獣人局(つつもたせ) - 連続ラブホ金品盗難事件 -
[chapter:1.]
その日、[[rb:瀬畑善狼>せばた・よしろう]]は非番だった。
日頃は[[rb:淡海県警察>あわみけんけいさつ・]][[rb:東岸署>とうがんしょ・]][[rb:刑事課>けいじか]]の捜査員として激務に追われている身には、心身の疲れを癒やす貴重な時間である。やらなければならない予定はなく、会わなければならない相手も特にいない。要するにヒマであった。かといって、何かを能動的にやる発想が湧いてこない。
身に着けているのは自前の二重被毛だけ。つまり全裸でベッドに横たわっている。自室で過ごすときや寝るときには、何も着たくないと考える獣人は、実は結構多いらしい。数年前、とある下着メーカーが行ったアンケートの結果が示している。瀬畑もまた、そうしたひとりであった。
ジャーマン・シェパード系の[[rb:犬狼族>けんろうぞく]]の特徴である、黒と明るい茶色に彩られた毛並み。頑丈で[[rb:逞>たくま]]しい肉体とともに、父方の家系から受け継いだものと聞かされてきた。が、今日はそのすべてを持て余している。
体力は充分だ。すっかり回復しきっているどころか、有り余っている気配すらあった。寝転んだまま下腹のほうに目をやると、男の部分が膨張しかけているではないか。
やんちゃな息子をあやすべく、手を伸ばしかけるも思いとどまる。
今日はすでに朝に1回、数時間前にも1回、男としての衝動を処理していた。が、その回数が片手の指では足りなくなる日も珍しくない彼にとっては、まだ序の口といってよい。
[[rb:射精>だ]]したい。金玉のあたりにずっしりとした重みと、空腹にも似た感じをおぼえた。
『オナニーしすぎるとバカになる』
そんなことを言ったのは誰だったか。まぁいい、他のことを考えよう。
手探りで携帯端末を引き寄せる。そうやって貴重な休日の半分近くが過ぎようとしていた。
「はぁ……」
いつもの癖でため息をつき、反射的に[[rb:口吻>マズル]]を押さえる。ふと考えれば、今は誰かに[[rb:咎>とが]]められることもないのに。窓の向こうには灰色の曇り空。
『本日の降水確率は60%、お出かけの際には[[rb:傘>かさ]]をお忘れなく』
朝、テレビのニュースでキャスターが言っていたのを思い出す。夜には止んでくれれば良いのだが。ムズムズする鼻先をこすりながら、そんなことを考える。
雨は嫌いだった。4歳の頃に母親が彼を置いて出ていったのは、雨の夜だった。中学生の頃に殉職した父親の葬儀もまた、雨の日だったのを覚えている。そういえば、これまで幾人かいた恋人やセックスフレンド達とうまくいかなくなったのもだいたい、雨の日だったような。
ふと、自分の手が生臭いことに気がついた。なんとなく嗅いでみる。生臭いというか青臭い。初夏の頃に咲くクリとかドングリの花の匂いに似ていなくもない。何であれ、自分のは嬉しくもなんともない。
手のひらと指の肉球部分、全身のうち被毛に覆われていない数少ない場所を見る。欲求不満を手早く処理した後、ペーパータオルでしっかり拭ったつもりだったが、それだけでは足りなかったようだ。
下腹に、正確には股間のモノに血が集まってゆく。他のことを考えようとしても、つい手近な快楽に引き寄せられてしまう。ひとつが小ぶりな[[rb:鶏卵>けいらん]]くらいはある玉ふたつは、脳を完全に支配下に置いてしまったようだ。溜まっているモノを、吐き出したくて仕方がない。
事実を受け入れ、熱を帯びて[[rb:腫>は]]れぼったい持ち物に手を伸ばす。瀬畑のそれは下反りで、寝転んだ今は足の側に先端が向く。
「ん、っ」
触れた瞬間に痺れるような快感が来て、小さく声を漏らした。そのまま、手と指を使って揉みしだく。海綿体に血が巡り、太く長く膨れてきたところで上下に[[rb:扱>しご]]きはじめる。
すっかり臨戦態勢になった彼のモノはそこそこ迫力があった。太さはコーヒーの缶とだいたい同じくらい。マッチングアプリに載せている[[rb:非公開>ロック]]アルバムには、勃起した彼自身を缶と並べて撮った画像を格納してある。アプリには長さ18センチと申告しているが、実のところ少しだけ足りていない。
なお、下反りそれと[[rb:勃>た]]っても手を使わなければ[[rb:剥>む]]けない仮性包茎を気にしており、画像ではしっかり誤魔化してあった。
ベッド脇の台から、小ぶりのアトマイザーを手に取る。ちょうどよく枕元でくしゃくしゃに丸まっていたハンカチにシュッと吹きかける。それを[[rb:口吻>マズル]]に[[rb:宛>あて]]がい、息を吸う。目をつぶると、この場には存在しない――いや、おそらく実在しないであろう人の姿が浮かび上がるようだった。
種族は人間、性別は男、年齢は10代後半から20歳くらい。そういう[[rb:設定>・・]]で調合された[[rb:香水>フレグランス]]である。使い方は説明するまでもないだろう。今、瀬畑がそうしているように、すぐれた嗅覚を持つ獣人たちが[[rb:ひとり遊び>・・・・・]]に使うために作られた製品である。普通の香水のように自分に吹きかけるものもいない訳ではないが、そうやって使用されることは少ないはずだ。
ほら、おれのをしゃぶってごらん。自分より線の細い、全身のほとんどが毛に覆われていない[[rb:つるつる>・・・・]]の体をした誰かが、充血しきった竿と玉に舌を這わせるのを想像する。そうしながら、体の他の部分と同じく大きくて逞しい彼自身の手で[[rb:慰>なぐさ]]めた。
「あぁ……」
匂いをもとに膨らませた想像と現実の感覚が絡み合って生まれた快感に、また声が[[rb:漏>も]]れる。下反りの太竿を左手で[[rb:扱>しご]]きながら、右手で乳首を[[rb:弄>まさぐ]]る。セックスフレンドのひとりに調教されたのだ。近頃は仕事が忙しくてなかなか会えず、自然消滅寸前にまでなっている。それでも、性感帯としての機能は自主的に維持していた。
クチュクチュと湿った音を立て、妄想と現実を行き来しながら性感帯を刺激する。それをしばらく繰り返した末
「っく……!」
声を詰まらせるのと同時に持ち物を暴発させた。下向きにぱっくり開いた尿道口から、白く粘つく液体をドロドロとこぼした。
果てて荒く息をつきながら我に返るのとだいたい同じタイミングで、枕元に放ったままだった端末が通知音を鳴らす。指や毛並みに付着した白濁液をペーパータオルで拭き取ってから、手を伸ばした。
[chapter:2.]
