特別な力で変身しているとはいえ所詮は下等な地上人!

  誇り高きムシトピアの女王たるあなた様の番となる資格があろうはずがございません!

  全ムシトピア国民の前で見せしめに処刑するべきでh」

  そこまで言った所で、スタッグンは口を閉じた。

  自身が仕えるべき女王から、史上最大級の殺気が自分に向けて放たれている事に気が付いたからだ。

  「……貴様、さっきあれ程言い聞かせたというのに。

  まだわかっていないようじゃなァ」

  福助から離れ、クインビーはゆっくりとスタッグンの方へ足を進め始める。

  「ししししし、しかし!!!

  あなたは先程の"転生の儀式"でこのムシトピアの女王に相応しい精神性に書き換えられたはずです!

  ムシトピアの女王は、常に帝国の事を第一に考え、帝国のために全てを尽くす義務があります!

  にも関わらず、クインビー様はテイルフォクサーの抹殺という帝国の利益よりも、転生前に抱いていたその男への恋心の残滓を優先している!

  何故なのですか!?

  僕の作った転生の祭壇でこれまで生まれ変わらせてきた怪蟲たちは皆、地上人だった頃の感情が全て消え去って立派なムシトピアの尖兵になっていたのに!!!」

  「確かに貴様の転生の祭壇は素晴らしい発明じゃ。

  わらわがこうして女王として転生出来た事には感謝しておる。

  じゃが、ハッキリ言おう。

  わらわはお主が心底嫌いじゃ!

  わらわが元地上人だと言うのにズケズケと地上人を見下した発言を繰り返す。

  何より…、わらわが地上人だった時、ショッピングモールに現れた貴様が何の罪も無い地上人を無惨に殺しまわる姿をわらわはハッキリと見た!

  ムシトピアの怪蟲となり、女王としての誇りを刷り込まれようとも、わらわにとって地上人は同胞である事には変わりない!

  じゃからわらわは、同胞である地上人を虐殺した貴様を許す事は出来ん…!!!」

  ジャキンッ!!!!!!

  クインビーは、目にも止まらぬ速さでスタッグンの首を鋭い爪で斬り付ける。

  グラッ…とスタッグンの視界が揺れたかと思えば、次の瞬間にはその首が地面に落ちて行った。

  「あぁ…、なるほど。

  洗脳後の人格が脳筋バカでも問題ない通常の尖兵と違い、どうやら地上人を素材に転生の祭壇で女王を作ると、国を治める者としてある程度の知能が必要故、元となった地上人の気質が大きく残ってしまうようですね。

  初めてのケースをいきなり試した僕の落ち度だったわけですか…。

  ハハハ…、ざんねん……、です……」

  怪蟲は首を斬られても完全に脳死にいたるまで人間より長い時間がかかる。

  息絶えるギリギリの瞬間までスタッグンは『なぜ蜂須賀蜜樹はクインビーになっても今野福助を愛し、地上人への差別的な感情を抱かなかったのか』を考察し続け、そして死んだ。

  「あ…、あんなに強かったスタッグンをいとも簡単に……」

  自身が苦戦し、格の違いを実感した相手を瞬殺してしまったクインビーの強さ、そして躊躇なく相手の首を切り落とす事が出来た彼女の判断に、福助は少し体を震わす。

  ガチャリ、と福助の手錠と足の鎖を外したクインビーは少し恥ずかしそうに言った。

  「ふふ…、見苦しい所を見せてしもうたな。

  安心せい、この力を地上人や罪の無い者に振るうつもりは毛頭ない。

  そうじゃ福助くん、これからムシトピア全国民の前で戴冠式を執り行うんじゃが…、お主も参加してくれんか」

  「えっ…、俺が!?」

  地底帝国内で一番大きい広場に、『政府より、これから緊急発表がある』と知らされ全ムシトピア国民が集まっている。

  先程まで福助たちがいたのは実は城の中であり、その目の前に広場があるのだ。

  「聞いたか?新しい女王が見つかったらしいぞ!?」

  「マジかよ!これで地上侵略も一気に進むぜ!」

  「何でも良いけど、早く戦争が終わって欲しいなァ」

  早速新女王即位の噂が国中に広がり、国民達は戴冠式開始までの間その話題で持ちきりだった。

  そして定刻となり、ついに全国民の前に新女王・クインビーが姿を現した。

  「おお、あれが…」

  「何て…お美しい……!」

  「俺達一般怪蟲とは纏う雰囲気が違う…!」

  皆、クインビーの美しいビジュアルと圧倒的な存在感に圧倒される。

  「皆の者、お初にお目にかかるな。

  わらわの名はクインビー…、今日この瞬間を持って新たに地底帝国ムシトピアの女王の座に即位する者じゃ!

