ありったけの愛をキミに!【短編まとめ】

  べったーとかに上げていた短編や差し上げものをまとめたの

  以下の要素を含みます

  ◇べったーとかに上げてて、カッとなって書いたり差し上げたものをまとめてます

  ◆カプはタケミチ受けかタケミチ愛され

  ◇獣人化・幼児化・年齢操作・クロスオーバー・パロ・モフフサとなんでもありな人向け

  一応カプごとにページ分けしてある!

  タケミチ愛され P.2

  ◇ハッピーハッピーハロウィン!

  ぱずりべの半ズボンみっちにカッとなって書いた

  ◆ハロウィンの後は……

  上の続き おさななほのぼの 差し上げもの

  ◇節分について理解しよう

  題名どおり節分ネタ 差し上げもの

  ◆人誑しホイホイとはアイツのこと!

  大人みっち×他子供でタケミチ愛され

  初代と同年代の年齢操作有り

  溝タケ P.3

  ◇オレらはいつも全力クオリティー

  文化祭バンドネタ 差し上げもの

  初代BD P.4

  ◇お気に入りの可愛いあの子

  ショタみっちが初代に気に入られる 差し上げもの

  イヌ武 P.5

  ◇妖犬×俺SS

  いぬぼくパロ SSイヌピーと先祖返りみっち 差し上げもの

  ドラ武 P.6

  ◇友人も呆れるレベルで惚れている

  龍神様なドラケンと生贄からレベルアップした番なみっち 差し上げもの

  灰武 P.7

  ◇灰谷兄弟の病弱弟

  年齢操作有りの兄弟ネタ みっちがショタ

  ◆さんにんいっしょ!

  ショタな猫獣人みっちとなんだかんだメロメロな灰谷兄弟 差し上げもの

  蘭武 P.8

  ◇病弱とは程遠い

  ついったで呟いてたネタ 書き下ろし

  クロスオーバー P.9

  ◇とある日常にあったもの

  呪術とリベのクロスオーバー 年代近いと聞いて書いた 差し上げもの

  イザ武 P.10

  ◇制服デート

  ぱずりべでイザナの制服にカッとなって書いた

  ◆小さな幸せ、共にある喜び

  年末年始にいちゃつくイザ武 お気遣いの紳士な鶴蝶を添えて 差し上げもの

  ◇蜜月は隙間でも作るもの!

  新婚なイザ武 いちゃいちゃはさせねぇぞなメンツを添えて 差し上げもの

  犬の気持ち P.11

  ◇新たな年を迎えて

  初めての餅つき 差し上げもの

  ◆本能には逆らえない!

  雪遊び+霜焼け 差し上げもの

  モフフサ P.12

  ◇血で血を洗う争奪戦だった

  ポメガバースのように疲れたらモフフサになる世界 書き下ろし

  ◆ちょっとした春の風物詩

  一人一匹モフフサが物理的に出てくる世界 モフフサは素直 差し上げもの

  今までのにコメント・スタンプやいいねにタグなどなどありがとうございます

  フォローもありがとうございます

  著作権は放棄していません

  この作品を含め、無断転載禁止・AI学習禁止です

  [newpage]

  タケミチ愛され

  ハッピーハッピーハロウィン!

  「ハロウィンか……仮装どうするあっくん」

  「東卍全員でやるのに有り合わせはなぁ……」

  「そうだ!」

  東卍でハロウィンをやることになったが、ハロウィンで一番悩ましいのは仮装衣装である。中途半端では笑われる。だが本格的にやるとなると金はかかる問題。

  そこで思いついた武道達が向かった場所、それは……。

  「で、オレのところってワケか」

  「ハイッ!」

  「めちゃくちゃいい笑顔すんな……」

  「三ツ谷くんくらいしか頼れる人いねぇなって……な、あっくん」

  「そうなんスよ……でも……」

  敦が言い淀むのも無理はない。三ツ谷の周りには大量の布、布、布……。色とりどりの布が囲んでいる。どうやら考えることは皆一緒のようだ。

  「考えることは一緒……かぁ」

  「仕方ねぇよタケミチ、三ツ谷くんだもんな」

  しょんぼりする二人。その姿に三ツ谷の心が痛む。どうせならツラの皮が厚い同年よりも、このしょんぼりする可愛い後輩を優先したい。

  「なぁ、オレが全部決めて文句ねェなら作るぞ」

  「ほんとっスか!」

  「や、でも三ツ谷くん大変じゃ……」

  「いいんだよ。マイキーには赤ずきんとか作っておきゃいいだろ」

  天下の総長様の扱い、実に雑。マイキーの不貞腐れた顔が浮かぶ。

  「よし、それなら早速作るぞ!」

  二人が遠慮しようとしたが三ツ谷が勢いで押し切った。

  特攻服でサイズを取っているので、ガサガサとスケッチブックにデザインを描き込んでいく。そのスピードはさっきまでノロノロ作業していた三ツ谷とは思えないスピード。

  「できた」

  「早えぇぇ……」

  「コレって」

  「モチーフはヘンゼルとグレーテル。タケミっちがグレーテルであっくんがヘンゼルな」

  グレーテルと言えばヘンゼルの妹。性別も女になるが、描かれている絵はスカートではない。

  「流石にスカートは可哀想だからな」

  なんて言いつつも、総長にスカートを履かすのはこの男である。実にいい笑顔。

  武道の裾などをフリルにしてグレーテルらしくしている。七分丈と短パンだがどちらもハロウィンらしい色合い。

  「三ツ谷くん、コレは?」

  「ソックスガーター」

  「そっくす?」

  「がーたー?」

  「靴下が落ちてこねェようにするもんって言ったらわかるか?」

  「なるほど……?」

  なくても問題ないが、見栄え的な意味で三ツ谷が入れた。決して、ヲタクを殺すためではない。

  「できたら連絡すっから。そしたら取りに来いよ」

  「あざっす!」

  「お願いします!」

  ウキウキと作りたい服が作れることになった三ツ谷と仮装衣装が欲しい二人の意見が合致した結果である。

  ◇◆◇

  後日、武道達が仮装衣装を取りに行くとそこには赤ずきんの格好をして不貞腐れているマイキーとゲラゲラ笑う場地、そしてひっそり写真を撮る春千夜がいた。

  「わ〜……マイキーくん、可愛いっスね」

  「タケミっち〜? 何だって〜?」

  「あででで!!」

  座ってヤンキー座りしていたかと思うと、直ぐ様武道にアイアンクローを食らわせる。だが格好のせいで怖さは半減……いや、変な迫力はある。

  「マイキー、変に絡むな。ほら、着替えてこいよ」

  「三ツ谷! 何でスカートなんだよ!」

  「何でもいいって言ったろ?」

  「そうだけどそうじゃねェー!!」

  マイキーと三ツ谷のやり取りを後ろにそそくさと着替えに行く。途中、どうやって着るのかわからなかったが、先に着替え終わった敦が手伝ってくれることで事なきを得る。

  「ずっりぃ!!」

  着替え終わった武道に向かってマイキーが放った一言。確かに手が込んでいる。敦はシンプルな分、小道具に力が入っている。

  「結構細かい所にフリル入ってるっスね!」

  「タケミチ、オマエ短パン似合うな!」

  「何かやたら履かされるから慣れた」

  「慣れんなよ……」

  精神年齢は既にいい年齢なのに、嫌な慣れである。マイキーと三ツ谷は未だに言い合い、敦は場地と話しているとスススッと春千夜が近寄ってきた。

  「どうしたんスか春千夜くん?」

  「写真……」

  「あ、一緒に撮る?」

  コクリと静かに頷く春千夜。にこにこと武道は春千夜に近寄り、そのままパシャリとツーショットを撮る。

  「どう?」

  「いい感じ」

  「よかった!」

  「タケミチ、そこ立ってろ」

  そしてそのままパシャパシャと写真を連写する。撮り終わり写真を見返す春千夜の顔は満足そう。

  「何抜け駆けしてんだよ!」

  場地と敦も合流し、その後マイキーと三ツ谷もなだれ込んできた。そうしてそのまま撮影会になったのはハロウィン数日前のことである。

  ─────────────────────

  ハロウィンの後は……

  何故かお菓子争奪戦になったハロウィンも終わり、佐野家に訪れた武道。最近まで比較的暖かかったのに、急激な寒さに身体が追いつかない。玄関から家に入ると昔ながらの家のため、廊下は暖かくない。

  「こーんにちはー」

  「いつもんとこー!!」

  「はーい」

  部屋に行く前に手洗いうがいをしっかりする。春千夜が居たらまたネチネチと言われてしまう。ずぼらな武道を見た時の春千夜は、前の世界線を彷彿とさせるくらい口が悪い。

  「あ、みんな居た」

  部屋に入ると真ん中には炬燵。そこには幼馴染達がぬくぬくと暖を取っていた。場地に至っては大口開けて爆睡。何ともまぁ幸せそうな顔、どんな夢を見ているのやら。

  「あれ? あっくんはどうしたタケミっち」

  「一虎くんと三ツ谷くんに連行されちゃって」

  「連行?」

  「クリスマスライブがどうのって言ってたからバンドのかな?」

  「あー……そういやバンドやってたな」

  上着や荷物を置いていそいそと炬燵に入る。中は既に暖かく、外で冷えた身体にとても暖かい。

  普段ならマイキーの部屋に集まるが、寒くなるとだいたい日中はこの部屋。炬燵で暖を取りながらとりとめのない話をする。

  炬燵の上にあるみかんを取り、剥いていると春千夜が無言で横に来た。

  こういうとこ猫みたいだよな……と常々武道は思う。場地は寝ているし、マイキーと武道だけだからかいつもよりだいぶ甘えたに見える。

  「そういえば結局マイキーくん赤ずきんじゃなかったね」

  「東卍の総長が女装なんて変な噂立つだろ」

  「……確かに」

  「ケンチンの後押しもあって回避できたってワケ」

  顔は可愛い系のマイキー。似合っていたと言うと拗ねるので心の中に留めておく。

  だが、総長が女装してハロウィンを楽しんでいた……そんな噂が広まったら、相手にも身内にも笑われるのも余裕で想像できた。筆頭はイザナだろうか。

  「だから牧師? みたいな格好?」

  「ヴァンパイアハンターな」

  「ドラケンくんはミイラだっけ?」

  「そうそう」

  「……関係性ないな」

  みんなそれぞれ用意して参戦していたハロウィン。三ツ谷印の服もあれば、買ってきてリメイクした者もいた。大半は三ツ谷が作っていたような気がする。今日もバンドで集まっているし、仕事しすぎである。将来が心配。

  それにしてもとハロウィン当日を思い出しながら、剥いたみかんを春千夜の口元へ持っていく。

  いつの間にか武道の膝上で寝ていた春千夜は無言でみかんを食べた。完全にその姿は猫。

  「なんでお菓子争奪戦に?」

  「ん? そういうのがあったほうがおもしれーじゃん」

  「そう……か?」

  「そう! それにしてもタケミっち、まさか途中で菓子を転々と落とすとか童話まんまだったな!」

  「アレは仕方なくない?」

  武道の持っていたカボチャ型の入れ物。中にお菓子を入れていたがいつの間にか穴が空いており、転々と道にお菓子を落としていた。

  途中で千堂が気づいてくれたお陰で無事に回収できたが、周りの人からリアルヘンゼルとグレーテルなんて言われて赤面したのも思い出す。

  微笑ましく周りは見てくれていたが、やってしまった本人はただ恥ずかしさしかない。

  「結局、結果は春千夜くんの圧倒的勝利で終わってたよね」

  「……みんな雑魚なんだよ」

  「また口悪くなってるよ」

  「……」

  最終的に春千夜が巻き上げた菓子もマイキーに献上された。マイキーも春千夜も大変嬉しそうだったので何も言うまい。

  目を瞑っていたので寝てたと思われた春千夜だったがどうやら起きていたらしい。ボソリと口悪く言うが武道が嗜めると、腹に顔を埋めて本格的に寝る体勢になってしまった。拗ねも入っている。

  手を拭いてからよしよしと頭を撫でてやると、そのまま穏やかな寝息。

  「十一月はなーんにもなかったからなぁ〜」

  「イベントはなかったけど族二つ潰したでしょ」

  「イベントと抗争は別!」

  「そんな別腹みたいな……」

  自分達は一応暴走族であり、抗争がどちらかというとメインである。だが最近は黒龍・天竺を吸収したため、イベントで遊ぶ比率が高くなっているのもある。

  「十二月はクリスマスだろ! そしたらバイクをソリに見立てて、オレらはサンタかトナカイの格好してプレゼント配るってのは!」

  「一部嫌がりそうな人達居そうだなぁ……」

  武道の脳裏に浮かぶイザナと大寿の顔。乾は何か喜んでやりそうだが、九井も大寿と同じく嫌な顔しそう。

  イザナがやるならと斑目とか望月、武藤はやりそう。鶴蝶は逆に楽しそうだな! ってノリノリ。灰谷兄弟は変な方向にぶっ飛んでそうなところまで想像できた。

  「やる! 総長命令!」

  「そう言えば従うと?」

  「そうだろ? タケミっちは総長代理だからな!」

  「……仕方ないなぁ」

  何だかんだでマイキーのやることに乗っかるのが東卍。その筆頭が武道何だと言われたら仕方ない。

  だが今はこの暖かい部屋で、幼馴染達の寝息を聞きながらコソコソと作戦会議をするのであった。

  ─────────────────────

  節分について理解しよう

  「この時期になると恵方巻きのポスターよく見かけるよな」

  「あ~……節分が近いっスもんね」

  集会が始まる前、一虎を含めた溝中に通う面子が集まって話していると恵方巻きの話題が飛び出した。二月の最初の週は節分があるからか、スーパーやコンビニなどでよくポスターを見かけるものだ。

