[chapter:ユニバースクラフト]
星々が瞬く無限の宇宙。
漆黒の宙は果てがなく、その旅路もまた無限にも見える。
無数に広がるのが宇宙ならば、世界もまた無数に散らばっている。
その宙を飛ぶ宇宙船。
今は依って立つ故郷を失い、長い孤独の旅の先で希望を求めて船は征く。
何千億という光と、何万億の闇を超えた先に理想郷があると信じて。
『…………ようやく繋がったニャス。
さぁ、吾輩のもとに来るニャス。
そして、ニャントリアの栄光を今ふたたび…………。』
その言葉は、一体誰のものか…………?
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[chapter:増田佐之助]
日本、某県、某所。
ある一軒家にて。
「……………ん、ぁ…………もうこんな時間か………。」
寝ぼけたような顔で起きたのは、[[rb:増田佐之助 > ますだ さのすけ]]という男性。
ゲーム会社に勤めており、やり手のプログラマーとして生計を立てている。
そんな佐之助も朝一番では眠りから覚めたばかりのただの人間だ。
パジャマから着替え、眼鏡をして歯磨きをして朝の支度をする。
その傍らには妻の[[rb:陽子 > ようこ]]がいた。
「あら、おはよう。
朝ごはん、出来てるわよ。」
「おう、ありがとな。
そーいや進藤のヤツ、お前が作った弁当を見て『俺もこんな奥さんほしい』とか言ってたっけなー。」
「あらまぁ進藤くんったら。」
そう茶化すように笑う陽子。
二人の朝はこうして始まる。
朝食を済ませた佐之助はジャケットに着替え、昨日準備した書類やデータを詰めた鞄を持ち、陽子に「行ってきまーす!」と声をかけて家を出た。
佐之助は電車通勤で、毎日満員電車に揺られる。
ほぼ席に座れたためしがないというのが佐之助のちょっとした自慢だ。
「………にしても、すげー鼻が曲がるぅ…………。」
いろんな人のニオイで鼻がダメになりそうなのを堪える。
そうしているうちに電車は目的の駅に着いた。
そこから会社まではそう遠くない。
佐之助は歩いて会社まで行く。
歩いて五分くらいで十階建て以上のビルの前に着いた。
そこに、佐之助が勤めているゲーム会社がある。
エレベーターで会社のオフィスへ行き、「おはようございまーす!」と一番に挨拶をした。
「あっ、増田先輩、おはようございます!」
「おっ進藤、今日は早いじゃないか?
昨日の残業でも残したのか?」
オフィスには佐之助の後輩である[[rb:進藤猛 > しんどう たけし]]が一足早く来ていた。
進藤も佐之助のような一流のプログラマーを目指し、日々研鑽に励んでいる。
彼はキーボードを忙しなく叩きながら興奮した様子だった。
「いや違いますよ。
今日は例の新作のテストだから張り切ってるんです!」
「おっ、そうだったな。
俺渾身の自信作だぜ。
その名も…………『ユニバースクラフト』だっ!」
「俺も早くやりたいです。
増田先輩の自信作、楽しみです!」
「おうまかしとけ!
最後の調整が済み次第、いの一番にお前にテストしてもらうからな!」
「はい、ありがとうございます!」
佐之助は自分の作業部屋に向かい、新作ゲームの最終調整に取り掛かった。
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[chapter:異世界へ]
佐之助はデスクの上にあるパソコンを起動し、持参したデータが入ったUSBをパソコンに挿入する。
デスクトップ上に佐之助が作ったゲームのデータが現れる。
佐之助はそのデータのフォルダを開く。
「よしよし。…………ん?」
佐之助はあるものを見て目を丸くした。
「なんだこのデータ?
こんなもの入れた覚えは…………。」
佐之助が開発したゲームのデータだけしか入っていないはずのフォルダに、見知らぬ謎のデータが入っている。
しかもそれは丁寧に『[[rb:NYADAM > ニャダム]]』というタイトルが付けられていた。
「ニャダム…………?
