べったーとかついったーに上げてた芸能パロまとめ
ちょっと修正だったり加筆してたりします
以下の要素を含みます
◇芸能パロで主にドルパロ、映画監督関連で纏めてあります
◆女体化、年齢操作、最終軸設定と何でもありな人向け
◇タケミチ愛され傾向強めです、特定のカプはなし
ページごとにお話を分けてあります
話によっては短め
目次
◇P2. キミはオレらの一番星
ドルパロ 女体化 精神は男で女子ズとアイドルグループ組んでる
◆P3. 伝説のアイドル
ドルパロ 年齢操作有り 初代とみっちが同年代 イザナとマイキーがみっちガチ勢
◇P4. 彗星のように現れたのは
ドルパロ 新人ほやほやドルみっち
◆P5. 昔も今もキミが一番
ドルパロ 上の伝説のアイドルの前日譚
◇P6. 人気者のdestiny
ドルパロ みっち争奪戦の前哨戦的な
◆P7. 武道監督の賑やかな日々
映画監督みっち 最終軸でモブがよく喋る
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キミはオレらの一番星
花垣武道、肉体年齢は十二歳。精神年齢は考えたくないが三十以上。
元タイムリーパーで小学生時代まで巻き戻り、共に巻き戻ったマイキーと共に誰も死なない未来に辿り着こう……と思っていたが、ここで一つ問題があった。
性別が男から女へと変わり、それによってマイキーから東卍入りを拒否されてしまったのだった!
「マイキーくんの分からず屋!!」
とあるカフェで怒りをあらわにしているのは東卍入りを断られた花垣武道。その横には橘日向、向かいにはマイキーの妹である佐野エマ、そして柴柚葉が共に居た。
「でもマイキーの言うことももっともだよ」
「そうだよ、ミチちゃんが殴られるのはイヤだよ」
「兄貴に殴られた時だってヒヤヒヤしたのに、わざわざ暴走族に入ることないだろ」
だが賛同は得られず、暴走族入りをしなかったことに賛成なようで武道は不機嫌になる。
「だってぇ……」
「集会には来てもいいって言われたんだろ。ならそれで我慢しな」
マイキーからも、女になって面倒をよく見てくれる柚葉達からもそう言われてしまうと、武道は何も言えなくなってしまう。
東卍結成前にはイザナ、柴兄弟、乾家の問題は解決しており、マイキーも共にタイムリープしているため大きな問題はそこまで起きていない。
だからこそ武道が東卍入りしなくても問題がなく、尚且つ女になってしまったことで暴走族に入れないのが悔しかった。
「オレだけ仲間外れとかさぁ……」
「うーん、確かにタケミっちって小さい時からマイキー達と一緒だったもんね」
「……でも私はミチちゃんと一緒に居られる時間が増えて嬉しいよ」
「……ヒナァ」
「ハイハイ、メロドラマはそこまでにしな。仕方ないから今日はとことんタケミチを甘やかしてやるよ」
だがこの日……武道を含めてこの四人が、以前の世界線とは違う未来を辿るとは、思ってもいなかったのである。
◇◆◇
────二年後、武道は十四歳になった。
結局東卍入りはできなかったものの、武道は別の方法で全国制覇を果たそうとしていた。
そう、アイドルとして……!
どうしてそうなったと言われたらキッカケは愚痴を言っていたあの日と言える。
あの日四人でカフェを出た後、有名プロダクションから声をかけられ、エマのマイキー達を見返してやろう! という一言でアイドルとしての道に足を踏み入れた。
当初は周りから反対の声が大きかった。武道の両親は喧嘩をしないのならと賛成してくれていたものの、昔からの幼馴染が全員反対していたのである。
だがそこはエマの「マイキー達ばっかタケミっちにダメダメ言って可哀想」の一言で黙らせた。佐野家長女で常に佐野家の男達を黙らせているだけに、誰も言い返せなかったのがでかい。
またヒナの両親が渋い顔をしたものの、武道ちゃんがいるなら……と一緒にアイドルを目指すことを許可してくれた。結果が出なければアイドルを辞めるという約束をしたが、今のところその問題はない。
武道は周りの顔面偏差値で感覚が狂っていたが、武道を含めグループの顔面偏差値は高い。
柚葉のかっこよさ、エマの綺麗さ、武道とヒナで双子のような可愛さ……それらが揃ったグループのため、人気が出るのは約束されていたようなものだ。
四人のグループ『clovers』には初めから固定のファンが居たことも大きい。
マイキーを筆頭に幼馴染達東卍、柚葉の兄であり武道に恩のある大寿含めた黒龍、エマの義兄でもあり深く関わっていたイザナ率いる天竺。またそこに元初代黒龍もいる。
柄は悪いが顔が良く、金もあるヤツらが応援しているのだ。話題にならない訳が無い。勿論、普通の男性ファンもいるがマイキー達は目立つ。
また初めはマイキー達、ファンのファンな女の子も多かったが、同性にも人気があるメンバーばかりのため徐々にあの子ら良くない? という気持ちの芽生えから最終的に女性ファンを獲得できたのも大きい。
そうしてトントン拍子で地下アイドルから即メジャーデビューし、二年後にツアーをやるまでに成長していた。
◇◆◇
「いや! なんでだよ!!」
今日も武道の嘆きの声が響き渡る。
場所は楽屋。今日はライブ&握手会のため本番まで時間があり、メンバー全員控室にいた。
「出たよ、タケミチの嘆き」
「や! だってそうでしょ! オレはともかく、みんなは綺麗だったりかっこよかったりするからわかるけど何でオレ!?」
「んもぅ、ウチはそう言ってくれて嬉しいけど、タケミっちは自分を卑下しすぎ!」
「そうだよ! ミチちゃんは可愛いよ!」
「ヒナとタケミチで双子みたいで可愛いって言われてんじゃん」
「そうだけどそうじゃなぃぃぃ!!」
ヒラヒラふわふわのアイドル衣装。初めはスースーする感覚に慣れなかったが、ここ最近それも慣れてきていることが悲しい。
武道はここまで有名になるとは思ってもいなかったのだ。地下ドルでちょっと有名になって、マイキー達を見返す……ただそれくらいのつもりだったのにトントン拍子にことは進み、今や全国レベルで有名になってしまった。
そして何より精神的にキツイ。言動は男の時のままなのに、周りからは可愛いとかそれがいいとか言われ、チヤホヤされるが中身はいいおっさんなのだ。
まだ柚葉のようにかっこいいと言われてたらマシなのにと思うが、そのむくれている姿が可愛いと言われる要因なことに武道は気づいていない。
「どうせ今日もアイツら来てんでしょ」
「メインはタケミっちの応援だもんね」
「ミチちゃん人気者だね!」
「身内なんだよなぁ……毎回心臓に悪い」
初めは反対していた幼馴染や顔見知りも、一度武道のパフォーマンスを目にしたらすぐ沼へとハマった。元々ハマっていたところに追い打ちをかけられたといってもいい。
普段はぽやぽやしてるわドジして泣くわといった面をしているが、ここぞというパフォーマンスの時には心が決まるのかギャップがあり、それが武道ファンの心を掴んで離さない。
普段の可愛さは鳴りを潜め、かっこよさや妖艶さといったものが全面に出るのだから、人間ギャップ萌えには弱い。いつも男みたいな格好をしていたのに、急に可愛い格好をしたギャップ萌えもあっただろう。
「……まぁ、アレを見せられたらなぁ」
「アレはズルいよねぇ」
「そこがミチちゃんのいいとこだよね!」