  そして、即位早々じゃが皆に伝えなければならない事がある」

  その声に応じてクインビーの隣に出て来たのは…、何とあの敵対者・テイルフォクサー!!!!!!

  「なっ…!?」

  「あいつ、地上で俺達の仲間を何人も殺したっていうあの!?」

  「どうしてテイルフォクサーが女王様の隣に!?」

  困惑する国民を他所に、クインビーは発表を続けた。

  「わらわは今ここに、地上人、及びテイルフォクサーとの終戦を宣言する!

  そもそも、この戦争は前女王が独断で始めた戦いじゃ。

  わらわは地上を侵略し地上人を虐げたいとは思わない故、これ以上無駄な戦いが必要だとは思えぬ!!!!!!」

  「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」」」」」

  衝撃的な発表に、全国民が度肝を抜かれる。

  「やった…!ついに戦争が終わるのね!」

  「これでもう家族が失われる心配をしなくて良いんだ…!」

  と戦争終結を喜ぶ平和派の国民がいる一方で、

  「ふざけんな!!!下等な地上人からこの地球を取り戻して俺達怪蟲が最も優れた種族である事を証明する必要があるだろうが!!!」

  「いくら新しい女王だからってそりゃねーぜ!

  地上人をなぶり殺すのが唯一の生きる意味だったってのに!!!」

  と、終戦に反対する過激派の国民も大勢いた。

  しかし…。

  「…口を慎めッ!!!

  このムシトピアにおいて、女王の命令は"絶対"。

  誰が何と言おうと、今日この瞬間に地上への侵攻は終わりじゃ!

  ……まさか、この中にわらわの命令が聞けないと申す者はおらんじゃろうなァ?」

  とクインビーが過激派の国民達に向かって問いかけると、女王として強制的に国民を従わせる能力が発動し、

  「「「いえ、おりませんっっっ!!!!!!」」」

  と、命令された過激派国民のみクインビーに向かって敬礼し、終戦の発表を受け入れた。

  「…今後は、これまで自分の意思で快楽のため、欲望のために地上人への攻撃、及び虐殺を行った者について処罰を与えていく予定じゃから覚えておくように。

  それでは、改めて戴冠式に移行するぞ?

  終戦による和解の意味も込めて、このテイルフォクサーの手でわらわに王冠を授けてもらおうかのう!!!」

  平和派の国民からは穏やかに、過激派の国民からは衝撃的な絵面に泡を吹いて見届けられる中、テイルフォクサーに変身している福助は王冠を手に取り、クインビーの外骨格に覆われた黄色い頭頂部にそっと王冠を被せた。

  (戦いが終わったのはめでたいけど…。

  何か…これで良いのかなぁ?

  女王になった蜜樹がほぼ無理やり女王としての能力で歯向かう怪蟲に言う事を聞かせて終戦させてるだけなような……)

  福助は頭の中で少しモヤモヤしながらも、戴冠式は無事に終了し、クインビー統治による新たなムシトピアの歴史が幕を開けた……。

  一か月後、地上。

  地上人とムシトピアの戦いが終わった事とはつゆ知らず、今日も当たり前の日常を過ごす人々。

  しかし、そんな平和な時間を怖す恐るべき存在が現れる。

  「ギャーッハッハッハ!!!

  俺様は地底帝国ムシトピアの誇り高き怪蟲・スパイダーク!

  地上人共、俺様にひれ伏せ~!!!」

  そう、ムシトピアの尖兵である蜘蛛型怪蟲スパイダークだ。

  「きゃあああああああああっ!怪蟲よおおおおおおっ!!!」

  「ムシトピアが出たぞ!逃げろォォォ!!!」

  周囲にいた一般人たちは、すぐさまその場から逃げ出す。

  しかし、どこからともなく現れた一つの影がスパイダークに立ちふさがる。

  「待てッ!

