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勇者達の物語 終

  前回のあらすじ

  うっかり寝坊してしまったユキト達は、ラウンジフロアにてシンジ達と情報交換を行い、

  気持ちも新たに闘技場に挑んでいたが……

  ー----------------------------------------------------------

  「がぶ、あぐっ…むしゃ、もぐもぐ…がふっ…んぐっ…」

  何度も挑んだ、紅蓮、蒼海、烈風、黄陸、だけでなく、双月、黒冥、極光、そして天雷、

  天雷に挑めた事はそれこそ、数える位しかできないけど、頑張ったんだ。

  「んがふ、もご、ごきゅっんぐっ…はぐっ、もしゃ、ずるるるっ、ぐぇぇぇぇっふぅ」

  そんな時に他の勇者から聞いた、VIPルームの存在、一定の稼ぎを得ると入れるという部屋、

  その誘いが来てしまった、初めこそ、ちょっといい暮らしをしたい、そう思っていたのは事実だった。

  「はむ、あむっ、がぶっ、んくっ、んくぅっ…はぷっ、かふっ」

  広々とした部屋、床はどこもふかふかでその場に寝ころんでも痛くない程、

  それでも一番の利点は、衣服も触媒機も、換金も、そして食事も、全て部屋から出ずに行えてしまう事だった、

  始めは、ちゃんと闘技場にも行けたんだ、けれど、服が破けたとか、新しい装備の為に換金したからって、また食べたりして、

  そうしてずるずると、足が遠のいて、動かなくなって。

  「まふ、もむ、むぐ…かぷっ、もぐ、むぐ…ごきゅ、ごきゅ…んくぅ…」

  今では皆、このVIPルームでぐうたら三昧、

  ハルは生クリームに様々なフルーツがどっさりと乗った大きなケーキや、熱々のアップルパイと保冷ケースにたっぷり入ったバニラアイス、

  シュークリームにエクレア、ドーナッツと色々なお菓子の食べ滓が口周りに付きながらもペロリと舐めながら更にカステラを丸々一本かぶりついていた、

  その身体はモフモフした紅と金の鏡餅のようで、胸や尻がどっしりと圧倒的な存在感を放ち、段腹も負けじと安定感を強調している。

  カリンはハンバーガーにポテト、ナゲットやチキン、時々サラダも嘴で啄み、コーラをストローで吸い上げ、

  嘴や両手にはソースやケチャップがべったりとついているのもお構いなしに色んな種類のジャンクフードを食べている、

  大空を舞う翼も時々自分の身体を仰ぐ小さな団扇程度で、時々バサバサと羽ばたかせているが、あまり意味もなく、

  時々ぶにゅん、どぷん、と身体を揺らしたりしているのもわかる。

  一方で元々筋力のある竜人になっていたアキラは、ハンバーグやステーキをはじめとした肉料理や、ジュースをたらふく飲み食いし、

  一角で真ん丸く、パツパツの風船のように膨れ上がっている、時々大きなゲップの音まで響いてるが、初めこそ諫められていたのにお互い気にも留めなくなっていた。

  そして自分でも、色々とちょっとは我慢しようとは思っていた、けど、皆も食べているんだからとあれもこれもって食べ進めて、どんどんブクブクと肥え太っていた、

  闘技場には行きたくなったら行けばいい、そう思って、ガツガツとカツカレーをかきこみ、ごくりと飲み込み、食べ滓塗れの口周りをべろりと舐め取り、

  大きなとんかつとキャベツの千切りがたっぷり入ったふかふかのカツサンドを手に取り、かぶりつ

  ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

  『ー勇者様方、

  少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?』

  ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

  ーッ!?手が止まった、そんなレベルじゃあない、他の三人の咀嚼音も、ゲップの音も何も響かない、しん、とした静寂が響く、

  誰も、食事を続けようなんて気分にはならなかった、先ほどまで溢れていた食欲も、まるで嘘のように静まり返っていた、

  野生の直感、とでもいえばいいだろうか、もしも無視して食事を続けていたら、間違いなく最悪の展開になっていただろう事は、誰も言わずともわかっていたのだ。

  声の方を見れば、其処には黒いコートに蒼い礼服、前髪は眼を覆う程に長い銀の長髪と藤紫色の鱗の蜥蜴が恭しく佇んでいた、

