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勇者達の物語 序

  ーーー異世界、それは未知の溢れる世界、

  ーーー勇者、それは憧れの職業、

  ーーー召喚、それは他者から与えられた、理想への直通路ーーー

  「やっと……ここまで辿り着いたね…」

  目の前には重厚な威圧感を感じさせる大きな門扉、長い旅路の果て、

  魔大陸、そう呼ばれる地に聳え立つ魔王城、其処に四人の若者が立っていた、

  身軽な鎧、華麗な鎧、重厚な鎧、ゆったりした法衣をそれぞれ着ているが、

  武器は持っていない。

  「召喚されてからここまで、長かったよなぁ…ユキト」

  重鎧を着た男が軽鎧を着た男、ユキトに声をかける、

  「そうだね、アキラ、ハル、カリン、いろんなことがあったけど、やっとここまで来れたんだよね」

  ユキトが重鎧の男、アキラ、

  法衣の女、ハル、

  姫騎士の様な鎧の女、カリンに声をかける。

  「本当に大変だったよねぇ、小説とかだともっと簡単そうだと思ってたけどなぁ…」

  と、ハルが呆れながら答える、

  「そりゃそうだろ、ありゃ作者が書きたい所をピックアップしてるんだからさ」

  なんてアキラが返す、

  「けれど、ここまでの旅を冒険記として書けば、たくさんの人に読まれそうですわ!」

  カリンはフフン、と胸を張りながら頷く。

  「あはは…でも、まだ魔王を倒せてはいないんだ、気合を入れないとね!」

  ユキトが扉に手をかけ、開こうとするが、扉は開かない、

  「……あ、あれ?おかしいな…開かない?」

  もう一度引っ張るが、やはり開かない、

  「おいおい、どうしたんだ?よっ……んん?」

  アキラも一緒に引っ張るが開かない、扉というより、まるで壁のようだ、

  「うぅん、どこかに鍵があるとか、なのかしら?だけどそんな情報もなかったですわ…?」

  カリンは首をかしげながら扉を眺める、立派な門扉の門番の様な竜の彫像に眼が行くが……

  「……ちょっと待って、今あの彫像、動かなかった!?」

  と、ハルが彫像を指差して叫ぶ、その言葉に慌ててユキトとアキラは飛び退くと、

  四人は装備からスマートフォンを取り出してタップする、するとスマートフォンが光に包まれ、

  ユキトは二振りの曲剣を

  アキラは長柄のハルバードを

  ハルは宝玉が飾られた錫杖を

  カリンは豪華な装飾の長剣を

  それぞれ手に持ち、動き始めた彫像に身構える、

  彫像の目が四人を見据えると、その口を開いた。

  「おや、新しい勇者さん達だね、ようこそ、魔王城へ!」

  「へ?」

  「はっ?」

  「えっ?」

  「あら?」

  ガーゴイルからかけられた言葉は、四人が思っていたものとはまるでかけ離れていた。

  「やれやれ、いつも勇者さん達は同じような反応を返すねぇ」

  ゆらりと両手をあげ、呆れるような態度を見せるガーゴイル、その態度はまさに手慣れたモノだ。

  「えっと…それじゃあ、扉を開けてくれるのか?」

  ユキトが恐る恐る聞くと、ガーゴイルは四人を眺めてから答えた、

  「あぁ、今のままじゃ無理だね、ちゃんと条件を満たさないと」

  「随分とあっさり答えるんだな…って条件?ここにきてなんかのお使いか?」

  ガーゴイルの返答にアキラが驚きながらも首を傾げる、

  「あぁ、そんなに難しい条件じゃないよ、どこに行けとか、何を持ってこいとか、そういうのじゃぁない」

  「…じゃあ、戦って勝つ事?」