  ムシトピアの怪蟲め、このテイルフォクサーが許さないぞ!!!」

  「あっ、テイルフォクサーだ!」

  「やった!彼が来てくれたらもう大丈夫だ!」

  皆のヒーロー、地上の英雄・テイルフォクサーだ。

  「来たなテイルフォクサー。

  この俺と勝負だぁっ!!!」

  「望むところだぁぁぁっ!」

  二本のテイルソードを構え、スパイダークに向かっていくテイルフォクサー。

  その戦いの結末は……。

  「…ふぅ、終わったか」

  当然、テイルフォクサーの勝利である。

  スパイダークを倒し、人影に隠れて変身解除した福助はため息をついた。

  「はぁ…、何かこう、良いのかなぁ。

  こんな事して……」

  何やら少しブルーな気分になっていると、

  「うふふ…♡

  さっきの戦闘かっこよかったわよ、福助くん♪」

  後ろから、どこからともなく現れた人影が福助に抱き着いた。

  「うおぉぉぉっ!?

  何だ…、蜜樹かぁ。

  ビックリした……」

  蜂須賀蜜樹は転生の儀式によって身も心もムシトピア女王クインビーに書き換えられた、はずだった。

  しかし、今福助に抱き着いている彼女の姿は容貌から美しい黒髪までどこからどう見ても以前と何ら変わらぬ蜜樹の外見だ。

  実は、クインビーとなった彼女には人間に擬態する能力に目覚めており、これを活かして転生前と全く同じ外見に擬態。

  両親や友人等周囲の人達の前では口調も含め以前と変わらぬ"蜂須賀蜜樹"を演じる事で、彼女は今でもごく普通の高校生として暮らしつつ、時間を見つけてムシトピアに行き女王業務を行っているのだ。

  「…なぁ蜜樹、俺やっぱり気が進まないよ。

  お前が女王として命令した相手とやらせの戦闘をするなんて…」

  「あらぁ、良いじゃない♡

  ムシトピアには今も心の内では私の命令が気に食わず、地上人を殺したくて仕方がない奴らが大勢いるんですもの。

  命令に従って嫌々侵略に加担していた者か、自分の意思で侵略に加担していた者か位、今の私なら瞬時に見分けられるわ。

  だから自分の意思でノリノリで地上人を虐殺していた怪蟲は処刑して、地上人と争わない平和なムシトピアを作らなくっちゃ!

  だから私は地上人を殺す事が趣味の快楽主義者の残党にこう命令しているの。

  『地上に行って、人々を怖がらせてテイルフォクサーと戦い、良い感じに殺されろ。ただし、その過程で一切の生物・物体を傷付ける事を禁止する』、ってね!」

  「…でも、やっぱり後味が悪いって言うか。

  もう戦いが終わったのに、まだ怪蟲を殺さなくちゃいけないのかと思うと複雑で…。

  それにアントラーの時みたいに、もし元地上人の怪蟲が混ざってたら……!」

  胸に抱えている不安を吐き出す福助に、蜜樹はそっと寄り添い語り掛ける。

  「安心して、元地上人の怪蟲はもうムシトピアには私以外残っていないわ。

  どうやらスタッグンは地上人を怪蟲に転生させた時はすぐさま地上に侵攻させてあなたと戦わせていたみたい。

  だから今後あなたが戦う怪蟲に元地上人が混ざっている事は絶対に無い。

  それに…、福助くんだって本当は"憎い"でしょう?

  これまで何人もの罪の無い地上人を殺して、今ものうのうと生きている一部の怪蟲たちが…!」

  「っ……!」

  蜜樹の言葉に、福助は反論出来なかった。

  「私はね、ムシトピアの女王に生まれ変わったけど、それでも同時に地上人としての自分も心の中に生き続けているの。

  だから地上人を殺す事を楽しいとしか思っていない一部のカス蟲たちは許せないし、ムシトピアの今後のためにも処刑した方が良いと思うんだ☆

  ねっ、福助くんもそう思うでしょ!?」

  キラキラとした眼差しを向けられ、福助はゾッとする。

  (…確かに人間を殺す事を厭わない凶悪な怪蟲は俺も許せない。

  でも今の蜜樹の容赦ない"処刑"判断って、完全に独裁者のそれだよな~…。

  きっとこれも転生の儀式によって女王に相応しい精神に書き換えられてしまった影響の一種だ。

  偶然にも俺達地上人にとって都合の良い結果になってるから良かったけど、もし蜜樹が心の底までムシトピアの価値観に染められていたらと思うと……そうなってなくて本当に良かった……)

  もしも今後蜜樹が死んでしまえば、再び新たな女王が即位して、その女王の命令によって地上侵略が再開されてしまう可能性は否めない。

  それでも、彼女が生きている間だけでもムシトピアを平和な国として導き、出来れば金輪際二度と地上に侵攻しない国にしたい。

  そんな思いを胸に女王として活動している蜜樹を、福助はやはり、応援したかった。

  「…まぁ、そうだな。

  俺も出来る限り蜜樹に付き合うよ。

  けどさ……、一つ疑問なんだけど、これ俺がテイルフォクサーとして怪蟲を処刑する必要ある!?!?!?

