真夏の牛タン報告書:「言語化による対象再認識の関係性進展効果について」

  ここはオリエントシティ。

  ひときわ大きいターミナル駅は、平日でも人で溢れていた。

  こちらはそこで人を待っている真っ最中。

  待ち合わせ時間をちょうど過ぎたところで、相手も間もなく着くはずだ。

  それにしても今年の夏は暑い。空を見上げれば眩暈を覚えるほど白く輝く太陽。

  その肌を焼かんばかりの暑さに、ジュースかアイスでも……と思うものの、さすがに待ち人が到着してからにしたい。

  結構な人混みだったが、目当てのその人を見つけられない心配はあまりしていなかった。

  なぜなら――。

  「よおー!」

  人の垣根を超えて響く声。

  そう。なぜなら、その人はどんなところでもよく目立つからだ。

  それはもう、デカいので。

  ■真夏の牛タン報告書:「言語化による対象再認識の関係性進展効果について」

  こちらに手を振っているのは、赤毛と赤い鉱石のごとき角が目を引く牛獣人だ。

  遠目でも、ボディビルダーかと見まごう体躯ですぐわかる。

  ボストンバッグを肩に下げて、今日はラフな恰好の私服。シャツもパンツもパッツパツである。

  「オブシディウスさん!」

  こちらも手を振る。

  その獣人は、デカい身体で通行人にぶつかり――そうになっては意外に身軽にかわしつつ、人混みを抜けてこちらにやってきた。

  「よお、久しぶりだなあ。遅くなってスマン」

  目の前で止まる――と思いきや、ほとんど突撃するように接近してきて、がっしりと肩を組まれる。

  デカい。暑い。更に体温が上がるんですけど!