  『お楽しみのところを申し訳ありません、私は双月の蜥蜴、我が魔王の側近でございます』

  双月、その称号は確か、八刃の月兎のもう一つの呼び名と同じだったはずだ、その蜥蜴は更に言葉をつづけた、

  『勇者様方はとても多くの魔素を換金していただきました、それゆえに、我が魔王は是非ともに、皆様との謁見を行いたい、とのことでございます』

  「……謁見…?ま、魔王が…?」

  何とかくぐもった声を出して、聞き返す、その言葉に蜥蜴は落ち着いた表情で静かに、しかし確かに響く声で答える。

  『えぇ、我が魔王が、是非皆様とお会いしたい、と』

  蜥蜴の言葉に、少し考えたカリンが声を出す、

  「あ、あの…それなら、少し準備をしてもよろしいかしら…このままでは動けないですし…装備も…」

  と言うと、蜥蜴が手を叩くのと共に、何人かのケットシーが入ってきた、

  『それはご安心を、換金も、装備の購入もここで済ませましょう、我が魔王はとても忙しいので、迅速に行わせていただきましょう』

  なるほど確かに、見れば触媒機もかなりの値段の物を持っているし、防具も立派な物を用意してもらえているようだ、

  「本当に用意周到だな…どうする?俺は…あぁ、乗った方がいいと思うぞ、またとないチャンスだろうし」

  アキラの言葉に、ハルも同意していた、そうなれば答えは決まっている、

  「わかりました、その謁見に向かわせてください」

  『えぇ、えぇ!もちろんです!我が魔王も喜んでいただけるでしょう!』

  そうして、あっという間に丸々と肥えた身体はこの城下町に来た時と同じ引き締まった姿に、あの時より立派な装備と、適正が高かった触媒機を買って、

  ユキト達は蜥蜴に連れられ、宿屋の隠し通路を使い、魔王の元へ向かうのだった。

  ー----

  「あの…謁見って…具体的に何をすればいいんですか?」

  豪華な回廊を蜥蜴を先頭に歩く中、ハルが蜥蜴に恐る恐る声をかける、

  『それはもちろん、勇者様方の思うがままにすればよいのですよ、その武器を持って挑むもよし、話を聞くのもよし、

  ですが我が魔王に和平を組む考えはありません故、それはしっかりと覚えておきますように』

  しれっと蜥蜴の返した言葉に、四人は歩きながらもどう戦うか、どんな罠があるか、などを考えていた。

  そうして歩いて行った先、巨大な扉が聳え立っていた、

  「この先に魔王が…?」

  『……えぇ、ですが皆様、どうにも神経が張り詰めすぎていけませんね?そんな事では本来の力が発揮出来ないでしょう?』

  言われれば四人は納得してしまう、身体はわずかに震え、普段の余裕も殆ど薄れ、はやる気持ちに押し出されそうだ、

  そんな四人を見た蜥蜴はにこやかに笑い、扉を開く、

  『ご安心を、此処に来る勇者様方は皆そうなのですよ、ですから、私が我が魔王を呼んでくる間、思う儘にくつろいでお待ちになるとよいでしょう』

  扉の先、開かれた風に乗って香るのは悍ましさすらない芳香、そして大きな広間に並ぶテーブル、その上では正に出来立て、

  そう言っても過言ではない料理の数々が、バイキングの様にずらりと山盛りで並んでいる。

  「……え、あ、う…!?」

  脳裏ではいけないとわかっている、だけど香りが鼻をくすぐれば、四人の口には涎が溢れ、今にも飛び込んで食べたいという気持ちすら膨れ上がってしまう、

  耐えねばならない、今ここで食べてしまえば魔王とはまともに戦えない、だけど食べたい、軽くつまむ?絶対止まらない、

  『それでは皆様、我が魔王が来るまで、しばしの御歓談を……あぁ、ソレはどうぞ、ご自由に』

  いつの間にか部屋の中に進んでいたのだろう、後から蜥蜴の声が静かに響いた、扉が閉まる音が聞こえ、全身に刺さるような冷たい気配が抜けて。

  「がぶ、もごふっ、んぐっごぷっぐぷぅっ!!」

  手が止まらない、自分でも驚くくらいに我慢していたのかもしれないと、そう思える勢いで手当たり次第に掴んでは口へ押し込む、

  「ぐぁぶっ!あぐっ!ずるるぅっ!んぐっんっぐ!!!」

  お互いに止めようと思う事も出来たかもしれない、だけど、それよりも貪る手が早すぎる、

  「もっしゃむしゃっ!んぐぅっ!むぢゃもぐっ!ごきゅっごっぷっ!!!!」

  満腹にでもなれば、止まるかもしれない、けれど、身体が理解できてしまう、食べた分はちょっと腹に溜まるとすぐ身体中に流れ込んで贅肉に変わる、