  「なんだっけ、決められた方角向いて黙って食うんだっけ?」

  「アレ? 一虎くん食ったことない?」

  「ねェな」

  家庭に難があるため、そういった行事は学校か東卍のみんなで行うことしかしたことがない。もしかしたら一虎以外にもそういった行事をしたことがないヤツはいるかもしれない。

  「じゃあ、今年はみんなで食ってみます?」

  「でも金かかんだろ?」

  「鉄太かココくんに相談して、自分達で作れば比較的抑えられんじゃないかな?」

  武道の提案に千堂も乗っかり、他の面子もいいじゃんいいじゃんと楽しげ。武道もノリノリでマイキーくんに聞いてくる! と既に駆け出していた。

  ◇◆◇

  溝中の面々により企画された節分イベント。恵方巻きを食べるだけじゃ物足りねぇだろとついでに豆まきも企画された。

  始めはまく側と鬼側に分かれようとしたが難航。そのため全員がまく側であり鬼側となった。この時点でヤバイ気配。

  「みんな豆持ったなー!」

  総長の号令に野太い声が返ってくる。よーい、始め! という号令と共に豆まきが始まった。

  「いてっ」

  互いにぶつけぶつけられ、本来の豆まきとは? と思うがこれが東卍なりの豆まきったら豆まきである。武道も誰にぶつけようと思っていたら、背中にビシビシッと投げられ振り向くとイザナの姿。

  「イ、イザナ……?」

  瞳孔が開き、無言で投げるその姿はただ恐怖でしかない。武道の問いかけには答えず、無言で豆を投げてくる。

  「あだだだっ!」

  全力で投げられるといくら小さくても痛い。こりゃたまらんと逃げるが武道一択で追いかけてくるし、逃げる先々で面々から豆を投げられ、最終的に武道対全員の構図。

  「タケミっちの反応がいいんだよなァ〜ついつい投げちまう」

  「しかしそろそろ助けてやんねェとカワイソウじゃね?」

  「仕方ねェからいくかー」

  そう話していたのは少し飽きて離脱していた総長のマイキーと副総長のドラケン。二人の視線の先では半泣きで逃げる武道。良い反応を返す武道だから仕方ないが、流石に一対多数は不利である。特攻服を翻しながら総長・副総長コンビが参戦した。

  ◇

  結局最後は拳や蹴りが飛び交う豆まきになったので強制終了。不服そうな面々もいるが、本来の目的であった恵方巻きを食すこととなった。

  恵方巻きといえばその年の恵方を向いて食べる行事。無言で頬張りながら食べると願いが叶うという、日本独自の食文化・風習。

  切られていない太巻き寿司を頬張るわけなのだが、普段食べ慣れていない者はどうなるか……。

  「んっ……ふぅぅ」

  口に入り切らず、本人は必死だろうがナニを頬張ってるように聞こえるだろう。実際はただの太巻き寿司。

  だが周りは思春期真っ只中の少年達ばかり。思わず黙って見てしまうのも仕方ない……のか?

  「んっ……タケミっちさぁ」

  誰よりも早く食べ終えたマイキーが未だ太巻きと格闘している武道に声をかける。

  なお武道本人はまだ頬張っているため声は出せないため、表情から察するしかできない。けれど表情は豊かなので大変わかりやすい。

  「食い方エロくね?」

  ズバリと誰も言えなかったことを本人に伝えるマイキークオリティ。近くで食べていたドラケンからふぐっと何か詰まるような音。

  言われた武道本人はきょとんとしている。

  「なんで喘ぎながら食ってんの?」

  「!!」

  「あー……まぁ、そう聞こえなくない、か?」

  「!?」

  他の食べ終わった面子からもまさかの同意発言に目を白黒させる。プルプルと顔を真っ赤にして震えているが逆効果である。

  「代理カワイーじゃん?」

  「タケミチ、早く食ったほうがいいんじゃねェか?」

  悪魔(蘭)と天使(鶴蝶)も現れた。よく見てみると周りも食べ終わっている面子がかなりいる。鶴蝶の言う通り早く食べた方が、揶揄われたり見られることも少なくなる。

  だが、他の面子に比べて口が小さい分そこまで頬張れないのが仇となり、結局周りに見守られながら(一部からかいながら)食べるハメになった。

  「節分……って、こんなんでしたっけ?」

  「アレはタケミっちが悪いなー」

  「えっ」

  「アレは相棒だから仕方ねェ」

  「え!?」

  節分の後日、そう言うのはある意味大人気だった武道。だがそれに対して武道が悪いと言うのは八戒と千冬。

  武道は驚愕し、何が悪かったのかと疑問符を浮かべるが答えは出ない。

  答えとしては、何だかんだ絡もうとしたが照れ隠しが強い者、天邪鬼になってしまう者などに絡まれたから。

  その結果として、豆は投げられまくるし食い方にニヤニヤされたのである。武道は悪くないが、素直じゃないヤツが多い。ある意味、気に入られてるからこそである。

  ─────────────────────

  人誑しホイホイとはアイツのこと!

  花垣武道、黒龍所属のモブ隊員……と本人は思っているが、そんな風に思っているのは本人ばかり。総長や副総長とは幼馴染、親衛隊隊長や特攻隊隊長にも気に入られている。

  オレ喧嘩弱いから幹部とか無理! と駄々こねて役職には就いていない。確かに喧嘩は弱いがどことなく真一郎に似たカリスマがあり、平の隊員の話を聞いたり困ったことは上げてくれたりと親しみやすい隠れ幹部みたいな扱い。一部では裏総長なんて呼ばれている。

  武臣曰く、真一郎と似た天性の人誑しと言っているが、真一郎は同年代が憧れる男に対し、武道は年下に好かれる男だと発覚したのはここ最近。

  始めは真一郎の弟、万次郎とその幼馴染だっただろうか。

  「タケミっちー!」

  佐野家に遊びに来た武道にあだ名を呼びながら万次郎が抱きつく。それに続くように圭介と春千夜も便乗するように抱きついていた。

  「遊ぼーぜタケミっち!」

  「わっ! マイキーくんまた重くなったね!」

  「つーかまたボコボコになってんじゃんタケミチ」

  「名誉の勲章って言って圭介くん」

  「タケミチさん、これ絆創膏……」

  「春千夜くんありがとう!」

  一人一人丁寧に対応し、かつ年下だからと舐めた態度を取らない。万次郎は赤ん坊の頃から武道に可愛がられているが、圭介は殴られても倒れない武道の姿に、春千夜は武臣のことで真剣に向き合ってくれたことがキッカケだっただろうか。圭介も春千夜も始めはツンツンの猫だったが、今やその面影はない。

  「タケミチのヤツ、年下キラーだよな」

  「アイツ、この間も別のヤツ引っかけてたぞ」

  「マジか」

  一連の流れを見ていた真一郎と武臣。ついこの間、別のちびっ子に絡まれている武道をみた武臣はその時を思い返しながら話し始めた。

  ◇◆◇

  夕方の時間帯。学校をサボり、集会まで暇だなとブラブラ歩いていた時だっただろうか。向かい側の歩道で幼馴染の武道を見つけた。声をかけようと思ったが、武道以外に小さい人影が二つ。

  「タケミチくん、今度黒龍の集会連れてってよ」

  「うーん……イヌピーくんまだ小学生だから流石にソレは」

  「赤音さんに怒られるぞ」

  「でもココも気になるだろ」

  「そりゃ……まぁ……」

  「もう少し大きくなったらかなぁ」

  「……」

  「めっちゃむくれてるな」

  「頬がぱんぱんだね」

  また今度、とやたら顔が綺麗なイヌピーと呼ばれたガキの頭を撫でる姿。撫でられている側は嬉しそうで犬のよう。

  もう片方のココと呼ばれたガキはジッと武道を見つめているが、それがバレて空いていたもう片方の手で撫でられた。ビクリと一瞬肩が跳ねていたが、そのまま大人しく撫でられている姿は猫のよう。

  アイツ……動物にも好かれるもんな……とその日は声をかけずに去ったが、また後日に別の光景を目にする。

  ◇

  その日は抗争も終わった深夜に近い時間。解散したが腹が減ったのでスーパーに寄って出たところ、やたらと顔の綺麗なガキ二人に絡まれている武道を見つけた。

  少し距離はあるが声は聞こえる。片方は頭の上で団子にしキューピー人形みたいに見える。背の高い方は三つ編みで女かと思ったが、どうやら男のようだ。紛らわしい。

  「まぁたボコボコになってんじゃん」

  「タケミチ弱ェもんな」

  「蘭くんと竜胆くん! こんな遅い時間に何してんのさ?」

  「家に居ても……ナ?」

  この時間に外に居る時点でロクな親ではないのだろうと察せる。もしかしたらこの兄弟は慕っている武道を探していたのかもしれない。

  「なー今日もタケミチんち行ってもいー?」

  「いいよ、母さんも二人が来たら喜ぶだろうし」

  「じゃあそれまでオレらが守ってやるよ」

  「オレと兄ちゃん強いからな!」

  「確かにオレより強いもんなぁ」

  武道も二人の事情がわかっているのか、深く詮索せずニコニコと笑って普通に対応している。こういうところが好かれる要因の一つだろう。

  武道は蘭と呼ばれた兄の背に手をあてて、竜胆と呼ばれる弟と手を繋ぎながら家へと向かう姿を武臣は見送った。生意気そうな兄弟も満更でもなさそうで、武道にピッタリとくっついているのが印象的だった。

  ◇◆◇

  「そんなに年下ホイホイしてんのかよタケミチ……」

  「他にも頭の側面に入れ墨入れてるガキとか、体格いいサメみてェな顔のヤツとか、妹二人連れたヤツ、ハーフっぽい銀髪と傷が凄いガキも見たな」

  「オイオイ、それ全部把握したらえげつない数が出てきそうだな……」

  未だ、万次郎含めたちびっ子達に絡まれている武道を見る真一郎と武臣。オレ以上の人誑しじゃね? とポツリと真一郎が呟くが、既にその人誑しに誑されている筆頭二人だった。

  なお、武道達が二十歳をとうに過ぎてもつるんでいるし、ちびっ子達も大きくなっても武道にまとわりついているので抜けられない沼のようなものである。

  [newpage]

  溝タケ

  オレらはいつも全力クオリティー

  「さて、学生最後の文化祭どうする?」

  ゲンドウポーズの山岸がいつもの面子に問いかける。はしゃいでいた他の面々はピタリと止まり、山岸へと一気に視線が集中した。

  「そっか、今年で最後だもんな」

  「ってもな〜」

  「バカ野郎! せっかくなら最後は飾りたいだろ!」

  「打ち上げ花火みたいに?」

  「散ってんじゃねぇか!」

  「思い出作りだよ、思い出作り!」

  思い出か〜とそれぞれ考え始める。暴走族やったり、なんだかんだと青春しているのだ。やるならば全力でということで意見を色々と出していく。

  「文化祭つったら女装とか?」

  「ただするだけじゃつまらなくね?」

  「んじゃコンテスト出る」

  「オレらじゃ優勝狙えねぇだろ」

  「いや、タクヤならいけんじゃね?」

  「みんなで楽しめるヤツにしようぜ」

  「なぁ……バンドは?」

  それだ!! と満場一致。幸いにも敦がバンドを組んでいるので、そのメンバーからもアドバイス貰えるだろう。だがそれだけじゃつまらねぇ! と声を上げたのはマコトである。

  「どうせならインパクトもねぇと!」

  「例えば?」

  「女装しながらバンドするとか?」

  「情報過多じゃん!」

  「それはそれで面白そうだね」

  「タクヤ本気!?」

  あれよあれよと決定したのは女装バンドである。残念ながら溝中五人衆は面白いこと大好きなので仕方ない。

  敦のバンドメンバーである三ツ谷・一虎・アングリーも協力的で、練習だったりの面倒も見てくれた。その際に女装することを伝えたら三ツ谷が全面協力してくれるとのこと。

  「オレ監修だから中途半端は許さねェから」

  そう言ってにっこり笑う三ツ谷の後ろには般若か鬼が見えたとか。

  ◇◆◇

  文化祭当日、大きめのステージの前には人が大勢いた。その中には東卍の面々も紛れている。

  「タケミっち達がバンドなぁ……」

  「三ツ谷監修だったんだろ?」

  「正しくはバンド組んでるオレら監修、な」

  「オレも手伝ったけど面白いもんに仕上がってるぜ」

  「楽しみにしててね!」

  武道達に関わっていた面子は楽しげに告げる。マイキーは少し面白くなさそうだったか、ステージの司会が次の出場者を告げる。

  「お次は溝中五人衆によるバンド演奏です!」

  「アイツら名前まんまじゃん」

  「まぁよく言ってるもんな」

  袖からゾロゾロ出てきたのはパッと見は女の子。ゴスロリやロリータの格好に身を包んでおり、見慣れた面々は何度も見返してしまう。

  一列に並ぶと静かにお辞儀。本当に武道達なのか化粧や服飾でわかりづらい。

  「どうもー! 溝中五人衆でっす!」

  しかし出てきたのは野太い声。今まで静々していたのはなんだったのか、中身はただの男子中学生。

  「オレら見て女の子って思ったヤツ……残念だったな! オレら生えてるから!!」

  「可愛い格好して生えてるって言うのどうなの?」

  「脳みそバグるな」

  「でもそれが狙いだろ?」

  「それもそう」

  会場そっちのけで盛り上がる五人。司会もこのままではいけないと正気に戻る。

  「えっと、クオリティー凄いっスね!」

  「いやぁ……生産者がね……」

  「中途半端許さねぇってスタンド出して言うから」

  「あー……」

  司会が袖を見て何やら納得している。武道達から見て袖には準備を手伝ってくれた三ツ谷。後方生産者面をしていた。間違ってはいない。

  「ま、可愛いだけじゃねぇから」

  「見た目だけじゃねぇ、中身も凄いぞ〜」

  敦とマコトがそれぞれスタンバイしながら話す。

  「めちゃくちゃ練習したしな」

  「しごかれまくったもんな〜」

  タクヤと山岸もそれぞれの位置についた。

  「ビビんなよ? 盛り上がっていこうぜ!!」

  武道のエレキギターから音が鳴り響いた。それを皮切りに溝中五人衆のライブが始まった。

  見た目は可憐な女子、黙っていれば引っ掛けられそうなくらいレベルは高いだろう。

  だがその姿とは裏腹に、力強い声と圧倒的な技術力を魅せつける。見てる側は脳みそが混乱すること間違いないが、その日の文化祭で溝中五人衆はバンドとして名を挙げることとなった。