『メッセージが届きました』
マッチングアプリからの通知である。性的な出会いを目的としたもので、端末の位置情報を利用して利用者間のだいたいの距離が分かるようになっている。
一体どこの誰だろうか。期待に心が沸き立つのをおぼえたものの、それよりも間違いかもしれないなと[[rb:醒>さ]]めた感情が上回った。数値換算すれば2:8くらいか。
心を出来る限りフラットに保ったままアプリを立ち上げる。最近は金銭狙いのロマンス詐欺みたいなメッセージが後をたたない。そうでなくとも、出会いじゃなくて画像交換目当てのヤツも多い。最初から期待しなければ裏切られてもダメージは少なくて済む。27年の人生のなか、幾度となく学ばされてきた。
とはいえ、少しも期待しなかった訳ではない。そして今回に関しては、裏切られることはなさそうな手応えがあった。
『こんにちは。はじめまして。
格好いいですね! 良ければ会いませんか?』
「お、今回は当たりだ」
新着のメッセージを開いて、思わす独り言が出た。
瀬畑はアカウントのアイコンに、自分の顔が写ったものを使っていなかった。蛍光グリーンのブーメランビキニを[[rb:穿>は]]いただけで上半身は裸の自撮りには、首から上は写っていない。
顔が分かる画像を載せた方がモテることは分かっている。が、もしそうしたならば警察官にあるまじき行為であると批判する声が上がるのは予想できた。
職務に支障をきたすことがあってはならない。ただでさえ[[rb:淡海県警察>あわみけんけいさつ]]は市民からの評判が悪いのだ。
『淡海県の警官が10人いれば3人はやる気がない。半数の5人は[[rb:日和見主義>ひよりみしゅぎ]]で、真面目なヤツは2人だけ』
などと言われている始末である。そんなことはないと反論したくとも、毎年、山のように不祥事が取り[[rb:沙汰>ざた]]されるのはどうしようもない事実だ。
せめて自分くらいは真面目にやらなければ。クソみてぇな毎日だけれど、だからこそ何もかもおしまいにする訳にはいかない。
それはそれとして、机の上にうずたかく積もった未決の書類のような日々の[[rb:憂>う]]さを、手っ取り早く晴らしたい欲求があった。どこかで上手くガス抜きをしなければ、そう遠くないいつか、おれは壊れちまうだろう。
その結果として、体の画像だけを載せたヤリ目アカウントを維持するに至っている。
さておき、一体どこの誰だろう。近場なら良いのだが。返信の文面を頭の中で考えながら、送り主のアカウントを確認する。
アイコンには瀬畑と違い、顔を写した画像を使っていた。人間の男性で短い黒髪。彫りが浅くて良く言えば穏やかそうな、悪く言えば目立たない印象である。目鼻の配置バランスはそれなりに整っているように見えるが、休日の繁華街など人混みに[[rb:紛>まぎ]]れられれば見失ってしまいそうだ。
紹介文を確認する。
『獣人さん大好きです。お茶とかご一緒しませんか? よければそれ以上も。
追記:面倒なしで遊べる人でお願いします』
「[[rb:獣人>・・]]、かぁ」
どうにも引っかかる言い回しであった。[[rb:犬狼族>けんろうぞく]]、[[rb:猫虎族>びょうこぞく]]、[[rb:馬族>うまぞく]]、[[rb:鼠族>ねずみぞく]]というように、[[rb:起源>ルーツ]]に合った呼称を使うのが一般的なマナーであるというのに。
獣人と[[rb:一括>ひとくく]]りにする呼び方は、差別が横行していた時代を思い起こさせるものであり、礼儀を欠くものとされる。とはいえ、瀬畑より若い世代では、別に悪い呼び方ではないのではと考えられているらしいが。
どうにも引っかかる書き方だ。が、そんな自分はといえば、性欲の処理を目的としてアカウントを維持しているのだから、他人に道徳やマナーを[[rb:説>と]]く資格などないと思い直す。
まぁ、今は遊べればそれでいいか。
プロフィールに書かれた身長と体重は、人間種の日本人からすると中肉中背といったところか。身長180センチ、体重82キロの瀬畑と並べば、まぁ線が細く小柄と言えないこともない……かもしれない。わりと好みのタイプだ。この時点で、期待の比率は冷めた感情に並び立った。
距離を確認する。アプリの機能で位置情報を偽装しているのでなければ、どうやら市内にいるらしい。いいぞ! 期待が膨らむ。ついでに股間も。
それにしても見ない顔だな、旅行者か? なんとなく引っかかりをおぼえた。位置情報を使用したマッチングアプリでは、だいたいいつも決まったような顔ぶれが同じような場所にいるものである。それは百万あまりの人口を抱える[[rb:淡海県河都市>あわみけん・こうとし]]であっても、だいたい同じようなものだ。
気になる部分は他にもあった。どこかで見たような。けれども、どこだったのか思い出せない。が、鼻の奥にきな臭いものを感じる気がしてならない。
それは刑事の勘と言えるものだった。些細>ささい]]なしぐさや表情、[[rb:感情の匂い>・・・・・]]の他、言語化の難しい雰囲気のようなものまで含め、不審な点を見つけ出す。それは警察官として、何年ものあいだ市民の安全を守るために尽くすあいだに[[rb:培>つちか]]われてきたものである。
気のせいかもしれない。そうであって欲しいと瀬畑は思った。だが、もしこの人物が何らかの犯罪に関わっているのだとしたら、見逃してはならない。
それはそれとして、下半身の欲求に素直に従いたくもあった。コーヒー缶と同じくらい太いおれのを[[rb:咥>くわ]]えたり[[rb:挿>い]]れたりしたとき、この澄ましたあっさり顔がどんな風に歪むのか見てみたい。つい今しがた空っぽにしたばかりの股間の弾倉ふたつには、早くも弾が[[rb:装填>リロード]]される気配があった。
ごくりと喉を鳴らし、口から[[rb:溢>あふ]]れそうになる[[rb:生唾>なまつば]]を飲み込む。
『こんにちは。メッセージありがとう。可愛いね。すぐにでも会いたい』
メッセージボックスを開き直し、返信を入力する。すぐに相手からリアクションが来た。
「早いな」思わず口元を舐める。体感で1分と経っていない。
『お返事ありがとうございます! ガタイすごいですね! 良ければお顔も拝見したいです』
『分かった。ちょっと待ってね』
「まぁ、そう来るよな。……こらしょ、っと」
ようやくベッドから立ち上がる。狭い家の中、比較的片付いている場所まで移動してからカメラアプリを自撮りモードで起動。顔の左側、[[rb:顎>あご]]から頬にかけて走る傷跡が見えないように角度を調整する。表情は明るく、笑顔で。しかめっ[[rb:面>つら]]の警察官と遊びたいと考える人などいないだろう。それより遊び慣れて、人懐こい感じに演出したほうがいいに決まっている。
何枚か撮影したなかで、マシに見えるヤツを送信。
『お待たせ。こんなので大丈夫? さっきまで寝てたから乱れてるけど』
『格好いい! ガタイも良いしすっごいモテそうですね!』
気を良くして、非公開アルバムの閲覧許可を付与。下反りの仮性包茎を誤魔化した画像がいくつか入っている。向こうからも非公開アルバムの閲覧を許可する旨の通知が届いた。お礼のつもりか。どうやら気に入って貰えたらしい。一体何を見られるだろうかと期待しながらアルバムを開いて――ごく一瞬、息が止まりそうになった。
「これは……!」
格納されていたのは自撮り画像だった。きちんと服を着て撮っているから、もしアカウントの持ち主が職場の誰かに見られたとしても困ることはないだろう。だが、被写体そのものが問題だった。
瀬畑が担当している案件のひとつ、通称"連続ラブホ金品盗難事件"の被疑者とされる人物の特徴と一致する。ここ1ヶ月ほどの間に相次ぐ、男性の獣人をターゲットにした金品の盗難事件。しかるべき行為に及ぶためにホテルに入り、別々にシャワーを浴びるなど目を離したあいだに財布の中身を抜かれていた、あるいは財布や時計など金目のものを持ち逃げされた等の報告が何件か上がっていたのだ。
あらゆる刑法犯罪のなかで、[[rb:窃盗>せっとう]]は再犯率がきわめて高い。犯行の手口は人それぞれ、だいたい同じような傾向がみられるものだ。熟練の捜査官であれば、たとえば空き巣の被害現場に行っただけで、データベース化された被疑者たちのなかから、誰によるものかを言い当てることが出来る。事件の発覚後に被疑者を見張り、再度の犯行に及ぼうとしたところで現行犯で逮捕するのが犯人の検挙までのセオリーだ。
一方で今回の場合、該当する被疑者の情報が県警のデータベースに登録されておらず、それが捜査を難しくしていた。よほど上手く立ち回っているのか、そうでなければ警察には届け出ることなく内々で処理されてきたか。盗んだ金品の弁償、出来ない場合には[[rb:性奴隷>せいどれい]]として酷使される。後者が圧倒的に多いのだろうと、瀬畑は推測していた。当然ながらこれは違法であり、見過ごして良いものではない。
非公開アルバムに格納されている画像の人物は、被害者からの聞き取りで作成した似顔絵、それと監視カメラに残っていた記録のものとだいたい一致した。短めの黒髪、彫りの浅い顔立ちで[[rb:奥二重>おくぶたえ]]、中肉中背で20代半ばくらいの人間男性。
どうやら向こうはこちらの正体に気がついていないようだ。ならば罠にかかった獲物の顔をするのも有効か。そう考えながら返信を入力する。
『17時くらいから予定空いてる? [[rb:末広本町>すえひろほんまち]]駅[[rb:西口>にしぐち]]ロータリーに迎えに行くよ』
『いいですね! よろしくお願いします!』
待ち合わせの[[rb:打診>だしん]]に、すぐに返事が来た。
話がまとまったところで、直属の上司である[[rb:柳小夜子>やなぎ・さよこ]]警部にメッセージを入れる。
『連続ラブホ窃盗事件の[[rb:被疑者>ひぎしゃ]]に接触しました』
送信してから間を置かず、通話の着信が端末に届いた。柳からだ。
『非番だというのに悪いね。それで、一体何があったんだい?』
「実はですね――」
これまでのいきさつを手短に説明する。何もやる気が出なかったのでとりあえずシコってましたとか、そういう話は当然ながら省いた。上司であると同時に互いの父親同士が仲が良く、幼い頃から家族ぐるみで付き合いのある幼馴染みの間柄である。気安い仲だが、だからといって必要もないのにプライベートの話をすることはない。というよりただのセクハラ案件だ。
端末の向こうで考え込む気配があった。少しばかり間を置いて
『なるほど。それで、これからそいつに接触するつもりなのか? [[rb:獣人局>つつもたせ]]もといおとり捜査のために』
「セオリーに従うつもりです。おれを選んだのなら丁度良い」
先にも述べたとおり、[[rb:窃盗犯>せっとうはん]]は[[rb:現行犯>げんこうはん]]で逮捕するのが通例だ。[[rb:辛抱強>しんぼうづよ]]く被疑者を尾行し、盗みをはたらく瞬間をとらえるのである。
「現状では、それが一番手っ取り早く検挙につなが――どうしました?」
柳のため息を聞いて、言葉を切る。
『いや、迷ってるんだよ。止めるべきかってね。けど、どうせ止めたところで君は勝手に動くのだろう?』
「話が早くて助かります」
『あのさぁ! 君は今、わたしの部下だけど、それより前から[[rb:知ってる>・・・・]]んだよ? [[rb:おねえちゃん>・・・・・・]]が今、どういう気持ちか想像付かないほどバカじゃないよね!?』
7つ年上の幼馴染みが早口でまくし立てるのに、何も言い返せなかった。母親がいなくなり、父親も仕事でなかなか帰って来なかった幼い頃には、彼女のこういう部分に幾度となく救われたのだから。それはさておき、どうしたものかと考えていると
『まぁでもこれ、捕まえるには良いチャンスだよね。もし君が接触したのが[[rb:当たり>・・・]]ならね』
「[[rb:外れ>・・]]だったら、そのまま楽しんできますよ」
『位置情報とかこっちでも把握しておくけど、気を悪くしないでね』
「無論、構いません。ああ、それと――」
『うん?』
「ありがとう。小夜子おねぇちゃん」
口にするや急に恥ずかしくなり、向こうのリアクションを待たず通話を切る。
「あぁー……ふざけたりするんじゃなかったなぁ」
ベッドに突っ伏して顔を押さえたが、もう遅い。
気を取り直して、時計を見る。15時を少し回ったところだ。待ち合わせ場所に指定した末広本町駅までは、直線距離ではさほど離れていない。が、途中に混み合う道があるせいで車でも1時間近くかかることがある。16時には家を出る必要があるだろう。
まずはシャワーだ。あちこちに引っ付いてガビガビになった独り遊びの痕跡を洗い流すべく、浴室へと向かった。
[newpage]
[chapter:3.]