  「ねぇハル……このガーゴイル、とても強いわよ…攻撃力は高くないけど、凄く硬いですわ…!」

  カリンが鑑定を使って出したガーゴイルのステータスは確かに攻撃力こそ少ないが、

  防御力の数値が桁外れに硬く、今の四人ではどうやっても倒せそうにないのがわかってしまう。

  「そうだね、君たちには悪いけど、私は門番だから、負けてあげたりはできないんだ」

  カラカラと笑うガーゴイル、

  「じゃあ、その条件を教えてくれよ、俺たちは何をすればいいんだ?」

  ユキトが聞くと、ガーゴイルはハッと気付いて答えた、

  「ゴメンゴメン、それはね……君たちに相応しい姿になってもらうんだ、魔王様の相手として、ね」

  ガーゴイルはニィ、と頬を上げながら勇者たちに答えた。

  「ふさわしい姿ってなんだ?俺たちは勇者としてここに来たんだが…?」

  アキラが首を傾げると、ガーゴイルは話を続ける、

  「魔王様はね、この城に人間を入れたくはないんだ、だけど勇者とは戦いたい、で、

  その両方を同時に叶える方法として選ばれたのが、魔王様に挑むにふさわしい姿になってもらう、という事なんだ」

  と、ガーゴイルが話を終えると、今度はカリンが手を挙げた、

  「ねぇ…ふさわしい姿になる、というのは…変身魔法のような物なのかしら?」

  「変身魔法?そういえば異世界なのに、その魔法なかったよね…」

  カリンの質問に、ハルも首を傾げた。

  「それに近い、のかな?魔王様が創ったモノだからね……

  ほら、あそこの木の洞、あの中に入ってしばらく進むと、君たちの姿を変える事が出来るんだ」

  そう言ってガーゴイルが指さしたのは大樹の孔、確かに人が入れる程の孔がぽっかり開いている。

  「へー、そりゃすげぇ…けどなー、なんか怪しくないか?アレ入って出てきたら、

  『我々は魔王様の忠実な僕です!!!』とか言って魔王の配下になって出てきたりとかしないよな?」

  アキラが訝しんでいると、ガーゴイルもそれに答えた。

  「あぁ、ソレなら大丈夫だよ、魔王様が創ったのもそうなんだけど、そういう事が出来ない様にしてるらしいんだ……

  そういう風にしようって言ってたヤツが、無理矢理やろうとして、魔王様に処刑されたくらいだからね」

  「……え、処刑?」

  ユキトも思わずつぶやいたが、魔王が容赦をしていないのがよくわかってしまった。

  「……よし、皆、気を付けて行こう…」

  どうやっても入れない以上、覚悟を決めた四人はゆっくりと大樹の中に入ってゆく、

  入り始めはまだ明るかったが、歩いていくと次第に暗くなって、それぞれの顔が見えなくなっていく。

  「…あ、アレは…あれ?」

  ユキトが進んでいく先に、誰かが歩いてくる、アキラたち三人が見えず、真っ暗な先から歩いてきたのは、

  ユキトだ、全く瓜二つの自分が歩いてきた、ユキトが目の前に立つと、もう一人の自分も立つ、

  「へぇ…コレを変えるのか…なんだか…ゲームのキャラクリエイトみたいだなぁ」

  目の前の自分の隣に浮かぶウインドウを触ると、色々な項目が浮かぶ、

  種族、体形、性別等、細かく編集できるようで……

  「…よし、これでいいかな…っとぉ?もう体も変わってる!?しょうがない、このまま出るか…」

  ユキトが完了のボタンを押すと、目の前のユキトが光の粒に変わり、片手の手首に巻き付いてブレスレットへと変わる、

  それと共にユキトの身体はふわふわの毛並みに包まれていた。

  「お、出てきた…へぇ、雪豹か?」