  「んッむッ!もごむがっ!!がぶぅっもっちゃもっちゃ!ずりゅるぅぅっ!!!!!」

  フロアいっぱいに身体が埋もれない程度には換金が行われているのだろう、すでに装備は破け、揃いも揃ってもふもふつやつやの巨体を余すところなく晒し、

  それも気にならない程に食べる手が止まらない、自分が今何を食べているのかも理解する前に口に押し込むような勢いで、味すら気にもならない。

  「もぐむぐ…がぶ、もちゃ…んぐぅ…ふぅ…?」

  どし、と手がテーブルに触れる、其処に眼を向けると、食べ物はなくなっていた、もしかして食べきってしまったのだろうか、

  ぼんやりした頭だが、満腹感からか、お互いに太い息遣いではあれど、多少なり冷静な思考が帰ってきているようだ。

  『勇者様方、お待たせいたしました、我が魔王との謁見、ごゆるりとお楽しみくださいませ』

  ピン、と張り詰めたような蜥蜴の言葉が微睡む思考を奮い立たせ、元の目的に眼を向ける余裕ができた、

  それと共に、ブクブクに肥えた巨体がふわり、と宙に浮かび始め、ふわふわと風船のように浮かぶと、部屋の天井に現れた魔法陣を通ってゆく、

  魔法陣の先には、宇宙の様な空間が広がっていた、周囲を見渡すと、彼方此方に様々な色の球体のような物が浮かんでいる、

  〔ん”っふぅぅぅぅぅ……ぐぅぅぅぅふぅぅぅ……〕

  そんな中、鈍重な唸り声が響く、四人が声の方に眼を向けると、其処には一際巨大な肉の塊が浮かんでいた、

  顔は狼だろうか、耳が長く片方は垂れて、さながら兎のようで、首回りには獅子のような鬣がふさふさと揺れている、

  背中には巨大な鳥の翼と竜の翼、両手の毛は硬く、センザンコウやアルマジロのようだ、

  巨大な尾は狐の様にふさふさだが、その先には鯱やクジラのような尾びれが付いている。

  その巨大な口には天の川の様に何かが注がれ、時々もしゃもしゃと咀嚼を繰り返す、

  背中には十本はあるだろうチューブが繋がれ、其処からきらめく何かが吸い出されている。

  「ふひゅぅ…あ、あれが…魔王…?」

  「そ、そうみたい…ですわね…けふっ…」

  「とんでもないデブだな…俺らも人の事言えなさそうだけど…」

  「で、でも、気付いていないみたい……不意打ちは出来るかも……?」

  四人は何とかふよふよと浮かびながらもそれぞれ武器を持ち、巨大な魔王と思しき塊に向き合う、

  すると、塊がブルブルと震えだし、

  〔ん”ぐぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉおおおおぉうっ!!!!!!!!!!〕

  と物凄い咆哮が響き渡り、まるで掃除機に吸い込まれるような突風が四人の身体を突き抜けた。

  「うわぁっ!?……だ、大丈夫か、皆…?」

  ユキトが三人の方へ向き直ると、其処にはすらっと痩せた三人の姿、それどころか自分まで痩せ、引き締まった体形に戻っている。

  「大丈夫…どころか、痩せて…むしろ戻った…と言うべきかしら…」

  「向こうなりに戦おうって意識なのか?だったら今のうちに何とかしようぜ!」

  装備も元に戻っており、今なら戦えると武器を構えた、

  「そうだね…早くやっつけて、世界を…救って…」

  ハルの言葉が続く前に、ぐるるるるるぅ……と誰かの腹が鳴った、誰か、ではなく、お互いの腹が鳴ったのだ、

  「……あ、あれ…なんか…ふらふら…する…?」

  視点が定まらない、ユキトだけじゃなく、アキラも、カリンも、ハルも皆武器を持つ手が震え、腹の虫が鳴いている。

  〔ん”ぐるるぅふぅ……ぶふぅ…ぐおおぉおぉうっ!!〕

  魔王、と思しき塊が吼える、すると四人の鼻に嗅ぎ慣れた香りが寄り添う、しかしその香りは今は最も欲し、拒絶するべきものだった、

  宇宙のような空間のあちこちから塵が飛んでくる、いや、近づいてきてわかった、ソレはすべて食べ物だ、

  我慢しよう、そう言う筈が、言葉が出せない、操られているのではない。

  涎が止まらないのだ、お互いに涎を必死に呑む音が聞こえる程、

  ピザやカレー、ラーメンにフライドチキンと様々なモノが近づいてくる。

  「た、たべ…たべ…が、ま…」

  言葉が回らない、武器を持つ手が震える、食べちゃダメ、我慢して戦う?

  それが出来る程に今の自分たちは自制が出来るのか?