「ねぇ……! またオレ置いて納得しないで!」
残念なことは本人が無意識でやっていることか……言ったところでまたまたぁ! と信じない。
本番前だがはしゃいでいると扉がノックされた。入ってきたのは武道達のマネージャーをしてくれている乾赤音。九井経由で紹介され、デビュー当時からマネージャーをしてくれている。
本人曰く、武道には恩があるためと言っているが、もしかしたら一番最初から熱心に応援してくれているのは赤音かもしれない。よく袖で団扇とペンライトを振っているし、ファンからも顔のいいグループ推しマネージャーと認知されている。
「元気でいいけどもうそろそろ本番だからね」
「はーい」
「今日も来てたよ」
「おぉう……」
いち早くステージから客席を見た赤音は、顔見知りが今日も変わらず居ることを告げる。地下アイドルからデビューして欠かさず応援してくれるのは有り難い……有り難いが、中身のおっさんが赤面して恥ずかしいと泣いている。
中身を知ってるマイキーですら、楽しんで応援しているものだからお察し案件。武道が何を言っても彼らは応援を止めないだろう。
「さぁて、じゃあ行きますかね」
グループのリーダーでもある柚葉が立ち上がり、メンバーに笑顔を向ける。
「今日もマイキー達をびっくりさせてやろ!」
最近は兄や身内を驚かすことが面白いと言っていたエマも立ち上がる。
「今日も頑張ろうね! ミチちゃん!」
かつての世界線では彼女であり、現親友でもあるヒナが笑い、武道に向かって手を伸ばす。
「……あぁ。頑張ろうな」
みんなが笑顔でいるならいいんじゃないかと思う。
自分が女になるなんて些細なこと……いや、些細じゃない。中身のおっさんは泣いている。
だが世界を越えるのも驚きだが、性別も変わるとなると武道にはどうしたらいいのかわからない。うまいこと付き合っていくしかないんだよなぁ……とヒナの手を握り立ち上がった。
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伝説のアイドル
アイドルの中に伝説的存在がいる。グループの名前は黒龍。佐野真一郎をリーダーとし、メンバーに今牛若狭・荒師慶三・明司武臣……そして花垣武道の五人からなる。
破竹の勢いでアイドルとして頂点を駆け登り、デビューして僅か一年で全国ツアーを周るようになった。真一郎の実弟であるマイキーも義弟であるイザナも黒龍のファンで、いつか共に舞台に立ちたいと夢見ている。
実兄の真一郎に憧れているのかと聞かれればもちろん憧れているが、アイドルとしてファンで共に立ちたいと願うのはメンバーの一人である花垣武道とであった。
メンバーの中では一番小柄、カッコイイというよりも可愛い。大きな瞳が印象的で他のメンバーから弟のように可愛がられている。マイキーもイザナもファンはファンでもガチ恋に近いかもしれない。
よく二人は喧嘩をしていたが、目標は同じだった。同じ舞台に立ちたい。そのため二人は黒龍が所属する事務所のレッスン生として日々研鑽を積んでいた。
実兄がメンバーの一人であれば、花垣武道に会わせてもらえるのではないかと言われるが、それはプライドが許さなかった。会うならばコネではなく実力で、そういったところは血が繋がっていなくても似ている二人である。
◇◆◇
黒龍の全国ツアー最終日を飾る東京ライブ。マイキーとイザナは共に会場にいた。会場は盛り上がり絶好調。ヒットナンバーを次々と歌い上げ、時間的にもうそろそろ終わりも近い。
汗を流しながらも爽やかな顔をしている黒龍の面々。次の曲へと移る前にMCが挟まり、真一郎が話し始める。
「全国ツアーも今日で最後だな」
「色んな地域に行けて楽しかったっスね」
「マ、悪くなかったんじゃない」
「ワカがそう言うってことは良かったってことだな」
「違いない」
公私ともに仲が良く、MC中でもそれぞれ楽しそうにツアーを振り返る。そんな中リーダーの真一郎が真剣な顔をして話し始めると、他のメンバーも同様真剣な顔になり、真一郎に視線を向ける。
ファンもガラリと変わった空気に戸惑いながらも真一郎の言葉に耳を傾けた。
「この一年……駆け抜けた一年だったと思う。ぶつかったり挫折しそうになった時もあったけど、こうして全国ツアーは今日が最終日だ」
ライブ会場とは思えないくらい会場はシンと静まりかえり、真一郎の言葉だけが響く。
「オレらの目標、全国ツアー。無事に終わりそうでホッとしてる。そしてアイドルとしてやりたいこともこの一年でやり切ることができた」
やり切ることができた。
その言葉にもしかしてとざわつくが、真一郎は気にせず言葉を続ける。
「これは全員で話し合って決めた。それを報告するのもツアーの最終日にしようってことも……オレ達黒龍は本日を持って解散する!!」
数秒、時が止まったかのような静寂からの悲鳴。マイキーもイザナも勿論同様で、ファンの中には泣いている声も聞こえた。
「ごめんね、皆驚いたっスよね」
次に武道の声が凛と響く。武道の声を聞きたいのに頭は真っ白。周りも必死に声を抑えながらその声を聞き漏らさないようにしている。
「オレらのやりたかったこと、全部黒龍のお陰でやれたしサイコーの仲間にも出会えた。そしたらさ、今度は次のやりたいこと……できちゃったんスよねぇ」
「次はオレがアイドルを育てて、そいつらに夢を見せてやりてェな」
「オレはその真一郎の手助けがしてェ」
武道の声に続いて真一郎と武臣が夢を語る。
「オレ、アクション好きだからそっちかな」
「オレもだな。スタントとかやりてェな」
ワカもベンケイも自身の身体能力を生かしてアイドルとは別の方面への夢に思いを馳せる。
「オレは役者やって撮る楽しさを知った。だからオレは監督を今度は目指したい」
最後に武道がキラキラと輝く瞳で目標を皆の前で語る。アイドルとして頂点に立ったかもしれない。それでも彼らの瞳は夢で溢れていた。
「そしたらおもしれぇよなって話になったよな」
「そうそう。タケちゃんの映画監督作品で、オレらが出演。そこにシンちゃん達の育てたアイドルも出るとか!」
「楽しそうだよなー」
「アイドルで天辺取ったから、そしたら次のステップ目指すのが漢ってもんだろ?」
急な報告で悪ィ……でも皆には応援して欲しい。
そう真一郎が締め括る。五人が全員頭を観客に下げる。痛いくらいの静寂。
「がんばれー!」
一人のファンの声を皮切りに次々と言葉が飛び交う。応援してる! これからも見てる! ファンの声は重なり、会場を埋め尽くす。
「……ありがとな!」
頭を上げた真一郎の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。他の四人にも同様だ。否、武道は滝のように流していた。
「みんなに知ってもらいたかったから今日報告した! 驚かせてごめんな! でもまだライブは終わりじゃねェ! 最後まで走り抜けるぞ!!」
ライブ最後の楽曲が流れ始める。目には涙を浮かべようが泣いていようが彼らはアイドルだ。この日彼らの全国ツアー最終日、そしてアイドルとしての最後のライブは伝説となった。
後日、マイキーとイザナは黒龍が解散するということは、大好きな武道との共演ができなくなるということに気づき、真一郎に襲撃をかけるのはまた別の話。
