お届けもの

  「ちょれ、なあに?」

  昼間、雑貨屋の女将さんから受け取った綺麗な箱を、パーカスは眉を顰めて眺めていた。確か王都からの届けものだと言われていた気がするけど、家に戻ってきてもパーカスはなかなか開けようとしなかった。

  痺れを切らした僕がついに尋ねてしまった。見るからに高級そうな美しい箱の中身は、きっと良い物に違いない。ワクワクしてパーカスの顔を見上げると、パーカスは表情を緩めて微笑んだ。

  「まぁ、開けてみないことには何とも言えんな。」

  箱の中には見たことのない美味しそうな焼き菓子が幾つかの瓶に入って並んでいた。思わず満面の笑みで感嘆の声をあげた僕は、パーカスに顔を向けた。パーカスは難しい表情で瓶に添えられていたカードを取り出して読んでいた。

  え、もしかしてこれは食べ物じゃないのかな。あの魔鳥や、トメトメの件もある。僕は瓶ごとに種類別に分けられたクッキーもどきをじっと眺めた。この世界の食べ物は普通に美味しそうだと思うと食べられなくて、どう見ても毒に見えるものが美味しかったりする事を僕は経験していた。

  「ぱーかちゅ、こえたべあえる?」

  パーカスは苦笑して僕の頭を撫でて微笑んだ。

  「ああ、食べられるぞ。王都の有名な店の焼き菓子だ。食べるか?今から茶でも淹れよう。テディはミルが良いじゃろう?」

  僕は箱を持ち上げたパーカスの後をウキウキしながらついて行くと、ダイニングテーブルの僕用の椅子ににじり登った。最近届いた僕専用の椅子は、パーカスが街の木工屋さんに頼んで特別に作って貰ったものだ。

  僕が登りやすいように足を掛ける場所が沢山ある特別仕様だ。まぁ僕にとっては見慣れた子供椅子という感じだけど、この世界には幼児が居ないので、パーカスが色々言って注文してくれたんだ。

  僕が行儀良く座ると、パーカスはテーブルに椅子を近づけてくれた。目の前に瓶から取り出したクッキーが皿に幾つか並べられて、僕は牛乳によく似たミルという飲み物をカップに注がれるのを眺めた。

  僕はこの世界で心安らかに生きて行くために、差し出される食べ物がどんな物から出来ているかどうか無理に知ろうとするのは悪手だと悟っていた。知らぬが仏だ。

  「うぁっ!これおいちーねぇ。」

  口の中でサクサクと綻ぶこの感じはまさしくクッキーだった。街の屋台では菓子と言えば甘味の弱いスコーンの様な物しか食べたことがなかったので、このいかにもな甘みは僕の口の中を幸せにした。

  僕の満足気な顔をパーカスは何とも言えない表情で見つめた。僕は首を傾げてもう一枚お代わりを手に握りしめて尋ねた。

  「これ、どーちたの?られか、くれちゃの?」

  僕がうやうやしく口にクッキーを送り込んだ時、パーカスは顔を顰めて頷いた。

  「テディはこの前来た王国騎士らを覚えておるか?あまり良い出会いではなかったかもしれんが、あの青い髪の騎士が贈って来たのじゃよ。テディ宛にの。カードには酷い事を言って悪かったと書いてあるが…。

  あやつも悪い竜人ではないのだが、いかんせん青龍の家の出身だからの。どうしても視野が狭いのであろう。テディどうした、何処か痛いのかの?」

  僕は一瞬でこの頬っぺたが落ちそうなくらい美味しいクッキーと、あの僕に酷い事を言った竜人の騎士への恨みとの板挟みになった。美味しいもので誤魔化されたくはなかったけど、食べ物に恨みはない。

  顰めた顔を緩めて、僕は肩をすくめた。

  「‥にゃんでもにゃい。ぼくあのちときあい。」

  パーカスは面白そうに笑って言った。

  「そうか、嫌いか。ハハハ、すっかりあやつも嫌われたものだ。まぁ、この菓子は確かに美味い。こんな辺境の地まで送って来るのだ、あやつも悪かったとは思っているのだろうて。」

  僕はあの深い海の色をした長い髪を思い出した。パーカスは青龍の一族って言ってたな。確かあの時隠れていた籠から転げ出た僕と目が合った時に、あの騎士は酷く驚いた顔をしていた。瞳が一瞬で目まぐるしい色の変化を見せて、明るい青い宝石の様だった。

  20代ぐらいに思えるあの騎士は酷く冷た気な表情だったけれど、目元の鋭いイケメンだった。というか、パーカスは髭もあって老人だからよく分からないけれど、竜人というのは顔が整っているのかもしれない。あの赤い髪の騎士もひと目を惹く綺麗な顔だった。

  あの時、青髪の騎士に僕自身が一番心配していた事をズバリ言われて、ショックで悲しみと混乱が押し寄せて感情が揺れてしまったんだ。僕は獣人ではないと指摘されて、魔物の様に何者かも分からないと疑われて、それは事実だっただけにショックだった。

  パーカスは僕が傷ついたと言ったけれど、そうじゃない。僕は自分が本当の事を言えない苦しさで泣いてしまった。この街では誰もが僕を気味悪がらずに優しく接してくれる。それに慣れてしまった僕は、本当の自分、『人間』でも受け入れてもらえるのか不安しかなかった。

  とは言え、僕はもう二度と会わないだろう騎士達の事などあっという間に忘れてしまった。だからひと月後にまた王都から僕宛の美しい箱の荷物が届いた時に、僕とパーカスが思わず顔を見合わせたのも不思議じゃないよね。