驚きの報告

  「そう言えばさっき、相乗り鳥車で獅子族の10歳ぐらいの女の子と一緒になったのじゃが…。」

  そこまでパーカスが言ったところ、竜人のブレートさんは顔を顰めた。

  「ああ、もしかして髪が金髪の10歳ぐらいの女の子ですかな?あの子は兄弟と歳が離れた一人娘のせいか随分甘やかされていて、この街でも中々手を焼いているのですよ。私もまだ小さいからと様子を見ているのですが、最近は良い噂を聞かないので、そろそろ貴族である親に領主である私から忠告しようかと考えていたところです。

  何かパーカス殿やテディにご迷惑をお掛けしましたかな?」

  するとパーカスが僕の方をチラッと見てから首を振って答えた。

  「いやいや、特に何と言う事は無いんじゃが、ロバートの許嫁は自分だとテディを目の敵にしたのでな、何か誤解があるのかと思っただけじゃ。」

  ブレートさんは面白そうに口元を緩めると、やっぱりチラッと僕の方を見てからパーカスに話し出した。

  「ハハハ。リリアンに限らずロバートはあちこちから婚約相手に引っ張りだこですよ。本人はまだ全然その気は有りませんがね。ロバート自身は虎族の名家であるアムル家の分家の出身ですが、去年本家の若い後継ぎが急死した事で、ゆくゆくは本家の後継になるのでは無いかと噂されてます。

  だから、リリアンももしかして親に色々吹き込まれたのではないですか?あそこの家は奥方が何かと…。ハハハ。」

  僕はパーカスの腕の中で話を聞き齧っていたが、ロバートがお家騒動に巻き込まれてるらしくて正直可哀想に思った。どこの世界でも中々しがらみからは自由になれない様だ。

  しかしあの獅子族のリリアンと言う名前の意地の悪い女の子は、やっぱり他の人にも迷惑をかけているんだと妙に納得してしまった。良いところの子供なら、もうちょっと躾をしておいて欲しいよね。

  僕がうむうむと頷いていると、パーカスが僕を悪戯っぽい目で見つめて言った。

  「テディ、訓練場に着いたぞ?見学するんじゃろ?」

  僕はパーカスから地面に降ろしてもらって、入り口から中に入った。広い敷地では十人ぐらいの獣人達が剣を交えたり、素振りをしたり、筋肉トレーニングみたいな事をしていた。

  「ほあぁ~!ちゅご~い!かこいい!」

  僕は生々しい戦闘訓練を目の当たりにして、興奮してしまった。金属の剣の当たる音が重く響く。当たったら痛そうだ。いや、切れるのかな。少し緊張も感じて背伸びして見ていると、パーカスが僕を呼んだ。

  「テディ、邪魔になるからこっちへ行こうかの。」

  僕は慌ててパーカスと手を繋ぐと、首を訓練場の広場へ向けて歩き始めた。

  「…しかしパーカス殿も、妙なところに魔力を使いなさる。パーカス殿ほどであれば可能なんでしょうが、普通は子供と手を繋ぐために使う様な能力では無いですよ。」

  そう笑いを堪えながらブレートさんが僕たちを見ながら言った。何の話をしているのか分からなくてパーカスを見上げると、パーカスがニヤリと笑いながら僕と繋いでいた手を離して、もう片方の腕を一緒に並べて前に突き出した。

  明らかに僕と繋いでいた手の方が長いし、ぼんやり光ってる。僕はギョッとしてまじまじと手の長さを見比べた。するとじわじわともう片方の手と同じ長さに戻って行った。

  「テディと手を繋ぐ時は、少し長くした方が繋ぎ易いからの。ちょっと伸ばしたんじゃ。」

  いやいや、ゴムで出来てる訳じゃないのにそんな事出来ないでしょ!?ブレートさんが魔力と言ったけど、魔力でそうしてるなら凄いや。僕も自分の手を前に突き出して念じてみた。

  「のみろ!…のみろ!」

  すると竜人二人の大きな笑い声が響いて、僕はほんの冗談だったのにと顔を顰めた。

  「ハハハ、まったくパーカス殿の養い子と一緒に居ると退屈しませんな。」

  そう言うブレートさんにパーカスが言った。

  「ここだけの話、王都で娘とも話してきたのじゃが、準備が出来次第私の養子としてテディを迎え入れる事にしたのじゃよ。テディ、ローズはお前のお姉さんになるのじゃよ。」

  僕はポカンとしてパーカスを見上げた。確かにいつも僕を家族として考えていると言ってくれていたけれど、本当に僕を家族にしてくれるとは思わなかった。しかもあのローズさんがお姉さん?嬉しいのに一瞬不安がよぎってしまった。

  「ぱーかちゅ、らっこ!」

  僕を勢いよく抱き上げて、パーカスは楽しげに笑った。僕もいきなり2mの高さに移動して変な声が出た。少しヨダレも出てしまったよ。僕は口元を手で拭きながらパーカスに言った。

  「ありがちょ、ぱーかちゅ。ぼく、ぱーかちゅのころも?ふふふ、ぱーかちゅ、おとおたん?」

  するとパーカスは少し顔を赤くしてブレートさんに言った。

  「この歳でお父さんとかテディに呼ばれるのは照れるのう。じいじでもおかしくないのじゃからの?」

  僕は楽しくなってパーカスの首に抱きついた。

  「おとーたん!ぱーかちゅ、ぼくのおとーたん!」

  「一体どうした騒ぎですか?」

  不意に声を掛けられて僕たちは我に返った。訓練していたロバートが明るいオレンジ色の髪を掻き上げながら僕たちに近寄って来た。

  「ぱーかちゅ、ぼくの、おとーたんよ!?」

  僕がロバートにそう教えてあげると、ロバートはパーカスとブレートさんを交互に見て、僕に目を移した。水色の瞳を優しく緩めながら、少し戸惑い気味に尋ねてきた。

  「テディ、王都ぶりだね。…えーと、パーカス様がテディのお父上って言ったのかい?」

  僕はパーカスに抱きついてもう一度言った。

  「ちょうよ!ぱーかちゅ、ぼくのおとーたん!ふふ。」

  ちょっとロバートの顔が強張った気がしたけど、なぜかな?ヒョイと僕が地面に下ろされるのと同時に、ブレートさんがロバートに声を掛けた。

  「ロバート、丁度良い。皆を呼んで来てくれないか?これから定期的にお前達の技術指導をしてくれるパーカス殿を紹介しよう。」

  ロバートはハッと顔を上げて、慌てて他の騎士達を呼びに行った。

  「ぱーかちゅ、あ、おとーたんだっちゃ…。おとーたん、きち、ちどうちゅる?」

  パーカスは苦笑して、王様と約束したからと走って集まって来る騎士達を見つめた。厳しい顔つきで彼らを見つめるパーカスは、いつもと違う顔つきになっていた。あれが騎士のパーカスなら、パーカスは相当手強い騎士なんじゃないかな。

  思わず僕はブレートさんの足元へと近寄った。心細くなったのが分かったのか、ブレートさんは僕と手を繋いでくれた。竜人は何となく似た所があるな。何処がどうとは言えないけど。

  僕はパーカスが騎士達に挨拶するのを眺めながら、一体いつになったら訓練を始めるのかと小さく欠伸をした。欠伸が欠伸を呼び、もう一度欠伸をすると何だか皆の視線を感じる。

  するとひょいとブレートさんに抱き上げられて、ちょっと驚いた。でも正直眠くてたまらなくなっていったので、僕はブレートさんに寄り掛かって目をシバシバさせているうちに眠ってしまった。ああ、極楽だ…。