  ◇◆◇

  文化祭のバンドは大成功に終わり、学内からも声をよくかけられるようになった五人。思い出作りのバンドはとても楽しく、五人は文化祭っきりでバンドを終わるつもりで満々だった。

  「なぁ、またバンドやるよな?」

  「またやってくれよ」

  「オレ、ちょっと変な道開そ……」

  一部おかしい発言もあるが概ね講評。そのためバンドは続けることにしたが、ただ一つ欠点がある。

  「バンドはいい、バンドはいいんだけど女装必須は解除して欲しい!!」

  「誰だよ女装しよう言ったの!」

  「タクヤやあっくんじゃないよな?」

  「タケミチでもねぇよな?」

  「山岸……?」

  「違うマコト!」

  「スマン! オレだ!!」

  女装バンドとして歩み始めたが、わちゃわちゃと楽しそう。女装解除はいつになるかわからないが、まだ暫くは楽しげにバンド活動をするようである。

  [newpage]

  初代BD

  お気に入りの可愛いあの子

  「〜♪」

  ご機嫌な鼻歌が店内に響く。何だかんだつるんでいる連中は、今日も真一郎の店に遊びに来ていた。ここ最近、上機嫌で鼻歌を歌っていることが多い。

  「真ちゃん最近ご機嫌じゃね?」

  「そんないいことあったのか?」

  「あ〜……」

  ワカとベンケイはサッパリだが、どうやら武臣は心当たりがあるようで少し苦い顔をしている。吐けよオラと詰め寄るが、頑なに口を開かない。

  疚しいことがあるか、それともプライドが邪魔して言えないのか……大方両方だろう。こうなってくると真一郎本人に聞くしかない。

  「真ちゃん、何で最近ご機嫌なの?」

  「おっ? そうか〜?」

  「気持ちワリィくらいご機嫌だな……」

  ゆるゆると顔は緩んでいる。どちらかと言うとデレデレと言ったところだろうか。ベンケイは少し引いてるが、それも気にせず聞くのがワカだった。

  「新しい部品?」

  「うんにゃ」

  「じゃあ契約先」

  「それもちげぇなぁ」

  「んー……兄弟関連?」

  「正解!」

  だろうな、と納得。なんだかんだで年の離れた弟である万次郎もだし、引き取った妹のエマも可愛がっている。だがそれは前からのことだ。

  「万次郎の友達にタケミチって子がいるんだけどよ」

  「オレ、ガキ苦手だからわかんねェ……ベンケイ知ってる?」

  「イヤ……」

  「黒髪で目ン玉ビー玉みてェに綺麗なヤツなんだけど、ソイツが素直で可愛くってな!」

  「万次郎より?」

  「万次郎のヤツ、最近反抗期みてェで……」

  さっきまでのニコニコはどこへやら、急にしょんぼりとテンションが下がった。真一郎の場合、可愛い可愛いと構いすぎているから仕方ない。エマですら嫌がられているのをワカ達も見ている。恐らくそんな真一郎ですら受け入れてくれる万次郎の友人が可愛いのだろう。

  「へ〜……真ちゃんが言うなら相当じゃん。会えねェの?」

  「今日万次郎と店に寄るって言ってたな!」

  「フーン」

  あんま煩かったら絞めるか……なんて物騒なことを考えているとはつゆ知らず、真一郎はウキウキしているし武臣は気まずそうにしていた。

  ◇

  「真一郎いるー?」

  「こんにちはー!」

  のんびりとした万次郎の声と元気に挨拶をする聞いたことがない声。真一郎が話していた武道だろう。

  「お! いるぞー」

  「真一郎なんか飲みもんちょーだい」

  「コーラあるぞ」

  「ラッキー」

  「あ! マイキーくん!!」

  挨拶もそこそこに冷蔵庫へと向かう万次郎。途中、ワカとベンケーじゃんなんて気軽に挨拶していく。相変わらずクソ生意気だな……なんて思うが、アレぐらいの年頃ならそんなもんかと怒りを抑える。

  「もー!」

  「タケミチも飲んできていいぞ?」

  「真一郎くん、マイキーくん甘やかし過ぎちゃダメっスよ」

  「チョコもあるけど?」

  「いいんスか!」

  チョロい。チョロすぎる……コロッと手のひらで転がされている素直さにワカもベンケイも笑いを堪える。

  「あっ、こんにちは! 武臣くんも!」

  「コンニチハ」

  「元気だな」

  「……おぅ」

  「えへへっ、それだけが取り柄っスから!」

  冷蔵庫へ向かうにはワカとベンケイと前を通らなければならないが、キチンと止まって挨拶する姿は好感が持てる。笑う顔も確かに素直で可愛い。武臣は変わらず気まずそうに視線を合わせない。

  「タケミチに紹介してなかったよな? ワカとベンケイだ」

  「ワカくんとベンケイくん!」

  メンテナンスを一区切りした真一郎が近寄ってくる。綺麗にした手で武道の頭を真一郎が撫でてやるとわひゃーなんて言いながら喜んでいる。どっかで見たことあるなと思い返していると、近所のコーギーの花ちゃんが頭を過った。

  ちょっと間抜けそうな顔で遊んで遊んでと誰にでも尻尾を振る愛らしいコーギー。なるほど、コレはデレデレになるのも頷けるとワカもベンケイも納得。

  「タケミチだっけ?」

  「はいっス!」

  「ン」

  ワカはベンケイとの間を少し空けてポンポンと叩く。キョトンとしていたがハッとした後は嬉しそうに失礼します! と二人の間にすぽりと座った。

  「真ちゃん……」

  「なんだワカ?」

  「どーしてもっと早く教えてくれなかったの」

  「え!?」

  頭を撫でながら頬をもちもちと弄っている。どうやらワカのお気に召したらしい。ベンケイも食うか? なんて菓子を与えている。ずっと黙っていたがコチラも気に入っていたらしい。

  「んなこと言われてもよォ……でも可愛いだろ?」

  「わかる。そんじょそこらのクソガキより可愛い」

  「つか、こんな無害そうなタケミチに何で気まずそうにしてんだよ軍神は」

  「あ〜……」

  真一郎ですら言い淀む内容。武臣も話す気配はない。コレは引き出すのに時間がかかるかと思っていると思わぬところから援護射撃。

  「タケミっちに叱られたからだよ」

  なんて言いながら現れたのは万次郎。ハイ、タケミっちと言いながら呑気にコーラを渡している。

  「何やったんだよ?」

  「春千夜にあーだこーだ言ってたからタケミっちがブチギレて説教したんだよ」

  「だってさぁ……」

  「ま、アレは武臣が悪ィと思うよ?」

  武道は気まずそうにしているが、相当目に余る行為だったのだろう。後悔はしていないようだ。

  しかしマイキーと同い年の少年に説教される軍神。想像しただけで面白く、二人もクスクスと笑いが漏れている。

  「イイネ、余計気に入った」

  「ほら、これも食え」

  素直そうでイジメられそうなナリをしているが、一丁前に正義感はある。気質は真一郎に似ているため、二人が武道のことを気に入るのは必然だった。

  後日、武臣の所業を詳しく聞いた二人は改めて説教し、武臣は余計に武道が苦手になったとかなってないとか。

  [newpage]

  イヌ武

  妖犬×俺SS

  表向きは高額の家賃を払い、能力・家柄・経歴を認められた人間だけが住める場所とされている通称『妖館』。

  だが実体は、妖怪の『先祖返り』である人間が純血の妖怪に狙われないようにするためのシステムである。

  そんな妖館に住む一人の少年、花垣武道も『先祖返り』をした人間だ。

  「いらないいらないいらない!! オレ、SSはいらないって!!」

  ここ最近、逃げ回るのが名物となっているが。

  「何故だ花垣。オレの腕が不安か? オレならそんじょそこらのヤツには負けねェ」

  並走するように武道と共に走っているのは乾青宗。犬神の先祖返りでSSの職に就いているが、雇い主を自ら選ぶという悪癖で今まで守りたいと思う主がいなかった……そう、今までは。

  武道が入居してすぐ、武道の前に跪きSSにしてくれと言ってきたのが乾だ。

  尚、跪いた姿がヤンキー座りのように見えたのは幻覚と思い込もうとしているが、幻覚ではない。

  なんならお願いする側なのにメンチを切っていた。

  だが武道はビビりながらもそれを拒否し、今に至る。

  「SSが主を決めるなんて前代未聞じゃないの!?」

  「安心しろ花垣。オレにはそれが許されてる」

  「何ソレェ!!」

  徐々に走るスピードは落ち、ジョギングレベルになっているが足は止めない。

  だがそんな武道に対しても余裕で着いてきて、なんなら花を飛ばすような笑みで見てくるものだから、ちょっとイラッとする。

  「何でイヌピーくんはオレ何かがいいって言うんだよ……」

  遂に走る力も尽きてその場にへたり込む。ハァハァと息切れしているが、乾は息切れ一つしていない。むしろ武道と共に居れるだけでも幸せといったオーラを出している。

  「オレが……オレがそう思ったから」

  スッと横にしゃがみ込む気配。疲れていた顔を上げるとすぐ真横には乾の顔。

  覗き込むように見てくるその姿、額から少し汗をかいたのか雫がゆっくりと火傷痕を垂れている。

  (エッッッッロ!!)

  男の武道でもドキリとするのだ。引く手数多なのは簡単に想像できる。

  黙っていれば儚げ美人、動いて口を開けば狂犬。

  見た目も実力もある乾が、どうしてここまで武道に執着するのか武道はわからない。

  ただ初めて出会った時、会えて嬉しいと涙を流す乾にドキリとしたのも事実だし、どこか既視感を覚えたのは前世の記憶だろうか。

  「ダメか? 花垣……」

  ジリジリと顔が近づいてくる。乾の髪がサラリと武道の額を撫でてハッとし距離を取る。綺麗な顔に騙されそうになるが武道はSSを雇うつもりはない。

  「あっぶねぇー!!」

  「……チッ」

  「え? イヌピーくん今舌打ちした?」

  「何のことだ? で、SSにする気にはなったか?」

  舌打ちした不良が居たかと思った瞬間、瞬きをするとしょんぼりと犬耳が生えたような乾がいる。

  自分の顔の良さがわかっているヤツはタチが悪い。

  ジリジリと乾から距離を取り、そして一目散に武道は駆け出した。

  「お断りするっスぅぅぅぅ!!」

  今度は武道を追いかけず、その姿が見えなくなるまで見送っていた乾。どこか少し寂しそうな笑顔をしていたが、一生懸命に走っている武道はその顔を知らない。

  「イヌピー」

  しばらくその場にいる乾に声をかけてきたのは猫又の九井。どうやら結構な時間が経っていたらしい。

  いつまでも座っていても武道は戻って来ないので、ゆるゆると立ち上がる。

  「花垣は思い出さねェのか?」

  「記憶自体ねェかもな」

  「……マ、記憶が無くてもいい」

  乾もそして九井も前世と呼ばれる記憶がある。過去の武道との前世の記憶。もしくは世界線が違う記憶とも言える。

  武道本人にその記憶はないが二人にはハッキリと残っている。今はただそれだけでいい。

  「で? 花垣にSSとして認めてもらえそ?」

  「いや……相変わらず断られた」

  「だろうな」

  「でもいい……オレが何度でも言えばいい。前の花垣みてェに何度でも言う。諦めるつもりはねェ」

  目当ての人物が去った先を見つめる乾。

  その瞳には先程まで溶けるような優しさはなく、ただギラギラと獲物を狙う瞳であったのを知るのは、同類の九井だけであった。

  花垣武道

  先祖返り妖怪:件(くだん)

  未来予知+タイムリープ能力持ってるスーパー先祖返りくん

  前世の記憶はありません

  乾青宗

  先祖返り妖怪:犬神

  執着心強々わんわん

  前世の記憶あり

  前世ではマイキーとかいたから今回こそは一番近くに居たいとSS契約持ちかけるが全敗中

  [newpage]

  ドラ武

  友人も呆れるレベルで惚れている

  山の奥。一際大きな社があり、そこには龍神様が祀られている。麓の村々では十年に一度、龍神様に生贄を差し出していた。

  だが心優しい龍神様は生贄に差し出された者を食わず、生贄は要らないと人里に返していたのが十年前までの話。

  「あっ、ちょっ、ドラケンくん!?」

  「ア? まだ朝だからいいだろ……」

  「ごは、ご飯出来てる……! ちょっ、裾に手ぇ入れないでぇ!!」

  「オレにとってはコッチがメインだから」

  「不健全!!」

  「新婚だから問題ない」

  「くぅ……顔がいい……」

  「じゃ、いただきます」

  今年差し出された生贄兼、現在は番の武道が可愛すぎて蜜月を送っていた。生贄はダメだが番を送ってくれた麓の村には感謝。

  ◇

  「朝からまた爛れた始まりになっちゃった……」

  「別にいいじゃねェか、誰も咎めねェし」

  「そうなんですけどね! コッチは色々とキャパオーバーしてるんスよ!」

  「なんで?」

  「あ、朝からドラケンくんが……カッコいいから……」

  「はぁ……タケミっちよォ」

  「なんスか」

  「また抱きつぶされてェの?」

  「なんでぇ!?」

  番を堪能した後、遅めの朝食。神様なのでパチンと指を鳴らすとホカホカのご飯。複雑そうな顔をしつつも食べていると、武道がうっかり相手に対して褒め言葉をストレートに言ってくる。無自覚だからタチが悪い。頬も染めて言うもんだからまたムラムラしてしまうのは仕方がない、新婚だもの。