  ユキトが出てくると、がっしりと逞しい身体付きに紅い鱗の龍人が歩み寄ってくる、着ている鎧から見て、アキラなのが理解できた。

  「そっちこそ、ドラゴンなのか…大丈夫か?いきなりヘタレたりしないよね?」

  「誰がするかっ!」

  アキラが笑いながら突っ込む、アキラの先にはもう二人、ハルとカリンがいた、

  「あ、お疲れ様~、ユキトってば雪豹なんて可愛いの選んだじゃん、後でちょっと撫でさせてよ~」

  なんて言ってきたハルはふわふわした紅と金の毛並みに、法衣がよく似合う狐で、

  カリンは堂々とした立ち振る舞いで、見せつけるように此方に歩み寄ってくる。

  「あら、ユキト!どうかしら?私のこの姿、結構色々と細かくやってみたのだけれど…!」

  クルリと見せつけるように回るカリン、元々大企業の御嬢様だったからこそなのか、

  上半身は凛とした顔立の羽毛の鷲、足元はドレスの様な鎧で見えないが、揺れる尻尾は白い獅子のソレ、

  背中には鮮やかな黒と白の翼に、金色のサイドテールは御嬢様らしく巻いている。

  「えーっと…グリフォン?カリンは凄い色々変えたんだね…」

  「当り前ですわ!いつだって華麗に決めなければなりませんわーっ!」

  どやぁっ、と胸を張り、バサバサと翼を羽ばたかせて空に舞う。

  「で、これでいいんだよね?」

  四人は並んでガーゴイルの前に立つと、ガーゴイルもにこやかに笑う。

  「もちろん!それでは勇者御一行様、ようこそ、魔王城へ!」

  そういってガーゴイルが扉を叩くと、大きな城門はゆっくりと開き、四人は一歩、その中へ入ってゆく……

  「うわぁ……凄い…」

  「なんだこりゃ…」

  「大きいね……」

  「……ここだけで、遊園地のようにも見えますわね…」

  城に入ると、いきなり圧倒されてしまう、城門は後ろで閉じられたが、出ることは出来るらしい、

  しかしそれでもだ、正面には堂々と聳え立つ魔王城、自分たちが立っているのは広場だが、其処から三方に分かれている、

  まず正面の道は大きな城につながっているのが見え、

  一方の道は煌びやかなドームのような場所が、

  もう一方には鮮やかなネオンが煌いている、そしてもう一つ、

  ドスッ、ドスッと鈍重な足音を響かせながら、ゆったりと歩く巨体、

  でっぷりと肥えてはいるが、通り過ぎて行ったのはおそらく、虎の獣人だろう、

  見渡せば彼方此方に様々な獣人がいる、毛色や模様が違うが、狼や虎、竜に獅子、鰐や蜥蜴にと個性豊かだ。

  「おやぁ?おやおやおやぁ??其処でぼぉーっと突っ立っているのは、もしかして新しい勇者様方ですかニャ~?」

  呆気に取られていた四人に、ふいに声がかかる、声の方を向くと、ふんわりした燕尾服を着た三毛猫が歩いてきた。

  「あぁ!やっぱり新しい勇者様一行ですニャァ!こんなところでぼんやり突っ立つなんて初めて来る方々でもなけりゃありえないですからニャ!」

  ゆらゆらと尻尾を揺らし、滑稽なモノを見るように三毛猫は喋っていた。

  「ふむ、アナタ、もしかしてオスかしら?三毛猫のオスは珍しいとよく聞きますわ?」

  「……って、ソレ今聞く必要あるの!?そりゃ私たちの世界じゃ珍しかったけど…」

  カリンが首を傾げている疑問に、思わずハルが突っ込みを入れた。

  「えーっと……まぁ、確かにここに来たのは初めてだよ、君はこの城に住んでいるの?俺たち、魔王を倒しに来たんだけど…」

  ユキトが聞くと、三毛猫は軽くうなずくと軽やかに話す。

  「そうですニャ、私は魔王様に仕事を貰ってるのニャ、魔王様なら、この道をまーっすぐ進んだ先の闘技場で勝ち上がればいいんですニャ」