急行や準急が通り過ぎる末広本町駅には、人もまばらだ。ロータリーもまた他の駅に比べれば小さかったが、車を停める余裕は充分にあった。愛車である5ドアのハッチバック、6つの星をあしらったロゴマークの国産車を路肩に停車し、ハザードランプを点ける。今は16時47分。約束までまだ少し時間がある。コインパーキングに移動したほうがいいだろうかと考えはじめたところに、メッセージが来た。
『もしかしたら予定よりちょっと早く着くかもしれません。車の特徴とか教えてもらえますか?』
自分が乗っている車の特徴と、こちらも早く着いた旨を送信する。それからルームミラーで自分の姿を確かめた。タンクトップとスウェット地のパンツ、足にはサンダル。素性を推測されないように、そして脱ぐのも楽なように、出来るだけ軽い服装を選んだつもりだった。
口元から牙を覗かせ、ちょっと悪い感じの笑みを浮かべてみる。これなら遊び慣れているように見えるかも。少なくとも警察官とは思われないだろう。
そうしていると若い人間種の男がひとり、小走りでこちらに向かってくるのが見えた。瀬畑は助手席側の窓を開け、笑いかける。
「大丈夫かい? そんなに急がなくたって帰ったりしないよ。とりあえず乗って」
「あ、どうも」
助手席のドアを開けて、肩で息をしながら乗り込む。それと同時に、甘やかな香りが車内の空気を上書きした。何らかの花か果実にも似ているが、少し違う。もっと肉感的で動物的、生きものの体から出ているようだと瀬畑は思った。助手席の青年を見る。呼吸を整えながら、流れる汗をハンカチに吸わせているところだった。青年と目が合う。
「良い匂いだね。香水? それとも柔軟剤?」
「別に、何も」
そっけない調子で、青年は首を横に振った。同時に、かすかだが華やいだ香気が濃さを増したように感じられた。妙に心が安らいだ気分になってゆく。ずっと嗅ぎ続けていたい。数度、深く息を吸い込んだところで、自身の警察官としての部分が[[rb:警鐘>アラート]]を鳴らすのをおぼえた。これは危険だ。そして同時に、窃盗事件の被害者たちが口にしていた言葉を思い出す。
『ものすごく良い匂いがした。それで気が緩んでしまったのかも』
もしかして、これなのか? 口には出さずに瀬畑は考え、また青年を見た。目鼻立ちこそ整ってはいるが、どちらかといえば地味な顔立ち。言動も素っ気ない。ともすれば魅力を損ねてしまう要素だが、そこに不可思議な香りが加わることで、ミステリアスな魅力へと変わっていた。
ふわりと漂う香りの心地よさに、思わず唾液が溢れそうになる。喉を鳴らして飲み込んだ。これは香水ではない。青年の体から漂い出ている。おそらくはそういう体質なのだろう。人間のなかには時々、獣人にとって心地良く感じる香りを発する者がいるとは、噂に聞いたことがあった。
彼は自身の魅力を自覚しているはずだ。刑事としての思考を働かせる。性欲の処理あるいは[[rb:窃盗事件>せっとうじけん]]の被疑者の監視。いずれの目的を果たすにしても、香りにたぶらかされているように見せかけておくことが必要だろう。
覚悟を決めて、甘やかな香りを肺一杯に吸い込んだ。心は澄んだように穏やかになりながらも、体には熱く燃え[[rb:滾>たぎ]]るような感覚が来た。
匂いを嗅ぐうちに、体の一部――具体的に言えば股間の雄の部分が、元気に反応するではないか。落ち着けと、自分に言い聞かせる。が、スウェットの布地の下で発情した下半身は、柔らかな布地の下から汁を[[rb:滲>にじ]]ませ、肉の欲に忠実な反応を示していた。そこに青年の手が伸びてきて、スウェット越しに太股に触れる。
「えっ」
驚きとともに不意に襲い来る快感に、瀬畑は幅広の肩をびくりと震わせた。触って欲しい。そう言おうと思ったものの最大限の理性を働かせ
「い、今はだめだ! 駅の前だし、まだ人も多い。それに、運転中は危険だ。交通事故のもとになる」
「真面目なんだね」
「そう、かな? ……よく言われるよ。色んな人から」
今ので自分が警察官だとバレてはいないだろうか。内心でヒヤヒヤしながら青年を見る。香りはかすかだが、感情の匂いはすっかり覆い隠されている。それでも、表情を見る限りでは問題なさそうだ。しばらくの後
「さ、行こうか」
いつまでもロータリーで油を売っている訳には行かない。股間の熱さはさておいて車を発進させることにした。
バイトが忙しくて食事をする時間がなかったという青年のために、ひとまず軽く食事をすることにした。イタリア料理のチェーン店があったので、そこに入る。
「思い出したよ。おれも腹が減ってたんだって」
そういえば今日は面倒くさくて、家にあったチョコレート菓子くらいしか口にしていなかった。
何にしようかとメニューに目を走らせる青年をちらりと見ながら、注文用紙にメニュー番号を書き込む。イカ墨を使ったパスタにピザ、グラタン、羊肉の串焼きにエスカルゴのオーブン焼き。それとポテトフライも。セットのドリンクバーは忘れない。食後のデザートにプリンとティラミスも頼んでしまおう。
程なくして、4人掛けのテーブルを埋め尽くす皿数の料理が運ばれてきた。
「君も食べたいのがあったら適当につまんでいいからね。足りなければ追加で頼むから」
いずれも値段は良心的だ。かなり多めに頼んだとしても、勤続9年目の警察官の経済力ならば痛くも[[rb:痒>かゆ]]くもない。注文した料理は、またたく間に空になった。
食事を終えて店を出て、ふたたび車に乗り込む。体の一部が熱くなる、花に似た甘い香り。行き先は決まっている。
「今、家が散らかっててさ。宿代はこっちで持つから、ホテルでいいかな?」
助手席の青年がうなずくのを、瀬畑は横目で見る。充分に[[rb:愉>たの]]しみたい気持ちが芽生えつつあった。出来れば[[rb:外れ>・・]]であって欲しい。そんなふうに思った。
百万人あまりの人口をかかえる[[rb:河都市>こうとし]]だが、高層のビルとマンションが建ち並ぶ都会的な景色は中心部のごく一部の区域だけだ。そこから少し外れれば低層の集合住宅や一戸建てが並ぶ住宅街に、やがて山林のあいだに農地が点在する牧歌的な風景へと移り変わってゆく。
瀬畑と青年を乗せた車は、林の間を突っ切る道路をゆったりと進んでいた。彼らのほかに車両は見当たらない。ちょうど今の時間帯は、職場から自宅へと戻る車で道が混み合う時間帯である。が、幹線道路から外れたこの辺りには関係のない話であった。
「どこ行くの?」
「安くていいホテルがあるんだ。駅前だと高い割に狭かったりするだろ?」
「田舎とか[[rb:嫌>や]]なんだけど」
はっきりとした嫌悪の声。感情の匂いはフェロモン香に隠されて分からないにしても、不満げな様子は言葉の調子だけで充分に察することができた。
当初、思っていたのと違う方向に進みつつあることが不満なのだろうと、瀬畑は[[rb:推測>すいそく]]する。金品を盗んで逃げ去るつもりならば、公共交通機関の充実した市街中心部の方が移動はたやすい。移動手段が自家用車しかない郊外のホテルに向かうならば、そうはいかない。
このままではこちらの計画に勘付かれてしまうかもしれない。そうでなくとも、気が変わったと帰られてしまいそうな気配すらあった。
さて、どうしたものか。ハンドルを握りながら、考えを巡らす。バックミラーを見る。後方に車はない。瀬畑はブレーキを踏んで速度を落とし、路肩に車を停めた。少し道幅が広くなったその場所には、バス停の錆びた看板がひっそり立っていた。一日に数回しか停まることのない路線で、今日はもう停まることはない。
サイドブレーキを掛ける。アイドリングは条例で禁止されていたので、エンジンも止めた。それからシートベルトを外す。辺りを見回し、自分たちの他に誰もいないことを確認してから、少しだけ腰を浮かせてスウェットをひざの辺りまでずり下ろした。蛍光グリーンのビキニのパンツと、申し訳程度の布地に下向きに収納した雄のシンボルがあらわになる。すでに瀬畑のモノはかなり膨張し、下着を押し破るまであと少しに見えた。
じんわりと[[rb:滲>にじ]]む先走りが、テカテカした布地に染みをつくっている。
青年が、横で息を呑んだ。そこに続けて