  武道との出会いは、生贄で差し出された者と神様として対峙したのが始まり。いつものように人里に帰してやるつもりだったが、武道は天涯孤独で帰っても誰もいないから置いて欲しいと言われた。

  生贄から神様のお世話係、お世話係から紆余曲折あって恋人、そして番関係へ。トントン拍子で事が進み、友人達ですらその早さにドン引きしていた。

  「朝からだといくら体力あってもツライんスよ?」

  「オレとしては布団の中に居てくれていいんだけどなァ……いっつもピンピンしてんじゃん」

  「腰とか痛いんですよ! 中にずっとあるような感じするし!!」

  「なァ……わざとか?」

  「だからなんで!?」

  会話がピンク、幸せそうに花を飛ばしてすぐ布団に行こうとする。実際に神様らしくポロポロとピンクの花を落としていた。

  龍神の片割れである三ツ谷によると、神様は感情が目に見えてわかるということだが、こうも包み隠さず嬉しそうにされると武道としては断れずズルズル流されてしまう。

  なんだかんだ武道も番に対しては弱いので、似た者同士である。

  「それは置いといて……今日は神様としてのお仕事あるって言ってませんでした?」

  「仕事つってもただのいつもの集まりだよ……マイキー呼びに行かねェとな」

  「そしたら準備しなきゃでしょ? 角だって飾らないといけないんじゃ……?」

  「ダチとの集まりなだけなんだけどな」

  「ダチかもしれねぇけどオレから見たら神様達の集会なんスよ……恐れ多い」

  「そんなモンか?」

  「そうっスよ! ほら手伝うから立って!」

  寝間着を脱いでもらっている間に正装の服を用意し、着付けを手伝う。角も装飾で飾り、目元も化粧で彩ればそこには神の一柱。この地域を治めている龍神様がいた。

  「んじゃあ、行ってくるか」

  「はいっ! いってらっしゃい!」

  「ン」

  「ん?」

  「くれねぇの?」

  「ん!?」

  自分の頬をトントンと叩いてキスの催促。番になる前から優しかったが、番になってからは毎日ドロドロに甘やかされているように思う。

  ここで恥ずかしがっていると、もっと恥ずかしいことを要求してくるのは身を持って体験済みのため、羞恥心を押し殺して背伸びする。

  同じ男としてもドラケンのが背も高く、筋肉もある。そのドラケンも少し屈んでくれているので、なんなく頬へと届いた。

  頬にキスするついでにと言わんばかりに、ギュウと力強く抱きしめてくれるその腕にまたもドキドキする。ドラケンと共に居ると心臓がいくつあっても足りないが、心の何処かでもっと欲しいと思う自分がいることに苦笑い。

  「いってらっしゃい……」

  「おう、行ってくるわ!」

  満足気な笑顔を浮かべると煙がドラケンを包み込む。武道が瞬きをするほんの一瞬の間に現れたのは一匹の龍。天高く昇り、ここらの神を取り纏めている友人の元へと飛んでいった。

  「心臓いくつあっても足りねぇ……」

  後には顔を真っ赤にして蹲る武道だけがその場に残されていた。頬の赤みはまだ暫く治まらないだろう。

  [newpage]

  灰武

  灰谷兄弟の病弱弟

  灰谷兄弟には弟がいる。

  そういう噂が最近流れるようになった。特に興味のない者は竜胆のことかと片付けているが、少しでも興味のある者や弱みを握りたい者はどういうことかと調べる。だいたいは真相に辿り着く前に灰谷兄弟に返り討ちにされるか、よくわからないという結果になるため、噂だけが一人歩きしている状態だ。

  そんな中同じく暴走族に所属し、且つ大将と尊敬しているイザナから詰められた時は、灰谷兄弟も珍しくも狼狽えた。

  「で? 噂の真相は?」

  ソファーで踏ん反り返る天竺の王様。その前には座らされた灰谷兄弟。始めはまた何かやらかしたのかと他の面々は見ていたが、どうやら噂のことを聞きたいらしい。

  「あ~……真相っていうか事実なだけなんだけど」

  「蘭と竜胆以外に弟居たんだな」

  「いるよ……でも身体弱くて基本引き籠もり。それに別れた母親の方に引き取られたから、頻繁に会えるわけじゃねェけど仲はいいよ」

  〝母親の方〟〝引き取られた〟という単語にイザナの眉間に一瞬皺が寄る。

  「……今でも会ってるのか」

  「会ってるよ。なぁに、大将もオレらの弟に会いてぇの?」

  「……そうだな」

  「え! うっそ!?」

  からかい混じりでの問いかけにまさかの返答。灰谷兄弟はもちろん、周りの面々も驚きを隠せない。そしてあれよあれよという間に、灰谷兄弟の幻の末っ子とご対面する機会が設けられることとなった。なお、からかい混じりで言った蘭は最愛の弟に会わせることになり、数日は家で凹んでいたのを竜胆だけが見ていたのは兄弟だけの秘密。

  ◇◆◇

  対面する当日、噂の弟の名前は武道というのを当日知った面々は、灰谷の所有するマンションに集まっていた。たまーに竜胆が仲間うちで飲んだ際に出るゴミが散乱しているようないつもの部屋ではなく、モデルルームばりの綺麗さになっている。

  「部屋、こんな綺麗だったか?」

  「業者入れたんだよ。タケミチ、アレルギーもあるからさ」

  徹底している。渋る素振りを見せていたので薄々感じてはいたがこの兄弟、末の弟を溺愛しているのでは? なんて思えてくる。

  そんな微妙な空気の中、ただいまーなんて呑気そうな竜胆の声とお邪魔しますなんていう小さな声。竜胆にお邪魔しますじゃなくてただいまだろと指摘をしている声も聞こえることから噂の弟がやってきたようだ。

  その声を聞いた瞬間に蘭が嬉しそうにする。望月と斑目はキモッ……と思わず口に出すくらいには上機嫌だ。

  「おかえり竜胆。タケミチもおかえり、兄ちゃんのとこ来な〜♡」

  全員が全員、誰だコイツとなったのは言うまでもない。極悪の世代、六本木のカリスマ、様々な異名を持っているがそんなの形無しになるくらいデレデレしている。

  「蘭にぃ、久しぶり」

  「元気にしてたかー?」

  「元気! この間、公園行ったよ」

  「オイオイ大丈夫だったか? 熱は?」

  「でてない!」

  竜胆の腕から蘭の腕に移動した末の弟を見る。思ったよりも……小さくないか……? と思ったのも無理はない。背丈は蘭や竜胆の半分もない。それもそのはずでどうやら小学生らしい。

  くりくりの癖毛は隔世遺伝らしく、目も二人と違い蒼く輝いている。蘭も竜胆もそこが可愛いとお気に入りのようだ。

  「えっと……蘭にぃと竜にぃのお友達?」

  「そ、お友達。オレらの大将がタケミチに会いてぇって」

  「オレと……?」

  「オマエがタケミチか?」

  黙って成り行きを見ていたイザナが一歩兄弟へと近寄る。蘭と竜胆だけでなく、周りの面々は黙り込み顔色はあまり良くない。朝からあまり機嫌は良くなく、口数もいつもより少なかった。

  しかし武道にはそんなことは関係ないようで、キラキラとした目をイザナに向けている。イザナも何か言おうとしたが、武道の目に負けたのか黙って見つめ合うこと数秒。流石にツッコミを入れたのは竜胆だった。

  「タケミチ……? 黙ってどうした?」

  「竜にぃ! この人がたいしょーさん?」

  「そうだけど」

  「キラキラでかっけー! 王様みたい!」

  その言葉を聞いたイザナは驚きに目を見開いたかと思うと、次の瞬間にはクツクツと笑っていた。

  「見る目あんじゃねェか」

  「王様はほんとに王様?」

  「特別に下僕2号にしてやるよ」

  「? やったー?」

  「待って待って大将、タケミチに変な単語覚えさせないで……!」

  「蘭、タケミチ寄越せ」

  焦る蘭、遠い目をする竜胆、そんな兄二人を他所に蘭の腕からイザナへと移動する武道。イザナが武道を気に入りそうだなとは何となく予感はしていた。武道は年上のツボを突くのが上手い。気がついたら兄達の知らないところで年上の知り合いがいるくらいだ。

  「どうすんの兄ちゃん……」

  「許容範囲は大将達まで、それ以上はムリ」

  「だよなぁ……オレもムリ」

  兄弟の視線の先には天竺の面々に可愛がられている末っ子。自慢もあるが兄の手から離れてちょっぴり寂しかったりする。

  天竺の面々も帰宅し、家には兄弟水入らず……だが蘭と竜胆は両側から武道を挟んで抱き込んでいた。イザナを筆頭に案の定年上のお兄さん達に好かれ構われていた武道。久しぶりの逢瀬だというのにイザナに武道を持っていかれ、スキンシップもできなかったのをここぞとばかりに取り戻そうとしている。

  「やっとオレらのタケミチが戻ってきた……」

  「タケミチ、大将達に好かれすぎ」

  「蘭にぃと竜にぃのお友達はみんなかっけーね! でもオレ一番かっけーのはにぃ達だと思う!」

  「ぐぅ……」

  「天使」

  「キャー」

  小さい身体を興奮させて、自分の兄貴が一番だと自慢する武道の姿にクリティカルヒット。竜胆が覆い被さり、更にその上から蘭が二人を抱き込むように覆い被さる。武道は久しぶりの兄達に笑い声を上げる始末。

  「あれ? タケミチ、ちょっと熱くね?」

  「……だな、興奮しすぎたかぁ?」

  「そ、そんなことないよ!」

  「ダメ、無理したら明日出かけられないぞ」

  「ほら兄ちゃんと寝ような」

  布団を首元までかけてやり、ぽんぽんと叩いていると寝つくのに時間はかからなかった。

  「早っ」

  「はしゃいでたもんな〜」

  「……兄ちゃん、オレも今日ココで寝ていい?」

  「仕方ねぇなぁ」

  末っ子を二人で挟んで寝る体勢に、子供体温のためか武道の体温は温かく、二人も武道並みにスコンと眠りに落ちた。

  ─────────────────────

  さんにんいっしょ!

  「このまま帰ったら兄貴ブチギレっかな〜」

  ふらふらと千鳥足で家への帰路へ着こうとしている。時刻は朝。通勤する人達からは訝しげな目で見てくるが、酔っ払いには関係ない。

  もうすぐでマンションに着くといったところでにーにーと小さい声が聞こえた。

  「ん〜?」

  声は植木から聞こえる。ガサガサと葉をかき分けるとそこには一匹の黒い子猫。懸命に竜胆に向かって鳴いていた。親の姿は見えない、それでも懸命に生きようと必死に鳴いていた。それはある意味運命の出会いでもあった。

  親猫の姿は見えない子猫は竜胆の気まぐれで拾われ、そのまま動物病院へと向かう。元々動物が好きだったのと、酔いで本能のまま動いてしまった。

  「兄ちゃん許してくれっかな……」

  「にー」

  「オマエも媚びろよ」

  「にゃーん!」

  会話が成り立っている一人と一匹。子猫が竜胆と共に暮らすにはオレ様な兄貴の許可が必要である。だが兄である蘭が動物が大丈夫かどうかも不明。ある意味子猫の可愛さに賭けた。まだ酔っぱらっていたからできることである。

  「兄ちゃ〜ん……」

  「あ……?」

  「猫拾ったんだけど、飼っていい?」

  「にー!」

  「……毛玉じゃん」

  蘭の近くに子猫を降ろすとフスフスと匂いを嗅いでいる。そのまま怖がらずに蘭へ近寄っていき、ペロリと手を舐めた。

  そのままゴロゴロ喉を鳴らしていたかと思うと蘭の近くでぽてりと寝落ち。

  「ふっ……くくく……いいぜ、飼っても」

  「え、マジ?」

  「面倒は竜胆が見ろよ」

  「おう!」

  あまりにも怖いもの知らずな子猫。蘭を怖がるどころか近寄ってご機嫌で寝たのが気に入ったらしい。こうして灰谷家に二人だったところに一匹、家族が増えた。灰谷家に新たな家族が増え、名前もタケミチと名づけた。

  が、ここで新たな問題が発覚。

  「タケ、おっきくなったよ!」

  「兄ちゃん、タケミチが人間になった……」

  「は?」

  猫は猫でも猫獣人の子供だったようで、竜胆も蘭も驚きで流石に固まった。本人は人型になれたことで満足気にドヤ顔をしている。

  改めて、二人だったところに一人、家族が増えた。

  ◇◆◇

  タケミチが灰谷家にやってきてから竜胆の生活習慣が少し変わった。家に帰るのがどんなに遅くても夜には帰るようになった。

  一度朝帰りをしたらにーにー鳴きながらボロボロ涙を流すタケミチがいたためである。流石に心が痛んだし、蘭からも痛い一撃を食らったので、それ以来夜には帰るようにしている。