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彗星のように現れたのは
東京卍會、略して東卍。カッコいい不良をコンセプトにしている佐野プロダクション所属のアイドルグループ。
このコンセプトのグループは東卍で三組目。初代から十代目まで続く黒龍、黒龍八代目を務めた黒川イザナが立ち上げた天竺。そしてここ最近、破竹の勢いで快進撃を起こしている東京卍會。
黒龍は脈々と代を重ね、天竺は入れ替わりはあるもののほぼ固定。東京卍會は一年前に二期生を増員メンバーとして入れて活動していた。
◇◆◇
「そういや聞いたか? 今度のツアー最終に追加メンバー発表されるかもだと」
「あ~……八戒のヤツが何か言ってたな」
とあるレッスン室。次の全国ツアーに向けてそれぞれ練習していたある日。休憩中の場地が三ツ谷へと話しかける。
追加メンバーについても三ツ谷は把握しており、年下で今はレッスン生の八戒が言っていた言葉を思い出す。
「オレ! 絶対絶対三期生に受かるからね! タカちゃん!!」
目をキラキラさせて言ってきていたなと思い返す。アイドルのレッスン生だが、モデルとしての仕事も最近始めたと言っていたので、強力なライバルが居なければ上がってくるだろう。
だがここで三ツ谷から激を入れると何か空振りそうだと思ったので、興味なく頑張れよと一言だけ言って逆に変に絡まれたことまで思い出した。匙加減が難しい。
「オレが目ェかけてるヤツもレッスン生にいるんだよな」
「ふ~ん。上手いのか?」
「多分?」
「目ェかけてんのに?」
「他に居たらわかんねェだろ」
「それはな」
あの場地が目をかけてるというのは珍しく、そうなるとその人物も上がってきそうだ。
場地は楽しそうに、アイツもアクロバットな動きがうめェんだよ! なんて言っている。余程気に入ってるヤツらしい。
何人上がれるかはそれこそ社長である真一郎や明司達が決めることだが、三ツ谷も場地も見る目はあると自負している。
「そういやドキュメンタリーみたいに配信してるみたいだな」
「あ~……みてェだな。見たことねぇけど」
「ねェのかよ、オレもねェけど」
「マ、こっちが忙しいからな」
ただでさえ冠番組やゲスト番組、人によってはドラマや映画などに呼ばれ多忙を極めている。またライブツアーが入っているので、自分達のことで手一杯だ。
場地はライブのアクロバティックな演出部分をドラケンと考えているし、三ツ谷も衣装や物販と多忙。
帰ってからも台本読みや身体のメンテナンスと忙しく、最近他の作品を見たりすることができてないなと思う。忙しいことはありがたいが少し休憩も欲しいくらい。
「また増えんのかよ……」
二人が会話をしていると、間に入ってきたのはマイキー。東卍で総長という役職でリーダーを務めている。
歌やダンス以外にも最近ドラマにも呼ばれ、多忙な一人。
黙って立っている姿はミステリアスな一面を持っているように見えるが、口を開けば幼さを感じさせる口調と笑顔のギャップ、そして持ちうるカリスマでファンを獲得している。
実際の中身はただの子供。身内でわちゃわちゃするのが大好きなイタズラっ子だが、知らない者が入ってくるのをあまり好いていない。
今はクビになったが、過去に東卍に入ってきた者で馴れ馴れしいヤツがおり、ソイツに引っかき回されて常にマイキーが不機嫌になるという事件もあった。
二期生は元々幼馴染の春千夜やマイキーが直々にスカウトしてきた河田兄弟もいたので問題なかったが、三期生はそうはいかなそうだ。
二期生が入ってくる時と比べて格段に忙しくなり、三期生のチェックなんてとてもじゃないができない。
「安心しろよマイキー。オレが目ェかけてるヤツなら上がってくる」
「八戒も何だかんだで上がってきそうだな」
「……オレ、知らねェし」
むすりと頬を膨らませて二人の間にしゃがみ込む。コイツはしばらく機嫌直らないぞと二人は呆れた顔をしたがマイキーは気づかない。
だがライブツアー最終日。場地の言う通り三期生の発表があるのだが、そこでマイキーの考えは真逆へと変化する。
◇◆◇
ツアー最終日。ラストの曲に入る前に三期生の発表。三期生が東卍のデビュー曲を歌った後、共にラストの曲、一度袖に捌けてからアンコールへと続く段取りだ。
だが三期生は誰が上がるのか当日まで秘密。まさかの既存メンバーまで秘密にされた。
こういうのはサプライズがピッタリだろ? と言ったのは真一郎。マイキーにとって、誰が上がって来ようが関係ない。ただ今いる仲間と楽しくやれればそれだけでよかった。
「ここでオマエらに発表がある!」
副総長のドラケンが上げる声にファンから「なーにー?」と揃えたように声が返ってくる。ファンは配信を見ていて、今日が三期生の発表ということも薄々わかっているようだ。
「わかってるかもしれねェが三期生の発表だ! だがオレ達もどいつが上がってくるのか知らねェ!」
社長からコレを見ろってよ! とドラケンが声を上げるとステージに備えつけられている大モニターにドリームプロジェクトの文字。
「オレらも大人しく見とけって。オラ、オマエら席に座れ」
スタッフが持ってきた椅子に各々座り、会場が暗くなるとどうやら配信のダイジェストが流れる。
笑顔で自己紹介するシーン、スタジオの隅で泣いていたり、胸ぐらを掴み合うくらいに怒っている姿など次々に映し出される。
ファンも見てきた者ばかりなのか、小さくこんなことあったねやらこの時はビビったなどの声が聞こえる。
「ケンチン、オレ興味ねェ……」
「マイキー……真一郎くんが決めたことだ」
「でもさぁ」
「真一郎くん言ってたぞ、マイキーが気に入りそうなヤツがいるってよ」
「オレが?」
マイキーの好き嫌いが激しいことを知っている真一郎が言うほどヤツ……そんなヤツ居るのだろうかと顔を上げると、映像だがキラキラした瞳をしたヤツが目に飛び込んできた。
「オレ! 東卍のみんなが憧れで! だからここに居れることがすっげぇ嬉しい!!」
映像越しでも分かるほど興奮している瞳、頬も紅潮して興奮しているのがわかる。そんな姿に目が離せない。
「みんな一緒に上がれたらなって思うけど、それは無理だってことはわかってるんで……でも! それくらいの気持ちで挑みたいです!!」
本心からの言葉だということがわかる。純粋に、ただひたすら真っ直ぐで、それがマイキーの心に刺さる。
「武道くん、めちゃくちゃ成長したよね」
「ねっ! 最初みんな仲良くなかったけど最後の方なんて武道くん中心に仲良くなってたもんね」
ファンの声からあの瞳の持ち主が武道という名前を知る。
「武道……タケミっち、ね」
マイキーが小さく呟いた声は誰も反応せず、みんなモニターに夢中になっていた。
ダイジェストが終わり、いよいよ三期生の発表となる。社長である真一郎も舞台上に現れてファンから熱い声が上がった。
真一郎から三期生は三人と発表され、その枠の中に先程武道と呼ばれた彼が入ることをマイキーは少し期待する。
始めに呼ばれたのは柴八戒。スラリとした手足、バランス感覚もよくダンスをしながら歌う姿が流れるが、メンバー入りもおかしくないレベルだ。
次に呼ばれたのは松野千冬。映像で憧れの人は場地さんです!! と言い切ったのが印象的。その宣言通りアクロバティックな動きも得意で歌もできる。場地が小さくやったな千冬と言っていることから、彼が目をかけていたヤツだろう。