「ちょっと触ってくれないか?」
辛抱たまらんとばかりに、青年の手が瀬畑のプライベートゾーンに触れた。光沢あるポリエステルの布地越しに、充血しつつある肉の塊を指で刺激する。自分のものではない指の感触が、薄い布地を透かして伝わってくる。
「ん、っ……」
ざわざわと[[rb:痺>しび]]れるようなくすぐったい感触に、目を細めて小さく息を漏らした。
瀬畑と比べれば細く筋張って見える青年の手が、大きなモノをまさぐるように動き回る。それだけでは足りないとばかりに、今にもはち切れそうな股間のふくらみに顔をうずめ、すぅっと強く息を吸い込んだ。
「シャワーは浴びて来たんだが……その、蒸れてるだろ? 大丈夫かい? ……っ」
唇で[[rb:啄>ついば]]まれるような感覚が、返事の代わりだった。湿り気を帯びた吐息が当たり、目の詰んだ布地が擦れるたびに、低く小さく声を立てる。膨張しきってビキニの布地からはみ出た肉の塊に、青年の唇が直に触れた。
下反りと[[rb:勃>た]]っても[[rb:剥>む]]けないことについて何か言われはしないかと恐れていた瀬畑だったが、青年は何も言わず、[[rb:俯>うつむ]]き加減なのにふてぶてしい持ち物に触れた。包皮を手でずり下げられ、初々しく見えるピンク色の亀頭が顔を出した。
「あぁ……」
敏感な部分に外気の冷たさを感じ、瀬畑は心地よさに息を漏らす。
チュッと音を立て、青年の薄い唇が先走りを垂らす鈴口に口づけするのが見えた。舌先で透明な液を念入りに舐め取ってから、大きく口を開けて瀬畑の一部を[[rb:咥>くわ]]えた。
「っ、っく……」
敏感なところに口中の体温と湿り気を感じる心地よさに、瀬畑はどうにか耐えて平常心を装った。思わず顔を押さえる。なさけなく[[rb:喘>あえ]]いだりするのはプライドが許さなかった。が、息はすでに荒く、誤魔化せているとは到底言えない。青年はそれが面白いようで、ちゅぱちゅぱ、じゅぼじゅぼと音を立てて、口全体で瀬畑の肉竿を刺激する。
「上手い、ね。好き、なのか、い?」
返事の代わりとばかりに顔全体を上下させ、喉奥まで咥え込む。ときおり苦しげにえずきながらも止めようとはしない。
「おれのは、美味いか?」
今度はくぐもった声が、短く帰ってきた。そうして瀬畑は青年の口と手からもたらされる刺激を、青年は瀬畑の缶コーヒーほども太さのあるモノの感触を互いに味わううちに、すっかり日は暮れていった。
「ありがとう。もういいよ」
股間にむしゃぶり付く黒髪をポンポンと撫でながら、声を掛ける。
「もういいってば。続きはホテルでしよう。あと少しだから」
何度目かの言葉に、青年はようやく顔を上げた。
[chapter:4.]
「なかなか悪くないだろう?」
バスタブに湯を張りながら、瀬畑は青年に向かって呼びかけた。が、返事はない。
「寝ちゃったのか?」
風呂場から戻ると、ベッドの上に横たわり、端末をいじっているのが見えた。ゲームか、それとも次の獲物を物色でもしているのか。
「お風呂入ろうよ。もうすぐ湧くからさ」
つとめて明るく言う瀬畑に、青年は大儀そうに端末から目を離し
「先にどうぞ。準備で時間かかるんで」
「おいおい、そりゃ勿体ねぇって! ここのホテル、風呂が広いのが売りなんだ。熊族や牛族でもふたりでゆったり浸かれるってな」
そう言いながら、タンクトップとスウェットを手早く脱いだ。ポケットから財布と端末、車のキーを出してテーブルの上に置く。ガラス製の天板にコトリと音を立てて置いたとき、反射的に青年の目がそちらに向いた。やっぱり、こっちが本命か。
シャワーなどで相手が目を離した[[rb:隙>すき]]に金品を[[rb:奪>うば]]っていなくなるのは、この手の盗みではよくある手口である。
これに対し、一緒にシャワーを浴びようと提案するのは貴重品を守り、同時に互いに対する信頼を損ねないようにするためには有効な方法だ。
などと考えていることを悟られないように、かつて武術道場で兄弟子と[[rb:慕>した]]っていた人物を思い出し、いつも以上に陽気に馴れ馴れしく振る舞った。
上司である柳と同い年で7つ年上、柴犬系の犬狼族であるそいつのことを、今は嫌っている。が、それはそれとして、付き合いは長いのであいつならこうするだろうなという想像はきわめて自然に働いた。
「色んなトコ洗いっこしようぜ? さっきの続きもしてぇだろ。なぁ?」
唯一身につけていた蛍光グリーンのビキニのパンツを脱ぐと、小さな布ではもはや抑えきれなくなったモノが、ぶるんっと顔を出した。青年の目が釘付けになる。そこに長身の背をかがめ、顔を近付けてささやく。
「こいつの相手を頼むよ」
立ち上がり服を脱ぎ始めるまで、あっという間だった。
この手のホテルの浴場は広めに作ってあることが多いが、彼らが入った部屋のそれは格別だった。大柄な熊族や牛族でもゆったり入れる広さには青年も少しばかり驚いたようである。
「言っただろ?」
得意げな瀬畑に、青年が小さくうなずく。よし、やったぞ! [[rb:快哉>かいさい]]を叫びそうになるのを押しとどめた。
「洗ってあげるよ」
シャワーの温度を確かめてから温水を掛け、泡立てたボディソープを青年の全身に[[rb:擦>こす]]り付ける。大きな手を[[rb:細>こま]]やかに動かし、すみずみまで確かめるように念入りに洗っていると
「こういうの、好き、なん、だ?」
小さく[[rb:喘>あえ]]ぎながら問われ、瀬畑は目を細めた。
「ああ。おれたちは毛並みに覆われてるからな。面白いよ。手触りが違っていて」
丹念に丁寧に、白くきめ細やかな肌に泡を撫でつけてゆく。そうしながら
「どこが気持ちいいか、教えてくれないか? ……ここは?」
瀬畑と比べれば細い首筋に触れる。青年の唇から、小さく声が漏れた。
「ならば、ここは?」
指の腹を使って桜色の乳首をくりくりと撫でる。腕の中に抱いた体がびくりと跳ねる感覚があった。
「男なら、ここは気持ちいいだろう?」
股間のものを分厚い手のひらですっぽりと包み込み、揉みしだく。
「ん……っ」
太い腕のなかで、さっきよりはっきりと声を立てた。毛を[[rb:剃>そ]]って間もないのか、ザラザラとした感触が指先にかかるのが面白いと、瀬畑は思った。
「君のも、大きくなってきたね」
大きな手のなかで、青年のものが熱を帯びて膨張する感覚があった。大きくなってきたと表現はしたものの、瀬畑のそれと比べれば明確な差があることは、言うまでもない。
「ここは、使っていいのかい?」
形のいい尻肉の間に隠された穴の縁に、指先で触れる。[[rb:肛内>なか]]に[[rb:挿入>いれ]]ることを思い浮かべ、瀬畑は股間をガチガチに硬くした。凶器と化した持ち物を押しとどめるように、青年の手が伸びた。
「待っ、て」
「準備が必要なんだっけ?」
うなずく。
「手伝おうか?」
ぶんぶんと力いっぱい首を横に振るのがおかしくて、少し笑った。
青年の体から泡を洗い流してから、今度は自分にボディソープを塗り付ける。手早く泡立てようとしたところで、ほとんど無毛の手が伸び、まだらの毛並みに覆われた体に触れた。
「やってくれるのかい?」
「うん」
「頼むよ」
青年は瀬畑の太い首に手を伸ばした。濡れた毛並みをわしゃわしゃとかき回し、泡だらけにする。首に[[rb:次>つ]]いで広い肩を、それから厚い胸板に下りてゆく。
「ここだけ、毛が生えてないんだね」
「ん?」
青年が指摘したように、乳首の周りだけは二重被毛で覆われていない。色の薄い地肌が露出し、中心には小豆ほどの大きさの突起が鎮座していた。ボタンを押すように指先で触れると
「……っあ!!」
突如、瀬畑は雷にでも打たれたかのように、全身をがくがくと震わせた。
「乳首、そんなに感じるんだ? アプリにはタチって書いてあったのに」
「ぜぜ全然そそそんなことはなないぞぞぞぞ」
どうにか平静を[[rb:装>よそお]]おうとしたものの、もう遅い。性感帯として調教済みな突起は、親指と人差し指の動きにくりくりと[[rb:弄>もてあそ]]ばれる。
「ん゛ぁ゛♥ くっ止めっ゛お゛♥♥」
