ここは猫が住み、小さい人が食べられる世界。
人間はイナゴの佃煮のように珍味扱いされ、
ちょっとした贅沢品である。
今回はその世界の学校の食堂。
一匹の猫の話をしよう。
猫の名はミケと言った。雄である。
そして、しつこいようだが…
ここで勘違いしないように。
この食堂は、猫が人を食べる世界の食堂であって、
人が猫を愛でる世界ではない。
猫は二本足で歩き、椅子に座り、食器を使い食事をする。
猫が裸であるか、スカーフやマフラー、褌をはいているか、人間のように普段着を着ているかは読み手の想像にまかせたい。
猫のミケは、合宿に来ていた。
勉強合宿である。
しかし、合宿であると言っても、話す友達はいなかった。けれども、彼はひとりで思いに耽りながら、食事をしたり、勉強するのが、ひとと喋りながらやるより苦ではなかったので、あまり気にしなかった。
話の中身はそんなお一人様ネコ、
ミケの合宿生活の一場面。
夕食における彼の姿を見てみよう。
◯月◯日 午後7時頃…
今日は、ヒトの手足とマグロ出汁煮込み、猫草のサラダの二品である。
骨はのどに引っ掛かるため、調理の際にぬいてある。また、足首は骨が多く外され、かかとの脂身がつけこまれている。
ミケは、我ながら良いチョイスだと誇らしくなる。
こちらの世界のししゃものようなサイズをした
ヒトの手足、ふっくらとしたふくらはぎを箸で掴み手首をひねって鑑賞するように眺める。
右、左と回転した後、ふくらはぎをはむっと咥えこみ八重歯を差し込んだ。
ざく…ざく…
よく火が通っており、ジューシーな肉汁と淡白な味が広がる。
じゃくじゃくと歯切れよく人肉が三毛の口の中で粉々に咀嚼されていき、
シーチキンのように肌色の肉となって、
ミケの味覚に訴えかけられた。
「おいしいぃ…」
うまみのある足が噛みほぐされ
ごくんと美味しいものであるかのように
呑み込まれた。
口直しに猫草のサラダ。これは消化をよくするためのものだ。しゃきしゃきとした歯ごたえがする。
ひとつまみ もぐもぐ。
新鮮な水菜のような瑞々しさが肉汁を洗い流してくれる。
すっきりとした口の中に、再び、ジューシーな足煮を放り込み、もぐもぐと咀嚼した。魚のうまみと
人肉の独特な臭みを伴った甘い肉の味わい。
ひとしきり咀嚼したあとに口の中で徐々に噛みどころを崩された肉をごくん。
そうして、こんどは猫草に鰹節をまぶして頂く。
醤油で湿らせた鰹節の香ばしさとしょっぱさを猫草でレタスのように包み込みながら口の中にいれる。
もぐもぐと咀嚼すると爽やかな猫草のみずみずしさでしょっぱさが良い塩梅に中和され時折、鰹節の風味が顔をだし、口の中の油っ気を洗い流していく。
そうして、潤った口の中に再び、人肉の肉厚なふくらはぎ煮込みを口一杯に含み味わい、濃厚な風味を味わうのだ。
あぁ…先祖猫に、人間を育ててくれた生産者猫に、
美味しく調理してくれたコック猫に、感謝しなければならない。
「やっぱり人って美味しい…。」
僕はなんという幸せな世界にいるのだろう。
人間の屠殺場を見学したことがあり、涙ながらに「食べないでください、食べないでください…」
って懇願するのを見たときは、ああなんて残酷なんだろうって思ったけど、でもこんな美味しい人肉料理食べちゃったらもう戻れないよねって話で…。
「はぁ…」
ごめんよ、人間さんたち、君たちが美味しいのがいけないんだ。僕はこれからも君たちを食べるよ。
と、心の中で呟いた。
「ふぅ…ご馳走さま。さてと、食べた分ちゃんと勉強しなきゃね。」
ミケは立ち上がり、食堂を後にした。
下げられたおぼんの皿には、人肉のかかと脂のわずかな残りが、食べ残しの小さな屑といっしょに、食堂のランプの光にきらきら照らされていた。
今度は人肉ロースステーキでも食べたいなあとミケは次の自分へのご褒美を考えるのだった。