うわー、凄い注目されてるぅ…!僕はパーカスの腕の中で、初めて辺境の街へパーカスと一緒に行った時もこんな感じだった事を思い出した。でも行き交う獣人の数が多いので、僕を見つめる眼差しも、より多かった。
しかも子供達がパーカスの側を好奇心に満ちた眼差しで見上げて、僕をもっと見ようと目を見開いている。何か何処かで見た光景だ。子供達が集中するあまり口がポカンと開いてるせいで、池の縁に群がる鯉の様に見えないこともない。
僕は思わず我慢出来なくてウククと笑ってしまった。
「ぱーかちゅ、ちゅごいみちぇる、ねー?」
僕がそう言って子供達を見下ろすと、彼らはワッと騒ぎ出した。いや、ちっせぃは自覚有りますから、可愛いは、まぁその通りですし。僕は好き勝手言う子供達に段々羞恥心が煽られて来て、パーカスの胸に顔を押し付けた。この感じ、久しぶりで何かヤダ。
するとパーカスはクスクス笑って言った。
「テディの様に幼い人型の子供は、見た事がないからの。ほら食事処に到着したぞい。」
「いらっしゃい!」
元気の良い女将さんの声が掛かって顔を上げると、そこはそんなに広くない、こじんまりしたお店だった。これならあまり獣人達にジロジロ見られる事もなく食事を楽しめそうだった。
竜人のパーカスが珍しいのか少し目を見開いた女将さんが、視線を落として腕の中の僕に目をやるともっと大きく目を見開いた。何獣人なのか、ふくよかで体格が良い。
「まぁまぁ、珍しいお客さんだこと!さ、こちらのテーブルへどうぞ?うちの店は魔肉料理がおすすめですよ?」
そう言ってテーブルの上に4つくらいのメニューを書いた木の板を置いた。僕はそのメニューを指でなぞって読んだ。
「…やきまろり、ちちまにくに…。…にこみ。やきちちまにく。‥ぱーかちゅこえ、なんちぇかいちぇある?」
時々パーカスに囁かれながら読んだものの、最後のメニューは見たことのない言葉だった。するとパーカスは楽しげに笑って言った。
「これはこのブルーベル名物の魔魚料理で、『魔魚のスープ』だ。辺境では水辺が険しくてほとんど魚が取れないからの。湖があるこの街ならではだろう。食べたことがないのなら、これにしようかの?」
僕は魚と聞いて、喜びに目を見開いた。そういえばここで生活する様になってから、魚と言うものを食べていない。魔物とは言え、魔鳥の様に美味しいのではないかな?
僕は満面の笑みで頷くと、パーカスは大盛りの魔魚のスープを頼んだ。近くのテーブルに座ったおじさん達に可愛いとチヤホヤされているうちに、女将さんが洗面器サイズの木の器に、たっぷりの具沢山スープを持って来た。
僕がワクワクしながら覗き込むと、そこには恐ろしい見た目のものが突き出ていた。
ゼリーっぽい半透明の薄青い何かがメインで、そこに見慣れた極彩色の野菜達が彩りを与えている。器の中心には青い半透明のものの頭なんだろう。魚の頭と言えばそうなんだけど、双頭で赤い目がひとつずつだ。
僕がギョッとしてパーカスの腕を掴むと、パーカスは僕に微笑んで言った。
「双頭魔魚とは豪勢じゃ。テディ、これは中々お目に掛かれない珍しい魔魚じゃぞ?女将、今双頭魔魚のシーズンだったかの?」
そうパーカスが尋ねると、女将は機嫌良く言った。
「うちの亭主が毎朝漁に出てるんですがね、昨日、今日は双頭魔魚がたくさん獲れたんですよ。他の人もたくさん獲れたって言ってたらしくて、こんな事滅多に無いんですがねぇ。お客さんこんな日にこの街に来て幸運ですよ。沢山食べてってね、坊や。」
そう言って僕の頭を何度か撫でると他の客の対応に行った。さすが客商売、見慣れない子供がいても騒がないな。でも僕の気が逸れたのも一瞬で、僕は目の前の恐ろし気な魔魚を睨みつけた。
「ぱーかちゅ、このおちゃかな、こあい…。」
僕が眉を顰めていると、パーカスが僕用の小さめの取り分け皿にスプーンで掬ってよそってくれた。
「見かけは怖いかもしれんが騙されたと思って食べてごらん、テディ。」
僕は恐る恐るブヨついた、まるで毒クラゲの様な半透明のそれを掬って口に入れた。途端にしっかりしたハーブの効いたスープと、優しい淡白な味わいと染み出る旨みが口の中に広がって、僕は目を見開いた。
「おいちぃ!ぱーかちゅ!ぼく、おちゃかなちゅき!」
僕がそう言って二口目を頬張ると、パーカスもやっぱり頷きながら二口目を口に入れた。美味しいものは無言になるって本当だ。僕とパーカスは結局全部食べ終わるまでひと言も口を利かなかった。
器が空っぽになってから、ようやく僕とパーカスはにっこり微笑み合った。僕の濡れた口元を布で拭きながら、パーカスは言った。
「まだ時間があるから、これから湖まで行こうかの?テディ。」
僕は今や双頭魔魚の頭を眺めても眉を顰める事もなく、何なら身の美味しさが蘇って唾液が出てくる始末だった。魔魚最高か。女将さんがニコニコと僕らのテーブルに来ると、器を下げながら言った。
「今、双頭魔魚が獲れるって湖は獣人が詰めかけてますよ。もしかしたら獲ってる所が見れるかもしれませんねぇ。」
僕はパーカスの方を目を見開いて振り返ると、早く早くと椅子から降ろして貰った。パーカスが女将さんに湖までの道を聞いていたけれど、僕はいそいそと店の外に出た。
店の外に出ると、サッと誰かが僕の前に立ち塞がった。僕がその大きな影を見上げると、見覚えのある虎耳の獣人が僕を見下ろしていた。
「あ…。ちゃっきのちと?」
虎さんは僕の足に尻尾をクルリと巻き付けながら、かがみ込むと僕と目を合わせて言った。
「パーカス殿はどこ?一人でふらふらしてたら危ないよ?」
大きな淡い水色の瞳のマッチョな虎さんは、どうしてここに居るんだろう。僕が首を傾げて目を合わせながら、足に絡まる尻尾を掴みたくてウズウズしていると、後ろからパーカスが来たみたいだ。
「テディ、どうし…。」
不意にパーカスに抱き上げられて、僕は虎さんの尻尾と強制的に引き離されてしまった。ふわふわ尻尾…。パーカスの険しい顔を見た虎さんは慌てて言った。
「パーカス殿!私はブレート様に仕えるロバートと申します。ブレート様より、養い子様の護衛を仰せ付かりました。少し後ろをついて行きますので、是非同行させてください。」
僕の護衛?そう言えば、ブレートさんは変な人が居るから気をつけてって言ってたっけ。虎さんを護衛に寄越してくれたのか。僕ってなんか重要人物みたいだ。クフフ。
パーカスはまだ険しい顔をしながらも、少し迷っている様だった。僕はパーカスの顔に手を触れて言った。
「ぱーかちゅ、ぼく、よあいれしょ?ごえい、しちぇもらう、ねー?」
見張ってて貰えたら、僕がちょろちょろし放題って事だよね。こんな美味しい話ないんじゃ無いかな。僕はパーカスの顔に諦めが浮かぶのを見てにっこり笑った。それにあの縞々尻尾も、もう一回くらい触れるかもしれないし!
さぁ行きましょう、湖へ!