雄らしさを表に出す[[rb:厳>いか]]つい見た目の犬狼族が、まるで[[rb:生娘>きむすめ]]のようにうぶな反応を見せるのが[[rb:余程>よほど]]に面白いのだろう。歯を食いしばり、日々のトレーニングで[[rb:鍛>きた]]えた[[rb:逞>たくま]]しい足腰をがくがくと震わせて乳首責めに耐えていた瀬畑だったが、やがて
「もういい! あとは自分でやる!」
青年の手をはね除けて、残りの箇所にボディソープを塗ってわしわしと泡立てた。
「あ、こっちだけ頼むよ」
[[rb:屹立>きつりつ]]した股間のモノを、青年のほうにぶるんと見せ付ける。ふたつの玉も触ってもらえるように太い脚を軽く広げると、そこに手が伸びた。
「そうそう、気持ちいいよ。あ、乳首さわらないで」
細く筋張った指がボディソープの泡をまとって、差し出したモノの上を滑ってゆく。カリのくびれから竿の根元まで指でしごくように丁寧に[[rb:擦>こす]]ってから、たっぷりとしたふたつの玉を手全体を使って揉みしだく。その気持ちよさに目を細めていた瀬畑だったが、[[rb:隙>すき]]をついて乳首へと伸びてきた青年の手を払いのけた。
シャワーで泡を洗い落としてから湯舟に入った。湯の中で瀬畑は青年をひざの上に乗せ、自分と比べれば細く[[rb:華奢>きゃしゃ]]に見える体を抱く。血行が良くなったのか、青年の体から漂う香りは車内よりも強くなっているようだった。熟れた果実か何らかの花に近いが、もっと肉感的でもったりとした重みを感じられる。
ああ、これは麻薬のようだ。全身のどこもかしこも肉球か手のひらのように、殆ど無毛に近い肌。その感触を手のひらや指先、[[rb:口吻>マズル]]の先や舌を使って存分に味わいながら、ぼんやりと思った。嗅いでいるとひどく心が落ち着くのと同時に、心地よい[[rb:昂>たか]]ぶりも感じる気がする。研修のなかで、何種類かの違法薬物の匂いを嗅いだことを思い出す。それらとは違うことは確かだが、印象だけは似ている気がする。非番だからといって完全にはオフにしきれない部分を使って、そう考えた。
瀬畑の大きな手で[[rb:慰撫>いぶ]]され、青年はあっと小さく声を立てた。
「気持ちいいか?」
青年はその問いに答える代わりに、背中側に当たる硬い肉に後ろ手で触れる。今度は瀬畑が息を震わせた。
湯の中で、逸物は充血しきって臨戦態勢になっていた。青年が体から漂わせる香りの効果もあるのだろう。いつもよりも[[rb:漲>みなぎ]]っている感じをおぼえた。その硬く張り詰め、今にも暴発しそうになっている肉竿を、後ろ手で掴んで揉みしだくような動きをする。
「欲しいか?」
腕に抱いた青年が、こくりとうなずくのを見た。瀬畑はざばりと勢いよく立ち上がってから、湯舟のへりにどっかりと大きな腰を下ろす。脚を軽く広げて間にあるものを見せ付ける。青年は[[rb:屹立>きつりつ]]しきった瀬畑の[[rb:股座>またぐら]]のものに近付くと、下向きの仮性包茎であることなどまったく気にせず、愛おしげに頬ずりした。それを見て持ち主は口元に、満足げな笑みを浮かべる。
青年の手が、充血しきった瀬畑の一部を握った。最初はそっと、そのうちに少しずつ力を込めて。胴回りの太さが缶コーヒーくらいもある[[rb:それ>・・]]は、強く握っても親指と中指がくっつくことはない。
「しゃぶってくれよ」
下向きに口を開け、とろとろと先走りを垂れ落とす尿道口に、再び口づけする。しょっぱくて透明な汁を[[rb:啜>すす]]ってから、大口を開けて[[rb:咥>くわ]]え込んだ。
「君の口の中、あったかくて狭くて気持ちがいいよ。苦しくないかい?」
瀬畑が問うと、青年はその一部を口に含んだまま首を横に振った。それから顔を上下させ、じゅぼじゅぼと音を立てて太竿を味わいはじめた。
「おぅ、っ」
敏感な部分を刺激され、瀬畑は声を震わせた。[[rb:股座>またぐら]]にかしずく青年の髪と頭を、指でそっと撫でる。
「しゃぶるの上手いね。そう、いいよ……」
青年の口の中で、股間の一部は充血し強く脈打っている。陽根に感じる心地よさに目を閉じかけたとき
「ん゛ッ゛!?」
胸の辺りに予期せぬ快感が走り、変な声が出た。瀬畑のモノを口と喉いっぱいに頬張るのと同時に、片手で玉を揉みしだき、もう片方の手は乳首に伸ばしたのだ。
「そっちは要らないって言っただろう?」
大きな両手で青年の頭をがしっと掴むと、今度はざばりと水音を立てて勢い良く立ち上がった。
「お仕置きが必要か? ん?」
仁王立ちの姿勢で青年の頭の両側を掴み、ふた握りしてようやく先端が顔を出す長さのモノを喉奥まで突っ込む。瀬畑の下反りの陰茎は、喉奥までの空間にぴったり無駄なく収まった。ぐっ、とくぐもった声が聞こえた。呼吸を確保すべく半ば辺りまで引き抜く。今しがた手荒く扱った青年の顔を見た。目鼻立ちの整った顔は、今は涙と鼻水でべしょべしょに汚れている。それでも口と舌で、まだ残っている瀬畑の先端部分を刺激し続けていた。
「なんだ、こういうのが好きなのか?」
返事のつもりか、口の中に突っ込んだままの先端部分を強く吸われるのを感じた。青年のフェロモン香、甘やかな香りは確実に濃さを増している。これは肯定的な反応に違いない。そう判断し
「ふんっ」
再度、青年の喉奥深くに肉筒を突っ込み、半ば辺りまで引き抜いた。
「もし嫌なら言えよ。すぐ止める」
呼吸を確保してから声を掛けてから、気がついた。口ふさいでるんだから話せる訳ないよな。
「無理なら、[[rb:太股>ふともも]]叩いて合図してくれ」
言い直した。が、青年は瀬畑の太い腰に手を回し、[[rb:抱擁>ほうよう]]するようなポーズをとった。
「[[rb:乱暴>すき]]にしても、いいってのか?」
充血したモノを咥えたまま、こくりと頷く。口元が笑みの形に歪む感覚。興奮で、尻尾の付け根がぶんぶん揺れそうなのを感じながら
「じゃあ、そうする、ぜ、っ……!」
両手で掴んだ青年の頭を[[rb:玩具>おもちゃ]]代わりに、ピストン運動を始めた。はじめはゆっくりと呼吸を確かめながら、次第に早く、激しく、深く。ぐぽっ、ごぽっと苦しげな息を漏らす喉奥に、剛直した彼自身を突き入れる。それを何度か繰り返し
「ほら、飲めよ……っ!!」
口中の空間をみっしり埋め尽くす肉筒をびくびくと[[rb:痙攣>けいれん]]させ、青年の喉の奥に[[rb:吐精>とせい]]した。
[[rb:ぶっ放した>・・・・・]]直後には理性を取り戻すのは、男としての習性だ。それは犬狼族など獣人であっても変わりない。
[[rb:弛緩>しかん]]しかけた雄の一部を、青年の口から慌てて引き抜き、声を掛ける。
「ごめん、やり過ぎた。大丈夫か?」
「うん」
涙と鼻水で汚れた顔のまま、果てた後も尿道口からとろとろと液体を垂れ流す瀬畑のものを再度口に含む。敏感になった先端部分を舌で舐められ、くすぐったさに小さく声を漏らした。少ししてから青年は[[rb:弛>ゆる]]んだ下反りから顔を離し
「苦いね。すごく濃かった。疲れてる?」
「かもな」
味をコメントされたのがおかしくて、ちょっとだけ笑った。
「デリヘルさんみたいなこと言うんだな」
「そういうの使うんだ?」
「ん、前にちょっとだけな」
「男? 女?」
「どっちもだ」
急に[[rb:饒舌>じょうぜつ]]になったことに内心で少しだけ驚きながらも、普段と変わりない調子を意識しながら言葉を返す。
「そういや名前聞いてなかったな。なんて呼べばいい?」
「今頃?」
「タイミング掴めなかったんだよ」
バツが悪そうに言う瀬畑に、青年が小さく吹き出した。
「いいよ。それじゃ[[rb:Y>ワイ]]って呼んで。アルファベットの」
それ、アカウント名そのままじゃねぇか。思ったが、ここでまた心を閉ざされてもつまらないので、口には出さない。体だけの、それも一夜限りかもしれない相手に、本名を名乗らない人は少なくない。個人情報を掴まれるリスクを避けたい意図は、よく理解しているつもりだった。が、ちょっと寂しいとも思った。
「おれのことは[[rb:よしろう>・・・・]]って呼んで欲しい」
「それ本名?」
「ああ」
それ以上、会話は続かなかった。
[chapter:5.]
