「ぱーかちゅ!いちょいで!いこっ!」
僕はウキウキとマイリュックを背負って走り出していた。
「これ、テディ!そんなに慌ててたら危ないぞ!?」
笑い混じりのパーカスの呼びかけに、僕もクスクス笑って走り出していた。僕はあの時、長老のピンクの薬で一時的に大きくなりながら、身体の使い方を思い出したんだ。だからきっと前より速く走れるはずなんだ。
そう思っていたのに、僕はつまずいて地面に投げ出されてしまった。イタタ…。理想と現実は違うって、こんな事を言うのかな。僕は擦りむいた膝と手のひらをじっと涙目で見つめながら、側にしゃがみ込んだパーカスを見上げた。
「…ぼく、はやかっちゃ?」
パーカスは困った様な表情で僕を見つめると、もっともらしく頷いて言った。
「うむ、速かったのう。だが、直ぐにもっと速く走れる様になるじゃろうから、無理は禁物じゃ。」
僕は血の滲む膝を見つめながらパーカスに頼んだ。
「…ちちんぷいぷいちて。」
苦笑したパーカスは、もっともらしく僕の膝に両手をかかげると大きな声で呟いた。
「チチンプイプイ、チチンプイ、傷よ治れ!」
すると膝が明るく光って傷が消えた。最近の僕とパーカスのブームは、魔法を掛ける時に呪文を唱える事なんだ。まぁ、パーカスは僕に付き合ってくれるだけなんだけどね。気分だ、気分。
気がつけば僕たちの周囲を街の人達が取り囲んでいて、パーカスは慌てて僕を抱き上げると人混みを掻き分けて歩き出した。少し首が赤いから、もしかして恥ずかしかったのかな。あの呪文気分が出て良いのに。
「テディ、久しぶり!王都はどうだった!?」
街の子供達がわらわらと僕らを取り囲んだ。僕はニンマリして手に持っていた布袋を振って言った。
「ちゅごいの、もっちぇきちゃ!」
僕がそう言うと、めちゃくちゃ盛り上がった。王都へは殆どの子供が行った事がないし、この辺境の地では生涯行かない獣人もいるみたいだ。だからお土産は王都っぽいものを時間を掛けて選んできたんだ。
子供達と広場に着くと、僕は地面に下ろしてもらって、手にぶら下げていた袋から4本の筒を取り出して地面に立てた。皆に手伝って貰って、周囲に土を盛って倒れない様に固定した。
僕も買ってきたものの試してはいないので、凄く楽しみなんだ。多分説明を聞いた感じでは落下傘花火っぽいんだけど。何が落ちてくるのか説明を聞いただけじゃ良く分からなかった。パーカスがお土産にはぴったりだと太鼓判を押してくれたので、これにしたんだ。
パーカスが近くの店から火種をもらってきてくれたので、僕たちは声を揃えてカウントダウンしたんだ。
「…ちゃん、にー、いち!」
パーカスが続け様に四本の筒に火を点けると、なるほど虹色のモクモクした煙が筒の先端から蛇の様に溢れ出た。それから耳をつんざく様な高い音がしたかと思ったら、何かが筒の中から飛び出して空に登って行った。
僕や周囲の子供達が呆然と見上げていると、その何かがまるでタコの様に何本もの触手を伸ばしてクルクルと回り出した。それが4つ空で回転しているので、何だか僕はゾクゾクする様な嫌な予感がした。
回転速度が遅くなると、その触手から何色もの液体が放出された。僕たちは悲鳴をあげてその落ちてくる液体から逃げ惑った。けれど僕の身体にその液体が触れた途端、それはボヨヨンとまるで弾力のある小さなボールになって跳ねた。
僕たちはさっきとはまるで逆で、今度は必死になってその跳ね飛んでいくボールを捕まえようと懸命に追いかけた。
僕は赤い3cmほどのボールがひとつしか拾えなかったけれど、大きい子供達が小さい僕らに配ってくれて青と緑、全部で三つゲット出来た。僕がパーカス達大人のところへ見せに行くと、おじさん達が笑いながら懐かしいと話していた。