最後に呼ばれたのはあのキラキラした青い瞳で魅せていた花垣武道。二人に比べたら劣るところはあるものの、その姿から目が離せない。アイドルとして魅せることに一番長けているのかもしれない。
奈落が迫り上がり、選ばれた三人が出てくる。真ん中に武道、両隣に千冬と八戒。だが既に号泣している武道に二人が寄り添ってるという訳が分からない図で迫り上がってきた。
「オイオイ、もう泣いてるのか?」
司会をしている真一郎が茶化す。それに対しだってだってと泣きながら武道が抗議しているが、何を言っているのかサッパリ。
ほら泣きやめよ相棒。歌わなきゃならないんだぞ武道! と共に選ばれた二人から慰められている。
そんな三人の姿に、誰もがライバルとなり互いに蹴落とさねばならない環境だったのに、この仲の良さに東卍メンバーは驚く。
「いけるか?」
「ッ……いけます!!」
涙を拭ったが未だ赤い目。ファンからの頑張れー! と声援が次々に飛ぶ。
位置につき顔を下げる三人。あの特徴的な瞳が見られないことが酷く残念に思えた。
東卍のデビュー曲。歌唱にしろダンスにしろ新人にはレベルが高すぎると当時言われた。その曲を三人が踊り歌う。
千冬と八戒はダンスとサブコーラス、そしてメインはあの武道だった。ボロボロと泣く姿が嘘のように、その姿と歌唱で魅せてくる。
曲の最後に近づいてくるともう終わってしまうのか、もっと見ていたい、魅せてほしいと思わせるその姿はもうとっくにアイドルだった。
湧き上がる歓声、東卍メンバーも同じように盛り上がっていた。三人も肩を組んで喜んでいる。司会の真一郎を無視して、マイキーが三人へと近寄った。
「……」
「マ、マイキーくん」
表情なく近寄ったマイキーにビビる三人。この業界にいればマイキーが身内には甘いが他人には厳しいという噂をよく耳にした。
武道の憧れは東卍の中でも一番の憧れはマイキーだ。気に入らない……そう言われてしまうのではないかと思うと身体が震える。
だがそんな心配は余所にニコリと笑顔を浮かべた。
「武道……だったよな?」
「うっす、花垣武道です」
「うん、じゃあやっぱタケミっちだ」
「へ?」
「オマエらー!」
話しかけられたことにテンパりつつ答えると急なあだ名付け。そんな武道のことは置いてけぼりにマイキーのマイクからファンへ声をかける。
「今日からタケミっちと千冬と八戒。東卍の仲間になるからよろしくな!!」
総長から直々の紹介。ファンも東卍のメンバーも盛り上がり、武道達三人もジワジワと喜びがまた迫り上がってくる。
こうして不安があった三期生は、総長を筆頭にファンからも暖かく迎え入れられたのだった。
なお、マイキーの武道の気に入りは想像以上で、社長である真一郎から小言を貰うほどになる。
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昔も今もキミが一番
佐野家のテレビが置いてあるリビング。いつもなら口喧嘩どころか、手も脚も出て本気の喧嘩にまで発展する二人……イザナとマイキーが大人しくテレビを見ていた。
画面から目を逸らさずに、下手したらまばたきも最低限に見開いて見ている。瞳孔も開いてそうでその姿は猫のよう。
微動だにせずテレビを見ているので、扉を開けて入ってきた真一郎がビクリと驚いたのは言うまでもない。
「な、何だ何だ? どうした二人共」
「真一郎、うっさい」
「ちょっと黙れ」
「……なんだよ」
声をかけてもうるさい黙れと言われてしまった。テレビの微かな音すらも聞き逃したくないらしい。
真一郎も同様にテレビを覗き込むと、そこには同じグループのメンバーである武道の姿。
歌っているのはデビュー時のソロ曲。動きはぎこちなく、歌も上手いとは言えない。それでも今と変わらない笑顔とファンサに、根本は変わっていないのだと感じさせる。
「懐かしいなー……ん? どうしてコレ、オマエらが見てんだ?」
「真一郎の部屋にあった」
「……世間ではそれを泥棒って言うんだぞ万次郎」
「真一郎、ちょっと黙れ」
「イザナ……」
どうやら真一郎の部屋に保管していたのを勝手に持ち出して見ていた。イザナもマイキーも武道のことが大好きなことは真一郎もよく知っている。ファンとしての好き以上じゃないかと思うくらい。
その武道が絡むと兄に対しての扱いが雑になる。ここまで邪険にしなくても……と悲しくなりつつも、真一郎も大人しく座って共に映像を見始めた。
緑色をメインにしたアイドル衣装。まだ自分達がデビューしたばかりで、小さいライブ会場でしかできなかった時の映像だ。
デビューしてからもうすぐで一年。このライブがキッカケに売れ始め、あの時とは比べものにならないくらい色んな体験をさせてもらったし、ライブツアーもデカい会場でさせてもらえるようになった。なんなら来週からそのデカい会場を使ったツアーが始まる。
ふと真一郎の頭にアイデアが浮かんだ。本番一週間前、構成はほぼ作り終わっている。だが今思い浮かんだアイデアをねじ込めば、最初からファンでいてくれる人達も新規の人達もみんな楽しめるのではないか。
ライブ構成や演出を考えている武臣には苦い顔をされるだろうが、ワカやベンケイは喜んで了承しそうだし、武道もファンが喜ぶならと了承してくれるだろう。天秤は理性よりも面白さが勝った。
思い立ったが吉日、善は急げ。未だテレビに夢中な弟達を尻目にリビングから抜け出し、電話をかけることにした。
「もしもし、ちょっといいか? 来週のライブ構成で話があるんだけどさ……」
◇◆◇
黒龍ライブツアー初日。東京公演から始まり、これから全国を回って最後にまた東京に戻ってくる。
イザナとマイキーは東京初日のチケットをもちろんゲットして本日参戦している。
真一郎や武道から関係者チケットを渡そうかと言われたが、チケットを勝ち取ってこそ真のファンだと断った。
当たらなかったら当たらなかったで、誰かしら犠牲者が出る可能性もあったため真一郎がこっそりチケットを確保していたが、その問題もなく無事自力でゲットできたようだ。
通常なら喧嘩ばかりの二人だが、武道が出るというライブになると協力的になる。少しでもチケットが当たる確率を上げるためなら協力も惜しまない。
席は良席中の良席。発券した時にまさかの最前列とわかり、思わず互いに固く抱き合ってしまったのは誰にも言えない。イザナとマイキーの二人を知っている者から見たら、二度見どころか三度見は軽くするレベルだ。
ライブが始まる。最新のアルバム曲を次々と歌い上げる。二人の視線は常に武道を追いかけてペンライトのカラーももちろん緑、うちわもファンサが貰えるように常に振っていた。
しかし最前列というのはまさに夢のようで、これでもかとファンサを貰える。見知った顔というのもあるだろうが、いつもよりたくさん視線も合う気がする。それはイザナもマイキーも共に同じことを考えていた。
「オマエら盛り上がってるかー!!」
曲と曲の合間、MCの時間もただひたすら視線は武道を追いかける。アルバムの制作秘話やライブツアーの意気込みを話し、途中アレンジしたアコースティックバージョンの曲も披露。ライブならではといった感じだ。
「じゃあここで武道は一旦着替えで捌けるから」
「ねぇ真一郎くん、本当にやるの?」