この後のための準備をしたいと言う青年を浴場に残して、瀬畑だけ上がった。バスタオルで水気を大まかに拭き取ってから、全身用ブロワーのスイッチを入れる。大きな扇風機に似た機械がゴーッと音を立てて回る前に立ち、毛並みの間に残った水分を吹き飛ばした。これを[[rb:怠>おこた]]れば皮膚病の原因になりかねない。
大掛かりで場所を取る全身用ブロワーは、ほんの何十年か前には備えている家庭のほうが珍しかった。大抵の獣人の家庭ではブロワーを備えた公衆浴場が利用されており、その名残として、獣人が住人の多数を占める河都市では、今でも公衆浴場が数多く営業している。そうした文化的な土壌があるゆえか、人間と比べて獣人たちは人前で裸になることに抵抗が少ないとも言われている。
腹を割って本音を話せる親しい友人関係のことを"裸の付き合い"と言うが、獣人たちの場合には[[rb:比喩>ひゆ]]ではなく、そのままの意味だったりもするとはしばしば言われることであった。
ブロワーで乾かしてもまだ残る水滴を、新しいバスタオルで拭いながら脱衣場を出る。ごろりとベッドに横たわり、テレビのリモコンを付けた。
数回ほどチャンネルを切り替えてから、アダルトビデオを選ぶ。[[rb:猫虎族>びょうこぞく]]の女教師と生徒役の人間男優が、居残り授業中にいかがわしいことになっているシチュエーションのようだ。古い作品なのか、それとも使っている機材のせいかは分からないが、映像の質は荒い。
なお、男優は学ランを着ているものの、40代より確実に上のおじさんであった。むしろ女教師役の猫虎族のほうが若そうだ。黒いスーツにヒョウ柄のワガママボディを押し込んだ女教師を目で追い始めたところで我に返った。
「準備、か」
浴場のほうを見る。青年が出てくる気配はまだない。排泄器官を性行為に使う前には、洗浄をすることが暗黙のマナーとなっている。どの程度時間をかけるのかは人それぞれで、その日のコンディションによっても変わってくることは、ケツが使えずタチしか出来ない瀬畑でもなんとなく見当がついた。急かすつもりはないし、自由にできる時間が生まれたのはむしろ好都合だった。
「さて、と」
乗ってきた車の電子式キーを分解し、ボタン電池を取り外す。電池をベッド横のひきだしの奥に放ってから、キーをテーブルの元の場所に戻した。
続いて、脱ぎ捨てたスウェットのポケットの奥から小さなアトマイザーを1本取り出す。香水に似ているが、少し違う。特徴的なにおいで印を付けるための[[rb:着臭剤>ちゃくしゅうざい]]、マーカーである。財布に向かって吹き付けると、磯の匂いと金属くずを混ぜた匂いが辺りに漂った。生臭く[[rb:金気>かなけ]]臭く、お世辞にも良い匂いと言えないそれは、Yと名乗った青年が体から放つ芳香とは決して混ざらないであろうことが予想できた。
それから硬貨入れの中に、コイン型のGPSタグを仕込む。中身だけ盗られてしまえば意味がないし、そもそも捨てられる可能性も大きい。が、用心するに越したことはないだろう。
GPSタグはもうひとつあり、そちらは既に車に仕掛けてある。仮に寝過ごして車を乗り逃げされたとしても、追跡する手立ては用意してあるのだ。
[[rb:外れ>・・]]だったら良いんだけどな。全部の準備を終えてから、ふと思った。見た目も体の相性も悪くはない。それに一緒にいるうちに、少しは情や興味が湧いてきてしまったらしい。出来れば笑った顔も見てみたい。一夜だけで関係を終わらせるのは、元来あまり得意なほうではないのだ。
トイレに行く風を装い、洗面所で手を洗ってからベッドに戻る。
テレビにはまだ、生徒役の男優の上にヒョウ柄の女教師が騎乗位で[[rb:跨>また]]がる様子が映っていた。当初は責める側だったはずだが、いつのまにか立場が逆転したようで、[[rb:嬌声>きょうせい]]を上げているのは女教師のほうだった。
女教師モノの映像作品が終わった辺りで、浴場のドアが開く音がした。それからしばらくして
「おまたせ」
Yと名乗った青年が、バスタオルで髪と体を拭いながらベッドに向かって歩いてきた。瀬畑がそれを、ベッドに寝転んだまま太い両腕を広げて招くと、青年の体はするりと収まった。
「熱いね」
「そうか? 君こそ冷えていないか? 洗い場で寒かっただろ?」
「もう6月だよ」
獣人の体温は人間よりも高い。瀬畑もまた、普段の体温は37.5℃くらいである。
体温と触り心地。互いの体の同じところと違うところを確かめ合うように、ベッドの上でじゃれあった。しばらくそれを続けたところで
「ねぇ」
小さく甘えるような声で、Yと名乗った青年の手が瀬畑の体に触れた。
「ああ」
青年の体から出る、うっとりするような香りで肺を満たしながら、膝立ちの姿勢になった。
[newpage]
[chapter:6.]
