「着いたよ」
「うわぁ、賑やかぁ」
「ピカピカッ」
衝撃的な出会いを果たしたダイゴとサトシとピカチュウは、森を離れてダイゴが住む街カナズミにやってきた。
「ここは街の市場でね。昼間はみんなこうして屋台を営んでいるんだ」
「へー。ていうか、みんな色んな動物の耳が付いてる」
市場を通って気がついた。人々の頭に生える耳と、尻尾。中には、背中に鳥の羽根が生えている人も居た。
「それについても、王都に着いたら全て教えるね」
「王都って、なんか本当にドロクエみたい」
「ドロクエ?」
「ゲームだよ。魔物とかが出てきて、最後は魔王を倒すの」
「ゲーム?魔王?サトシくんの口から出てくる言葉は面白いね」
聞き慣れない単語に想像をするも、全く予想がつかない。でも、サトシの口から出てくる単語が面白くて、つい笑った。
「着いたよ。ここがこの街カナズミの王都」
立ち止まって見上げた。
「えっ、すごい普通。ちょっと大きいレンガの家って感じ」
そこに立つのは、このカナズミそれぞれの家と同じ造りのレンガの家。門扉が両扉で鉄のような素材を使用している点と、奥の方まで広がっている以外の点は、さほど変わりない。
「あははっ、どんな建物を想像していたの?」
「えっと、もっとお城みたいに立派な感じ!だって王都だから!」
サトシの頭の中の王都を想像したら、自然と笑いが込み上げた。
「王都と言っても、ここは町役場の役割も果たしてる。一般市民なら誰でも入れるようになっているんだよ」
「街の人なら誰でも入れるって、とってもいいですね!」
「うん、僕もそう思う」
まるで自分が褒められているようで、顔が自然と綻んだ。
「さぁ、まずはお風呂に入って温まろう。それから話をーーー「ダイゴ!!」
サトシの肩を抱いて歩き出そうとした時だった。門の扉が開き、中から人が。
「良かった、帰ってきた」
「おっ前どこ行ってたんだよ!心配すんだろうが!!」
扉からやってきたのは、ダイゴと近い年齢であろう男達。つい、頭を見てしまったが、ダイゴと同じ耳とフサフサの尻尾が付いていた。
「って、お前その腕の怪我…でも、ちゃんと治療は出来ているな」
「ん?何だこの餓鬼」
と、柄も口も悪いモヒカンヘアーの男がこちらを見た。それに思わずカチンッと来てしまった。
「餓鬼じゃない!サトシって名前があるの!」
「サトシ??って、おい、こいつ肌と同じ色の丸い耳をもってやがる」
「えっ!?」
すると、隣に居たこの中では最も身長が高い男も驚いてこちらを見た。
「ま、まさか、あの予言が…」
「ミクリもカゲツも落ち着いて」
あまりに暴走するものだから、ダイゴはサトシよりも少し前に出て、二人を嗜めた。
「この子は僕の命の恩人だ。まずは風呂の準備を進めてお風呂に入れてあげて。話はそれからだよ」
真剣な顔つきと口調。それにミクリとカゲツはお互いに目を合わせた。
「わかった。私はこの子の着る物の準備をしてくる。カゲツはお湯を準備して」
「へーへー」
どうやら何かを察したようだ。ミクリもカゲツもそれぞれの仕事へと向かった。
「さあ、行こう」
「あ、う、うん」
肩に乗るダイゴの体温。それだけが、今の唯一の安心材料だった。
風呂から上がった。扉を開けると、そこには先ほどダイゴと話してい一番身長が高い男、ミクリが待っていた。
「あ、えっ、と…」
「ミクリだよ。サトシくん、だったかな?お湯加減はどうだっただろうか」
「とっても気持ち良かったです!ありがとうございました」
「いいえ。それなら良かった。それじゃあ、私に着いてきて」
言われるがまま、ミクリの後ろを着いて歩いた。
「ダイゴから聞いたよ。サトシくんが身を挺して助けてくれたって。ダイゴを助けてくれてありがとう」
「いえ、ダイゴさんが無事で本当に良かったです!」
そういうと、サトシはニコッと笑った。
「なるほどね」
「???」
ミクリは小さく呟いた。
そんな話をしていると、ミクリがある扉の前で立ち止まった。
コンコンッ、ガチャッ。
「サトシくん。連れてきたよ」
「ご苦労ミクリ」
「お、おじゃまします」
部屋に入ると、ダイゴは自分に貸していた筈の白いジャケットをきっちり閉め、何やら立派な机に着いていた。その後ろには、柄の悪い男カゲツも居た。
「ダイゴさーーー「髪の毛、びしょびしょじゃないか」
声を掛けようとしたところで、ダイゴが机から立ち、こちらに来たかと思えば、サトシの毛先に触れた。
「ほら、タオル貸して」
「わぷっ」
タオルを渡すと、ダイゴはワシワシと頭を拭いてくれた。
「(あったかい、気がする)」
自分よりも大きな手の平が、何だか心地よかった。
「よし、乾いたよ」
「ありがとう、ございます」
「あははっ、そんなに畏まらないで」
「あ、う、うん!」
優しい口調。それで本当にそういう風に話していいのだと思えた。
「さて、本題だ」
拭き終わったタオルをミクリに渡し、奥側にあった椅子をサトシと向き合うようにして設置し、座った。
「サトシくん改めて、僕の命を救ってくれてありがとう。あの時、君が居なかったら僕はアーボックに殺されていた。ピカチュウも、ありがとう」