「オマエ、今本番だぞ……やるに決まってんだろ」
「腹くくらなきゃタケちゃん」
「行ってこい」
「変更までしたんだから行け」
どうやら武道は次の曲のために一旦捌けるらしい。だがどこか乗り気ではないのが珍しい。他のメンバーからも次々行けと言われて、チラチラと振り返りながら捌けていった。
「次の曲は分かりきってるけど武道なんだけどさ、みんなビックリするかもな」
「オレらも驚いたけどネ」
「本番一週間前にねじ込んでくるんだぜ……」
どうやら真一郎のワガママで急遽決まった演出ということがわかる。武臣がゲッソリしているのがいい例。
どちらにせよ着替えに行っているのは武道一人なのでソロは確定だ。イザナもマイキーもワクワクが止まらない。
「おっ、準備できたみたいだな」
「みんな楽しんで」
「オレらは一旦捌けるぞ」
真一郎達が捌けると暗転……そして突然の音楽、光と共に飛び出してきたのは武道。
その衣装は一週間前にテレビで見ていたデビュー時の衣装。それを見た瞬間、ライブ会場に悲鳴が満ちる。
古参のファンはまた見られる喜びに、最近ハマったファンは見られないと思っていた驚きと人それぞれ。イザナとマイキーはというとキャパオーバーで言葉を失っていた。
「いっくぞー!!」
デビュー時と比べて格段に上手くなっている歌唱とダンス。もちろんファンサも破壊力が違う。しゃがみ込んでこちらに手を差し伸べてくるその姿に目が離せない。
くるくるとステージ上を動き回るその姿に魅せられ、ペンライトを振る腕に力も入るというもの。
「ど、どうだったかな? デビューの時以来に歌ったけど……」
曲も終わり少し不安そうな武道が話すが、それをかき消すくらいの歓声。その歓声に嬉しそうに笑う推し、プライスレス。
「よかった〜! 一週間前に真一郎くんが急遽入れよう! って言ってきたから、必死に思い返したんだよね」
武道のその一言にピンとくるイザナとマイキー。ライブツアーが終わったら真一郎を褒めてやろうと思った。
が、そう思ったのはライブツアー最終日を迎える日まで。
まさかのライブツアー最終日、黒龍解散の言葉を聞くとは今のイザナとマイキーは思ってもいない。二人の人生で上げて落とされたのは黒龍が最初で最後だった。
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人気者のdestiny
アイドルグループ『東京卍會』所属、花垣武道は色んなところに顔が利くし、人気者である。
気難しい大御所俳優や監督、末端のスタッフにもニコニコ話しかけて仲良くなること多数。
違うグループである黒龍や天竺の面々にも好かれ、黒龍では特別企画として十一代目リーダーに仕立て上げられ、天竺ではよくイザナの命令で番組に呼ばれまくり準レギュラー扱いされていた。
ソレに対して面白くないのが東卍の面々。同じグループなのにここ最近は他のグループばかり。
「オレのなのに」
「オレら、な」
頬を膨らませて不機嫌そうなマイキー、それを宥めるドラケン……だがそのドラケンもあまり機嫌は良くない。
「この間も黒龍のヤツらに呼ばれたと思ったらまた天竺!」
「タケミっち、最近役者も始めたから会えんのもオレらの番組かライブくらいか?」
「アイツらばっか!」
「ちょっとここ最近酷いよなァ」
総長と副総長のオーラが不穏なものになりそうな時、本人にとってはタイミング悪く、マイキー達にとってはナイスなタイミングで入ってきた人物が居た。
「お疲れ〜! 仕事の話持ってきたぞ!」
社長の真一郎である。鴨が葱を背負ってノコノコと現れたようなもの。この好機を逃す二人ではなく、真一郎を見つめる二人。
「な、なんだなんだァ?」
これから二人に詰められるとは思ってもいない真一郎の運命や如何に……! と言いたいところだが、残念ながらマイキーとドラケンというコンビに対して真一郎に勝ち目はない。
◇◆◇
社長が詰められているとは露知らず、武道は天竺の配信番組にお邪魔していた。本日もお呼び出ししたのはイザナ。武道がいると天竺の面々も比較的(当社比)穏やかで、スタッフも武道を呼ぶのを良しとしている。
「イエ〜イ、今日はハマに来てんぞ〜」
「オレらのシマは六本木だけど、ハマはどっちかって言うと大将や鶴蝶が詳しいよな」
「おう! よく中華街は食べ歩きに来てるな!」
「だからか、やたらと手ぇ振られてんじゃん」
「顔覚えられてるのウケる」
灰谷兄弟のゆるい感じで始まった番組。毎度のことなのでファンには慣れたもの。むしろこの始まりでないと天竺じゃないとまで浸透している。
本日は外ロケ。しかもイザナや鶴蝶がよく知る横浜中華街。天竺の面々は横浜に慣れているが、一番慣れているのはやはりイザナと鶴蝶だろう。
「今日のゲスト……っていうかもうメンバーでいいんじゃね?」
「社長から許可下りないんだって兄ちゃん」
「めんどー鶴蝶だってそう思うだろ?」
「いや、まぁ、そりゃメンバーだったら嬉しいけどよ……」
「ほらな、ってことでひよこちゃんなー」
「せめて名前で言ってよ……ふぐっ」
名前もキチンと紹介されず、自ら言おうとしたところにイザナから肉まんを口にインされる。
「飽きた」
「もごっ……まだ、ロケ始まってないよ」
「ウルセェ。ありがてェだろ施し」
「食べられないなら無理すんなっていつも言ってんじゃん」
「下僕が食うからいいだろ?」
「澄んだ目で首傾げるじゃん……」
まぁいいけどともぐもぐ咀嚼。あまりにもぐだぐだな始まり。だがファンには素の天竺が見れると大変好評だったりする。
「おっ、いたいた」
「イザナー!」
「獅音、声でけェ」
合流してきたのは望月、斑目、武藤の三人。全員揃ってから始めないあたり自由奔放すぎる。周りで見学していたファンも天竺の主要が揃い、黄色い声が漏れ聞こえる。
「あ、ロケ始まってるから」
「ハァ!? どうせ蘭がムチャ振りしたんだろ!」
「獅音センパイ、今日は大将」
「イザナなら仕方ねェか」
「掌ドリルじゃん」
ウケる〜と笑って言いながら、未だ肉まんを食べている武道にダル絡みしている灰谷達。鶴蝶は武道の頬についてる食べカスを取ってやったりしてせっせと世話している。
「で? 今日は何すんだ?」
唯一、天竺の常識人とも言われる武藤が軌道修正しようとする。
こういうふうに番組進行やロケで自由にする天竺の面々を正そうとするから、最近『天竺の保父さん』なんて言われていた。本人は複雑そうな顔をしているが、否定できないところが少し悲しい。閑話休題。
「ハマロケ」
「主旨を言え」
「中華街の魅力をもっと伝えるために、天竺メンバーイン花垣武道がぶらりロケをする! って企画みたいっス」
「……助かる花垣」
押しつけられた肉まんを食べ終わったのか、ぺかぺかの笑顔を武藤に向ける。いつも上げている髪はセットされておらず、下ろされているので遠慮なく頭を撫で回した。撫でられている本人は、わひゃーなんて言いながら喜んでいる。パッと見は犬と飼い主。
「行くぞ」
だが真の飼い主を主張するイザナの一言により、強制的に連れて行かれた。王様の言うことは絶対。予定は未定をそのまま地で行く外ロケが始まった。
◇◆◇
思いのほかトラブルもなく、誰かに喧嘩をふっかけることもなくロケは順調に進んでいた。アイドルなのにと言ってはいけない。
「ひよこちゃん、人気じゃん」