「四つん這いになって、お尻をこっちに向けて。そうそう、そんな感じ」
青年が言われた通りにすると、尻の割れ目にそって温かく湿った感触が走った。くすぐったさに驚き、思わず声を震わせた。
「んー、いいにおいだぁ」
瀬畑はフゴフゴと鼻をならしながら青年の尻のにおいを嗅いだ。そして、ペチャペチャと音を立てて白いふたつの肉のあいだに挟まれた穴を舐めた。
「縦にぱっくり割れちゃって、女の子のアソコみたいになってるねぇ。可愛いなぁ」
今度は舌とは違う感触が来た。もう少し乾いていて硬さがあったので指かと思ったが、それもまた違うようだ。指よりずっと太くてずっと熱い――
「慣らさなくてもスルッと[[rb:挿入>はい]]っちゃいそうだね」
「ちょっと!?」
四つん這いで尻を掴まれたまま、青年は思わず声を荒げた。今、穴の縁に触れているのは、股間で充血しきった瀬畑の肉竿だ。握ったときに親指と中指がくっつかないくらいで、コーヒー缶とだいたい同じくらいの太さの。冗談じゃない。
「冗談だって。ちゃんと慣らすよ。ほら、力抜いて」
「まったく……」
言われたとおりに力を抜いた。ひんやりとローションで濡らされる感触に続き、指が1本だけ差し入れられるのを認識する。
「ん、っ……」
体の内側に異物が[[rb:這入>はい]]ってくる感触に、思わず声が出る。
「痛かったか?」
「平気」
指の動きは一旦止まったが、大丈夫と分かるとふたたび慎重な様子で動きはじめた。内側で毛がちくちく刺さる感触はない。全身を毛並みに覆われた獣人たちは水仕事などをするとき、ぴったりとフィットする使い捨ての手袋を着ける。この瀬畑という男もまた、そうした薄地の手袋を使っているのだろうと青年は推測した。
「ここ、気持ちいいだろ?」
「ん」
直腸の内壁越しに、四つん這いになった体の下側――直立した場合の前側を指で擦られる。男のシンボルがじんじんと痺れる感触に、青年は小さく声を漏らした。指ではなく、もっと太いモノが欲しい。そう思って瀬畑の方に向かって尻を軽く突き出すように動かすが、しかし
「もういいよ。指じゃないやつ[[rb:挿>い]]れて」
「駄目だ。しっかり慣らさないと痛いぞ」
指が2本に増えた。締まり具合を探るように、内壁をグニグニと動き回る。大丈夫と判断したのか、次は3本。平気だ。それよりも早く欲しい。じっくり時間をかけて[[rb:解>ほぐ]]されてから、指が引き抜かれ
「[[rb:挿>い]]れるぞ。力を抜いて」
熱くて弾力のあるモノが穴の縁に触れた。ローションを足される。言われたとおりに力を抜くと、するりと[[rb:這入>はい]]ってくる感覚がやって来た。指3本を合わせたより太さのある肉の竿が、ずぶずぶと埋まってゆく。だいたい[[rb:へそ>・・]]の少し下あたりまで来た辺りだろうか。毛並みの先端がちくちくと尻に当たった。
「全部[[rb:挿入>はい]]ったぞ」
[[rb:後背位>こうはいい]]で繋がったまま、瀬畑はふぅ、と熱い息を吐いた。瀬畑の下向きな一部は、青年の[[rb:肛内>なか]]に根元まで埋まっている。下反りの陰茎は俗に"糞かきマラ"などと呼ばれ、形の悪いものみなされる傾向にある。しかし、後ろから結合する体位では、一転して名器となるのだ。
「そろそろ動いていいか」
「うん。……っあ……」
瀬畑がゆるゆると腰を動かし始めると、青年は甘く息をついた。瀬畑の肉筒が直腸のなかで[[rb:擦>こす]]れるたびに、直腸越しに青年の前立腺を刺激する。下向きについている先端は、青年の弱点を的確に責めた。瀬畑が逞しい腰から繰り出すピストン運動の1ストロークごとに、青年は甘い声で泣いた。
「君のナカ、すっごくあったかくなってるよ。いい匂いだ。花か果実みたいな匂い、どんどん強くなってる」
背中越しに覆い被さるような格好で、腰を振り続ける瀬畑。最初はゆっくりと動かし始めたのを、青年が気持ち良さそうに声を立てていることを確認しながら、少しずつペースを上げてゆく。粘膜がこすれるたびにクチャクチャと湿った音を立て、ふたりが今は繋がっているベッドは、腰のひと振りごとにギシッギシッと[[rb:軋>きし]]みを上げた。
「君のも[[rb:勃>た]]ってるね。先っぽがぬるぬるしているよ」
前立腺を刺激され、青年の股間にある男の部分もまた充血しきっていた。そこに瀬畑の大きな手が、すっぽり覆い隠すように触れた。[[rb:肛内>なか]]と外側の両方から刺激され
「あっ、待っ、て。……イっちゃ、う、から……っ……」
青年はあえぎながら自分の大事なところを包む分厚い手をどけようとする。が、単純な力比べで人間が獣人にかなうはずはない。ましてや片や一般人、もう一方は普段からトレーニングを欠かさない刑事課の警察官とあっては尚のこと。
瀬畑はささやかな抵抗などものともせずに逞しい腰を打ち付け、下反りの太竿を[[rb:肛内>なか]]に深々と差し込んでは浅く引き抜くのを繰り返した。同時に、慎ましやかながら充血した青年の男の部分を大きな手で刺激し続けた。やがて
「っあ……」
体の下ですすり泣くような声を漏らす青年が熱い[[rb:しずく>・・・]]を落とすのを、瀬畑は大きな手で受け止める。腰を打ち付けながら、手の中のものを舐め取る。甘美な味と香気を感じた。昼間に嗅いだ自分のものは、ただ生臭く青臭いだけだったのに。
「ごめん、っ……君のナカすげぇ締まる。気持ちいい……っ!」
ああ、[[rb:かぐわしい>・・・・・]]この人を、今おれは汚そうとしている。罪悪感が忍び寄る。だけど止められない。腰を更に打ち付ける。気持ちがいい。限界が近い。敏感な奥深くに自分の一部を突っ込んでかき回す。罪の意識。止まらないピストン運動。快感で[[rb:痺>しび]]れそうだ。
「おれも、[[rb:射精>だ]]す、ぞ……っ!」
射精の快感にきゅぅっと収束する[[rb:括約筋>かつやくきん]]を強引に押し分けて、肉筒を深々と突き入れた。
「く……っ……! っはぁ……」
自身の一部が直腸の内壁に圧迫されるのを感じながら、大量の精を放つ。全力疾走した直後のように荒く息を吐き、組み敷いた腰をかき抱く。汗ばんだ無毛の体を撫で、罪悪感と興奮、快楽がごちゃ混ぜになった波が過ぎるのを待った。が、引く気配はない。
青年のうなじに[[rb:口吻>マズル]]を近付け、息を吸う。髪のあいだから漂う汗混じりの甘やかな香りに、頭がどうにかなりそうだった。ああ、熱い。[[rb:射精>だ]]した直後だというのに膨張したまま硬さを失わない一部を、青年の[[rb:肛内>なか]]でゆっくり滑らせる。
「ごめんよ。このまま続けさせてくれ。収まりそうにないんだ」
口では詫びつつもがっちりと押さえ付け、熱いままの太竿を肉穴の内側で遊ばせる。下向きの先端を小刻みに動かし、直腸の内壁越しに前立腺を刺激するたびに「あぁ」とか「うぅ」と甘くせつなげな声を漏らし、瀬畑の幅広の体の下でがくがくと[[rb:痙攣>けいれん]]した。
「疲れたかな?」優しく言いながらも腰の動きは止めない。切れ切れに[[rb:喘>あえ]]ぐ声ばかりで返事はない。
「[[rb:乱暴>すき]]にしていいって、さっき言ってたよな。ああ大丈夫。優しくするから」
粘膜同士をクチャクチャと湿った音を立てて擦り合わせながら、瀬畑は青年のうなじに舌を這わせて汗を舐めた。
「いいよ。最高だ。ああ、でも体勢、変えようか。舌を[[rb:噛>か]]まないようにな」
ほとんど無毛の体を抱いたまま、ベッドの上で横に180度回転する。驚いた青年が「ひぃ」と[[rb:呻>うめ]]いた。仰向けになった瀬畑の上に青年が乗る格好になる。[[rb:背面騎乗位>はいめんきじょうい]]の体位である。
股間の肉筒は尻肉の間に埋もれた穴に深々と突き刺さったままだ。
「あとはおれに任せて、君は休んでいてくれ、よ……っ!」
瀬畑は青年の白い腰を両側から掴み、自分の逞しい腰を下から打ち付けた。動きに合わせて、瀬畑の肉筒は今やすっかり性器に作り替えられてしまった青年の穴を圧迫し、刺激する。その都度、青年は悲痛と甘美いずれとも取れる声を上げた。
「[[rb:肛内>なか]]で硬くなってるのが分かるよ。ここ、弱いだろ?」
硬く充血した前立腺を竿の先端で擦ってやると、青年はまた泣き声にも似た声を立てる。いっそう甘やかな香りが部屋を満たした。
下から肉竿で穴を[[rb:抉>えぐ]]られ、片手で射精して敏感になった男の部分を[[rb:弄>いじ]]られて、青年はまた「あ……あぁダメ……」と、せつなげに声を震わせた。
「大丈夫、おれに任せて……っ!」
「あぁ……あっ、出ちゃうあっ、あっ、あっ」
穴そして男の持ち物の両方を刺激され、青年は精液とは違う液体を大量に噴出させた。[[rb:潮吹>しおふ]]きだ。
「すげぇっ、さっきよりずっと締まる……っく!」
快感に耐えるようにきつく[[rb:窄>すぼ]]まった直腸の内壁に刺激され、瀬畑もまた、つい今しがた[[rb:射精>だ]]したとは思えないほど大量の子種で、青年の内側をまた汚した。
「なぁ、何回イけるか試してみないか?」
返事の代わりに返ってきたのは「あっ」とか「ひぃ」といった言葉の[[rb:体>てい]]を為していないうめき声だった。しかし瀬畑はそれを[[rb:肯定>こうてい]]と[[rb:捉>とら]]え、[[rb:俯>うつむ]]き加減だがふてぶてしい持ち物で、体の上に乗せた青年を念入り[[rb:愛>め]]で続けた。さきほど感じた罪の意識は、今や快楽の前にほとんど立ち消えになっていた。
欲と衝動の赴くままに腰を打ち付ける。充血した[[rb:肉竿>さお]]と[[rb:肉穴>あな]]が擦れるたび、快楽が押し寄せる。それを幾度となく繰り返すうちに、いつの間にか青年は失神したらしかった。
[chapter:7.]