  「ちょ、苦し……!」

  「……オイ、なんで『さん』付けなんだよ」

  そしてわざと怖い顔と声で言ってくる。

  知らない人が見たらコワい人に絡まれているようにしか見えないかもしれない。

  「いや、なんか会うの久々で仕事モードが……」

  「他人行儀ヘコむだろうが」

  「ごめんて!」

  分厚い胸板をばしばし叩くと、ようやく離してくれる。

  それで少しは満足したのか、オブシディウスは男くさい顔でにっとわらった。

  「なんてな。俺もちょっと距離感忘れてたから、ちょうど良かったぜ」

  「ホントに~?」

  いつも会うたびに、激しく頭を撫でられたり肩を組まれたりしている気がするけど。

  「にしても、急な連絡で悪かったなあ」

  「大丈夫。こっちも有給溜まってるし。――学会」

  「おお。教授の都合で急に延期になってなあ。ぽっかりスケジュールに穴開いちまったんだ」

  それで彼から連絡をもらったのが数日前。

  せっかくの貴重なまとまった休みということで、急遽こちらに泊まりに来ることになったのだ。突発的な夏休みである。

  こちらの仕事もちょうど閑散期だったこともあり、そんな理由で彼が来ることを話したのもあり、土日に有給をくっつけて取る許可がもらえた。

  「つーわけで」

  オブシディウスは、大きな体をまっすぐにして頭を下げた。

  「ちっとの間だが、世話になります」

  さすが礼儀を重んじるタイプ。

  改まって言うその姿が、なんだか可愛くておかしい。

  「うん。こちらこそ、よろしくお願いします」

  「ほら、やっぱ他人行儀じゃねえか」

  「そっちこそ。今はそういうネタでしょ」

  二人で笑い合う。

  ――彼とは他の惑星の、とある事件で知り合った仲だ。

  その後も連絡を取り合って何度か会っていたのだが、今回はしばらく間が空いてしまっていた。距離感が、というのはあながち冗談でもない。

  連続して泊まりに来るのも初めてだし――。

  「……なんだよ、人の顔じっと見て」

  「いやーやっぱり、実物を目の前にすると実感が」

  「意味わかんねえ」

  オブシディウスはごほん、と咳払い一つして、

  「あー、まあ、まずはメシにするか? ここらのメシってやっぱ美味いからよ。楽しみにしてきたんだ。お前と食うの」

  「食べたいもの決まってるの?」

  おう、と力いっぱい頷いて、彼は吠えた。

  「焼肉だっ!」

  なるほど。夏だ。

  「おおー、ブチ上がるぅ!」

  近場の焼肉店に移動して。昼時だから店内はなかなかの賑わい。

  ざわつく空気にあてられて心も踊る。そして我々のテーブルの上に所狭しと並べられた肉、肉、肉。

  これでテンション上がらないことがあろうか。いや、ない。彼にならって言えばブチ上がる、だ。

  「好きだね、肉」

  「おう、身体が資本だからな! お前も食えよほらほら!」

  立ち昇る、肉が焼けるいい匂い。オブシディウスがガンガン焼いて取ってくれる。

  白米と合わせてかき込めば、肉の味が口の中いっぱいに広がる。この食べてる感、最高。

  もしゃもしゃと野菜も頬張りながらオブシディウス、

  「先に追加頼んどくぞ。いいか?」

  「うん」

  注文用のタブレットに手を伸ばして、が、すぐにこちらに寄越した。

  「……頼んでくれ」

  「まだダメなのこういうの……」

  「前も言ったけどな、俺は専門外の機械はダメなの、壊しそうで!」

  「それって物理的にってことじゃない?」

  「うめえなー、肉!」

  聞こえないフリをされた。

  「今更だけど……肉ってさ、気にならないの?」

  「あ? 何がだ」

  「だって牛肉だよ?」

  他意もなく、ふと思いついてしまったので聞いてみた。

  まあ、獣人の知り合いもたくさんいるし、正直、今更過ぎる質問ではある。

  それでも牛獣人は珍しいから聞きたくなってしまったのかもしれない。

  オブシディウスがどんな顔をするか見てみたかった……という気持ちもある。

  が、逆に彼はあまり理解できないという顔で口を開いた。

  「獣人と動物じゃハナから全然違うだろうが。そんなもん同一視どころか比較さえしねぇよ」

