魔鳥なんて嫌いだと思った時もありました。僕は街の屋台で売っている焼き鳥の様なものを口いっぱいに頬張っていた。甘辛い味付けの魔鳥の焼き鳥は、あの忌まわしい記憶を浄化する美味しさだった。
そんな僕を呆れた様に見下ろしながら、パーカスは僕のおねだりに負けてもう一本買ってくれた。
「あんなに魔鳥の肉は嫌だと言ってたのに、随分気が変わるのが早いな?テディ。口の周りがベタベタじゃぞ?」
僕はパーカスに口元を布で拭われながら、口を尖らせた。
「らって、おいちーらもん。」
そう言って、手に持ったもう一本の串に刺さった焼き鳥を歯で食いちぎった。僕が食べているのを眺めていた獣人たちが、急に店に並んで焼き鳥を買い始めた。なかなか人気店みたいだ。
ベンチに一緒に並んで座っていたパーカスは、発泡酒の様なものを手にしていた。今日は休日だった様で、街には屋台が沢山並んでいた。獣人の子供たちも楽しげに走り回っている。
僕は食べ終わった串をパーカスに渡すと、もう一度口元を拭いて貰った。まるで赤ん坊の様に世話を焼かれているけれど、自分でやっても上手く出来ないから、パーカスにやって貰った方が早いことに最近気づいてしまったんだ。まったくこのチビな身体は不器用で困る。
丁度その時ベンチの前を賑やかに通り過ぎた子供の一団の一人が、急に立ち止まって僕に顔を向けると嬉しそうに声を掛けてきた。
「あ!この間の可愛子ちゃんだ!ジェシー!あの子が居たよ!?」
前回雑貨屋で僕を襲った猫科獣人ジェシーのお兄ちゃんだった。金色に煌めく瞳を楽しげに輝かせて、子供の集団に向かって呼びかけた。直ぐに一匹滑らかな仕草で足音もなくお兄ちゃんの側に走り戻ってきたのは、黒と淡い金色の模様と金色の瞳のジェシーだった。
「じぇちー、おにぃたん、こにちわ。」
ジュシーは少し躊躇いがちに僕の側に寄ってきて、顔を上げて僕の膝の上に顎を乗せた。僕はクスクス笑いながらジェシーの首を撫でてやった。ジェシーは一体何歳ぐらいなんだろう。
「すっかりジェシーは君の事が忘れられなくなったみたいだよ。毎日あの雑貨屋に行きたがって。僕は隠者様と一緒なら、そうしょっちゅうは街に来ないよって言ったんだけど、聞かなくて。」
そうお兄ちゃんがジェシーを撫でながら僕に言った。結局ベンチににじり登って、僕の膝の上に顔を乗せたジェシーの耳の裏を撫でながら尋ねた。
「じぇちーとおにぃたん、なにちゅじょく?」
何を聞かれたのか分からなくてキョトンとしたお兄ちゃんがパーカスに目を向けると、パーカスが面白そうに通訳してくれた。
「ああ、僕たちは豹の獣人だよ。僕らの仲間は似てるから、大人にならないとなかなか区別がつかないよね?ねぇ、これから広場で遊ぶけど一緒に来るかい?隠者様少しだけ一緒に遊んで良いですか?」
パーカスは僕を見ると、ニコニコ笑って言った。
「ああ、テディも少しは子供らと遊びたいだろうから良いじゃろう。だが、テディは見ての通りヨチヨチじゃからのう、一緒に遊べるかは分からぬぞ?」
お兄ちゃんが面倒を見ると約束してくれたので、僕たちは広場へ一緒に向かった。パーカスは広場に面した屋台のベンチに陣取ると、大人の獣人と一緒に話しながらこちらを見張ってくれている様だった。
実のところ僕は外見は幼児だが、中身は子供ではないので別に遊びたかった訳じゃない。だけど、この世界の事を知るには子供らの#忌憚__キタン__#のない言葉が聞きたかった。
もっともジェシーみたいにチビチビ獣人に話は聞けないけどね。
お兄ちゃんが僕を抱っこして広場に行くと、走り回っていた子供らがわらわらと集まってきた。皆、僕を見て好奇心を抑えられない様だ。しかしそのベタついた手で僕に触るのはやめてくれ。
僕は広場の芝地に下ろして貰うと、僕の側を離れようとしないジェシーと三人で周囲を歩き回った。大きな獣人の子供らが枝ぶりの良い樹にスルスルと競って登り合っている。僕は手を繋いでいたジェシーのお兄ちゃんを見上げて言った。
「おにぃたん、のぼえる?」
するとお兄ちゃんはニヤリと笑うと、トンとジャンプして一番下に張り出した枝に手を伸ばすとクルリと逆上がりして、枝に足をつけた。まるでショーを見てる気分になって、僕が口をポカンと開けて眺めていると、スルスルと上の方まで登ってしまった。想像以上に獣人の身体能力は高いみたいだ。
ジェシーまでが樹の下の方に飛びついて登ろうとしていた。まぁ、ちょっとチビすぎてダメだったけど。
「テディ、今から降りるよ!見てて!」
僕がジェシーを連れ戻して樹から離れると、お兄ちゃんは樹の真ん中辺まで飛ぶ様に降りてきて、そこから一気にジャンプしてクルクルと回転して綺麗に着地したんだ。
僕は目を丸くして思わず拍手したけど、周囲がそんなに驚いていない事に二度びっくりした。一方の僕はと言えば、心臓がバクバクしていた。思わずジェシーをモフるくらいには動揺していた。
「テディも大きくなったらきっと出来るようになるよ?ね、楽しみだろう?」
そう無邪気な笑顔で僕に言うお兄ちゃんの言葉は、僕にとってはまるで重い#石礫__イシツブテ__#の様だった。僕にはよく分かっていたんだ。僕が成長して大きくなったって、あんな風に樹に登れないだろうし、降りてこられないだろうって。だって僕は獣人じゃなくて、人間なんだもの。
「…うん。たのちみ…。」
僕は心の中の葛藤をジェシーにぶつけて、パーカスが止めに来るまで知らずにジェシーを再びモフり倒してしまった。ジェシーが心配なほどハァハァしてたけど、大丈夫だったんだろうか。