瀬畑にYと名乗った青年は、内心で獣人たちを見下していた。単純でだまされやすく、おひとよしだが粗暴で欲に忠実。幼い頃からずっと、周囲の獣人たちは自分に対して優しかった。皆が口を揃えて、良い匂いがするとか何とか言っていたが、その感覚は今にいたるまで理解できない。いずれにせよ、彼らの親切心はいつも下心とセットだった。体を差し出せばこちらの要求を聞き入れてくれる。だから、そうしてきた。ギブアンドテイク。最初のうちはそう思っていた。だけど今は違う。不当に奪われていたように思えて仕方がない。
そう。仕方がないのだ。欲を満たすために奪おうとする彼らから、[[rb:別のもの>・・・・]]を奪ってきただけ。生きるために。
酷い寝覚めだった。体のあちこちが痛い。特に尻が。[[rb:叫ばされた>・・・・・]]せいで喉が痛い。たぶん声はガラガラに[[rb:嗄>か]]れていることだろう。今は声を出す訳にはいかない。昨日、自分を滅茶苦茶に抱いて、今は大いびきをかいて寝ている[[rb:瀬畑>せばた]]とかいう犬狼族が起きてしまうかもしれない。そうなれば全てが水の泡だ。
微動だにせず様子をうかがう。目覚める様子はなさそうだ。そっとベッドから起き上がる。そこで体が汚れていないことに気がついた。昨晩、気を失った後で体を拭いてくれたようだ。ついでに体の下にバスタオルを敷いてくれていたようで、派手に潮を噴いた後だというのに湿った嫌な感じもほとんどない。
そっとベッドから抜け出し、手早く服を着た。下腹の辺りにピリピリとした痛みを感じる。精液に含まれる成分のせいだろう。トイレに行きたかったが、そんなことをしているうちに起きてしまうかもしれない。
腹痛は無視することにして、ガラステーブルの上に置かれたままになっている瀬畑の財布と車のキーを服のポケットにねじ込んだ。そして音を立てずに2階の客室から立ち去り、1階のカーポートへと降りた。
財布の中身はどれくらいだろうか。気になったが、確かめるのは逃げ切ってからだ。そう考えて電子式のエンジンキーのスイッチを押すが、反応しない。一体どうしてだろう。内心で焦る。車はあきらめて走って逃げようか。適当なところでタクシーでも拾って――
「電池を抜いたんだ。動くわけがないだろう」
後ろから聞こえた声に、心臓が止まりそうになる。パンツの中に温かく湿った感触。中出しされた精液が漏れてしまったようだけれど、今はもうそれどころではない。
「[[rb:淡海県警>あわみけんけい・]][[rb:東岸署>とうがんしょ・]][[rb:刑事課>けいじか]]の瀬畑だ。[[rb:窃盗>せっとう]]の現行犯で逮捕する」
つい今までいびきをかいて寝ていたはずの犬狼族を、Yと名乗った青年は見た。明るい茶と黒の毛並み、タンクトップにスウェットパンツのラフな格好。見た目は昨日と同じ。けれども声は硬質で冷たくて、目つきもひどく鋭くけわしい。
「君、おれの財布を[[rb:盗>と]]っただろう? 分かるぞ。財布にはマーカーで匂いを付けてあった。金属くずと磯の臭いを混ぜたようなやつだ」
「いつから――」気付いていたのかと言おうとするが、声がかすれて言葉が出てこない。けれども[[rb:よしろう>・・・・]]もとい瀬畑と名乗った獣人は、意図を理解したようで
「ずっとだ。君がアプリでおれのアカウントにメッセージくれたときに気付いた。おれを[[rb:獲物>ターゲット]]に選んだのが運の尽きだったな」
ダッシュで逃げようとしたところで、腕を掴まれた。ズボンの尻の辺りがぐちょぐちょに湿って気持ちが悪い。
「勘が外れてくれればいいって、何度も思ったよ。残念だ。とても」
悲しげな声の向こうから、パトカーのサイレン音が近付いてくる。もう逃げられないと悟り、Yと名乗った青年はその場にうずくまった。
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犯人が捕まったことで"連続ラブホ金品盗難事件"は一応の解決を迎えた。[[rb:東岸署>とうがんしょ]]に出勤した瀬畑は、事件の担当から外されることを言い渡された。不服はなかったし、むしろ当然だろう。マッチングアプリで出会い、たった一晩だけとはいえ親密な関係にあったのだから。これまで被害に[[rb:遭>あ]]った人達を思えば、取り調べに私情を[[rb:挟>はさ]]むなど、あってはならない。
昨晩はYと名乗った青年の取り調べは、他の捜査員が担当することになった。期せずして、ひとつの案件が瀬畑の手から離れた。だからといって仕事が軽くなった訳ではなかった。
警察とくに刑事課は慢性的な人手不足もあり、ひとりの捜査員が幾つもの案件を抱えている。瀬畑にしても例外ではない。そんな訳で、書類仕事に事件の聞き込みにと、時間は流れるように過ぎていった。
「まーた残業かい? 部下の管理が出来てないって怒られるの、わたしなんだけど」
夜になり、まだ刑事課のオフィスに残っている瀬畑に、直属の上司である[[rb:柳小夜子>やなぎ・さよこ]]警部が声を掛けた。「あー、はいはい」と雑な返し方をされるのに、眼鏡の奥で眉間にシワを寄せる。が、文句を言うことはなく、代わりに差し入れを彼の手もとに置いた。黄色と黒、シンプルだが刺激的なデザインの缶コーヒー。糖分たっぷりのそれは、幼馴染みの弟分の好物であることを小さい頃から知っている。
「ありがとうございます」
あ、お礼はちゃんと言うんだ。彼に対する評価を、柳は少しだけ修正した。目を細めてラップトップ型端末のディスプレイと[[rb:睨>にら]]めっこしたままなのは、ちょっとよくないけど。
「おれは気にせず、課長はお先にどうぞ。もう少しかかるんで」
「ん? 電源ブチッとされたい?」
「勘弁してくださいよ!!」
電源スイッチに手を伸ばそうとする柳を、瀬畑は慌ててて[[rb:制止>せいし]]する。シャツの下でまだらの二重被毛が逆立つのが透けて見えて、ちょっとだけ面白い。
「まぁ、元気そうで安心したけどさ」
「元気ですけど。昨日は非番でゆっくり休みましたし」
「ちょっとはしょげてるかと思ったんだけど、取り越し苦労だったかな」
キーの並びを確かめながら文字を打ち続けていた瀬畑だったが、そこではじめて柳を向いて目をしばたたかせた。しばらく黙っていたが、やがてため息まじりに
「落ち込んでるヒマなんかないですよ」
それだけ言うと、ふたたび端末のディスプレイに向き合う。
「[[rb:八十山飽登>やそやま・あきと]]のこと、気にならないのかい?」
「誰ですか、それ?」
「えっ?」予想外の返事に、一瞬だけ柳は固まった。それから
「もしかして、昨日の彼、名前も聞かずに……[[rb:した>・・]]、の?」
口ごもるような言い方に、瀬畑はキーを叩いていた手を止めた。
[[rb:小夜子>・・・]][[rb:おねぇちゃん>・・・・・・]]に性的なあれこれを言及されたことに、さすがに気まずさを感じたのだ。7つ年上のおねぇちゃんもまた、そこらへんは察したようで
「まぁ、君ももう大人だし……そこらへんは、個人の自由だけどさ……」と、[[rb:曖昧>あいまい]]に言葉を濁した。
「それで、[[rb:八十山>やそやま]]でしたっけ。彼、おれのことを何か言ってましたか?」
「君のこと?」
昨晩はどうしようもなく抑えきれず、力任せに抱いてしまったことを思い出す。普段ならばもう少し、相手の状態を見て[[rb:する>・・]]のだ。けれども昨晩はどうしてか、自分の中にあるブレーキが効かなかった。Y青年もとい八十山が放っていたフェロモン香が最後の一押しだったかもしれない。
もし仮にそうだったとしても。彼を汚してしまいたいと思ったのは他でもない、おれ自身だ。そうでなくてもだまし討ちも同然のことをしたのだ、恨まれて当然だ。などと考えていると
「んー、特に何も言ってなかったと思うけど。何かあったのかい?」
「いえ、別に。それならいいんです」
また端末のディスプレイに向き直る。少しだけホッとした。事件は終わった。あの色白でほとんど無毛の体を抱くことはもうないだろうし、あの香りを嗅ぐことは二度とないだろう。そう思うと、心の内側に[[rb:隙間風>すきまかぜ]]が吹くようなどうしようもない寂しさをおぼえた。
「アキト、か……」
もう呼ぶことのない名前を口にする。出来ることならば、腕の中かベッドの上で呼んでみたかった。昨日感じた体温そして芳香を思い出しかけたところで、机の横のひきだしががらりと開けられた。柳だ。
「何やってるんですか!?」
「まーたこんなに溜め込んで。ちょっともらうよ」
チョコレート菓子をわし掴みにすると、そのひとつの封を開けてバリバリと食い始めたではないか。
「それ、おれのです!」
「いいじゃん、ちょっとぐらい。あ、これ限定品じゃん」
「あーっ! 弁償してくださいよ弁償!」
「なんだよケチだなぁ。ともかく、それ終わったら今日は帰るんだ。これ上司命令ね」
幼い頃から変わらぬ姉貴分の横暴に閉口した瀬畑だったが、それが彼女なりの気づかいだとも分かっている。さておき食べた分は弁償してもらわなければ。そう思いながら書類作成の残りに取りかかった。
(了)