  「タケミチー兄ちゃん起こしてきて」

  「わかったりんくん!」

  昼に近い時間だが蘭はまだ寝ている。ここで竜胆が起こしに行くと一撃を必ず食らうのだが、タケミチが起こしに行くと不思議と二人で起きてくる。

  たまにミイラ取りがミイラになって二人してすよすよと寝てる時もあるが、果たして今日はどうなることやら。

  ◇

  「らんくーん……」

  カチャリと静かに扉を開けた先にはこんもり膨らんでいる布団。室内は暖かく、上半身裸ですよすよと寝ている蘭がいる。

  「らんくん、おきて」

  ベッドに近寄りこそこそ小さい声で蘭に声をかけるが反応はない。ムッとムキになり、頭を擦りつけ始めた。

  タケミチの頭に生えている猫耳が蘭の首元をさわさわと擽る。

  「くすぐって……」

  「らんくんおきた?」

  「目ぇ覚めたわ……」

  くわぁと大きな欠伸をするとタケミチにも移ったのか、小さくくわぁと同じように欠伸をする。投げ出されていた服を着ると片手でタケミチを抱き上げた。

  「欠伸移ってんじゃん……寝る?」

  「ねないよ! りんくんまってる!」

  「はいはい」

  そのままタケミチを抱き上げたままリビングへ。今日は共に起きれることに成功したようだ。

  「おはよー兄ちゃん」

  「はよ……」

  「りんくんおこせたよ!」

  「凄いぞ〜」

  「きゃあ!」

  蘭からそのままタケミチを手渡された竜胆は、蘭を起こせたことに偉いなと褒めながら撫でくりまわす。タケミチも楽しそうに竜胆にじゃれついていた。止めるともっともっととせがんで来るのでなかなか終わるタイミングが見つからない。だがこれも竜胆にとっては至福な一時だった。

  「で、なんでこんな早く起こされたわけ?」

  顔を洗い終えた蘭がタケミチを挟んで、のそりとソファーに座りながら問いかける。その手はタケミチの顎を撫でていて、タケミチもゴロゴロ喉を鳴らしていた。

  「タケミチ、ほら兄ちゃんに見せるんだろ」

  「あ! そうだった! らんくん、これ!」

  「あ?」

  タケミチがハッと我に返ると手渡したのは一枚のチラシ。どうやら新しく商業施設ができあがったらしい。

  「行きてぇの?」

  「いきたい! さんにんで……だめ?」

  うるうるとでかい目で蘭を見上げる。ジッと互いに見つめること数秒……はぁ、と蘭がため息をついてゆっくり立ち上がる。

  「……着替えてくるから待ってろ」

  イエーイと竜胆とハイタッチするタケミチ。キャッキャッと笑う二人の姿に苦笑が漏れる。何だかんだ蘭にとってもこの黒猫獣人の子供はお気に入りになっていた。

  [newpage]

  蘭武

  病弱とは程遠い

  「ア?」

  珍しく全員参戦の抗争中、警棒を振るっていた蘭の髪ゴムがプツリと切れ、片側だけハラリと三つ編みが崩れた。

  「最悪……」

  相手をしていたヤツを思いきりぶん殴ってふっ飛ばす。抗争も終盤で相手が立っている姿は少なく、蘭が立ち止まったところで支障はない。

  むっすりとした顔でもう片方を纏めていたゴムを外し、髪を片側だけに纏めて再度三つ編みに編み上げた。

  その光景をジッと見つめていたのは、小綺麗な蘭と違ってボコボコにされていた総長代理である花垣武道。体力だけは誰よりもあるので、見た目はボコボコで酷いがピンピンしている。しかし口をポカンと開けてちょっと間抜け面。

  「わぁ……」

  蘭に視線をぼーっと向けて無防備なため、周りが敵を蹴散らしている。

  まぁた何か変なこと思ってんな……やら、面白いことでも思いついたのか? と周りも静観(ぶん殴る手や蹴り上げる脚は止めていない)している。

  「なぁに? 何かあんなら直接顔見て言えよ」

  「え! な、なんもないっスよ!!」

  もちろん蘭もその視線に気づいており、首を傾げながら問いかける。声をかけられるとはおもっていなかったのか慌てる武道だが、その姿に童貞くせぇな……なんて失礼なことを蘭は思っていた。

  だが周りも、魔性の類に言い寄られてたじたじしている生贄のように見えるなんて思われていることを武道は知らない。どちらの解釈も間違っていない。

  明らかになんかある態度の武道。もだもだと話すつもりはないが、蘭も蘭で武道の肩に手を回して離れないようにする。用意周到である。

  「ほら、言えよ」

  「いやぁ……これは言ったら怒るっスよ……」

  「代理……ワンチャン賭けて言ったほうがいい。兄貴がウケたら殴られねぇけど、言わなかったら殴られるから言ったほうがいいぜ」

  二人のやり取りを見ていた竜胆からのアドバイス。蘭の弟を生まれた時からやっているので、言葉の重みも違うし顔つきも真剣だ。

  言わなかったら殴られて、言っても殴られるかもしれない。どんなデッドオアデッド。

  「……怒らねぇ?」

  「とりあえず、言ってみ?」

  つまんなかったら殴るからな♡ と副音声が聞こえてきそうな笑み。武道の考えを言っても殴られそうだが、黙ったまま殴られるのもな……と意を決して口を開いた。

  「や……その髪型って、アニメとかで出てくる病弱なお母さんな髪型だなぁ……って」

  シンと静まるかえる。そして、

  「ぶっっは!!」

  「病弱……!!」

  「一番程遠いじゃねェか!!」

  黙って聞いていた者達が吹き出したりツッコミしたりと騒がしくなった。

  現在の蘭は片側一つに纏めた三つ編み。自分自身で結んだため少し緩めだし片側だけに垂れているため、確かに武道の言う通りアニメや漫画で出てくる病弱な母親の髪型と言われたらそのまんま。

  周りもコッソリ聞き耳立てていたが、あまりにも的確過ぎて吹き出して爆笑する。

  抗争も終盤だったのも悪かった。ほぼ終わって喧騒も落ち着いていて、武道の言葉が目立つようにポツリと響いたのだから、笑いの神様も綺麗に降り立っていた。何ともタイミングの悪いこと。

  「ら、蘭くん……?」

  「ん〜?」

  「怒って……」

  「ねぇよ♡」

  アレは嘘だなと誰もが思ったが、その日確かに武道は怒られず抗争が終わった。

  ただ一人、あーあ……という顔をして憐れんだ顔で武道を見ていたのは、傍若無人な兄に振り回されている竜胆だけだった。

  ◇◆◇

  後日の集会。前回の抗争相手は解散させ、まだ他にも喧嘩を売ってきている相手がいると言う話になった。

  少数だがタチが悪いヤツらが揃っているということで、餅は餅屋。元天竺が揃った捌番隊に任せようとなった……が、

  「オレ病弱だからさぁ、今回の抗争無理だわ〜」

  「や、あの、蘭くん離して……」

  「そう言ったのは代理だよなぁ……なぁ?」

  「……ウス」

  拒否の姿勢を出したのは灰谷蘭。前回の抗争最後の時のように片側だけ三つ編みしている。

  逃げられないよう武道をガッツリ抱え込んでおり、回している手には力が入っているように見える。病弱なお母さんと言われたことを明らかに引きずっていた。こうして態度で仕返ししてくる面倒くさい男である。

  竜胆もやっぱりな……という顔で見ているが、ソレよりもガン見している男が一人。

  「アイツ……」

  捌番隊隊長である黒川イザナである。端から見たらいちゃついているようにも見える二人にブチギレ寸前。

  いつもなら止める鶴蝶や武藤も、囃し立てる望月や斑目も見ないふり。蘭の運命は蹴られることが確定していた。

  ◇

  「相手よりも大将に蹴られたとこのが痛えんだけど」

  「もう……蘭くんがふざけるからでしょ」

  「タケミチがオレのことからかうからだろ〜?」

  「別にからかってないっスよ! 客観的事実ってやつ」

  「ハイハイ」

  捌番隊メインで仕掛けた抗争も東卍の圧勝で終わり、抗争で受けたケガよりもイザナに蹴られた方が痛いと擦っている蘭。事実蹴られたところが一番酷く、青痣になっていた。

  そんな青痣部分に湿布を貼ってあげているのは武道。カリスマなのに湿布臭いの知ってるのオレだけなんだなぁ……と頭に過ったが、なんかカッコ悪いと思ったので慌ててその考えを追い出す。

  実は周囲に秘密にしつつ、付き合っている二人。その関係を知っているのは竜胆だけである。竜胆はイチャイチャしているところに巻き込まれたくないため、既に家から退散しているから二人きり。ソファーに仲良く座って武道が手当てをしてやっている。

  「タケミチだから殴らなかったんだからな〜?」

  「だからって仕返しであんなこと集会中になんで言うかな……」

  「愛が溢れてんだろ」

  「……いっぱいもらってますよ」

  「ふーん……」

  気を良くした蘭にトンと押される武道。トサリとその身体はソファーに横たわり、蘭が覆いかぶさる。

  片側から垂れ落ちる三つ編み。未亡人感がやっぱ拭えないなと現実逃避。

  「ケンカの後って滾らねぇ?」

  「オレは今日してないんでわかんないっスね〜……」

  「こんなんになってんだよな〜」

  ゴリッと硬いナニかが武道に当てられる。ダラダラの汗を垂らすが、逃げられる要素は皆無。

  「じゃあ、いただきます♡」

  「〜〜〜ッ!!」

  言葉の通り、かぷりと武道の口を塞ぐようにキスをした。二人の夜はこれからである。

  [newpage]

  クロスオーバー

  とある日常にあったもの(呪術とのクロスオーバー)

  どこにでも見かけるチェーン店のファミレス。店内は涼しく、夕飯前の時間だというのに店内は人が多い。

  多くは授業を終えた学生なのだが、中には授業ではなく呪いをこれから祓う特殊な学生もいるわけで。

  「こーんなくっそ暑いのにわざわざ外出て肝試しするバカが多くて嫌になる」

  ゲロゲロ〜と舌を出しながら、まだ見ぬ無謀な挑戦者達を心底馬鹿にした感じで言う男の名は五条悟。

  顔はいいが性格終わってて、サングラスかけてる姿が胡散臭いとはここにはいない同級生の談。

  それをやれやれと言いながら窘めているのは夏油傑。

  一房だけ垂れた前髪、優しな口調だが塩顔キツネ目で胡散臭いと同級生に言われている。

  顔は良くても胡散臭い×2のため、遠巻きに何かを言われることはあってもナンパなんてものはないのはいいこと……なのだろうか。

  「そう言わない悟。そういった面白半分で行って危険な目に合うのを防ぐために、私たちが行くわけなんだから」

  「ハイハイ、優等生の傑くんはスゴイですねぇ〜」

  「……ったく」

  見た目は学生、中身は呪いを祓う呪術師。某肉弾戦で戦う美少女もびっくりな職業である。

  夜に現場に向かうことになっており、とりあえずは腹ごしらえとファミレスに入り後は出るだけだが、時間に余裕はまだ少しある。ダラダラとしている姿は学生そのものだ。

  まぁ両者に〝胡散臭い〟という言葉が付くが……。

  「あっつ……」

  「集会も室内でできればいいんだけどなぁ」

  入ってきた二人組。五条には敵わずとも夏油と負けず劣らずの顔がいい二人組が入ってきた。

  ピアスも付けていかにもヤンチャ……というか、片方は辮髪な上に側面にタトゥーも入れている。

  「わ……傑と似た髪型のヤツ初めて見たわ」

  「ちょっと待って悟。私は剃ってない」

  「でもあのウザってぇ感じで、一房だけ前髪垂らしてるとかなかなかねぇよ?」

  「……」

  そう思ってたのかい……悟……。

  なんて言葉も出ないくらい地味にダメージを受けた夏油を余所に、五条はチラチラと二人組を見ている。

  幸いにも入ってきた二人組に会話は聞かれておらず、五条達から見える席に座った。

  「今日の集会、なんで集まんだっけ?」

  「破羅墜威朱ってとことの抗争についてだろ」

  「……あの当て字、パラダイスっていうかパラダイシュって読めるよな」

  「思ってたのに誰も言わなかったことを言いやがって……」

  そんなに大きな声ではなく、耳に響く良い声だと思うが、言っていることは物騒である。

  あの髪型にタトゥー入れてる時点でもそうだが、抗争とか言ってるあたりで相当大きなヤンチャなグループに属しているのだろう。

  しかしパラダイスってなんだ。そんな暴走族があるのか……と頭を過るが、暴走族界隈についてはとんと知らない五条と夏油である。

  呪霊だったらなんとなーくわかるが、今でも暴走族があることに驚きだ。

  「抗争とかって初めて聞いたわ」

  「ここ最近、暴走族も増えているって言ってたね。暴走族がまだあることのが驚くけど」

  「族って奇抜な格好じゃないといけないワケ?」

  「それは個々人の自由じゃないかな?」

  任務や呪霊について話さなければならないと思うが、どうにも暴走族っぽい二人組が気になるため、自然とその二人組の会話に耳を傾けてしまう。

  話したところで力技でだいたい解決な脳筋なので、話し合いも何もない。

  「そういやマイキー、起きてっかな」

  「タケミっちいるから大丈夫じゃないか?」

  「ミイラ取りがミイラになる筆頭だぞ?」

  「……集会前に寄ってくか」

  族の話をしていたかと思えば別の話に飛んだ。気になる単語が飛び出す。

  「マイキーって何?」

  「渾名じゃないかな」

  「外人みたいな渾名……」

  「悟も似たり寄ったりな見た目じゃないか」

  カーン、とゴングが鳴る。この場ではやり合わないが、おそらく現場の呪霊はどちらが狩ったかの得点の対象となるだろう。アーメン。

  ふと、携帯に目をやるとそろそろ向かったほうがいい時間。五条は変わらず不良二人に目を向けている。

  「悟、そろそろ」

  「どんな会話が続くか気になるけど……しゃあない」

  ソファーから立ち上がり会計へと向かう。その際、不良二人組の視線が気になったが今後関わることのない二人だ。気にすることはない。

  自販機並みの身長が二人もいるからだろうと結論づけて、呪いが蔓延る廃墟へと向かった。

  「ドラケン、さっきの黒髪のヤツ髪型似てたな」

  「……三ツ谷、前髪だけで言ってねェか? 髪型はともかくボンタン履いてたってことは族か?」

  「片割れあんな美人なのに?」

  「……違うか」

  そんな会話があったこと、呪術師である二人は知らない。

  これはとある日常にあったお話。

  [newpage]