なんだこりゃ?」
何かのデータである事は間違いないが、大事なゲームの開発データにこんなものが紛れ込む事自体があり得ない事だった。
データは佐之助自身で一貫して管理しており、誰かに預けるなんてことはしていない。
「クラウドからウィルスでも噛まされたか?
でも、毎回チェックはしてるし、対策用の新型ファイアウォールもこないだ導入したばかりだ。
どうなってる……………?」
考えれば考えるほど嫌な汗が出る。
佐之助が予測しなかった異常事態。
最終テストまで漕ぎ着けたのに何故、という疑問が佐之助の頭の中をぐるぐる回っていた。
そして同時に『削除してしまえ』という邪念もふっとわいた。
消してしまえば万事解決だ、と。
「こんなもの…………」
と、そのデータにマウスのカーソルが重なった……その時だった。
「うわっ、眩しい!
目が、目が潰れるぅ!」
突然、パソコンの画面が異常な光を放ち、部屋中を埋め尽くすほどの光が佐之助の視界を奪った。
「先輩?」
そんな佐之助の異常を察してか、進藤が席を立つ。
「先輩、どうしたんですか!?
何かあったんです、か……………?」
佐之助の作業部屋に駆けつけてきた進藤は絶句した。
さっきまでそこに居たはずの佐之助の姿がどこにもないのだ。
「そんな、さっきまで確かに………!
先輩!先輩!いたら返事をして下さい!
せんぱぁぁぁぁぁいっ!!」
進藤は懸命に呼びかけるが、それに応える声はなかった。
彼は知る由もないが、佐之助に数奇な運命が降りかかろうとしていた…………。
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[chapter:[[rb:NYADAM> ニャダム]]]
宇宙船ラストニャントリア号。
佐之助はそんな現実とかけ離れた、その中で目を覚ました。
「う、うーん…………ここ、は?」
ぼんやりと朦朧とする頭。
さっきまで何をしていたのか、佐之助は中々思い出せない。
ただ判るのは、ここが自分が知っている場所ではない事だけだ。
「ここはどこだ!?
俺は一体今まで何を…………?」
あまりの急展開に狼狽える佐之助。
目を覚ませば知らない場所にいて、混乱するのも無理からぬ事だ。
だが、人は冷静になれば徐々に思い出してくる生き物だ。
佐之助もまた、断片的ながら状況を飲み込んでいった。
「確か、さっき新作ゲームの最終調整をしようとして………なんか怪しいデータを消そうとしたら、いきなり光が…………そこからは思い出せない…………。」
また全て把握しきれていない中、ふいに声がした。
『ニャハハハハ!!
よくぞ来た、吾輩の期待の星よ!』
その声は人を小馬鹿にしたような声だった。
実際、混乱して狼狽えている佐之助の姿は滑稽だったのだろう。
「!?
誰だ、姿を見せろ!!」
『ほう、吾輩の姿が見たいニャスか。
良かろう、ならばしっかり目に焼き付けるニャス!』
声の主がそう言うと、佐之助の目の前にモニターが現れた。
そのモニターに映像が入り、そこには豪奢な衣装を来たヘンテコな猫又………のような生き物が映っていた。
「ね、猫……………?」
『猫ではないっ!!
吾輩はニャントリアが誇る独立星間渡航システム、NYADAMだニャス!』
「に、NYADAMって、さっきのデータの…………?
いやそれより、ニャントリアって…………」
佐之助はその言葉を知っていた。
それは佐之助が制作した新作ゲーム『ユニバースクラフト』の中に登場する、宇宙の中で最も高度な文明が築かれた星の名前だった。
するとここは、佐之助自身が作ったゲームの世界の中なのかと思った。
しかし、NYADAMという名前は佐之助は知らない。
知っている事と知らない事がごちゃ混ぜになった状況に、さらに佐之助の混乱は加速する。
『ほう、ニャントリアの事を知っているようニャス。
ならば話は早い。
そこのニンゲンよ、オマエは吾輩の惑星開拓システム………アストロキャッツになってもらうニャス!』
「………………は?」
開いた口が塞がらないとはこの事。
そもそもアストロキャッツとは何ぞや?