  「そうか、おっしゃ、そんじゃあちゃっちゃとぶちのめしに行こうぜ!」

  「あ、ちょっとアキラ!待ちなさいよ!」

  「どのような魔王であろうと、私たちの敵じゃありませんわね!さぁユキト!全速全身ですわ!」

  「ちょ、ちょっと!ごめんね、俺も行かないと、ありがとう!」

  と、三人が闘技場へ向かうのを慌ててユキトも追いかけて行った。

  「ニャァ!?まだ話は終わってないニャ!…あーあ、行っちゃったニャァ…まぁ、ゆっくり追い掛けても間に合うかニャ~」

  こうして、四人の勇者は一路、魔王城の闘技場へ向かう、果たして彼ら彼女らの行く末はーーーー

  ーーーー闘技場の一角にあった

  「……どうしよう……」

  ぽつりと、ユキトが呟いた、四人は闘技場の隅のテーブルに集まって落ち込んでいた。

  「……大体、最後のアレはやべぇだろ…なんだあいつら…」

  アキラも何とか声を出した、確かに闘技場の戦いは大変だったが、勝てば新しい装備も得られた、

  しかし、しかしだ、最後の最後で彼らは負けたのだ、

  魔王の幹部たる八人の獣、八刃獣王と謳われる獣たちに。

  「やはり一筋縄で勝てるとは思えませんでしたけど…まさかあんな強敵がいただなんて…」

  カリンの言葉には四人は納得だった、善戦はしたと言える、

  それでも四騎、其処までは戦えた、だが及ばなかったのだ、四人はまだ心は折れてはいない、のだが

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  ワァ、と歓声が響き渡る、広大な戦場では激しい剣戟と、魔力が荒れ狂っていた、

  八刃獣王戦、勇者が魔王に挑む為の最後の関門、

  魔王の最優たる八匹の獣達への挑戦。

  「貧弱ゥ!脆弱ゥ!!焦げェ落ちろォ!!!」

  「あっつ!?こ、のぉっ!!!」

  轟、と紅い大剣が振り抜かれ、直後に爆炎が燃え盛る、

  白い毛並みに蒼い縞模様の鬣と、緋色に金色の鎧の逞しい獅子虎が吼え、ユキトと激しい剣戟を繰り返し。

  「ー逆巻き、ねじれ、渦巻け、跳ねろ、響け、流れよ、されど凍れ、冷やせ、切り裂き散らせ…フラッドブリザード!!」

  「噓でしょ!?インフェルノウォールが豆腐みたいに…!ボ、ボルテックスアロー!フレイムジャベリン…!コメットレイ!」

  地面から水が溢れ、爆ぜ、水飛沫が凍り付くと小さな刃となってハルの唱えた炎の壁を切り裂く、

  ハルも負けじと魔法を唱え、雷の矢と炎の槍、星の弾幕が降り注ぐ。

  「あぁ、なんて美しくて素晴らしい魔法…!もっと、もっと見せて…タイダルストリーム!!」

  巨躯を蒼い宝石をあしらったローブで包み、美しい装飾に氷塊の刃が薙刀の様にあしらわれた杖をゆったりと掴む鯱鯨は迫りくる魔法の弾幕に対して恍惚とした表情を見せ、更に杖の宝珠が凛とした光を放ち、

  足元の地面から渦の様に水がまきあがると巨大な波となって押し寄せた。

  「クッハハハァ!!いいねぇいいねぇ!実にいい!すっごくキラキラしちゃってぇ!もっともっと!!素晴らしい所をたっぷり見せちゃってよぉ!!!」

  「くっ!?な、なんて速さ…!ですが、ここで負けるわけにはいきませんわ!!」

  空中では暴風が吹き荒び、その中でカリンは翼を羽ばたかせながら剣を構える、

  それを見て子供の様に笑いながら暴風の中を自由に飛び回る翠と蒼の羽毛に煌びやかな糸で編まれた服を着た鳥は浮かせた槍の上に乗りながら、二本の槍を振るい回してカリンへ突っ込んでいく。