  イザ武

  制服デート

  「コレ着ろ」

  イザナから手渡されたのはブレザーの制服。あまり登校していないが、イザナの通っている高校が指定しているものだ。

  「? 誰の?」

  一応言われたとおりに着替えたが、武道のサイズにピッタリ。ピッタリ過ぎて逆に恐怖。

  「ア? 知らねェ」

  「エッ」

  「蘭に任せたからな」

  「蘭くん……」

  カリスマの手腕によればお手の物♡ とウィンクしながら、在校生徒から剥ぎ取るカリスマが頭を過る。いや、それはもうカリスマじゃなくて追い剥ぎ。

  コレは深く突っ込んだら深淵を覗く。武道はソッと現実逃避した。

  「行くぞ」

  そのままスタスタと歩き始めるイザナ。慌てて武道も追いかけるしかない。行き先は告げられず、ぶらぶらと街中を二人で歩く。

  ショッピング街にあるゲームセンター、服屋を冷やかしで見たり、時たま絡まれてイザナが返り討ち。

  夕方近くから始めたためそこまで多くは回れていないが、学校帰りの遊びみたいで楽しい。いつもなら溝中の面子や誘いに来たマイキー達と遊びに行くが、イザナと共に歩く街はまた新鮮だった。

  今はコンビニで買った肉まんをガードレールに腰かけて食べている。いつも中華街で食べてるからかイザナが小さく文句を言っている。

  「ありがとう、イザナ」

  「ア?」

  武道は先に食い終えた肉まんに付いていた薄紙を、手の中でクシャリと握りながらイザナに礼を言う。まだ少ししか食べてないイザナは不思議そうな顔。そりゃ急に礼を言われたらそうなるよな〜と武道は笑う。

  「イザナと同じ制服で歩くの新鮮だった!」

  「……楽しめたか」

  「あぁ! ほら、オレとイザナって四つも離れてるだろ。小学生ならともかく中学とか高校は同じ制服って難しいよなぁ〜って! だから楽しかった!」

  「そうかよ」

  カリスマに追い剥ぎされたどこかさんには申し訳ないが今は頭から追い出す。絡まれたりはしたものの、楽しかったことは事実なのだから。

  「タケミチ……」

  「何、イザナ」

  「いらねェからやる」

  「もがっ!」

  イザナが食べていた……といっても半分も食べれていない肉まんを武道へ押しつける。オレの口には合わねェと言っているので、これ以上食べるつもりはないようだ。

  武道としては普通に美味いけどな〜とそのままもぐもぐと食べ進める。

  「早く食え。オレの下僕ならいけんだろ」

  「カクちゃんと一緒にしないでよ……」

  「ア? 文句あんのか?」

  「ないない! でもカクちゃんって結構大食いだし、一口がでっけぇよなぁ」

  「アイツ、この間モッチーとジャンボ餃子食い切ったら無料とかバカみてェなの挑んでたな」

  「うわ……オレ絶対ムリ」

  「帰りにケンカなってリバースしたらしい」

  「なんで!?」

  和気あいあいと話す姿はどこにでもいる学生。特攻服を着てバイクを走らせるのも特別だが、それとはまた違う思い出となったのだった。

  なお、武道が楽しかった! なんてペカペカの笑顔で言った結果、今後も同様の制服イベントは起きるし、なんなら鶴蝶も巻き込むことになる。

  ─────────────────────

  小さな幸せ、共にある喜び

  年末年始。珍しく雪が降り続き、しばらくバイクを走らせるのは無理だなぁ……なんて話を東卍メンバーでしていたのもつい最近。年始のどっかで武蔵神社で初詣しよう! なんて決めたものの、それ以外は珍しく予定がなくなった。

  毎年誰かしらと一緒にいるものだから物足りない年始を迎えるのかと思っていたが、ピロンと携帯に一通の連絡。

  マイキーか千冬か、それとも鉄太だろうかと画面を見ると来年三大抗争を行う相手チームの鶴蝶からだった。

  違う暴走族に互いに属しているとはいえ、何だかんだ交流はあるし、なんなら武道は周りには秘密にコッソリとイザナと付き合っている。イザナと付き合っていることを知っているのも鶴蝶だけだ。

  また何かイザナがワガママでも言い始めたかと思ったが、それなら真っ先にイザナから武道に連絡が来るはずだ。イザナからではなく鶴蝶からの連絡でもしかしたらとメールを開く。

  そこに書かれていた内容を読むとコートを引っ掴んで親には出かけることを告げた。年始まで帰れないかもとも告げて。

  行き先は横浜。イザナが住んでいて天竺が拠点としている場所へと向かう。

  雪が積もりバイクは危ないため、渋谷駅から電車に飛び乗り横浜へ向かう。最寄り駅からイザナの家に向かう途中、鶴蝶から頼まれた物も含めて買い物し、雪に足を取られながらも少し急いで家へと向かった。

  家に入る前に鶴蝶にメールを一旦送り、チャイムは鳴らさず以前渡された合鍵を使い静かに入る。

  未だにこの鍵を使う時にイザナから鍵を渡されたことを思い出してドキドキするが、今はそれを片隅に無理やり追いやった。

  「……武道」

  「あ、カクちゃん」

  「悪ィな、わざわざ来てもらってよ」

  「オレに連絡できないくらいだったんだろ? 仕方ないよ……あ、ハイこれ。頼まれてたの」

  「サンキュ」

  いつもより声の音量を落としてヒソヒソとキッチンで話す。いつもイザナが定位置に座っているソファーには毛布がかけられこんもりとしていた。

  鶴蝶によると連日続く雪の寒さと気圧のWコンボで機嫌が最悪らしい。本当は武道と出かけようと考えていたのを鶴蝶も知っていたため、気を利かせて武道を呼んでくれたとのことだ。

  「とりあえず温めればすぐ食える飯は作ってあるし、蕎麦も用意した。何かあったら呼んでくれ、オレは自分ちに居るからよ」

  「わかった」

  「……まぁ、イザナは嫌がると思うし、呼ばれることはないと思うけどな」

  「そんなことねぇよ。イザナだってカクちゃんに言わないだけで感謝してるって」

  「……ハハッ、知ってる」

  鶴蝶は二人の邪魔をしないようにと帰っていった。やること全てやってお膳立てしてから帰るなんてできた男である。

  心の中で再度感謝しつつ、荷物を片してコートを脱いだら部屋の電気を落としてゆっくりとソファーへと近寄った。時折もぞもぞと動いているのは見えていたので、これは痛みでうまく寝れてないんだろうなと判断。

  「イザナ、来たよ」

  ゆっくりソファーの前に座り込み、こんもりしている毛布に語りかける。暫くしてチラリと毛布からイザナの顔が出てきた。気圧で相当痛いのだろう、眉間の皺が凄いことになっている。

  「……下僕が呼んだか」

  「そ、もっと早く言ってくれれば飛んできたのに」

  「そーかよ……」

  「ツライ?」

  「……ちょっとな」

  「……ウソだ。相当ツラそうだって」

  ピアスの外れた耳を両手で包み込む。暖かくなっていた部屋により、外で冷えていた武道の手もいつもより暖かくなっていた。武道の手があてられたことで少し眉間の皺も薄くなったように見える。

  「年末年始はゆっくり過ごそ。オレはイザナと一緒にいれたらいーからさ」

  「……あぁ」

  「ちょっとは眠れそ?」

  「ん」

  「……入れるかな?」

  まずは睡眠を取らせるかと聞いてみたらまさかの毛布を捲ってのお誘い。色気なんてものは皆無だが、言葉少なく甘えてくるイザナに少しドキドキする。

  小さく失礼しまーすと一言言って毛布に入ると、スルリとイザナの手が武道に回る。弱っていたとは思えない力でイザナの上へと乗せられた。

  「重くねぇ?」

  「……へーき」

  声に張りはなく、少しトロリと眠そうな声。ちょっとは眠れそうかな……とゆっくりイザナの頭に手を伸ばし撫でた。サラサラと手から溢れ落ちる銀糸の髪が、カーテンの隙間から漏れて入ってきている街灯に反射して光る。

  「いっつもイザナは動きまくってっからさ、休めって言われてんだよ」

  「……オマエに言われたくねェな」

  「オレは必要に駆られてだから」

  「ふはっ……ヘリクツ」

  「なんとでも」

  ポツポツと小さく続く会話。いつもは互いの周りには誰かしら居て、付き合ってると言ってもこうしてゆっくり二人で過ごすのは初めてかもしれない。

  気圧による頭痛はいただけないが、今後もっとこういう時間を作ってもいいかもしれない。

  「なんか、いーな」

  「……何が?」

  「こういうの……キライじゃねェ」

  「同じこと考えてた」

  すっげぇなんて言いながら小さく笑う。イザナもクスリと笑うのが至近距離でわかった。

  「起きたら蕎麦食おうな」

  「……作れんのか?」

  「カクちゃんが全部下拵えしてくれてる」

  「やるな……」

  「心配してたからさ、遅くても明後日には呼んであげよ……それまではオレだけに、イザナを一人占めさせて」

  「あぁ……武道だけな」

  「やった」

  「わり、ねる……」

  プツリと糸が切れたかのようにスコンと寝落ちた。頭痛も酷いのに武道との会話を優先してくれたことに嬉しくなる。

  「おやすみ、イザナ」

  こういう穏やかなのも悪くないと思いながらも、イザナも同じ気持ちだったことが嬉しい。

  小さなお揃いにくふくふ笑うと、武道もイザナの腕の中でゆっくりと夢の中へと落ちていった。

  ─────────────────────

  蜜月は隙間でも作るもの!

  世間一般でいう所謂新婚になったイザナと武道。引っ越し作業も終わり、真っ昼間からいちゃついていた。

  外ではツンのお猫様以上なイザナだが、武道と二人きりの時は外で見たのは幻覚か(武道比較)というレベルで態度が変わる。

  当初はドギマギしたものの、今やコレも自分の前でしか見られない姿ということで、家の中では武道も武道なりに積極的に甘えている。イザナからしたら物足りないらしくもっと来いというレベルらしいが、人には段階があるということをわかってほしい。

  「イザナ、まだ昼だけど!」

  「ア? いいだろ……」

  雰囲気もこれからナニを始めるかという雰囲気が漂う。武道の服に手を差し入れた瞬間、ピンポーンと無情にもチャイムが響き渡った。よくある展開。

  居留守を使うかと無視を決め込もうとするが、バレてるぞと言われているようにまたも鳴るチャイム。

  ヤる雰囲気は一気に霧散した。

  「引っ越し祝いおめでとー」

  「もしかしてヤるとこだった〜?」

  「止められなかった……」

  「兄ちゃんがごめん……」

  「ス、スマンイザナ……」

  パパパパーン! とクラッカーの音が盛大にリビングに鳴り響く。ハラハラと落ちる紙吹雪に頭を彩られるイザナと武道。

  棒読みなおめでとうと祝いの言葉を告げるマイキー、察していたのに踏み倒した蘭。二人を止められなかった保護者の面々と下僕代表が謝る図。イザナは青筋立てているし、武道は苦笑いを浮かべるしかない。

  「万次郎と蘭は表出ろ。礼に蹴りをくれてやる。そんでそのまま帰れ」

  「え、ヤダ」

  「引っ越し祝いさせてよ大将♡」

  効果音がにゃんにゃんわんわんという鳴き声だったら可愛かっただろう。怪獣大戦争がいつ勃発してもおかしくない。

  「悪ィなタケミっち」

  「祝いに行こうぜ〜って急遽こうなった……」

  「その感じだと携帯の連絡に気づいてなかったみてェだな」

  「あ! ほんとだ! ごめんカクちゃん気づいてなかった!!」

  携帯を見ると鶴蝶から連続でメールが来ていた。

  『蘭がそっちに行こうとしてる』『止められねぇかもしれん』『マイキー見つけた』『すまん』

  新手のメリーさん状態。抗おうとした痕跡が見えるが頑張った方だ。ドラケンも同じだったようで申し訳なさそうにしている。

  「せめての詫びに食いもん持ってきた」

  「あ、オレも!」

  「わ! ありがとう! イザナ達は……」

  武道達が先程までイザナ達が居たところを見るがもぬけの殻。どうやら本当に外に出ているようだ。暫く戻って来ないだろう。

  「どうせなら今食べちゃお。腹減ったら戻って来るでしょ!」

  家主の一人を置いてけぼりにそのまま四人で持ってきてくれた菓子を食べることに。武道の予想通り、マイキーが腹減ったと騒いだからか少しヨレヨレになった三人が少し経ってから戻ってきた。

  ◇◆◇

  「結局アイツら夜まで居座りやがって……」

  「引っ越し祝いなんだって」

  「オレを置いて菓子食ってるしな」

  「オレを置いて喧嘩行っちゃったのはイザナだろ?」

  「……」

  晩飯も食べ終わり、祝いという名目で二人の邪魔をしに来た者達も帰路についた。なんだかんだ言いつつも、イザナを慕っていたり武道を気にかけているからこうして来てくれているので、そこまでブチギレてはいない。不機嫌なことに変わりはないが。

  「明日とかまた別の誰かが来そう……」

  「オイやめろ、オマエが言うと洒落になんねェ」

  「でもイザナもそう思ってるんだろ」

  「オレのパートナーは人気だからな」

  「拗ねて……うわっ!!」

  からかおうとした武道だったが、有無を言わせないスピードで武道を抱き上げる。イザナの顔を見上げると瞳孔が開いているかのように武道を見下ろしている。

  「まだまだ元気が有り余ってンな、行くぞ」

  「ど……どこに?」

  「ア? ンなもん寝室に決まってんだろ」

  「その心は……」

  「昼の続き」

  ボンッと音が鳴るように一瞬で武道の顔が真っ赤になる。昼の雰囲気もだがいつもの夜に見せるイザナを思い出したのだろう。

  あまりの恥ずかしさに両手で顔を押さえる仕草にイザナも満足気。

  付き合ってそれなりに経つが、新婚で初めて共に暮すのだ。まだまだ二人の蜜月は続きそうである。

  ◇

  朝と言うには遅く、昼には早い時間。ピロンという無機質な携帯音でイザナは目が覚めた。横には朝方まで貪った武道が寝ている。スースーと穏やかな寝息からまだ深く眠っているようだ。