  その答えが出るのが早かったのか、それとも身体が動いたのが早かったのか、

  それすらどうでもよかった。

  「…んがふっ!がぶっ!!もぐっはぐっ!!んぐっんぐぐぅっ!!!」

  手が届いた瞬間にはもう口へ運び始めて、汚れるのも気にせずにひたすら貪り、

  水の球になったコーラへかぶりつくとそのまま一息に喉を潤しながら刺激を浴び、

  大きなハンバーガーも二口程度に頬張り、ピザは切り分けもせずに半分に折ってガブッとかぶりつく。

  「ごぶっ!ごぎゅっ!!ぐぶっ!!ぐぇっぶ!!!もがふっ!!!」

  ラーメンやカレーも皿などなく、ボールのように浮かぶソレを口へ吸い込む様に寄せて呑み込む、

  時々ゲップが漏れる音も聞こえるが、ゲップすら飲み干すように食べる音が止まない。

  「もちゃ、がふっ!あむっ!!ごぷっごぎゅっ!!あぐっ!!むぐぅっ!!」

  ケーキはホール、それどころか三段四段は余裕な大きなケーキ、

  饅頭等の手掴みできるお菓子ですら何個も大量で、誰もが止める暇もなく口へ運ばれる。

  「しゃぐっ!がしゅ!ごぷっ!!がぶっ!むしゃむしゃっ!ずるるぅうっ!!!」

  でっかいアイスやフルーツまでも濃厚な味で、程よく甘く、辛く、酸っぱく、しょっぱく、

  飲み物も止まらない、新しい刺激が全身を駆け抜け、手を止めるなんて思考が食欲を更に煽る程度だ。

  「「「「ぐぇぇぇええええぇえええええっぶふぅぅぅぅぅ!!!!!!!」」」」

  食べ物が収まった頃、誰となく四つの大きなゲップが鳴り響く、さながら満腹を示す鐘の様だ。

  「う゛っぷ…た、食べ過ぎた…」

  そんな声を何とか漏らすユキト、先ほどまでの姿はあっという間にまん丸な贅肉で雪豹色のスライムのようで。

  「ぐぇっぶ…だ、けど、アイツの攻撃も落ち着いたみたいだ…げっふ」

  アキラはパツパツに膨れて、ドラゴンのデザインな風船玉と言っても納得されそうなパツパツの巨体。

  「そ、れじゃぁ、なん…とか、けぷっ、戦わないと…」

  ハルは黄金色の毛並みに豊満な胸に尻と腹で、さながら大きな油揚げの巾着でも思い出されそうな図体。

  「と、はいえ…くぷっ、武器で攻撃は…難しい、ですわね…」

  カリンも余すところなくでっぷりと贅肉で撓み、上半身や翼で見ればフォアグラと思われそうな程の肉付きで、

  なんとか四人は丸々肥えた図体でも、この空間じゃ武器を取ることもできるし、身体を動かすこともできる、

  しかし距離感がつかめない、それに全員武器は持てても振るのすら一苦労といったほどだ。

  「しょうがねぇ…ぶふーっ…ドラゴンらしくブレスでもぶち当ててやる…っ!」