「最近ドラマに出させてもらったり映画でちょい役もらったからっスかね?」
「あ、オレ最近それ見た」
「ほんとっスか竜胆くん! 嬉しい!!」
「お、おぅ……」
ロケで回っていると揃っている天竺の面々に黄色い声が上がることが多いが、武道も単体で声かけられることが多々あることから最近ドラマや映画に出た話が出る。
それを見たと発言した竜胆が武道の笑顔に被弾していたが、他は無視して会話を進める。
「チョイ役だけど重要な役だったんだって?」
「そうっスね、主人公の初恋で既に病死してる幼馴染の兄ちゃんって設定でした!」
「元気よく言う内容じゃねェ!!」
「だからか、たまに涙ぐんでるヤツ居たの」
「それに手ェ振ってトドメ刺してたな」
「ひっでェ」
「あれぇ!?」
初めてということで大役は貰えていないが、チョイ役でもかなり重要な役を任せられていた。人徳もあるがもっと別の面もある。
「でも次にやってたのサイコパス殺人鬼役だろ?」
「ギャップやべェ!!」
「儚げ兄ちゃんから一変して目に光ない花垣はヤバかったって」
「マジ? 帰ったら見てみるか〜」
所謂カメレオン俳優、憑依型俳優とも言われる素質を持っていた。その役に合わせてガラリと雰囲気も変えてきて、お茶の間のファン含めて仲間内も驚いたものだ。
「で? 今度は何に出るんだったか言ってみろ」
「わ! イザナ!」
先程まで傍観していたイザナも武道の肩に手を回して絡んできた。わちゃわちゃと団子になりながら歩くのは一般人なら迷惑だが、カメラも回って人が避けているので問題ない。むしろツラのいい男達がわちゃわちゃしているのは大変良い。
そんな中、ニヤニヤと笑いながら語るイザナ。後ろの鶴蝶もニコニコと笑っているので、他の面々は何故そこまで上機嫌なのかわからない。
「え! それまだ言っちゃダメなんじゃ!?」
「じゃあ聞くか……オイ!」
「……頭に丸掲げてる」
「大丈夫だろ、オラ言え」
「言い方がカツアゲ……えーっと詳しい内容は避けるけど、オレとイザナとカクちゃんで映画出ます」
「何だそれ!!」
「聞いてねェ!!」
「え〜オレも参加してぇ〜」
「兄ちゃん、今からでもいけるんじゃね?」
一気に騒がしくなるし、周りもキャーキャー言っている。果たしてロケとは……となりかけた時に乱入の影。
興奮してこっちに来た一般人かと身構えたが、そこにはよく見る人物達。
「聞いてねェぞタケミっち!!」
「もしかしてアレか? チョロチョロ抜けてたのソレか?」
「マイキーくん! ドラケンくん!!」
マイキー、ドラケンを筆頭に東卍メンバーがずらりと揃っていた。先程周りが騒がしかったのはコレかと納得。
「あ~……スマン、マイキーにドラケン……その映画オレも出る」
「オレも〜!」
「三ツ谷と一虎も!?」
「ツラのいいヤツ集めた映画かよ!」
「……花垣はちげェな?」
「ひっでぇ!!」
だがここで裏切り発言。まさかの東卍メンバー内で共に出るヤツが居た。思わぬ伏兵に周りがさらに騒ぐ。
東卍メンバーが乱入してきてロケは一時中断。てんやわんやするスタッフ達を後ろに、映画に出演する面々は知らなかった者達に詰められることとなっていた。
「で? 他に誰がいるんだよタケミっち」
「えっと……知り合いはあと二人居て……半間と大寿くん」
「わかんねェメンツだな……」
「コレ以上は言えないっス! 怒られちゃう!!」
「で? 何でオマエらがハマにいる」
武道の懇願により映画に関してはコレ以上詰められなかったが、どうして横浜に東卍メンバーが来たのか疑問しかない。
青筋を立てながらイザナが問うが、返答によっては蹴りが飛びそう。
「それに関してはハイこれ、真一郎から!」
ニコニコの笑顔のマイキーから手渡されたのは真一郎からの手紙。そこに書かれていた内容を読むイザナの額に青筋が増えた。
◇
一時中断していたロケも再開。そこには横一列に並ぶ東卍と天竺。真ん中にはしょぼしょぼ顔の武道。両手どころか全身を幅広い布で巻かれて、頭に大きくリボンが乗っかっていた。周りのギャラリーは何が始まるのかとざわついている。
「後半から東卍対天竺で対決してくっぞ!」
「拒否してェ……」
「何で後から来たトーマンと対決しなきゃなんねェんだよ」
「真一郎から許可貰ったからな! そっちが勝ったら次回放送にオレら数人プラスタケミっちの同行を許可すっけど、負けたらそっちから何人かこっちの番組にゲストな!」
ニコニコの笑顔でマイキーが告げる。武道との機会が少ないならばコッチから作ってやる! と社長である真一郎を脅し……お願いした結果である。
この方法であれば武道と共に番組に出られるし、負けなければいい話である。勝ったら相手側からゲストが何人か来るが、そしたらそれはそれで武道と番組共演ができるので問題ない。
元々武道は東卍である。文句を言われる筋合いはないとマイキーはドヤ顔だ。
その顔にイザナの額にさらに青筋が増えた。煽り耐性(特に対マイキー)が低いから仕方ない。
そんな事情があり、武道は可愛くリボンでラッピングされている。拒否権なんてものは最初からない。
「どうしてこうなっちゃったかなぁ……」
「浮気性なタケミっちが悪ィ!」
「フラフラしすぎなんだよ相棒」
「人気者だからなァ」
「オレらより仲良くしてんのがムカつく」
どうやらマイキーとドラケン以外にも鬱憤は溜まっていたようで、この勝負にノリノリな東卍メンバー。それに対して面白くないのは天竺の面々。
「さっさと天竺に入れとくべきだったな……」
「合法的に奪ってやろうぜ大将」
「アイツらに負けるわけねェじゃん」
ギラギラといつもよりやる気を見せている。確実に権利を奪うつもり満々。普段のやる気の無さはどこへやら。
「オ、オレのために争わないでぇ〜……」
武道の声も虚しく、戦いの火蓋が切られた。
余談だがこのことを知った黒龍も名乗りを上げ、どうにでもなぁれ! とヤケになった真一郎により、大々的なイベントになる。
◇◆◇
後日、武道と謎メンバーが出ると言っていた映画の関係者試写会。東卍、天竺はもちろん、黒龍とオールスター勢揃いで観に来ていた。
「出てたオレらは結末知ってるが……オマエらは見ねェ方がいいんじゃねェか?」
「出たヤツの自慢?」
「見てェから集まったのにそれはねェよ大寿」
「……もう何も言わねェよ」
どこか気まずげに、忠告をする大寿だが聞く耳持たない者ばかり。言ってもわからないなら見させるしかねェかと早々に諦めた。
なお、大寿以外に出演したヤツらはニヤニヤとどこか含み笑いをし、武道は大寿達の会話が聞こえないように三ツ谷よって耳を塞がれていた。
「楽しみだなァ……ばはっ!」
半間のこの一言をもっとよく考えていれば良かったかもしれないが、映画という名の餌に飛びついた面々は気づかなかった。
映画の内容は家庭に問題のある面々が集まり、不良になり、そこから裏社会へと堕ちていく話。どこの世界線だなんで言ってはいけない。彼らはアイドルである。
大寿が一人一人仲間に入れていき、裏社会に堕ちながらも仲間を大事にしている絆。その絆の要が武道でどういったラストになるのかと最初はワクワクしながら見ていた。
しかしどんどん不穏な空気になり、絆の要である武道がイザナを庇い死んだことにより、また一人また一人とバラバラになっていく。救いはそこになければないですねと言わんばかり。