  ダルい身体を動かして携帯を見ると妹のエマからメッセージ。嫌な予感がしたが返事を返さないとうるさいので嫌々見ると、引っ越し祝いに真一郎と共に遊びに行くという文。

  「ハァ〜……」

  武道の言ったことがリアルになり、フラグを立てさせやがってと思う。言った張本人は未だ夢の中。

  幸せそうに寝やがって……と武道の鼻をつまんでも許されるだろう。

  [newpage]

  犬の気持ち

  新たな年を迎えて

  「うらぁ!!」

  「せりゃあ!!」

  でかいかけ声を出して抗争かと思われそうだが、至って平和。ただの餅つきである。

  今日は佐野家に集まり餅つき大会。武道は鶴蝶に抱き上げられながらキラキラした瞳で餅つきを見ていた。マイキーと場地が息が合ったように餅をついているのに興奮している。

  「おもち!」

  「手慣れてるなー」

  「やり、たい!」

  「えっ」

  杵を持たせて打たせることは無理。となると水か? と思うがこの小さい紅葉みたいな手で……? と鶴蝶が固まる。

  「やりてェのか?」

  「やる!」

  「じゃあやるか」

  「えっ!」

  横で聞いていたイザナが確認のために問う。それでも武道の考えは変わらない。イザナが顔色変えずに許可をするので、鶴蝶は二度目の驚き。

  「なんだ」

  「いや……できんのかと思って」

  「やらせねェと拗ねんだろ」

  「……まぁ」

  「だったら一回やらせたらいいだろ、オイ!」

  鶴蝶から武道を受け取り、そのまま餅つきをしている二人へと近寄っていった。

  そうして杵をイザナが持ち、ひっくり返す役に武道と補助で鶴蝶がつくことになった。

  「いくぞ」

  「あいっ!」

  ドンッと勢いよく杵が振り下ろされ、ぺちゃっと小さい音で武道の手が餅に触れる。その後に鶴蝶の濡れた手で餅をひっくり返す。

  テンポは悪いが本人は楽しそう。ニコニコと笑い尻尾も勢いよく振られている。

  「タケミっち、オレと交代」

  「イザナくんもな」

  声をかけてきたのは双龍。イザナはスッとドラケンに杵を渡したのを見て、武道も三ツ谷と交代する。

  「もうちょっとやったら食えるから手ェ洗って待ってろよ」

  「つきたては美味いからな」

  「わんっ!」

  そのまま息の合った姿で餅をつく二人を背に餅で汚れた手を洗いに行く。満足そうなその姿に、またやりたいと言うことはないだろうとイザナは息を吐いた。

  ◇

  「はい、タケミっち!」

  「ありあと!」

  先程までついていた餅が出来上がりマイキーから手渡される。まだまだ温かく、湯気がほかほかと上がっている。

  「とりあえず醤油か?」

  「甘くしてもいいよな」

  「どうする」

  「おしょーゆ!」

  「ン……」

  イザナからたらりと醤油を垂らしてもらい、海苔まで巻いてもらった。尻尾の振りも最高潮である。

  「タケミチ、待て」

  「わふ……」

  いただきます! と食べようとしたが、イザナに待てをされる。ピタリと止まるのはよく訓練されているが、口の端からよだれが見える。

  「餅食う時、注意しなきゃいけねェ」

  真剣なイザナの顔に尻尾の振りも小さくなり、皿から目を離してイザナを見上げる。

  「よく噛め、すぐに飲み込むな。餅をナメんな、コイツは毎年人を殺してるからな」

  「わふ……」

  「もし喉に詰まったら、オレはタケミチに掃除機を突っ込まなきゃならねェ」

  「きゅーん……」

  脅しではなく事実ではあるが、真剣に話してる二人にツッコミができず、鶴蝶も黙って見ているしかできない。周りも異様な空気に気づいたのかシンと静まり返って餅をつく手も止まり二人を見ている。

  「よし、いいぞ」

  「食いづれェよ!!」

  大事なことだが流石にどうかと思ったのかツッコミが入る。すっかり意気消沈した武道も居た。

  ◇

  テンションが下がる出来事もあったものの、餅を一口食べた武道のテンションが戻る。瞳をキラキラさせながら尻尾もまたブンブンと振っている。言われたことを忠実に守るようにもぐもぐと口を動かしていた。

  「タケミっち、イザナー、鶴蝶、食ってる?」

  「……!」

  「あぁ」

  「つきたてって美味いな!」

  マイキーが話しかけてきたが未だに武道の口には餅が入っていて話せない。

  だが、イザナは口数少ないが満足気だし、鶴蝶も美味そうに食べている。

  「美味いだろ? オレのオススメはあんこ!」

  「飯じゃねェ」

  「タケミチにはいいかもな」

  「……」

  「なんかずっと食ってね?」

  「そういや」

  話している間もずっともちもち食べていた武道。律儀によく噛めとイザナが言っていたのを守っていたらしい。

  「タケミチ、ある程度噛んだら飲み込むんだぞ」

  「んっ……おいし!」

  「そっか! まだまだあるからな!」

  「わんっ!」

  こうしてまた新たな一年が始まるのであった。

  ─────────────────────

  何十年に一度の寒波とニュースで流れているからか、関東でも珍しく雪が降り積もるまでとなった。

  豪雪地帯なら数センチなんて……と思うかもしれないが、都心の慣れてない地域では大変なもの。数センチでワーワー言っているのに、今年は大人の膝下あたりまで降るという大盤振る舞い。

  幸いにも会社はリモートもしているので問題もなく、またイザナや鶴蝶は事前に休みを入れていたので世間は大変だな……なんて他人事のように思っていた。武道が外に行きたいと言うまでは。

  以前にも天竺の面々と雪遊びをしたことがあるが、ここまで積もることは珍しい。瞳をキラキラしながら尻尾を振って見上げられてみろ。断れるヤツの顔が見てみてェなと思いながらも、イザナと鶴蝶は素直に厚着をしていた。仕方ない、可愛すぎるもの。

  「きゃわーん!」

  拙い人語はどこへやら。興奮で鳴きながらぼふぼふと新雪に飛び込んでいる。ある意味、雪の中を泳いでいるよう。

  「元気だな!」

  「元気すぎんだろ……」

  「この間より興奮してるな」

  「そりゃここまで積もってりゃな」

  大人な二人は積もっている手前で見守っている。跳んでは埋まり、跳んでは埋まりを繰り返して暫くは飽きなさそう。

  「イザナく! カクちゃ!」

  はふはふと息も荒く、鼻を真っ赤にしながらコッチに戻ってきた。全身雪まみれ。パン粉をかけられた揚げ物のよう。

  「雪まみれだな」

  「わふ、たのしー!」

  「だろうよ」

  ポンポンと軽く雪を落としてやるがまたすぐ雪まみれになるだろう。まだまだ遊び足りないと瞳が物語っている。

  「カクちゃも、あそぼ!」

  「よし! 遊ぶか!」

  「イザナく……」

  「……わかった。だがさっきのはやらねェからな」

  「わんっ!!」

  鶴蝶なら共に遊んでくれるだろうと誘い、それに反射で返事をする。チョロい男1である。

  またイザナの方をチラチラと見て遊んで欲しいと訴える。武道だからこそ仕方ないと重い腰を上げた。流石にあの雪の中を泳ぐようなのはいただけないので釘を刺すのは忘れずに。

  「ならイザナ、久しぶりにかまくら作らねェか」

  「かまくら?」

  「タケミチは作ったことない……よな?」

  「ん〜……ない?」

  「いいぜ、久しぶりに作るか」

  「なに、すればい?」

  「まずは雪集めだな!」

  イザナと鶴蝶が施設で作った時以来のかまくら作り。当時は上半身しか入らなかったが、雪も多く力もある大人となった今では、あの時よりも立派なかまくらが作り上げられた。

  ◇

  雪遊びを満足いくまでしてやっと室内へと入る。ついた雪を念入りに落として暖かい室内に入るが、武道の様子が少しおかしい。防寒着を外した武道はきゅんきゅんと小さく鳴いて、手のひらをしゃぶっている。

  「タケミチどうした?」

  異変に気づいた鶴蝶が座り込んで覗き込むと涙目になっている。思わずギョッとするが、武道の紅葉のように小さい手が真っ赤になっていた。

  「霜焼けか」

  「きゅーん……」

  ササッとイザナが抱き上げて足早に風呂へと向かう。そりゃあれだけ雪まみれになりながら遊んでいたら霜焼けにもなるだろう。風呂が溜まる時間も惜しいとばかりに、二人は浴室へと駆け込んだ。

  ◇

  風呂に入り、血行がよくなったのか先ほどよりかゆみはなくなったらしい。だがまだ気になるのか、手をカリカリと引っ掻いたりしゃぶろうとする。

  「手ェ出せタケミチ」

  「? わふっ」

  あかぎれ治療用の薬を丁寧に塗り込んでやる。あまり臭いが好ましくないのか、しかめっ面をしているがこれも治療のため……と心を鬼にして塗り込む。薬が塗れたら予備の手袋を付けてやり、引っ掻いたりしゃぶったりできないように保護。

  「治るまで取るなよ」

  「え〜……」

  「取るなよ」

  「わう……」

  イザナが圧をかけて外さないように念を押す。これには武道もしぶしぶ了承。耳も尻尾もしょんぼりしているが、これも武道のためだ。抱き上げてゆらゆらと揺らして機嫌を取ろうとするが、どうにも手が気になって仕方がないよう。

  だがそんなことも気にならないくらいのことがこの後起きる……食事の時間である。

  いつもなら下手くそでも自分で食べさせてもらえるが、霜焼けの薬を塗って手袋をしていることもあり、まさかのアーンである。

  「ほらタケミチ」

  「嫌がらず食え」

  「きゅーん……!」

  スプーンを差し出している鶴蝶も武道を抱き上げているイザナも引く気配が一切ない。

  今度から雪で遊ぶ時はもう少し自重することを心に決めながら、今は大人しく差し出させる食事を鳴きながら食べるのだった。

  しかし幼く単純な精神に寄ってしまっている今の身体では、次回にはスッカリ忘れて同じ過ちを繰り返すのであった。

  [newpage]

  モフフサネタ

  血で血を洗う争奪戦だった

  (疲れたな……)

  連日チーム内の揉め事を治めるために奔走し、その上敵対チームから抗争を吹っかけられたのもあり、武道はいつもより疲れ切っていた。

  体力はあるものの無限大ではなく限りはある。連チャンで来られたら流石の武道も辛かった。

  そろそろヤバいかも……なんて思っていたらやはり限界だったらしい。ぽふんという煙に包まれた。武道を包み込む煙。その煙の発生源も武道だった。

  「タケミっち!」

  近くに居たドラケンが慌てて近寄るが、煙が晴れるとそこには武道が着ていた特攻服だけが落ちている。本体は影も形もない。

  ハァ〜……とため息をつきながらドラケンが近くにしゃがみ込むと、武道の脱げた特服がもぞもぞと動く。

  補助をするのように服を開いてやると、そこから出てきたのは一匹のモフフサ。どことなく武道に似ている……と言うより本人だった。

  「〜ッ!!」

  声にならない叫びを上げてアワアワと慌てている。一通り慌てた後、急にスンッとなりポロポロと涙を落とし始めた。

  「……限界来ちまったか」

  「……ッ」

  特攻服を畳んで纏めるが元の人型に戻るには時間がかかるだろうと推察。だいぶ疲れた顔をしていたのに止められなかったことを悔やむ。

  モフフサになった武道もソッと片手に抱き上げてやる。スンスン泣いている姿がかわいそ可愛いなんて思うが、口に出すともっと拗ねることが想像できるので心の中に秘めておく。

  「ドラケン!」

  どうしたものかと思っていると同じように特攻服を抱えて駆け寄る場地の姿。両腕で抱えたぐちゃりとした特攻服の中から耳が見える。どうやら千冬も武道のようにモフフサになってしまったようだ。

  「千冬のヤツもなっちまった」

  「そっちもか……タケミっちも限界だったみてェでよ」

  「あー……なんかパタパタしてたもんな」

  二人……いや二匹を近づけるとお互いを慰めるようにギュッと抱き合う二匹。モフフサになると人語は発せなくなるが、モフフサ同士なら通じるものがあるのかお互いに何かを説明しているようだ。

  ひとしきり話し合うとお互いズゥンと落ち込む姿。またも感情に引っ張られて二匹ともスンスン泣き始めた。

  モフフサになると感情に引っ張られて素直になるが、泣くとなると相当限界だったらしい。こうなると戻るのに時間はかかりそうだ。

  「イザナー!?」

  「あ~大将限界だった?」

  「ストレス溜まってたんだろうなぁ」

  どうやら向こうでもモフフサ化した面子がいるらしい。鶴蝶の叫び声からイザナだろう。

  イザナも人知れずストレスを溜めがちで、よくモフフサになる一人だ。いつもなら武道が面倒を見るが、その武道もモフフサになっているので今回は難しい。

  「やっぱ一人なると連鎖的になるな……」

  場地が呟いている間にもあちこちでぽふんぽふんと煙が上がる。周りもワーワーと騒がしくなってきた。

  「今日の集会は中止だな……マイキーもなったのが見えた」

  階段の上で我らが総長もぽふんと煙に包まれる瞬間を見てしまった。気がつけばチームの半分がモフフサになっている。モフフサから人型に戻るにはリラックスできて、心身共に満たされる必要がある。