その前に、なんでそんなものにならなければならないのか佐之助には理解が追いつかなかった。
それを察してか、NYADAMは勝手に説明した。
『アストロキャッツ………それは吾輩に代わり、あらゆる惑星を開拓しニャントリアを再興する吾輩自慢のドリームピープルニャス!
あらゆるツールを使いこなし、吾輩の吾輩による吾輩のための帝国を築く………その立役者にオマエは選ばれたのだ!
どうだ、一度なってみないか?』
「え、普通にイヤだけど?
そんな事より元の場所に戻してくれよ!
俺の後輩、俺のゲームのテストプレイを楽しみに待ってくれてんだよ!」
『ニャハハ、それこそ無理ニャス!
あのゲート、一方通行故ニャス。
戻るのは諦めるニャスね。』
「フッざけんなぁぁぁぁぁ!!」
激高した佐之助はモニターに殴りかかる。
しかし、モニターには傷ひとつつかない。
「あいたたた……………。」
それどころかイタズラに自分の手を傷つけるだけで終わった。
『無駄ニャス。
吾輩はあくまでこのラストニャントリア号の中枢システムニャス。
仮にモニターを破壊しても吾輩はノーダメージニャス。』
「そんな…………」
佐之助はようやく理解する。
このあと、取り返しのつかない事態が待ち受けている事を。
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[chapter:アストロキャッツ誕生]
『さて、無駄話は終いにするニャス。
オマエに拒否権などない、オマエはもう吾輩のものニャス!
…………対象001を捕捉、システム変換シークエンスを開始する。』
NYADAMが映っていたモニターは突如として『SOUND ONLY』と表示され何も映らなくなり、さっきまでのおちゃらけた声は一変して機械的なものに変わる。
「うわっ!?」
佐之助の身体がふわりと宙を舞う。
まるで、周りの空間が無重力に変わったように。
「お、降ろせ、降ろしてくれぇ!」
そうみっともなく助けを乞うが届かない。
佐之助の、アストロキャッツへの変身が始まった。
『スーツ装着を実行する。』
「う、うぁ………うわぁぁぁぁぁぁ!」
佐之助の身体が突然、高速回転をはじめた。
紺色の竜巻となり、佐之助は奇声をあげながら回り続ける。
その竜巻はCG処理か何かのように下から徐々に白とピンクに変わっていく。
その変化が首から下まで終わると、回転は止まる。
「な、なんだこの服!?」
佐之助が着ていたはずの仕事着だったジャケットはあるものに変化していた。
それは宇宙服だった。
しかしそれは佐之助が知る宇宙服とは異なり身体にフィットするように薄く、猫のような尻尾がある、白くピンクのラインが入った猫型の宇宙服だった。
随所に『01』という数字が描かれている。
「こ、こんな服…………!」
そう憤りながらそれを脱ごうとするが……
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな隙を与えられず、佐之助はまた高速回転させられる。
今度は竜巻の真上から何かが降ってきて、それは竜巻に巻き込まれて一つになる。
そして、二度目の回転が止まる頃には佐之助の面影はもうなかった。
佐之助の頭に、猫の耳がついた宇宙服のヘルメットが装着されていたからだ。
ヘルメットの窓の外マジックミラーとなっていて佐之助の顔は見えない。
「何だこりゃあ!?」
佐之助は自分の姿に愕然とした。
自分がこんなふざけた格好になってしまうなんて、と。
だが、まだ変身は終わらない。
スーツを着せただけでは真の意味でアストロキャッツになったとは言えないのだ。
『対象001にスーツ装着完了。
スーツにアクセス開始、対象001のボディの特殊改造開始。』
「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
佐之助は必死に拒むが、無重力空間ではどんな抵抗も児戯に等しい。
「や、やめ………プルルルルルルルルゥ!!」
佐之助の身体に電流のようなものが流れる。
しかし、それは肉体を損傷させる事はなくアストロキャッツに相応しいものに変化させるためのものだった。
「ンァァァァァァァァランルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
そんな意味不明な奇声をあげながら、佐之助の体格は着せられたスーツと共に変化していく。
175cm以上あった身長は150cmまで縮み、手は指を失いまんまるの形に変化し、声は機械的で高い声色になっていく。
それに伴い元々は八頭身あった身体も四頭身になり、まるでマスコットキャラクターのような風貌に変わった。
「あ…………あぁ………………。」
こうして佐之助に着せられたスーツは肉体と完全に融合してアストロキャッツのボディとなり、佐之助はもはや人間とは呼べない姿になっていた。
『対象001のボディの特殊改造完了。
最終工程としてブレインの特殊改造開始。』
「イ……………ヤダ……………やめ……………。」
佐之助の変身は最終段階に入る。
モニターの側部からケーブルのようなものが伸びてきて、ヘルメット部分の後頭部に接続される。
それは最後に残った佐之助の脳をアストロキャッツの高度演算処理能力のスパコンに改造するためのワームだった。
脳の改造に伴い情報を整理して佐之助たらしめる人格と記憶を狭い領域に追いやり脳の大部分にアストロキャッツのプログラムを移植するものだった。
「あ、アタマが…………なんだこれ、きゅうにあたまが…………ぼーっとして…………」
脳の改造に伴い、佐之助は意識が徐々になくなっていく感覚に襲われた。
痛みはなく、苦しみはなく、徐々に明かりが落ちていく、そんな感覚だった。
「あれ?ここは…………どこ?
おれは、何をしてたんだっけ?
えーと…………おれ、は…………」
徐々に意識を解かれていく感覚に伴い自分の事もわからなくなっていく。
「こんな事…………してる場合、じゃなかったはず…………?
誰かが、待ってる、はずなのに…………あたまが……………。」
自分の脳であるはずが、記憶が徐々に引き出せなくなっていく。
「あ、ぁ……………おれ、誰と暮らしていたんだっけ?
思い出せない……………でも、何か大事なことを………………。」
佐之助は何かを思い出そうとした。
彼は希薄になった意識で、何かを絞り出す。
「ソ、うだ…………おれ、は…………マスターのために、ニャントリアを………あれ?
マスターってなんだ?
でも止まらない………あふれ出してくる…………お、お、ワタ、しは…………ニャントリアを…………。」
それは皮肉にも、佐之助のものではない、記憶ですらないものだった。
佐之助の意識はアストロキャッツに徐々に侵食されていった。
「ワタシ…………は、マスターノタメニ………ワタシハ、アストロキャッツ………。
ワタシハ、今カラ、マスターノ想イヲ叶エルアストロキャッツ二ナリマス…………。」
それが最後の言葉となり、佐之助は僅かに残った意識を手放した。
佐之助の意識は闇の奥底に落ち、いつ訪れるか分からない目覚めの時まで眠り続ける。
『ブレインの特殊改造完了。
変換シークエンス、全工程完了。』
佐之助の変身の終わりを告げるその声と共に無重力空間が解け、佐之助だったものはふわりと床に横たわる。
そして、モニターは再びNYADAMの顔を映した。
『目覚めよ、吾輩のアストロキャッツ!
吾輩のため、ニャントリアの再興の夢を果たすために!』
それは、ゆっくりと起き上がった。
姿勢をスッと正してモニターに向き直ると、
「ワタシハ、アストロキャッツ………CAT−01デス。
ニャントリア再興ノタメ二コノ身ヲマスター二委ネマス。
ゴ命令ヲ、マスター。」
宇宙服を着た猫のようなアストロキャッツ、CAT−01は機械的な声と口調でそう宣言した。
これからは独立星間渡航システム『NYADAM』のもと、他の星を侵略、もとい開拓するためにアストロキャッツとしての能力を存分に振るうだろう。
『ニャハハ、大成功ニャス!
アストロキャッツ計画、これでついに完遂ニャス!
ただ、ここからが吾輩の計画の始まりニャス。
CAT−01、オマエにはこの先にある惑星ルインの開拓を命ずるニャス!』
「オーダー、承諾シマシタ、マスター。」
宇宙船ラストニャントリアは、次なる惑星を目指し進む。
その先の、ニャントリア再興という光を求めて。
▶▶▶Episode2へ続く