  「…………弱い、な」

  「んなっ…!?か、たすぎるだろ…!?」

  一方でアキラが戦っているのは赤茶色の毛並みの熊、どっしりした体躯に鱗の様な毛並み、

  アキラのハルバードが横腹を打ち据えたのにもかかわらず身動ぎ一つせず、どっしりと地面に刺した大戦斧にもたれかかっている。

  「コイツで終わりだぁ!灼火獄炎斬!」

  「大海に沈め…オーシャン・コキュートス!」

  「そのキラキラ、留めてあげるよ…テンペスト・ロンギヌス!」

  「……ぶっ潰れろぉぉぉぉお!!!!」

  爆炎、激流、暴風、そして地面がえぐれる程の衝撃、それらを食らった四人は地面に倒れ、

  紅蓮の剣士、蒼海の魔術師、烈風の槍士、鉱陸の騎兵が歓声に包まれていた………

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  「そっちも問題だけど、これからどうしようか…私たちの触媒機、持って行かれちゃったし…」

  ハルが呟いた現実に、四人はがっくりと肩を落とした、

  勇者が召喚された際、それぞれに与えられるスマホ、この世界では触媒機と呼ばれ、

  勇者の武器になり、魔物を倒せば様々なスキルや、新しい武器が解放されると言った機能を有した道具だった、

  だが今の四人の手には無い、その理由は簡単なモノだった。

  「参加する為の資格で、負けたら没収される、ちゃんと調べなかったのは失敗だったね…」

  闘技場には確かにルールとして書かれていた、彼らは見なかった、それだけだ、

  四人にとって今の状況は非常に厳しい物だろう、

  武器を取りに戻る?今から城を出るのは簡単だ、だが道中はどう戦う?

  ここまで進めたのは何よりも、触媒機が様々な強化を施していてくれたからだ、

  それが無いという事実が嫌でも身体で実感できる、それに島を出るには船が無い、作るなんてできない、

  どうしようもない絶望が四人にのしかかり始めた時、ゆるい声が聞こえてきた。

  「おやおやぁ?其処でうなだれていらっしゃるのはもしかして、先ほどの勇者様方ではありませんかニャァ?」

  「ニャるほどぉ、そういう勇者様は結構多いんですニャ、『魔王なんて余裕だぜ!』なんて言ってコテンパンに叩きのめされたりする方も日常茶飯事ニャ」

  うんうんと頷きながら三毛猫、ケットシーが説明する、四人にとってもソレは耳が痛かった。

  「それで、今の皆様は武器が無いからお手上げ、と言ったところですニャ?それならば、武器を売っている所を教えますニャァ」

  四人を見渡し、ポム、と手を合わせ、尻尾を揺らしながら答えた。

  「はっ?武器屋があるのか?魔王城に?なんだそりゃ…」

  アキラが冗談じゃないと言いたげな雰囲気で返すと、ケットシーは否定した。

  「武器屋はないニャ、でも皆様が使ってる武器と同じものを卸してる場所はあるニャ、ささ、此方へついてきて欲しいニャ~」

  クイクイと手を振って四人を導くケットシーに、仕方ないかとついてゆく、闘技場の廊下を歩いてゆくと、段々煌びやかな光が見え、その先に広がっていたのは、豪華絢爛と言った様相のカジノだった。

  「こ、これは…カジノ?武器屋よりも此方の方がちょっと予想外すぎません…?」

  カリンの言葉には四人も納得だ、見渡せば彼方此方でスロットやルーレットが行われている、

  台は余裕があり、そのせいか、ふっくらと恰幅のある獅子や、鷲の獣人などが賭け事を行っていた。

  「勇者様~!ここですニャ!ここで武器を買えますニャァ!」

  と、ケットシーの声が聞こえて、四人はそこに向かうと、広いカウンターの奥には、まるで宝石店の様に色とりどりなスマホが並んでいた。

  「凄い…こんな沢山のスマホ、これが全部別の勇者のモノ…あれ、値段が…?」

  ハルが眺めていた時、掲示されている価格が目についた

  〔1紫8黄6緑〕と言う、自分たちの持っている財布とは違う価格、

  ちょっと特別そうなモノには〔1白3黒2紫〕と掲示されている。

  「あのー、アレっていくらするんですか?なんだか見たことない価格なんだけど…」

  ハルが聞くと、ケットシーはふにゃりと笑って答える。

  「あぁ、ココでは外の通貨は使えませんニャ、ソレを持ち込んだら強い物を買い占められちゃうんだってニャ、だからここで使えるのは、魔素通貨と言う物だけニャ、闘技場でもらったニャ?」

