セブン・ヒルズの闘技場が静まり返る頃、
ルパは息を切らしながら、闘技場の影に身を預けていた。
「っ……ほんと、あたしどうかしてる……」
胸の奥が、ずっとざわざわしていた。
今日の戦いはいつも以上に熱くて、肌の下で火花が散るような感覚が残っている。
理由は分かっていた。
向かい合った相手が──彼女だったから。
「……また、かっこよすぎるんだもん、あの人……」
呟いた言葉に、思わず顔を覆ってしまう。
頬が、火傷しそうに熱い。
漂泊者。どこかぶっきらぼうで、冷たそうに見えるくせに、たまに見せる笑顔がずるい。
その目で見つめられると、心臓が暴れ出してどうしようもなくなる。
「ったく……あたし、こんなふうになるのかよ……」
そのとき、背後から静かな足音が近づいてきた。
「ルパ。ここにいたんだ」
びくっと肩が跳ねる。
「へ、漂泊者っ!? な、なんで……あ、いや、なんでもないっ!」
焦りながら、背を向けて立ち上がる。けれど次の瞬間、肩にそっと手が触れた。
「顔、赤いよ?」
「えっ、うそ、いや、ちょっと興奮冷めてなくて……っていうか、近いっ!」
漂泊者はいつもの無表情で、でもほんの少しだけ、口元がゆるんでいた。
「……ほんとに、可愛いね。今日のルパ」
「か、かかか可愛いって何!? ちょ、やめろよ、そういうの……心臓止まるから……!」
情熱の戦士、セブン・ヒルズのグラディエーター。
どこまでも真っすぐで、飾らない彼女が、いまはまるで子猫のようにうろたえている。
それを見た漂泊者は、少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
「じゃあ、もっと赤くなることしてみる?」
「……へ?」
気づいたときには、もう遅かった。
壁に背を押しつけられ、目の前に迫る唇。
あまりにも自然な流れで、ルパの首筋に熱が走った。
「……っ、ん……」
そのまま、首筋を甘く噛まれる。
わずかに唇が吸い付く音がして、ルパの膝がかすかに揺れた。
「な、なにそれ、そんな……ん、ずるい……」
「ルパがかわいすぎるから、我慢できなかった」
そっと耳元で囁かれると、電撃が背中を走る。
「こ、こっちは我慢してるのに……」
「……じゃあ、ルパ。どうしたいの?」
その言葉に、ルパは一瞬、目を逸らす。けれど、すぐに意を決したように唇を噛みしめた。
「……触ってほしい」
「どこを?」
「……全部」
その一言に、漂泊者の目が細められる。
そして、そっとルパの腰を抱き寄せた。
「……わたしも、ずっと触れたかった。肌の熱も、息の音も、全部」
服の上からなぞる手のひらが、ルパの背中を這っていく。
「だ、だめ……そこ、敏感だから……っ」
「大丈夫。ちゃんと優しくするから」
ルパはもう、何も言えなかった。
ただ熱くて、くすぐったくて、でもどこか幸せで。
好きな人に包まれる感覚が、こんなにも甘いなんて──知らなかった。
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数時間後、静まり返ったホテルの一室。
ルパは、漂泊者の胸元に顔をうずめたまま、寝息を立てていた。
乱れた髪。薄く汗ばんだ肌。
そして、その唇にはまだ、うっすらと余韻が残っている。
漂泊者は静かにルパの髪を撫でた。
「……ルパ。ずっと傍にいて」
その言葉に、眠っていたはずのルパが、かすかに目を開ける。
「……うん。あいぼぉとなら、ずっと......」
そう呟いて、また目を閉じたルパは、いつになく穏やかな表情をしていた。
そして、誰にも見せない無防備な寝顔を、漂泊者はそっと額にキスして守るように抱きしめた。
──その肌の熱も、鼓動も、全部。
今夜、二人だけのものとして、夜に溶けていった。