ラストはお察しのバッドエンド。映画が終わると面々は泣き崩れていた。話の結末を知っていた演者陣も映像で見るとまた違ったのか地味にダメージを受けている……いや、半間はその光景に笑っているので除外。その姿にアイツに人の心はねェのか……と稀咲が思っていたが間違っていない。
「だから見ねェほうがいいって言ったろ……」
大寿が改めてそう言うが、反応を返せる者は誰一人としていなかった。
出演者含めて、ギッチギチに武道を抱きしめているのが答えだろう。
[newpage]
武道監督の賑やかな日々
東京卍會が解散してから数年。それぞれの夢に向かい努力している日々。会う回数は少なくなったが、年に何回か元東京卍會の幹部クラスの面々は集まって飲み会を開いていた。
今日も柴大寿の店を貸し切り、他人に邪魔されることなく楽しんでいる。普通の店でもいいのだが、今や有名人もチラホラいるための対策だ。
「あ! そうだ!」
「どうした?」
声を上げたのは総長代理だった花垣武道。一昨年、映画監督デビューを果たし、何本も映画がヒット。来年明けてすぐに新作公開があるくらいには売れていた。
「聞いてくださーい!」
立ち上がり、集会を思わせる声で飲んでいた面々に声をかける。なんだなんだと武道に視線が集まった。
「どーしたタケミっち」
「えっと、来年新作映画公開するじゃないっスか」
「オレらもエキストラで出たヤツか?」
「久しぶりにガチの殴り合いしたよなー」
「ですです! で、バラエティーに呼ばれて」
「どんな?」
武道の口から出たのは日曜夜に放送している人気芸人が司会の番組。毎回ゲストを呼んでその人の過去や人となりを放送している。
聞いた面々からもあーアレなーとかタケミっちも有名になったな! と声が上がる。
「それでオレの過去写真とか出されるんスけど、思いきり不良で族だったこともバレると思うんですよ」
「まぁ事実だしな」
「隠してねーし?」
「みんなのことも聞かれるとは思うんですけど、喋っちゃっても大丈夫です? もし仕事に支障あるって人は喋らないようにするんで……」
ただでさえ武道を気に入っている面々。常日頃から協賛させろ、エキストラ参加させろ、隙あらば番宣させろと言っている猛者ばかり。
逆に武道から自分達のことを話してもらえる。あわよくばどんな風に思っているか話してもらえるということで誰からも拒否は出なかった。
後にこれが原因で、トレンドを掻っ攫うことになるとはこの場にいる誰もが思ってもいなかった。
◇◆◇
ピロン! と軽快な通知音。スマホに目を向けるとそろそろ目的の番組が始まる五分前。
「オイマイキー! そろそろタケミっちが出る番組始まんぞ!!」
「楽しみだね〜」
「あっぶねー! セーフセーフ、ケンチン録画は?」
「バッチリ」
オフシーズンで龍宮寺家にお邪魔しているマイキー。ドラケンとエマと共にテレビの前で待機。本当は同じマンションに住んでいる武道も呼ぼうと思ったが、自分で自分を見るのは恥ずかしいらしく辞退していた。
その分、後日食事に行く約束を取り付けたのでマイキーもドラケンも内心ウキウキである。
「しっかしタケミっちも売れたよなぁ」
「オレらで番宣とかしまくったしな」
「みんな色んなところで言ってたもんね〜」
始まるまでああだった、こうだったと話していると番組が始まった。司会芸人のトークが始まり、武道についての話題が出てくる。
リアルな描写に定評があり、来年には新作公開も控えている新進気鋭の映画監督……という謳い文句。
うちのタケミっち凄いだろ! と昔から知っている三人はニコニコと見てしまう。
『それではゲストの登場です!』
テレビから聞こえた音声に少し身体も前のめりになってしまう。画面に映ったのは少し緊張気味のいつもよく見る武道だった。
◇◆◇
「花垣武道監督です! ようこそー!!」
扉が開き、スモークが立ち込める。いつもならカメラを回して指示をする側なのに、まさか自分が撮られる側になるとは思ってもいなかった。
緊張している武道の顔は強張っているだろう。仕方ないじゃないか、こちとら映画監督。役者ではないのだから大目に見てくれと思う。
「よ、よろしくお願いします!!」
始まればあとは度胸と根性で乗り切るしかないと、腹から声を出す。どうやらあまりのデカさに客席でビビった人が何人もいたのが見えた。申し訳なさで少し小さくなる。
席に座り、武道の経歴が年表で書かれたボードが出てきた。書かれている年表は十代のところは特に変わったことは書かれていなくて平凡。
ここ最近の映画や評判が物凄く褒められていて、端から見ると同一人物か怪しく見える。
「年表も出たし、今日は花垣監督の幼少からの写真も持ってきてもらいました! まず一枚目オープン!」
出てきたのは佐野道場でみんなで撮った写真。スイカを食べている一面。マイキー、場地、春千夜にエマ、後ろに真一郎や万作も写っている。
「可愛い写真!」
「幼馴染の一人が道場やっててそこでのっスね」
「……なんか花垣監督、顔変わってないね?」
「え!?」
「つかこの子ら……見たことあるような?」
「あ、そっスね。一人はレーサーで、もう一人は配信者やっているので」
「あ! やっぱそうなの!?」
会場がざわつく。司会もだが客席からもチラホラマイキーやら明司兄弟の……という言葉が聞こえた。
「何人か言ってるんですけど、レーサーやってる佐野万次郎とコッチが配信者やってる明司春千夜っスね」
「えー! 有名人じゃん! いやオレもだけど!!」
ドッと会場が沸く。マイキーや春千夜のファンも居たのだろうか、キャーキャー言う声も聞こえた。
「幼馴染でいつもよくして貰ってるんですよ」
「あ~……よく番宣とか勝手にしてるよね」
「ありがたいです」
許可も得ずに番宣をしまくっているので有名な二人。マイキーは優勝インタビューなのに映画の話をするし、春千夜は毒舌だけど蓋を開ければベタ褒めしている。
それを知っている者達は、武道のこと大好きだから今頃発狂しているんじゃないかと生暖かい目をしていた。間違いではない。
「じゃあ次〜」
次のパネルでは武道は金髪になり、同い年くらいの複数人の子達とピースをしている普通の写真。
「やっぱ顔変わってないな!?」
「そんなことないですって!」
「金髪になってるけど顔変わってないよ! 中学デビュー?」
「色々やってたのがこの時からですね」
「何かやたらとケガしてない?」
え、もしかして虐められてた? やら虐待? なんて言葉が客席からも上がり、慌てて武道は否定する。
「虐めとか虐待とか全く無くて! どっちかって言ったら喧嘩!!」
「喧嘩!? 弱そうなのに!?」
「まぁ……弱いですけど……」
「だよね!?」
「なんか納得されてる!?」
「ん? 何々……衝撃の写真があります?」
人が良さそうで人畜無害。喧嘩と言われても一方的にボコられそうな見た目。パシリにされていたと言われても納得しかないが、スタッフに出されたカンペを読み上げ、疑問を浮かべながら次のパネルを捲った。
パネルにはバチバチにカスタムされたバイクに跨る武道と先程幼馴染だと紹介したマイキーの二人。着ている服もいわゆる特攻服と呼ばれるもので、どこからどう見ても暴走族だった。
「族じゃん!!」
「ハイッ!」
「元気よく返事する内容じゃないよね!? え、これ佐野選手出てるけど大丈夫!?」