  ふよふよと魔王へアキラが向き直ると、思い切り息を吸い込む。

  「あら、アキラにだけかっこいいところは与えませんわ!私だってブレスも覚えましたのよ…!」

  グッと息を吸い込むカリン、二人の体内で強い魔力が渦巻く、もしかして魔王に攻撃が出来るかも、

  そう思ったが、二人が溜まった魔力を吐き出そうと身体を力むと。

  「ごぇぇえぇえええええぇえぇっぶっひゅぅぅうぅうぅううう!!!!」

  「ぐぇえええぇえぇぇぇえええっぶっふぅうううぅうぅううう!!!!」

  炎も、風も出ない、出てくるのは大きなゲップ程度。

  「ぐえっぶ!なんで!げぇっふ!ブレスが!げっぷぅ!出ねぇ!」

  「げっふぅ!もしかして…今の私たち、魔法くらいしか使えない…?」

  アキラは必死に息を吸っては吐くが、何度もゲップが出る程度、カリンの話を聞いてハルとユキトが魔法を選んで唱えるが。

  「だ、ダメ…魔法は出るけど…」

  「まるで気にも留めてない…効いてるとも思えない…」

  何発も大魔法クラスの魔法を当てても大して傷一つすらない、

  残った選択は武器の近接だが、自分たちの図体を見てはどうしようもない。

  〔ぐる゛る゛ぅ…ぐお゛ぉお゛ぉお゛ぉお゛お゛お゛ぉお゛お゛お゛お゛っ!!!〕

  魔王の咆哮が響く、吸い込まれるような暴風が再び吹き荒れる。

  「うわっ、ま、またか…っ!」

  身体中に強い脱力感が流れ込み、肥えに肥えた図体は元の体形へ戻ってしまう。

  「くっ…そ、このままなら戦えるのに…」

  アキラが大斧を出して寄りかかりながら構えようとするが、力が入らない。

  「そ、それに…うぅ…やっぱり…」

  ハルは弩を構えて撃っていたようだが、矢が当たっても弾かれている。

  「ダメですわ…吸い取られて、空腹が……」

  ぐるるるぅ…と誰かの腹の音が鳴いた、まるで何日も絶食したような気分で、魔法を唱えるのすらできない。

  「…あ、あぁ…また……」

  魔王の咆哮が響く、食べ物が漂ってくる、様々な香りが漂い、涎が溢れ、武器を持つ手すら離れ、

  食べ物を貪る、がつがつ、むしゃむしゃ、ごきゅっごぷっ、

  ずるるぅっ、ばりっぼりっ、もちゃ、むちゃ、ずぞぞっ、

  がぶっ、ごぎゅっ……

  何処までも肥える肉、空腹と満腹の無限螺旋、咀嚼の音、肉の重み、快感、肉の揺れ、

  終わらない快感…………

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  「…って!こんな終わりあるか!!!!…あれ?」

  ガバっと起き上がる……起き上がる?

