マフラー越しの彼の息

  白猫くんは黒猫くんが大好き。

  黒猫くんがいるとなぜだか安心するし、男同士だけどデートっぽいこともするし、キスっぽいこともする。白猫くんは恋愛という言葉が果たして黒猫くんとの間にあてはまるのかどうかわからなかった。

  それでも白猫くんは黒猫くんのことを好いていた。

  二人には名前があったけど、お互いに自分の毛の色で呼び合うのが普通だった。白、黒、って。

  指がかじかむ冬。

  外に出ると出る白い吐息。

  首もとに欠かせないふわふわのマフラー。

  白猫くんのマフラーの色は黒色で、まるで黒猫くんの分身のような心地で白猫くんは嬉しがりながらつけてくる。マフラーをプレゼントした黒猫くんもまんざらではなさそうに、白猫くんが冬になると黒いマフラーをつけてきてくれるのを嬉しそうに見ていた。

  冬の寒さは心細さをより一層暗くさせるようで、

  白猫くんは黒猫くんとのつながりの証のようなものが欲しくて、よく黒猫くんを誘った。

  二人きりになれる場所。暖かいのみものが飲める場所。カラオケとか、自販機に近い空き教室とか。

  他人の目をはばかりながら、白猫くんは黒猫くんにキスのおねだりをよくする。

  「ねえ、くろくん、くち、いいかな。」

  「いいよ」

  熱いお茶で口の中を洗い流して、ほんの数分唇を合わせる。黒猫くんの牙の硬い感触。ざらざらした舌の分厚さ。滑らかな口の中。熱くてほろ苦い唾液の味。ちょっぴりなまぐさい黒猫くんの白い息。

  僕はこんなにも近くに黒猫くんのそばにいれる。

  舌を絡ませながら、静かに、そっと、身体も身体同士で一緒になって、黒猫くんの背中に両腕をのばしながら、自然に抱き締めて彼の存在と体温を頼りに愛されている感覚を感じることができる。

  黒猫くんと白猫くんの家は違うけれど、黒猫くんとの抱擁以上の生きる喜びは白猫くんにとってあまり存在しえない。

  甘くて暖かいキスと抱擁が終わると、白猫くんは離れたくなさそうな心地になって、カラオケの時間が終わるまで、あるいは教室の外の夕日が沈むまで、

  黒猫くんと色んなことを話し訊く。

  国語の授業でわからないこと。

  本で読んだ、独りで生きる強さのこと。

  今週新発売になった飲み物のこと。

  それぞれが家でしようと思っていること。

  学校を卒業した後の進路のこと。

  白猫くんは黒猫くんと一緒に居たい。

  彼がいれば生きていける。

  暖かい彼とのつながりがあれば…

  そう思いながら、白猫くんは暖かい布団の中で

  眠りに落ちる。