  そういわれて、四人は渡された袋を出して開けてみると、

  宝石を埋め込んだコインが入っていた、休憩場所で出すと、

  オニキスが2枚、アメシストは7枚、トパーズが8枚、エメラルド、サファイア、ルビーがそれぞれ9枚入っていた。

  「おぉ~!凄いですニャ!やっぱり八刃様と戦えただけありますニャァ!」

  キラキラとコインを眺めて嬉しそうな声を上げるケットシーにユキトが説明を求めると、もちろんと答えて話し始める、

  「このコインは魔王様がこの城で与えた通貨ですニャ、ルビー10枚でサファイア1枚、サファイアが10枚ならエメラルド、といったように価値が上がっていきますニャ、嵩張らない様にコイン10枚づつなら纏められるのですニャ」

  「すげぇな…けどさぁ、闘技場で稼ぐにゃ武器が無いし、やっぱカジノで稼ぐのか?ありゃ運任せだろ?」

  アキラが陳列された触媒機を眺め、カジノフロアを眺めて聞く。

  「もちろん、他にも方法はありますニャ、むしろ私たちは其方がお仕事ですニャァ

  その名も……魔素換金、ですニャ!」

  ビシッと指を立てて堂々と胸を張る、新しい単語が出て四人はまた顔を見合わせるが、ケットシーは当然と言わんばかりに四人を先導し、ある場所へ向かった、

  それは初めの広場、カジノとは逆の街道の横に立つ大きな銀行だった。

  「ここは私たちケットシーの仕事場ですニャ、ココで皆様の魔素を換金しているニャ、っと、お客様が来ましたニャァ」

  その声と共に扉が開かれ、数人の獣人が入ってきた、

  でっぷりと柔らかな肉質の鰐、

  張りと丸みのある体形の鯱が扉を抑えて開けたままにすると、

  どす、どすんっと鈍重な足音と共にぬっと黒く撓んだ肉、腹肉が出てきた、

  確かに黒い熊の獣人だ、しかし太い、力士でもここまではいかないだろう肥満体だ。

  「ぶふーっ…ぐふぅ…うぉい…換金だぁ…」

  既に息切れしているのか、野太い声ながらよく響く声で窓口に声を出すと、そのままどっすぅんっとソファにもたれかかる、

  それを見た三毛猫ケットシーが「もちろんですニャ!ほら!すぐ換金してあげるのニャ!」と声をかければ、ニャアニャアと何人かの猫が駆け寄って熊とお供の鰐と鯱を奥の通路へ連れてゆく。

  数分経たずに三人が出てきた、その体躯は先ほどまでの肥満体が嘘のように引き締まり、しっかりと鍛えられた身体付きが見て取れる程だろう、

  「お疲れさまでしたニャ!此方がお客様方から抽出した魔素通貨になりますニャ!」

  「おぅ、どれどれ…おっしゃ!黒七枚はありがてぇ!」

  「兄貴めっちゃ食ってましたからねぇ~俺たちがいなかったらそのうちおはぎみたいになってたんじゃないですかぁ?」

  「ありそうだな…どうする?触媒機に全部使うか?」

  「んー、そうだな…今度は防具の方もちょっと考慮するべきかねぇ…ん?」

  なんて窓口の前で渡された袋のコインを数えながら話している三人だったが、ふっと熊がユキト達に気付き、歩み寄ってくる。

  「よぉ、お前さんら、ココは初めてだな?あぁ、見りゃあわかるさ、俺らも初めはそんな感じだったからなぁ…

  ま、ちょっとした先輩からのアドバイスだ、赤や青のコインは触媒機を買うにはいらないが、宿屋や服屋を使うのに必要だから取っておくといいぞ」

  「へぇ、そうなんですね…ありがとうございます!」

  「いやいや、ちょっとした先輩風を吹かせたいだけだからな?後は宿屋にランク付けのような物があるなんて噂もあるけど、ま、そりゃ気にしなくていいだろうな…それじゃあな~」