  「学者っぽーい」

  「学者だっつの」

  ジョッキの残りを一息で飲み干すオブシディウス。ちなみにウーロン茶。

  「そういうイジりあるけどよお。――お、じゃあさあ」

  何を思いついたか、焼けた肉を箸で掴んでこちらに向けた。肉汁がぽたぽた滴る。

  なぜか死ぬほどニヤニヤしている。いやらしい顔。

  「ほれ、牛タンだぞ。タンの意味知ってるか? ん?」

  「…………」

  「俺のタンだと思って死ぬほどしゃぶれよ、ほらあ」

  お手拭きを投げつける。さっとかわされた。

  「食事中は下ネタ禁止!」

  「下ネタじゃないですうーお肉の部位の話ですうー」

  唇を尖らせて反論してくるおじさん。子供か。

  「俺のタンとか言ってんじゃん!」

  「やらしーなお前」

  「そっちだよ!?」

  バカ話も久々に会ったのと……夏のせいだ。たぶん。

  ――そんなこんなでたらふく食べて店を出ると、また昼過ぎの暑い空気に包まれた。

  早くもシャツの下でじっとりと汗ばむのがわかる。夏が過ぎる。

  暑さはあまり気にしないのか、オブシディウスは満足そうに腹をさすって、

  「食ったー。はー、久々の肉、ブチ上がったなあ」

  「もー食べられない……」

  あの追加の肉の後に、さらに麺、ご飯、デザートのアイスまで。

  美味しかったけど、こちらとしてはしばらく焼肉はごめんこうむりたい。

  「あ、ごちそうさま」

  「おうよ」

  会計は彼が出してくれた。こちらも半分出すと言ったけど、こういう時は譲らないタイプなのでまあここは素直に。

  美味しそうに食べる顔が見れただけでも嬉しいし。

  「このあと、どこか行きたいところある?」

  訊いてみる。せっかくこちらに来れたのだ。このまますぐ家に帰るのも惜しい。

  「んーそうだな……。おっ、そうだ。ジム」

  「ジム? 前着てた水着もらったとこ?」

  「ああ。こっちにもチェーン展開しててさ、会員利用できるみたいなんだよ」

  「じゃあこの休みの間も使えるんだ」

  「そう。設備もちょっと見たいし。行こうぜ。一緒ならお前もゲストで入れる」

  「でも、ジム用品持ってきてないよ」

  「俺のシャツとハーパン貸してやるよ。デカいだろうけど、見学くらいならいいだろ」

  それなら、と頷いた。

  隣を歩きながら、肩に担いだボストンバッグを叩くオブシディウス。

  「その水着も持って来てんだ。行けたらプールか海も行こうぜ」

  「めっちゃ遊ぶ気!」

  「そりゃな。お前に会える時間も限られてるし……よ」

  そんなこと、ちょっと気恥ずかしそうに言うわけで。

  グイグイ系のわりに、そういうことは恥ずかしいらしい。かわいい。

  ――こっちだって、そりゃもっと会いたいとは思うものの、彼は今まさに第一線で活躍中の研究者。どうしても実際に会える機会は多くない。

  そう考えると、この時間はなかなかレアな、降って湧いた幸運と言えた。

  「――――」

  なんとなく、そのぶっとい丸太みたいな腕を取って抱える。

  左右に引っ張ってみたりするが、もちろんびくともしない。

  「……なんだよ、急に」

  「いや、腕太いなーって」

  「外でそんなくっつくんじゃねえよ。あっちーな」

  とか言つつ振りほどいたりしないし、こっそり彼の尻尾がこちらの腰に触れていたりするのだけど。

  「暑さ感じてたんだ」

  「俺のことなんだと思ってんだ、おお?」

  結局いつものごとく、頭をぐしゃぐしゃされた。

  ジム。受付前に設置してある来客用の待合スペース。

  カウンターで書類やらを記入していたオブシディウスが戻ってくる。

  「お、結構似合ってんな」

  「そう?」

  こちらは先に着替えて待っていたが、予想通りというか、借りた服はかなりぶかぶか。パンツは紐をきつく締めているが、シャツはどうしようもない。

  「ん。それ、やるよ」

  「いいの? でも着る機会あるかなあ」

  「まあ持っててくれりゃさ、最悪は俺が」

  「あー、来た時着れるね」

  「さすがにお前の借りるわけにはいかねえからなあ」

