バルトsideパーカスの頼み

  テディの住む辺境の街の近くだからと魔物討伐の応援に来た訳じゃない。いや、どうだろう。率先して参加したのは確かだ。そんな邪な思いを抱えながら、王都からブレーベルの街に到着したのは、応援依頼から1日経っていた。

  到着してみると、状況は酷かった。この街は湖の伝説の魔物といい、妙に魔物の出現が続いている。何か要因があるのだろうか。一度王都の調査班を派遣した方が良いかもしれない。

  

  見知った顔がいると思ったら、あの虎獣人のロバートやらが疲れた顔で状況を説明していた。

  「…現在の討伐状況は半分という所です。領民の避難に手間取って、討伐が遅れました。怪我人も多いです。早朝に、辺境の[[rb:誉 > ほまれ]]パーカス殿に応援依頼をしました。そろそろ到着の頃と思います。

  王都から騎士団を迎えて心強いです。よろしくお願いします。」

  王国騎士団の指揮官が、全体の指揮を取ることになった。私はパーカス殿が来ると聞いて少し気が散ったものの、早速魔物が出たという街境の森の入り口へ向かった。

  「バルト殿、今回はご協力感謝します。」

  ダダ鳥に乗ったロバートが、後ろから私のダダ鳥に駆け寄って来た。

  「ブレーベルの騎士団は強者揃いではなかったか?魔物の数が多いのか?」

  私がそう尋ねると、ロバートは顔を顰めて頷いた。

  「数もそうですが、大型魔物が数頭居るのが問題なのです。あれは魔剣でないと致命傷を負わせるのは難しいです。魔剣を扱える者がことごとく負傷してしまって、困っていたのです。」

  「君は魔剣が使えないのか?意外だな。」

  私が並走しながらそう言うと、少し嫌そうな顔をしながらロバートは言った。

  「…修行中です。近々パーカス殿の指導を受ける所でした。」

  そうこうしているうちに魔物の血の匂いがして来た。魔物は共食いをするので、仲間が殺されて逃げるどころか集まってくるのでタチが悪い。私達竜人を含む王国騎士団も魔剣を構えて、魔物が集まっている場所へ向かって行った。

  大型魔物を魔剣を扱う騎士達と取り囲んで、少しづつ切り刻んでいると、不意にパーカス殿が現れて、眩い白い光を魔剣から放ってトドメを刺した。

  「パーカス殿!」

  疲れの見えるブレーベルの街の騎士団も、我々も正直ホッとした。それくらいパーカス殿の武勇伝は事欠かなかった。パーカス殿は我々をチラリと見ると、首を傾げて言った。

  「さっさとやるぞ。まだあちらに大物が控えておるからの。」

  それから我々は、終わりのない魔物討伐に汗を流した。疲れた頃に現れるのが一番の大型魔物というのは世の常なのか、大きいのに俊敏で、しかも触手まで有している魔獣の手強さに、我々も思わず息を呑んだ。

  魔剣を操る王国騎士らがメインで魔獣を切り刻むも、中々致命傷を与えられなかった。その時パーカス殿が一瞬気を散らしたのが見えた。ハッとする間もなく、魔獣がパーカス殿の背中に鋭い爪を立てた様に見えた。我々は魔獣が気を逸らしている隙に魔剣でようやくトドメを刺した。

  結果的に囮の様な形になったパーカス殿は、身をかわしたものの避けきれなかった様で、背中に血が滲んでいた。

  「パーカス殿!大丈夫ですか!気を散らすなど、一体どうされたのですか!?」

  魔物討伐がほぼ片付いたのを確認すると、私はパーカス殿に肩を貸して仮設の討伐基地へと連れ出した。

  「…バルト、頼みがあるのじゃが、頼まれてくれるか。」

  私がパーカス殿の顔を見ると、見たことのない強張った顔をしていた。思わず立ち止まると、パーカス殿は身体を動かして顔を顰めた。

  「パーカス殿!無理をなさってはいけません!頼み事とは何ですか!?」

  

  私は空を駆けていた。討伐で疲れた身体を感じながらも嫌な予感でいっぱいだった。パーカス殿のあの恐怖で強張った表情が深刻さを告げていたからだ。

  『私はテディを家に置いて来たのじゃ。理由があったのでな。じゃが、今になって後悔している。テディに刻み込んだ赤い魔石の反応が弱くなっている。身体に異変が生じたという事じゃ。家には居るようじゃが、何かテディの身に起きたのは間違いない。済まぬが見て来てくれぬか。

  …テディは今、変幻しておる。長老の薬でな。それが連れてこなかった理由じゃ。バルト、あの夜にお主も見たのじゃろう?…私はこの怪我では直ぐには飛べぬ。早急に治療してテディの所へ行くつもりだ。じゃが頼む、万が一の時はテディを助けてやってくれ。』

  どれくらい経っただろう。必死になって飛べばそこまで時は掛からないはずだ。幾つか山を超えて、三度目になるパーカス殿の住まいが前方に捉えられた。

  気が焦った私は、柵にぶつかる勢いで地面に降り立った。玄関は開いていて、屋敷の中に入るとテラスに面した部屋のソファの上に、あの時の青年が横たわって居るのを目にした。

  パーカス殿から聞いていたとはいえ、目の当たりにすると何だか信じられない。あの時よりも短い髪を垂らして居るテディに慌てて駆け寄った。

  …意識がない。私の心臓は嫌な音を立てて不規則に波打った。ぐったりとした大人びたテディは、冷たい汗をかいて青ざめている。息はあったのでほっとしたけれど、体温も低い様だった。

  上半身がなぜか裸だったので、側にあった掛け物で包もうと抱き上げた時、肩に吸虫球がへばりついて居るのに気がついた。時間が経って居る様で4cmほどで黒光りしている。

  私は唖然として眉を顰めた。吸虫球は魔物に取り付いて魔物の魔素をじわじわ吸い取る寄生虫だが、竜人や獣人に取り付くなどと聞いたことがない。なぜテディに取り付いているのだろう。

  ぐったりしているのは明らかにこの吸虫球のせいなのが分かったけれど、これを剥ぎ取るにはナイフで抉るしかない。魔物相手だったらそれも可能だが、テディにそうする訳にはいかない。下手な事をしたら致命傷になりかねない。

  私は焦りながら、吸虫球の生態を記憶から探し出そうと必死になった。こんな時にパーカス殿がいたら…!ふと、私は玄関の側に見かけたアレを思い出した。この厄介な吸虫球は、より魔素の多い魔物へと宿主を変えて移動すると聞いたことがある。

  

  ダメ元であの魔物を使ってみよう。私はテディを腕に抱き上げると、庭で育てているであろうミルの所まで急ぎ走った。ミルはこんな見掛けで、魔素含有量がかなり高い。

  まだ成長過程にあるミルに乗り移ってくれるか疑問だが、一か八かやってみるしかない。私はミルの側の地面にテディを横向きで寝かせた。私はテディの白い肌に食い込む黒く光る吸虫球を見つめながら、ミルにテディの肩をくっ付けた。

  どうかテディを救ってくれと、祈る気持ちで息を凝らした。