  と先に出ていた二人を追って熊は出て行き、ケットシー達も声高に

  「ありがとうございましたニャ!またのご利用をお待ちしていますニャ!」

  と送り出していた、そこでカリンが三毛猫に話しかけた、

  「…ところで、あの換金をし過ぎてガリガリに痩せる、なんてことはありませんの?」

  「ニャ、それは大丈夫ですニャ、皆様の腕輪には皆様の姿がちゃんと記録してあるから、

  過剰に抽出しないように抑えてくれるのニャ」

  「そうなんだ…体系とか固定できるのいいねー…あれ、でもここで自炊するの?」

  ハルの疑問にも三毛猫はちゃんと答える、

  「其処はご安心ニャ、宿場通りなら食べるお店もいっぱいあるから、みんな満足ニャ!」

  「ほんと至れり尽くせり!でもお金、使うの勿体ないかなぁ」

  「ニャ?皆様はチケットを貰ってる筈ニャ、そのチケットがあれば一回だけ食べ放題にできますニャ」

  「マジか!このチケットそんなにすげぇのか!」アキラがチケットをひらひらと揺らしながら驚く、

  「それで食べて、換金して、触媒機を買ってまた挑む…なんだかやり込みゲームみたいだね」

  ユキトが言えば皆納得の答えだった、そして四人は席を立ち、宿場通りへ向かう事になった、

  「「「「またのご来店、お待ちしておりますニャ!!!」」」」

  とケットシー達に見送られ、四人は先ほどの落ち込みムードから、どんな店があるのかと楽しみな気持ちが湧いていた。

  「……うわぁ……」

  誰が一言呟いたのか、全員が同じ事を漏らしたのか、ソレを考えるよりも目の前の光景にくぎ付けだった、

  煌びやかなネオンが光る宿場通り、飲食街とも呼ばれているその場所に広がる光景は不思議なもので、

  どすっ、どすっと丸々と肥えた身体を揺すりながらのしのし歩く巨体、ふさふさの毛並みな狼や獅子、竜や鰐の獣人なども見かけるが、際立ってでっぷりと肥えている者があちこちで特大の服を着ながら歩いている、

  とは言え、いるのが全て肥満体、と言うわけではなく、ユキト達の様な細身で引き締まった体躯の獣人や竜人もちらほら、ちょっと丸みがある位なのも見かけられる。

  「すげぇな…ここにいるのが皆勇者なのか…」

  「私達以外の国でも召喚が行われているとは聞いてたけど、改めて見るとびっくりだね…」

  「これだけたくさん集まってても、まだ魔王に勝ててないってなると、やっぱり強いんだね…」

  ユキト達が辺りを見渡しながら話していた中で、もじもじとあたりを見ていたカリンが嘴を開いた、

  「……あの、それは、そうなのですけれど…その…そのぉ……折角なので、食べません?」

  くるるるるきゅぅ……そんな音がカリンの腹から淑やかに鳴った、三人の目が向いたせいで恥ずかし気に顔をうつ向かせるカリン。

  「…ッハハッ!悪い悪い!御嬢様がおなかすいたなんて軽く言えないもんなぁ!」

  「コラ!アキラ!あんまりそういう事言うんじゃないって!」

  アキラが思わず吹き出しながら笑うのを諫めるユキト、

  「えっと…ごめんね、カリン?どこに行く?やっぱり…イタリア料理とか?」

  ハルが問いかけると、カリンは頭を振って、意を決したような顔で嘴を開く、

  「いいえ、仲間ですものね…折角だから、行きたい所がありますの…!」

  『いらっしゃいませ、チケットはお持ちですか?』

  カリンに連れられた一行が向かった店は、彼らの世界では当たりまえの様にどこにでもあるハンバーガーショップだった、唯一違うのは、店員として出てきたのは無機質な言葉を発するツヤツヤした人形、ゴーレムであった事だろう。