  蜜樹が処刑すれば良くない!?!?!?」

  ずっと心の中で抱いていたやらせヒーローショーの疑問を、福助はついに切り出す。

  しかし蜜樹は少しも間を置かず、すぐさま即答する。

  「え~?

  だってそうすれば、福助くんがテイルフォクサーとして活躍する姿がこれからも観れるじゃん!!!

  戦いが終わったからテイルフォクサー様も見納め、なんてもったいないよ!

  これからも地上人のため、そして私のためにテイルフォクサー様には活躍して欲しいもん♡

  カス蟲の処刑とテイルフォクサー様の活動が同時に出来るなんて、一石二鳥じゃん♪」

  …そう、過激派怪蟲の処刑をテイルフォクサーに行わさせるのは、全て蜜樹が"テイルフォクサーの活躍をこれからも観たいから"というとんでもなく身勝手な理由からだった。

  もちろん先述の通り一般人や器物に危害を加えないよう女王として命令しているが、それにしてもひどいマッチポンプである事には変わりない。

  この一連のやらせヒーローショー、当初福助は『こんなやらせ行為にテイルフォクサーの力を使っていると知られたら、お稲荷様に怒られる…!』とビビっていたが、『まぁ平和のために使っているなら良いだろう』と、結局お稲荷様から許されている。

  「あぁ…、さっきのテイルフォクサー様の戦いを思い出したら私…、いや、わらわ、もう我慢出来ぬぅ!」

  ヌッと瞬時に擬態を解除し、即位の証たる王冠を頭に被ったクインビーとしての姿に戻る蜜樹。

  大顎を開き、勢いよく福助の口内に舌を突っ込んだ!

  「う、うごォ……!」

  (い、いきなりディープ…!?

  嬉しいけど大胆過ぎるッ!!!)

  蜜樹は舌を動かし、福助の舌と何度も絡め合わせる。

  口中ハチミツだらけで福助は甘々だ。

  そして数分間舌を絡め合うと、今度は口を離して頬を舐め始めた。

  「な、なぁ蜜樹…!

  いくら人気が無い場所とは言え、地上でその姿のまま俺とイチャつくのはヤバくないか!?」

  「んべっ…、良いではないかぁ。

  ベロベロ…わらわとお主の愛の時間を邪魔する事など何人たりとも出来ぬのだから♡

  それとも、福助くんはわらわとイチャイチャするのは嫌か…?

  やはり怪蟲の女王とは付き合えぬか……???」

  もふもふの毛に覆われた首を傾げ、不安そうな仕草で福助を見つめる蜜樹。

  やはり複眼は人間の目と違い一切動かずまるで仮面を被っているのかのように張り付いているが、それでも如何に彼女が今心細く感じているのかすぐに察せられた。

  「そんなわけないだろ!?

  俺は今までもこれからも、ずっと君が好きだ。

  人間か怪蟲かなんて関係ない!大好きだ!!!!!!

  …ただ、ここでするより屋内か地底に行ってやった方が良いと思ってだな」

  福助の答えに、目を輝かせてパァっと立ち直る蜜樹。

  「はぁっ…♡

  やはりそなたは、わらわの生涯の伴侶じゃ♡♡♡

  嬉しいぞ、嬉しいぞっ♪

  あぁ…、ますます我慢出来ぬ!

  そりゃっ!」

  チリン♪

  「えっ!?」

  何と、蜜樹は勝手に福助のブレスレットから下がる鈴を鳴らし、変身シークエンスを起動させてしまう。

  次の瞬間、福助の全身が光に包まれ、一瞬にしてテイルフォクサーへの変身が完了した。

  「ちょっ…、ますますまずいって蜜樹!!!

  変身した姿でお前とイチャイチャしてるのは本当に見つかったらまずいからっ……!」

  「んもう、いかんぞ?

  いつも言っておろう。

  その姿の時はお互い敵同士、お主がその姿の時は、わらわの事を"クインビー"と呼べと…♡

  のう?"テイルフォクサー"様?」

  「っ…、ああもうわかったよ!

  ムシトピア女王クインビー!