  見渡すとそこは、自分の部屋、豪華なホテルのような部屋ではないし、

  手を見れば普通の人間の手。

  「…ゆ、夢……?」

  「…しっかし、変な夢だったよなぁ?」

  次の日、学校の教室でアキラとその話をした、

  やはりアキラも同じ夢を見たようで、記憶も鮮明、感覚すら覚えているときた。

  「そうだよね、ごはんの味もちゃんとしっかり覚えてるのもすごいよね…」

  ハル、カリンも同じ夢を見ていて、偶然ですらないと思えてしまう、

  食べた物の味、量、その何もかもが鮮明に浮かぶ。

  「本当に夢、だと思えるのかしら…もしかして、今の私たちが夢なのかもしれませんわね…?」

  カリンは、目覚めてからすぐにラーメン屋やバーガー屋に行ったらしく、味は寸分違わなかったようだ。

  「こっわ!恐ろしい事言うなよ!」

  アキラが珍しく少し怯えたみたいな態度をとる、それは納得だ、

  もしも今でも自分たちがあの場所にいるのなら…

  ぶくぶくと肥える白に黒い斑点の毛玉、

  赤い鱗の大玉風船、

  金と紅の大きな油揚げ巾着のような毛玉、

  羽の生えた鏡餅、

  それが仲良く浮かびながら食べ物を流し込まれている、それが自分達だという事だ。

  「ま、まぁ…さすがに夢、だよね…」

  なんて事を話しながらも、久しぶりのような学校の授業を受け、そして家に帰った。

  「ただいまー……あ」

  テーブルの上には親が用意した料理が並んでいる、煮魚やみそ汁の香り、鰹節の乗った冷奴、

  そんな素朴ながらも懐かしさすら感じる料理たちを嗅ぐと、

  ない筈の尻尾を咥えて食べたい気持ちを抑えようと考える自分がいた、ような気がする……

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  バリ、ゴリ、ボギン

  魔王城、最上階の円卓、集まるは十人、

  獅子虎、鯱鯨、隼、大熊、兎、狼、龍、狐、

  そして、遥か昔に召喚された勇者。

  ガギン、ゴギッ

  「……かくして、我が魔王を討たんとした勇者達は我が魔王の為に魔力を捧げる事になりました、とさ」

  そんな事を話すのは流麗な蜥蜴、眼こそ見せずともにこやかな立ち振る舞いで円卓を取り仕切る。

  ボリボリ、バギッ

  「ナっちゃん、ナっちゃんナっちゃん、そんなモノどーでもいいんだよどーでも!

  あんなのほっといても餌増えるんだから!僕らにとって大事なのが何かわかってるよねぇ?」

  コツコツと円卓を小突く隼が蜥蜴に声をかける、

  内容は魔王に関したことであるはずなのに、誰も怒りすらせず、むしろ同意する雰囲気がつよい。

  メキッ、ゴギン

  「そうですね、我々にとって大切な…ラウンジの加入者ですが、8組の中から2組、ラウンジへ入っていきました」

  8組から2組、それだけと言われればそれだけだが、隼はグッと拳を握り、嬉しそうだ、

  だが隼だけでなく、他も喜ぶような雰囲気が漂う。

  メリョ、バギョ

  「それと、残念な話ですが、ラウンジを荒そうとしたモノが3組出ました」

  ピリッ、と鋭い雰囲気が駆ける、ドス、と円卓を叩く音と共に獅子虎が吼える。

  「あぁ?3組も混ざってやがったのか?対処はしたんだろうなぁ?」

  「ハッ!モチのロンに決まってんだろうがサン!ナナが速効仕留めてコッチでオヤツ加工済みだよ!」

  獅子虎の声に押し返すように兎がタフタフと足を揺らしながら返す、

  サン、そう言われた獅子虎は「そうか」と一言返すとグルグルと唸りながら椅子へ座る。

  メキメキッ、ゴギッ

  「はぁい、こっちも報告~、レトリティア国の方から戦艦が3隻攻めてきたよ~、多分もうちょっと隠してるから、

  ナっちゃん調べておいてねぇ~、戦艦の方はワタシとツヴァイでぶっ壊したから大丈夫~」

  ゆらゆらと手を挙げる鯱鯨、海は嵐風で進めずとも、勇者の知識から戦艦を作る国もあるのだ、

  一方で差された狼、ツヴァイはなにも言わずとも戦艦の砲身や装甲を齧っていた。

  「わかりました、会議の後に調べておきますね…それでは、勇者様…いえ、精霊様、取り分ですが」

  蜥蜴が向いたのは勇者、ある大国の伝承に乗る魔王を討った勇者と全く変わらない勇者が静かに口を開く。

  「あぁ、それじゃあ、これだけ徴収させてもらうよ」

  ジャラジャラと水晶の魔素通貨の山が積まれ、溶けるように勇者の身体へ流れてゆく。

  「承りました、それでは、今宵の会議はここにてお開きとさせていただきます、本体?」

  蜥蜴が狐へ声をかけると、狐は席を立ち、刀を掲げる、獅子虎は大剣、鯱鯨は杖、隼は槍、

  兎は鎌、狼は連接剣、龍は銃剣、蜥蜴は下げていた鉄扇、そして勇者は片手剣をそれぞれ掲げて合わせる。

  「それじゃぁ、今日の会議はここでおしまい、解散!」

  その一言と共にそれぞれが円卓から立ち去る、明日もまた勇者を待つ、

  それは魔王としてであり、勇者としてである。

  この戦いに終わりはない、終わる事はあるが、それは挑む勇者達の決意が我々を超える瞬間だろう。

  それが楽しみであるが故、我々は世界を動かすのだ。

  これにて、幕引きでございます。

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