  そんな会話をしつつ、置いてあった飲み物を渡す。

  「これ、プロテインドリンク、サービスだって」

  「おお、さすがのサービスだな」

  「もっとムキムキんなっちゃうね」

  「プロテイン飲んだ程度じゃこうはならねえよ。やっぱ鍛えねぇとな」

  「毎日ジム行けてる?」

  「いんや。さすがに調査とか発表会とかあるし、毎日は無理だな。調査で重いもん運ぶのは鍛えられるが」

  「だから時間できたらジムなんだ」

  「まあな。……あー、その、お前との時間にはなるべく差し障りがないようにするから」

  ちょっと笑ってしまう。休暇に来てまでジムに行くことを気にしてるらしい。

  「いいよ。こっちも平日は仕事だもん」

  「すまねえな」

  「いいって。そうだ。じゃああとでうちの合鍵渡すね。出入りできないと困るでしょ」

  「…………!」

  こちらがそう言うと、なぜか顔を逸らして、おう、と呟くオブシディウス。

  「ったく、意味わかってんのか、ソレ……」

  「?  何か言った?」

  「なんでもねえよ!」

  「???」

  それから二人で、ジム内をひと通り見てまわる。

  新しく出来たばかりらしく、かなり小綺麗。器具も最新式のものがひと通り揃っているようだ。平日だからか人の姿もまばら。

  「すごいね」

  「結構しっかりしてんな。外から見たら狭そうだったけどよ」

  期待していたよりも充実していたからか、オブシディウスも満足げだ。

  目つきがたまに学者らしく、鋭くなるのも面白い。あれこれ触って確かめては、ふんふん頷いている。

  機嫌よさそうに尻尾がぴたぴた揺れているのは――きっと本人は気付いていない。

  と、鏡越しに見ているのを気付かれたのか、振り返る。

  「なにヘラヘラしてんだよ。人のケツ見て」

  「やー、ジムデートって初めてだから楽しいなって」

  「!? ジムデ――」

  空気にあえぐ魚みたいにぱくぱくしている。

  「どうしたの?」

  「デ、デ……ート、だあ……!?」

  ……そんなリアクション、こっちまで恥ずかしくなってくるんだけど。

  「なんで今更照れてるの……」

  「お前な、さっきからそういう……。急に変なこと言うから! 言語化による対象の再認識がだなあ!」

  学者ってヘンな人が多い。

  「だって久しぶりに会えたんだし、いいじゃん。ホントはもっと一緒にいたいし」

  「――――。」

  軽口で返したつもりだったが、急に黙られてしまった。

  おや、と思って見れば。

  目の前の牛獣人の目が、完全に目が据わっていた。

  おもむろにスイッチが入った感。――あ、ヤバい。

  「オイ、ちょっとこっち来い」

  「ち、ちょっとちょっと」

  腕を引かれ、有無を言わさず連れ込まれたのはさっき着替えたロッカールーム。

  他に誰もいないのを確認してから――壁際に追いやられた。

  覆いかぶさるような壁ドン。このまま潰されそうな圧迫感すら覚える。

  くっつくほどに顔が――、

  「ちょ、オブシディウス……ダメだって……」

  「うるせえ」

  乱暴に片方の手を取られる。

  「自覚ねえのか、煽るようなことばっか……お前のせいだぞ」

  「――――!」

  導かれた先、オブシディウスの――股間。

  でっっっっっっっ――!

  それはもう。

  それはもう、手に収まりません。

  ジム用のパンツだから、柔らかい素材でなおさらくっきり。見た目だけでもはっきりわかる。

  「こんなんで外歩けってか。責任取れ」

  「ちょ」

  口が塞がれた。もう何も言わせないという意志の発露。

  力が抜けて引けそうになった腰を、グローブのような手で掴まれる。ほとんど握りしめるように。痛みと痺れが、電気のごとく脳を駆け抜けた。

  「っ……ふっ……」

  絡み合う舌と舌。互いの熱い鼻息が顔にかかる。

  しばらくそのまま、獣のように貪り合った。

  「っは……」

  どちらからともなく、離れる。

  つ、と銀色に光る粘液が口の間で糸を引くのが、見えた。

  「……牛タン」

  「やめろ」

  [newpage]