「本人含めてみんなから許可貰ってるんで問題ないっス!」
「えぇ〜……」
司会はドン引き、客席もざわざわとざわついている。きょとんとした顔をして不思議そうに首を傾げている武道が異質に見える。おかしいのは武道の方。
「暴走族やってた人に見えないんだよなぁ……」
「こん時はヤンチャしてましたねぇ」
「族をヤンチャで片づけていいの?」
「喧嘩や抗争はいっぱいしましたけど、誰も死んでないんで!」
「んんん~??」
どうにも落差のある会話に風邪をひきそう。この時からSNSのTLはざわつき始めていた。
「佐野選手写ってるけど、もしかしてさっき他の写ってた子らも……」
「幼馴染もみんな同じ族でしたね!」
「ツラのいい暴走族だなぁ!!」
ツッコミが止まらない。ツッコミだらけだから仕方ない。司会がはぁはぁと息切れしながらカンペを読み上げる。
「次は〜? もう何が来ても驚かないぞ……えっと? 花垣監督の謎すぎる交友関係?」
ぞろぞろと大量のパネルが持ち込まれる。先程より数が多いがさっきよりも驚きはないだろうと高を括る。その考えこそ命取り、何せ相手はあの花垣武道である。
「もうめんどくさいから一気にオープン!!」
捲られたパネルはだいたい武道とのツーショットやスリーショットの写真。しかし共に撮っている相手が相手だった。
「待って……待って!? どこからツッコめばいいんだ!? でも言わないと始まらないから端から……この人ら、TK&KOの……」
「幼馴染とダチなんスよ。有り難いことによく協賛名乗り出てくれて!」
「こっちは飲食で有名な」
「柴大寿くんっスね! 大寿くんとこの飯美味くって、よくロケ弁頼んだり仲間内で飲む時にお店貸してくれます!」
「有名デザイナーとモデル……」
「三ツ谷くんと大寿くんの弟の八戒! 三ツ谷くんには特服やタキシード作ってもらったり、八戒は一緒にボーリング行って遊んだりしてますね!」
他にもNPO法人の代表だったり、やたら顔のいいバイク屋、世界的に有名な写真家、ナイトクラブで有名な兄弟、有名なペットショップやラーメン屋などエトセトラ……謎すぎるしキャパを完全に超えている。
「待って、情報多い!! 客席みんなぽかーんってしてるよ!?」
「みんなすごいっスよねぇ! ダチとして鼻が高い!!」
「そうじゃないんだよなぁ〜!」
のほほんと花を飛ばしながら答える武道に、司会が台を思いきり叩く。ツッコミしかないし、ツッコまざるをえない。
そして司会はとあることに気づいてしまった。
「え、この人達ももしかして……」
「族仲間ですね!」
今日一番の笑顔。もう止めて、司会も客席もキャパオーバー。
「一生分ツッコんだ気ィするわ……」
「えへへへ」
「殴りてぇ、この監督……さて告知!」
「ハイッ!」
「元気いいな……素直かよ」
映画のパネルを武道が持ち、カメラ目線を決める。その瞳は自慢の友人達を紹介できて嬉しいのかキラキラしていた。その姿に何人か沼に叩き落とされただろう。ようこそ武道沼に。
「来年一月公開する映画『そこに居た僕ら』がいよいよ公開です! 十代の青春真っ盛りの少年達が主役の笑いあり涙ありの映画になってます! 十代ならではのキラキラした青春を楽しんで下さい!!」
「ちなみに見どころは?」
「不良同士の抗争ですね!」
「青春に抗争ぶち込むな暴走族!!」
「えっ!?」
武道の人となりやそのキャラ、司会とのやり取り、色んな要素が合致しまくった結果、トレンドを総ナメしたのは言うまでもなく。
そこに話題のレーサーや配信者が武道との思い出を語るものだから、さらにそれは広がり祭りのようになった。
新年から公開の映画は、それはそれは盛り上がったという。
◇◆◇
テレビ放送で花垣武道監督を知り、映画に興味を持った女が一人。噂の映画を見に来ていた。
普段血なまぐさいものは苦手だが、あのキラキラした監督の作品が気になり足を運んだ次第。
血なまぐさいのはもちろんあったが、笑いあり涙ありは監督が発したとおりで最後はハッピーエンド。もう一度足を運んで見てもいいと思うくらい良かった。いや、もう一度見に行こうと既に心に決めていた。
「それにしても……」
思い返すのは監督も話していた抗争シーン。主人公はたまたま巻き込まれ、喧嘩には参加していなかったが、やたらと顔のいいエキストラが多かったように思う。しかも演技ではなく、ガチで殴っているようにも見えた。
ふと気になり、SNSで検索をかけると女と同じ感想を持つ者がたくさんいた。
なんなら出演した本人が呟いているのも流れている。
「花垣監督のこと、大好きすぎでしょ……」
大当たりである。
花垣武道監督大好きな友人達は、過去の作品を見るとわらわらと出てくるし、今後の作品にも準レギュラー的な扱いで出てきて、エンドロールのNG集にも出る程になるのはわかりきった未来だった。
◇◆◇
某月某日、映画撮影スタジオにて。
役者を使った撮影は終わり、後はエキストラを大量に使った撮影を残していた。主役が巻き込まれてしまった抗争の撮影である。
ゾロゾロと入ってくるエキストラ。ツラがいいヤツやちょっとした有名人がいる。ほぼ元東卍の面々だ。
「ってかみんなよかったの?」
「だって久しぶりの喧嘩だぜタケミっち! そりゃ参加するっしょ!」
みんなに声をかけたのはマイキーを筆頭に副総長をしていたドラケン、イザナに大寿である。呼ばないと後から文句が出るだろうと下っ端含めて声をかけまくった結果、大人数になったのは言うまでもない。ある意味武道の人徳もある。流石の人たらし。
「こんだけ居れば二つに分けれそうっスね」
「じゃあ監督のタケミっちが分けてよ」
「オレぇ!? いいけどさぁ……」
じゃあ折角だからとドリームマッチみたいな組み合わせでとどんどん分けていく。マイキーとイザナを一緒にし、大寿とサウスを共に。乾と九井は離さずに、敢えて灰谷兄弟は分けてみたりと好きなようにやってみた。
「どうっスかね!」
「……タケミっちがいいならいいけどさァ」
「あれ? 不満気?」
「流石花垣だな」
「誰にもマネできねェよ」
「あれー?」
褒められているようで褒められていない。原因が何なのか武道はわからない。周りは仕方ねェなと諦めムード。手伝うと言ったのは自分達だし、これで文句言って降ろされたら元も子もない。だが顔は不満気だった。
「なぁ花垣〜」
「どうした半間?」
「コレ、ガチで殴っていいヤツ?」
ばはっと特徴的な笑い声で聞いてくる。ガチで殴るという発言にスタッフ含めてギョッとした。
「や! 殴っちゃダメでしょ! あくまでフリ!」
「でもよ〜リアルさ求めたらガチのがいいんじゃね?」
「そうかもしれないけど……」
「オレも写真撮るからわかっけどさ、リアルかそうじゃねェかってすーぐわかんじゃん?」
「そう……かも……?」
良いように丸められそうになっている。が、冷静に考えたらダメである。
だがしかし、周りは元暴走族。喧嘩が好きなのはデフォルトみたいなもん。スタッフは萎縮して言えず、あれよあれよという間にリアルの殴り合いが決定してしまった。
一応最後の理性が働いたのか、顔を怪我したくないヤツは後ろ。殴られても問題ないヤツは死なない程度にと言ったが焼け石に水。抗争シーンは大変リアルな……ガチの抗争が撮れたことを知るのは撮影に関わった面々だけである。