  「とりあえずまたマイキーとこの道場借りるか?」

  「だな……とりあえずモフフサになってねェヤツらで連れてって、そこで誰が面倒見るか決めねェとな」

  ◇

  ところかわって佐野道場。モフフサになった者達を一箇所に固めようとしたが、マイキーが武道に絡もうとしていたのを見て慌ててドラケンが離す。

  ゲシゲシと足に蹴りを食らって痛いが、ストレス溜まってモフフサになったのに、さらに溜めることになるのは可哀想だろという処置。

  「隊員は何とか決められて連れ帰ってもらったが……」

  「幹部はどーするドラケン」

  「ってもなぁ……」

  幹部勢でモフフサになったのは武道を皮切りに千冬、一虎、稀咲、マイキー、イザナ、蘭だった。

  「つか灰谷兄いつの間にモフフサなったんだよ」

  「めんどくさ〜って言ったら急に……」

  「……竜胆も大変だな」

  竜胆の腕の中でふんぞり返っている蘭。コイツ、本当にストレス溜まってるのか? もしかしたら自分の意思でモフフサになれるんじゃないかと疑問に思う。

  「とりあえず千冬と一虎はオレが預かるわ」

  「稀咲は……」

  「オレやるわ〜」

  「……めっちゃ動いて嫌がってねェか?」

  「ばはっ! 嫌がんなよ稀咲ィ」

  場地が千冬と一虎を抱え、稀咲を半間に渡すがビチビチと跳ねる魚のように嫌がっている。

  だが半間はそれすらもオモシロッなんて言って構っているので、コレは稀咲が戻るのに時間がかかりそうだ。

  「兄ちゃんはオレだな」

  「鶴蝶はイザナな」

  「あぁ、任せろ!」

  竜胆と鶴蝶の腕の中でふんぞり返る二匹。ストレス何それ美味しいの? と言わんばかり。マイキーはこのままエマか真一郎に任せるかということで落ち着く。

  さて、ここで問題が武道だった。

  「……タケミチはオレが預かるわ」

  まず声を上げたのは場地である。両腕に抱えられた千冬と一虎も大きく首を縦に振っている。

  「場地は二人もいるだろ。オレが預かる」

  待ったをかけたのは三ツ谷。後ろで八戒がタカちゃんなら安心だね! と援護射撃。

  「イヤ、漆番隊が預かろう。代理にはイヌネコも世話になってるからな」

  「オレが面倒を見る。タケミチとは幼馴染だしな」

  そこに待ったをかけたのは漆番隊の大寿達と春千夜。片や命の恩人、片や幼馴染という大義名分を出してくる。

  「待ってくれ! それならオレだって幼馴染だ」

  イザナを抱えた鶴蝶も参戦。イザナも当然とばかりの態度。

  「それならオレがこのまま面倒見るわ」

  抱き上げたままだったドラケンも名乗り上げた。マイキーももっふもっふと主張をしている。ケンチンが面倒見るならオレもと言ったところだろう。バチバチと互いに火花が散る。

  この後、云何十回目かになる『誰が武道の面倒を見るか争奪戦』が、モフフサになっていない者達だけで始まった。

  なお結果は、シレッとマイキーと武道とイザナを連れて行った真一郎が、漁夫の利で勝ちを得たと言っておこう。

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  ちょっとした春の風物詩

  日々の気温が暖かくなってくるとどうなるか。東卍の集会場所である武蔵神社では、とある光景が広がっていた。

  「おーい、マイキーのモフフサ落ちてたぞ」

  「あ、コッチにもいたっ!」

  五月病という言葉もあるくらい、ちょうど心地よい気温になるとやる気なんて皆無。むしろあばよ! と言わんばかりにグッバイしている。

  そのため、その人の本音がダダ漏れになるモフフサ達も正直なため、あちこちで寝落ちてたり転がっていたりする。

  集会が始まり、しばらくするとポンポンッ! とモフフサ達も出てくるが、大人しくしているのは最初だけ。総長のモフフサを筆頭にあちこち動きまくり、最終的に冒頭のような光景になる。

  モフフサによって本音がダダ漏れなので早々に集会も終わり、こうして散らばって転がっているモフフサの回収が始まるわけである。

  「ほい、タケミっち」

  「もう一匹追加な」

  「あの〜……」

  それぞれモフフサを一匹ずつ抱えていたのは、千冬と場地の壱番隊の二人。猫などの動物が好きだからか持ち方もしっかりと両手で抱えている。

  腕の中ではスヤスヤと大人しく寝ているのは、自分達とは別のモフフサ達。千冬と場地のモフフサ達はとっくに武道の周りで寝ていた。

  そして武道が困惑しているのも無理はない。毎回モフフサ達が転がり、早々に集会が終わると武道は石段に座らされ、みんなが回収したモフフサを積まれていく。隣には武道に頭を預けて仰向けで寝ている総長も添えて。

  「ふぁ〜……ねみィ」

  「場地さん、オレらもサクッと集めてさっさと寝ましょう」

  「圭介くん、千冬……なんで毎回オレんとこにモフフサ達持ってくるの?」

  「マイキー寝てちょうど動けねェだろ?」

  「タケミっちの近くだとモフフサ達も逃げねェから集めんのが楽」

  「だから動くなよ」

  「マイキーくん居て動けねぇからこっから動かねぇけど……」

  二人はぽふりと武道の傍にモフフサを置くと、さっさと集めるかとばかりに去っていく。

  武道の傍に置かれたモフフサ達は一度目を覚ましたがまだ眠たそうにし、短い手でベストポジションを探す仕草。良いところを見つけたのかそのままぽてりと寝た。

  「いや……みんなそれぞれ連れて帰れば話早いんじゃ……?」

  武道の呟きを聞いている者は誰もいない……と思われていたが、腕を引っ張る感触。

  武道のモフフサと共に腕を陣取っていたイザナのモフフサである。

  「ん? どうした?」

  「……」

  問いかけてみるものの基本モフフサは人語を話せない。あったとしても鳴き声くらいだろうか。特にイザナのモフフサは本人に似て寡黙である。

  たまに武道のモフフサがイジメられている時、そのイジメているモフフサに強烈な蹴りを食らわすことはあるが概ね大人しく、よく武道の腕を気に入って陣取り、定位置と言っていいほど武道のモフフサを横に置いている。本人(人間の姿)もこれくらい素直ならいいのにと武道は思う。

  ぐいぐいと腕を引っ張っているが何か言いたいわけではないようだ。

  「あ、もしかして寒かった?」

  「……」

  「ほら、入るか?」

  特攻服の前を開けて入りやすいようにしてやる。他のモフフサが起きてる前でやったら小さな大乱闘が始まっていただろうが、幸いにも他の子らは寝ているので問題ない。イザナのモフフサは懐に入ろうとしたが、途中でピタリと止まる。

  臭かったか……? なんて思うがイザナのモフフサの横で寝ている武道のモフフサに寄る。

  「一緒に入りたい?」

  「……!」

  「わかったわかった」

  腹天している自分のモフフサをそっと抱き上げる。片手で不安定にもかかわらず爆睡を決めていて、オレのモフフサ図太いな……と頭をよぎる。仕方ない、本能だもの。

  開いた特攻服の左側に自分のモフフサをソッと入れてやると、イザナのモフフサも自らの力で入ろうとする。ソッとアシストしようと思ったが、イザナに似て身軽なモフフサはスルリと入り込んだ。

  「気に入った?」

  「……♪」

  「風が入るから前はちょっと閉めるな」

  開けていた半分を閉めてやるととても満足気。上からイザナのモフフサを見ていると武道のモフフサにギュッと抱きつき、良いポジションを見つけてコテリと寝た。

  その光景を見てふむ……と思う。今度人の方のイザナにやってやろうか……人間を懐に入れるのは難しいから、膝枕か湯たんぽか……と考えている。

  だが、相手は恥ずかしがり屋(比喩)なためそう上手くはいかないだろう。

  ◇

  「タケミっち! 追加……」

  「どうしたドラケ……」

  「どうしたんスか二人共?」

  双龍の二人がモフフサを持って近寄るとドラケンが固まり、それを不思議に思った三ツ谷も武道を見ると固まった。特におかしいところはないはずなのに何かあったのかと問いかける。

  そこで二人の視線が武道の胸元にいっていることに気がついた。

  「デカ……」

  「タケミっちは女の子だった……?」

  「は?」

  いつもの兄貴分達のぶっ壊れ発言に武道もビキリと固まる。何をマジメな顔で言ってんだこの人達……と困惑。そこでハッと気がつく。胸元には二匹のモフフサが入っているということを。

  「違う違う! モフフサが中にいんの!」

  「あ……だよな」

  「……オレらも眠てェのか?」

  控えめに特攻服を開けて中を見せる。そこには仲良さげに眠る二匹。開けられて眩しそうだったのですぐに閉めたが、二人は納得したようだ。

  「そうだよな……生えるわけねェもんな」

  「今日はちゃんと寝るわ」

  「そうして、心臓に悪い……」

  話を聞くとドラケンは店の手伝い、三ツ谷は服飾で夜更かしをしていたとのこと。そのせいか二人の持っている自分達のモフフサもウトウトとしていた。

  それでも寝ていないのは二人の性格を現している。

  「まだ全部見つからない?」

  「あと二、三体らしい」

  「コイツら見ててくれ、大丈夫だとは思うけど」

  マイキーが仰向けで寝ている上に置いた。健やかに寝ている姿にイラッときたので小さな嫌がらせ。

  二人のモフフサも気持ちがわかっているのか、大人しく乗ってポジション探しにマイキーの上を動きまくっていた。何だかんだで肝が据わっている。

  「じゃ頼むな」

  「ソレ、瓦解すっからもうちょっとだけ開けとけ」

  「ウッス」

  兄貴分が言うなら間違いないし、息苦しいだろうからと耳が見えるくらいに開けておく。

  モフフサがぬくいので開けて自分も丁度いいし、胸元で寝ている二匹も心なしか幸せそうに見えた。

  ◇

  あれから待てども追加でモフフサを持ってくる人はいない。階段下や少し入った木々があるところからいたかー? やら、いねェなあの畜生共……と治安悪い声が聞こえる。

  武道の周りはみんなが見つけたモフフサで埋まっている。マイキーの上には双龍のモフフサがいつの間にか抱きついたような形で寝ており、マイキーを避けるように武道の周りにギュッとモフフサが団子のように寝ている。

  胸元には先程入れてやった二匹。実は頭の上にもマイキーのモフフサが覆い被さるように寝ている。

  「モフフサにまみれてるなぁ……」

  寝ているモフフサ達は大人しく、アニメでよく見るプリンセスのような状態。起きていたら治安は大変悪いので、寝ている限定になるが。

  ふと、特攻服の背中を引っ張られる感触。周りはモフフサ達で埋まっているため、動くことができないが何かが後ろから服を引っ張りながら登っている。恐らくモフフサだろうが、こういうことをするモフフサは誰のモフフサだろうか?

  千冬や場地のモフフサは仲良く目に見える範囲で寝ているし、一虎のモフフサもそこに混ざっている。マイキーのモフフサは変わらず頭の上、春千夜のモフフサは武道から見て右側に引っ付いている。

  九井と乾のモフフサも仲良く足元にいるし、近いとこに大寿のモフフサもいる。そろそろモフフサがゲシュタルト崩壊。

  本当に誰のだ? と思っていると姿の見えなかったモフフサはどうやら登りきったらしい。両肩からヒョコリと顔を出したのは灰谷兄弟のモフフサだった。

  「蘭くんのモフフサと竜胆くんのモフフサか」

  「♡」

  「♪」

  「めちゃくちゃ楽しげだね……」

  スリスリと武道の両頬に擦り寄っている姿は無害なケモ。だが喧嘩では蘭のモフフサも本人と似て警棒振り回したり、竜胆のモフフサもよく他人のモフフサを殴っているのをよく知っている。

  ずっと穏やかにしていればいいのに……と思うが、本能のまま生きている灰谷兄弟には無理だろう。

  肩に乗った二匹はそのまま苦しくないのだろうかと思う体勢でぽてりと寝た。布団を干してるみたいな体勢で寝ているため、余計に武道は動けなくなる。

  「誰か〜……」

  大声を出すと落としそうで、控えめに探している隊員に声をかけるが聞こえない。みんなが探している最後のモフフサは武道の肩にいる……そう伝えたいが、無理そうなので早々に諦めた。

  ◇

  「ここに居たのかよ、マジ灰谷……」

  「オーイ、居たぞー!」

  「つかタケミっち器用すぎね?」

  「色々と痛めそうだな」

  探していた隊員達がモフフサを集めていた武道のところに集まり始めた。最後に探していた灰谷兄弟のモフフサ達が武道のところにいることに気づいたらしい。モフフサにまみれている武道はその暖かさでスコンと寝ていた。

  頭に一匹、両肩に二匹、胸元に二匹、周りには大量、そして左隣に人間もいる。これだけ囲まれているのに本人はスヤスヤ寝ている大物である。

  「何とも幸せそうでムカつくな」

  「オレらも休もうぜ! 帰るのその後でもいいだろ」

  モフフサ達に当たらないようにゴロリと横になる場地に、そっスね!! と同意して同じように近くで横になる千冬。他の面々も疲れたーやら休むかー何て言いながら座ったり寝転ぶ。最後まで立っていた双龍もやれやれなんて言いながら階段に座る。

  どこからかハラハラと花びらが飛んでくる。いくつかモフフサ達に乗っかるがそれすら気にせず幸せそうに寝る姿に、こんな時間もたまにはいいかと思うのであった。

  なお、最後まで探すハメになった灰谷兄弟のモフフサ達は本人達によって逆さ吊りの刑に処され、モフフサ対人間のちょっとした殴り合いに発展したことも記しておく。本能のまま生きてるもの同士だから仕方ない。