  ロッカールームから繋がっているシャワー室。

  その中、複数あるシャワーブースの一番奥。間仕切りとカーテンだけの狭い空間。

  そこに今、オブシディウスと二人。狭いなんてものではない。

  「……するぞ」

  「ん……」

  ちょっと怖いくらいの目がこちらを見据えている。

  聞こえるのは彼の荒い鼻息だけ。近づいてくる顔を――受け入れた。

  こじ開けるようにずるりと滑り込んできた大きな舌に、口の中のほとんどが占領される。

  出し入れを繰り返す分厚い舌の質感に、脳が痺れていく。

  ぐちゅぐちゅと、くぐもった水音だけがシャワールームに低く響く。

  手を伸ばして、その太い首に回した。ちくちくするうなじの毛の感触。

  こっちはタオル一枚だったけれど、そんなものはとっくに剥ぎ取られていて。

  対するオブシディウスは、さっき着替えた時に履いていたのか、例の水着だ。

  水着越しにも、その形がはっきりとわかる。

  ……ホントによく伸縮する素材、なんて思っている自分がどこか遠く。

  下腹に力を入れないとキスだけで持って行かれそうなのだ。堪えるだけで精一杯。

  と、上から肩を抑えて膝立ちにさせられる。

  「おら。しゃぶれ」

  眼前いっぱいに、黒を基調とした水着が迫る。

  ずらし下ろされて――天を衝く怒張が、跳ねた。

  「――っ」

  赤黒く隆起したソレに、思わず息を呑む。

  やっぱりデカい。片手では回らない。握りしめると、どくどく脈打っている。

  顔を近づけると鼻をつく強い雄の匂い。

  くらくらしながら、ぷっくりとした先端に、舌を這わせた。

  「ふっ……」

  大きな体躯がかすかに震える。

  先端、雄茎……舐める範囲を少しずつ広げていく。舌を伸ばすだけでも、顎が痛くなる。

  「く…………」

  彼がもどかしく思っているのがわかる。

  上目遣いでその表情をとらえて、先端にほんの少し歯を立てた。

  「うっ!? ぐうう……!」

  オブシディウスが腰を引きそうになる。思い切り耐えている。

  その様子に少しだけ意地悪な気分になる。更に歯を――、

  「やめっ、てめえ……!」

  「っ――――!」

  ぐいと頭を掴まれて。

  先っぽだけだった怒張を、一息に喉の奥まで突っ込まれた。

  熱い鉄棒が突っ込まれたらきっとこんな感覚。息が、できない。

  そのまま激しく前後される。顎が外れそうになる。

  喉の奥まで使ってようやく顎の痛さは引くが――、

  「お前もっ、相当したかったんじゃねえか……この!」

  動きはどんどん激しくなってくる。口の端から唾液が溢れて床にいくつものシミを作る。

  さすがに……っ、息が……!

  太腿を拳骨で思い切り叩くと、ようやく解放された。

  「っ……げほっ」

  床に手を付いてえづく。叩いたこちらの手が痛い。どんな筋肉だ。

  肉棒が、今度は一片の遠慮もなく顔に押し付けられる。そのサイズにさすがに引く。

  ……さっきより、大きくなってない?

  「これ……っ、欲しいんだろ、あ?」

  ぬらぬら光るソレで、びちびち頬を叩かれる。

  まるでそれ単体の生き物であるかのように、熱く、硬い。

  唾液だけではない、先端からにじみ出る粘液が糸を引く。

  「――っ!」

  今度は両の手で頭を抱えられて、また容赦なく口の中に突っ込まれた。

  支えを求めて彷徨った手が、オブシディウスの臀部を掴む。岩みたいに硬い。

  だが一度喉が開いたからか、さっきよりも苦しさは軽減している。

  ただ必死に、上半身全部を使って首を動かした。

  今は、身体のすべてが、そのためだけの器官。

  「ホントにエロいな、お前……!」

  オブシディウスが腰を構えて本格的に動こうとした、その時――。

  シャワー室の引き戸が開く音がした。

  「…………!」

  慌てて離れる我々。

  隠すつもりなのか、オブシディウスに身体ごと壁に押し付けられた。

  カーテンは引いてあるから見えないはずだが、足元は丸見えだ。覗こうと思ったらいくらでも見えてしまう。

  というか、顔が、アレで、窒息、しそう。

  息を殺して様子をうかがう――が、その人は入り口側の二つ離れたブースへ入ったらしい。ひと安心ではあるが……。

  水音が聞こえだして、オブシディウスも慌ててシャワーを出した。

  蛇口ではなくボタンタイプだから、押して数秒で止まってしまう。何度も何度も押す。

  彼の赤黒い身体に水が跳ねて、こちらにも降り注ぐ。

  もう片方の手で掴んだ唾液まみれのソレが、目の前に掲げられる。

  見上げれば、濡れた紅い瞳が、こちらをじっと見下ろしていた。

  「――――」

  彼自身を手に取って、また口に含む。

  今度はゆっくり。だんだんとそのストロークを早くして。

  「ぅ……!」

  ほどなく、肩を叩かれる。口を開くと、引き抜かれた。

  身をかがめたオブシディウスが耳元で命じた。自身を扱きながら。

  「口開けろ……口っ」

  言われたとおりにする。期待して待つ雛のように。

  「――――ッッ!!!」

  ぎゅっと閉じた瞼に。開いた口の中に。

  熱い液体がぶちまけられた。上から当たるシャワーよりもはるかに激しい。

  目をつぶったままでも、どろりとした粘性が額と頬を伝って首筋に流れていくのがわかる。

  立ち込める彼の匂い。シャワーで流れればいいけど。

  「――――!」

  と、身体を抱えられ、壁に向けて手をつかされた。

  背後から抱きすくめられる。耳元で、荒い呼吸。

  大きな手が、股間で痛いほどになっているこちらのモノを握りしめた。

  「あっ……んんっ」

  向こうにまだ人がいるのに……!