  「チケット…これかな?」

  ユキトが四枚のチケットを出し、ゴーレムに手渡すとソレを胸部のスロットにまとめて流し込む、

  『チケットを四枚確認、此方の席へご案内いたします』

  四人がゴーレムに案内された先にはよく見る対面式のテーブルとソファのあるボックス席だ、

  それぞれ詰めて座ると、

  『ご注文はメニュープレートより入力していただければ奥のレンジより出てきます、ごゆっくりどうぞ』

  とゴーレムの差した先にあるプレートが光り、メニューを表示した、そしてゴーレムは一礼すると、そのまま帰って行った。

  「へー…ほんと、帰ってきたみたいな気分になるな…ここまでくると」

  「そうだね…店一つ持ってきたの?って思っちゃうよね…」

  「そうなの?私は初めて来ましたから…ちょっと興奮していますわ…!」

  「魔王がどんな奴なのか、分からなくなってきちゃったね…じゃぁ、食べる?」

  四人が話を終えると、カリンが最初にメニューを触り始める、

  「初めはやっぱり…コレを食べて見たかったのですわ!」

  チン、と軽快な音と共にレンジが開くと、鼻をくすぐる香ばしい香り、

  カリカリに揚がった山盛りのフライドポテトが出てくる、

  特大サイズなのだろうか、大きなバスケットの中に細いながらもしっかりピンと主張している

  「お、やっぱりこれだよなぁ、バーガーもいいけどさ、皆で食うならこれってのあるよな」

  「はくっ…んっ!美味しい!ちょっと熱いけれど、塩加減も絶妙ですのね!」

  「ほんとだ…!あむっ、ちょっと柔らかいのもあるのいいよね!」

  「まったく…もぐ、むしゃ…ちゃんとケチャップも自由に取れるからね…」

  食べ始めればわずかにあった警戒心も薄れ、メニューをそれぞれ受け取って打ち込む、

  様々なフレーバーのソースが選べるチキンナゲット、

  柔らかで甘いオニオンリングフライ、

  様々なバンズやパティ、ソースのハンバーガーなどをワイワイと喋りながら食べる、

  途中で満腹になると、腹ごなしになるハーブをつまんではジュースを飲み、

  特徴的な形にスパイスのきいたカールポテトや、

  パリパリの皮ととろりとした甘さのアップルパイやチョコレートパイ。

  「あぐ…んぐっ…っぷはぁっ!はーっ、腹いっぱいだわぁ!」

  「御馳走様でした、食べ過ぎちゃったね…」

  「まぁまぁ、痩せられるんだから丁度いいんじゃないかな?カリンはどうだった?」

  アキラ、ユキト、ハルの三人は食べ終わり、ジュースを飲み干すカリンをしばらく見ていると、カリンが口を開いた。

  「…とても、美味しかったですわ!家ではジャンクフードなんて食べられなかったからこんなにおいしいなんて…!」

  キラキラと尻尾を揺らすカリン、その頬はふっくらと丸みを帯びていた。

  「それにしても食ったよなぁ…俺ら、これで…金になるんだよな?」

  「その筈…ならなかったら嫌だなぁ、恥ずかしい…」

  なんてアキラの言葉にハルが答える、

  それもその筈、四人は店を出る頃にはふっくらと丸みを帯びた身体付きになっていたからだ、

  ふわふわした毛並みのユキト、ハルはまだしも、獅子の短毛な身体なカリン、竜のアキラは横幅が増えたのがよくわかる、

  着ている装備も皆留め具が一番最後に周っており、まだ余裕こそあるが、ちょっと無理をしたら千切れてしまうかもしれない。

  「そうならない様にする為に銀行に行くのでしょう?まぁ、歩くのもちょっと疲れるかもしれないけれどね」

  「うん、カリンの言う通りだ、僕らより前に使ってる人もいるんだから大丈夫だよ」

  そして四人は銀行に向かうのだった……

  つづきますよ。

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