「おとーたん!みちぇ!みっちゅ、いーれしょ。」
僕がそう言うと、街の人が驚いた様にパーカスと僕を見た。普段はやっぱりパーカスって呼んでいるけど、人前ではお父さんって呼ぶ事にしてるんだ。パーカスは少し恥ずかしそうに、僕を抱き上げると周囲の街の人達に正式に子供にしたのだと言った。
実際にはまだだけどね。まぁ、同じ事かな。
「テディ!見ろ、俺様は5個自分で取れたんだぞ?」
ジェシーが僕のところまで走って来て見せてくれた。僕はパーカスから降りて、広場の方にジェシーと走った。
「さっき、大人達がテディたちにおめでとうって言ってただろ?何がおめでとうなんだ?」
僕はジェシーに手を繋がれて、少々引き摺られながら息を切らして答えた。
「ハァハァ、あの、ぼく、あの…じぇちーまっちぇ…!」
ようやく止まってくれたジェシーに、僕はようやくこのビックニュースを答えることが出来た。
「ぱーかちゅ、ぼくのおとーたん、よ!おとーたん!」
気がつけばジェシーのお兄ちゃんが来ていて、ひどくびっくりした様子で僕を見つめていた。
「そうなのかい!?テディ、隠者様の子供になったんだね。おめでとう!ははは、凄いや。隠者様もこれからはお父さんしなくちゃだ!」
ジェシーは僕たちを交互に見て言った。
「いんじゃ様がテディのお父さん?ふーん、ま、だからって何も変わらないだろ?テディは俺の弟分だかんな?」
ジェシーは時々妙に鋭い気がする。ジェシーの言うとおり、この街での僕は何も変わらない。本当そうだ。前から僕はこの街で楽しく暮らしてきたんだから。僕はクスクス笑ってジェシーに抱きついた。
「じぇちー、だいちゅき!」
おいやめろよ、と言いながら、ジェシーも口元がニヤけている。丁度その時、パーカスの側にやって来た熊獣人のダグラスのおっさんが僕を呼んでいた。僕達は顔を合わせてダグラスの所へ走って行った。今度はお兄ちゃんが僕を抱っこしてくれたから楽ちんだった。ふふ。
「なんだ、テディはまた甘えてんな?王都はどうだった。今日はお前さん達が街に来たって言うからな、プレゼントを持って来たんだ。ほら、農場で生まれたばかりだぞ?」
そう言ってダグラスは土が入った小さなバケツを僕に渡した。ジェシーとお兄ちゃんと三人でそれを覗き込むと、そこには僕の手のひらサイズの、真っ白い柔らかそうな大福が転がっていた。
「あ!ミルだ!すげぇ、こんなちっせいの見るの初めてだ、俺。」
そうジェシーが言うのを聞きながら、僕は少し顔を引き攣らせていた。案の定、ダグラスがとっても悪い顔で僕にニンマリ笑うと言った。
「いや、な、ちょっとしたお礼も兼ねてるんだ。実は、うちの奥さんが身籠ってな。テディのおかげと言えばそうだからな。テディはミルが大好物だって聞いて、街まで買いにくるのも大変だと思ってな。特別にウチの血統の良いミルを分けてやろうと思ったんだ。可愛がってやってくれよ?」
…なんだか色々いっぺんに聞きすぎて整理がつかない。お兄ちゃんやパーカス、おじさん達がおめでとうとお祝いしている。
「…あかちゃん、うまれりゅの?だぐらちゅ、おめれとう!…みりゅ、ぼく、そだてりゅ?ほんちょに?…ほんちょに?みりゅ、こあい…ね。」
今ひとつ喜べない僕に、ジェシーが言った。
「は?テディ、ミルが怖いのか?なんで?こんな可愛い魔物って、ほとんど居ないぜ?叫ばないし、噛みつかないし、目がクリクリして可愛いし。」
…なるほど、かなりマシな魔物なんだね、ミルって。って、そうじゃない。僕がそれでも顔を顰めていたので、ダグラスは楽しそうに笑っていた。絶対わざとだ。ダグラスめ!