  声が漏れそうになったのを察したか、もう一つの手で口を塞がれる。

  「――――!」

  そして股の下に違和感。

  見れば、一度射精してなお怒張をやめないオブシディウスのソレが前後していた。

  敏感なところにゴリゴリあたるその感触に、思わず内股に……ヤバい。

  耳元で、こちらにだけ聞こえるよう押し殺した低い声が告げる。

  「これから毎日、するからなっ! いいな……いいな!」

  有無を言わせない強い口調に、何度も頷く。

  既に爆発寸前だったこちらも――それで達してしまった。

  痙攣するみたいに身を震わせて、オブシディウスの手を、壁を汚す。

  力が抜けて崩れそうになる身体を、大きな手が支えてくれていた。

  水音は、しばらく止まなかった。

  「……行った?」

  「おう。やけにシャワー長えなって思ってたかもな」

  一応、引き戸を開けてそっと覗くロッカールーム。……大丈夫。誰もいない。

  「平気か?」

  「顎がイタイ」

  「そりゃスマン。デカくて」

  「ちょっと自重してクダサイ」

  「デカいの自重できたら苦労しねぇよ」

  そんなことをぼそぼそ言い合いながら、支度をする我々である。

  ……いや、久々に会って気分が上がって……ブチ上がっていたとは言え、なかなかのアレである。

  もちろんシャワーブースはちゃんと掃除したものの、冷静になるといささか、いやだいぶ気まずい。ごめんなさいジムの人。

  そんなで、着替えた我々はそそくさとジムを後にしたのだった。

  風が抜けていく。日が落ち、だいぶ過ごしやすくなってきた。

  なんとなく家までの道を黙って並んで歩く。こういう時間も悪くないけど。

  と、肩に腕が回された。今度はちょっと優しい。

  「学会延期んなったときはクソがって思ったけどよ。……まあ、こうしてお前と一緒に帰れるんだから、悪くねえよな。たまにならさ」

  「……うん」

  そうか。これから何日かは一緒にいられるのか。

  一緒に帰り路についていると、急にその実感が湧いてきた。

  会社帰りに待ち合わせして、一緒に帰ってもいいかもしれない。

  ジムデートもまた……いやさすがに、もうあんなことはその、ゴニョゴニョ。

  そこではたと気付く。

  「あっ」

  「なんだよ?」

  「あ、合鍵渡すって……そういう意味になる!?」

  「いまさらかよ!?」

  「なんか改めて認識したら恥ずかしくなってきた……」

  「はーい聞こえませーん」

  「ぐえー!」

  首から振り回された。絶対照れ隠しだ。それはともかく死ぬ。

  ほとんど引きずられるようにして歩いていく……が、不思議と満たされている感覚があった。

  ずっと離さないその腕に触れて。

  「……いっぱい遊ぼ」

  「おお。夏だもんな!」

  オブシディウスはそう言って、顔をいっぱいの笑顔にして応えた。

  綺麗な赤毛が夕映えできらきら輝いている。

  頬を寄せると、くすぐってえよ、と悪態をつく。

  素直だけど、素直じゃない。お互い様か。

  我々の夏は、まだこれからだ。

  「いぉーし、じゃあ夜は肉食うか!」

  「……肉はもういいって」

  「えっ」

  同意が得られず、一転、悲しそうにするオブシディウス。

  ちょっと考える素振りを見せてから、言った。

  「俺の牛タンあるから?」

  「ねえそのネタまだ引っ張るのかなあ!?」

  真夏の牛タン報告書:「言語化による対象再認識の関係性進展効果について」

  ――承認。