  こんな所で俺に変態行為をふっかけるのはやめろッ!!!」

  「ククク、そうは行かぬ。

  変身後のボディは生身の時とはまた違った美味しさがある…。

  舐め甲斐があると言うものじゃ♡

  んベロぉ……」

  クインビーは再び舌を出し、テイルフォクサーのお腹の辺りを舐めまわし始めた。

  「っ…、あっ♡んんっ♪」

  こらえきれず、興奮した声を上げてしまうテイルフォクサー。

  テイルフォクサーのスーツには、痛みを和らげるために生身の肉体よりも快感を感じやすい機能が搭載されている。

  これを逆手に取り、変身状態のテイルフォクサーをクインビーが舐めるととんでもない快楽を感じてしまうのである。

  「変身状態のお主は口がマスクで覆われているから、舌の絡ませ合いが出来ぬのが残念じゃのう。

  じゃが、こちらが一方的にキスして舐める事は出来る♡」

  チュッ。

  テイルフォクサーの、狐のマズルを模した前に飛び出している口の箇所に大顎で優しくキスをすると、テイルフォクサーもいよいよ興が乗って来てノリはじめる。

  「クソッ♡

  この悪の女王めっ。

  ヒーローの俺にハニートラップを仕掛けてくるなんて卑劣なやつだっ!」

  「そんな卑劣な女王に情けなく敗北しておるのはどこのどいつじゃ?

  ほれ、これが気持ち良いんじゃろ♡」

  ベロン、と複雑な形状の舌でテイルフォクサーのマスクを舐めると、顔周りがベトベトとした大量のハチミツにまみれてしまう。

  「んっ…、あァぁぁぁっ♡♡♡」

  …もうお分かりだと思うが、これはラブラブカップルである福助と蜜樹による一種の"プレイ"だ。

  悪の女王として、大好きなヒーローを自分の思うままに滅茶苦茶にしたい蜜樹。

  正義のヒーローであるにも関わらず、敵の親玉に良いようにされて屈辱的快感を得る福助。

  そんな倒錯的快感をお互いに味わう事が、今の二人の最大級の幸福であった。

  「んべっ…、あぁぁぁぁぁぁっ♡

  なんて愛おしいんじゃ♪

  わらわの憧れの、あんなにかっこいいテイルフォクサー様がっ♡

  全身ハチミツだらけで、わらわの舐めずりで快感によじれておるっ♡♡♡

  素敵じゃ♡

  かわいいっ…♡♡♡

  だいしゅきじゃあああああああああっ!!!!!!!!!」

  「うぐぅっ…!

  俺はヒーローなのにっ。

  皆を守らなくちゃいけないのにっ♡

  快感に抗えないまま敵対している組織の女王といちゃラブしまくってるッ♡♡♡

  こんな姿、誰にも見せられねぇ♪

  チクショウ、許さねぇぞムシトピア女王クインビーっ♡♡♡」

  すると、クインビーは右手のひらを地面に向ける。

  二人の真下の地面に徐々に異次元へ通じる扉が開き、そこに少しずつ体が沈み始めた。

  これは、女王の能力で作れる"地底帝国へ通じるワームホール"である。

  「さぁ、お望み通りここからは人目につかないわらわの城へご案内じゃ♪

  いつ誰かに見られるかわからない状態もドキドキするが、やはり完全に二人っきりの空間こそ、わらわとそなたの愛を育むのにふさわしいのう♡♡♡」

  「あぁ、望むところだ…!

  いきなり地上で擬態解いて舐め始めやがって♪

  その…、興奮しちまったじゃねぇか!!!

  向こうに着いたら完膚なきまでにかわいがってやるよッ♡♡♡」

  かつての蜜樹がやや本来の自分よりテイルフォクサーとしての自分にお熱だった事に、僅かながら悲しみを覚えていた福助。

  しかし今や、蜜樹はクインビーとなり、今野福助としての自分も、テイルフォクサーとしての自分も同じ熱量で愛してくれている。

  それが彼にとっては何よりも嬉しく、ますます彼女の事を愛するようになって行った。

  取っ組み合いながらワームホールに沈み、地底帝国へ向かうテイルフォクサーと女王クインビー。

  城にワープ後二人がどうしたかは……、最早語る必要も無いだろう。

  こうして、テイルフォクサーと地底帝国ムシトピアの戦いは、表向きには終わっていないように見えてその実既に終了し、愛し合う二人の異種カップルが生まれたのであった。