【新春けもケット11】だいご「ホントの自分を探すゾウ」【B-07】

  

  ある借家にゾウが住んでいた。周りと同じように就職し、日々の仕事をこなしながら平凡な日常を送っていた。そんな日常生活の中、ふと本屋で目にした自己啓発書を読み込み、「ホントの自分を探さなければならない」と思い込むようになった。思い立ったら即座に実行するほどの行動力は持ち合わせていたのである。会社に休職届を出し、ホントの自分を見つけるためならばと、世界の果てまで旅に出ることにした。

  家を出て二〇〇メートルほど進むと、一二〇度に分かれている三叉路に差し掛かった。左右の道は黄色いレンガで舗装されている。この旅路の運命を決める、重要な最初の選択だ。しばらく考えていると、左の道からは道路工事のやかましい音が聞こえてきた。幸先の良い旅にケチが付きそうだったので、右の道を進むことにした。この選択がどう響くかは神のみぞ知ることではある。

  選んだ道を二〇〇メートルほど進むと、また一二〇度に分かれている三叉路に差し掛かった。右の道は未舗装だけど、左の道は黄色いレンガで舗装されている。どっちに進むか悩んでいると、右の道から見覚えがあるサルが歩いてきた。かつてのクラスメイトだ。

  「やあ久しぶり! 元気してた? うかない顔だけど、仕事のほうはうまくいってるの?」

  「実は、やりたいことがあって休職中なんだよね」

  「そうか、就職が決まった時はあんなに張り切っていたのになあ。そこまでしてやりたいことって、なんなの?」

  「今は、ホントの自分を探す旅に出てるんだ!」

  「そうなのか、凄いなあ! 実は俺、就職はしたけれど偉大な先人に憧れて真似をするばっかりで、ホントの自分を見失ってた気がするんだよね。自分で旅立ちを決断できるだけでも凄いことだよ。俺も何かを見つけたいなあ」

  「じゃあ、一緒に探しに行こうよ! 旅は多いほうが楽しいし」

  こうして、ゾウはサルと共に旅を続けることにした。サルは右から来たので、お互いに逆戻りにならないように左の道を進むことにした。

  二人が選んだ道を二〇〇メートルほど進むと、また一二〇度に分かれている三叉路に差し掛かった。右の道は未舗装だけど、左の道は黄色いレンガで舗装されている。二人なので意見の食い違いが発生しそうだ。意見を合わせようと口を開きかけたら、右の道から棒菓子を頬張りながらブタが歩いてきた。

  「限定チュロス美味いなあ。売り切れちゃうから早く買いに行ったほうがいいよ」

  「今はホントの自分を探す旅に出てるんだから、寄り道してる場合じゃないな。それが人生の目的だし」

  「人生の目的かあ。そんなの特に考えたことなかったなあ。今が良ければそれで幸せだからね」

  「自分も昔はそう思っていたけど、それだけじゃダメなような気がして」

  「そういう目標を持つのもいいなあ。僕も生きた痕跡というか、死んだ後にも何かに役立つものを残したいなあ」

  そう言ってブタは豊満な肉体をタプタプ震わせた。いざとなったら役に立ちそうなので、旅の仲間に迎え入れることにした。チュロスを売ってる店に用はないので左の道を進むことにした。