「いえ、助けてくれたのはピカチュウだし、ダイゴさんが無事でよかったです!」
「ピカピカ!」
照れつつも、本当に助かってよかったと思っている様子が伺えた。それから、ずっとサトシの肩に乗っていたピカチュウにも、お礼を述べた。
「僕はあの時、意識が朦朧としていて、記憶が曖昧な所があるんだけど……サトシくん、君はあの川辺に突然現れたように思えたんだが、どうやってあそこに?」
「あっ、えっ、と……信じてもらえないかもしれないけど、オレ多分、違う世界から来たんだ」
「「!!」」
「………」
サトシの発言に、ミクリとカゲツは驚き、ダイゴは静観した。
「オレの住んでた世界で、外に居たら突然シュンシュンッみたいな音がして、音のする方に歩いて行ったら大きな穴があって、そこを覗いたらダイゴさんがあの紫の大きな蛇に襲われてるのが見えて……咄嗟に助けなくちゃって思ったら体が勝手に動いて穴の中に入ってて、そしたらあそこに」
少しの沈黙。それから、ダイゴの口が動いた。
「ここは、リンクという世界。僕たちが居るのはその中の一つの地方、ホウエンという地方だ。この世界の人間には、サトシくんと同じような耳を持つ人は居ない。みんなそれぞれ、獣の性質を持った人間、いわゆる獣人が暮らしている。それと、ポケモンが」
「ポケモン?」
「今、サトシくんの肩に乗っているピカチュウ。そういう子だよ」
ダイゴに言われ、ピカチュウと目を合わせた。
「もしかして、あの紫の蛇も?」
「あぁ、あれもポケモンだ」
「あんな大きいのもいて、ピカチュウみたいな小さいのも居るんだ」
「もっと大きなポケモンもいるよ。僕の体よりも大きなね」
「そんなのも居るんだ!ポケモンってたくさんいるんだな」
頭の中で思い浮かべた。まだまだ会ったことのないポケモン。どんな生き物なのだろうかと。
「だから、サトシくんが違う世界から来たことは、その耳でわかったよ」
「あ、そっか。みんな動物の耳なんだもんね。ダイゴさんは…犬?」
尖った銀色の耳。よく見れば、ミクリとカゲツにも同じような耳が付いていた。
「少し惜しい。狼だよ」
「狼!?うわぁ、カッコいい!」
サトシはキラキラと目を輝かせ、興味津々にダイゴの耳と尻尾も見つめていた。
「お前すげー呑気だけどよ、どうやったら帰られるとか考えてないのか?」
「カゲツ」
そうカゲツが話すと、ダイゴは少し睨んだ。けれど、カゲツも怯まない。
「いや、だってこっちの世界きちまったんだぜ。帰りたいとか思わん?」
「ていうか、帰れるの?」
サトシの何気ない疑問。それにダイゴもカゲツもミクリも言葉を詰まらせた。
「すまない。帰り方については、僕たちもわからないんだ。違う世界の人がこちらに来るなど初めての事でね」
「なーんだ。じゃあ、オレ、ここで暮らす」
「えっ!?」
「はぁっ??」
「ふっ、ふふっ」
あっさりとした回答。ミクリもカゲツも驚き、ダイゴは笑った。
「だってさ、わからないんだし、なら闇雲に方法探しても意味ないじゃん?ならこの世界にオレが馴染んじゃえばいいんだよ!」
「おっまえ、すげーな」
「サトシくんは逞しいんだね。何ともグロリアスだ」
呆気に取られつつも、サトシの逞しさに脱帽した。
「あ、でも住む家ない。どうしよう…」
ふと、思い当たった。そういえばこちらには突然来た。住む家がない。どうしたものかと頭を悩ませているとーーー
「サトシくんが良ければ、僕の家に来ないかい?」
「えっ!?」
「この世界に来て不安もあるだろう。昨日出会ったばかりだけれど、これも何かの縁。どうだろう?」
思ってもみない提案だった。自分が住んでいた世界とは真逆の世界。昨日は大きなポケモンにでくわし、正直怖い思いもした。不安も確かにある。でも、ダイゴの尻尾に包まれたとき、少しだけ不安が緩和した。ダイゴと居ると安心する。それだけは、確実にわかった。
「行く、行く!ダイゴさんの家に行きたい!」
だから、答えはひとつだった。
「よし、決まりだ」
「何だか至れり尽くせりだなぁ。ありがとうございます、ダイゴさん!」
「君は僕の恩人だから。これぐらいの事はさせて」
「えへへっ」
そういうと、サトシは頭に手を置いて照れた。そんな仕草に、ダイゴは穏やかな表情を向けていた。
「あ、ピカチュウは??」
「もちろん、ピカチュウもだよ」
「やったぁ!よかったなピカチュウ!」
「ピカピィカァ!」
ピカチュウはサトシの頬に赤い頬を擦り付け、喜んだ。その光景を、穏やかに見守った。
「ミクリ、カゲツ」
ふと、ダイゴが名を呼んだ。
「サトシくんの周り、これから気をつけて。僕もしばらくは、サトシくんの傍から離れられないだろう。王都の事は任せた」
ダイゴの発言に、ミクリは真剣な顔で頷き、カゲツは腕を頭の後ろに組んだ。
あれから少しばかり雑務を片し、ダイゴはサトシを連れて自宅へと帰った。
「街から少し離れてるんですね」
ダイゴに街の事を教えてもらいながら着いていくと、あの賑やかな街からは外れ、静かな丘の近くへとやってきた。
「僕自身があまり人気の多いところは苦手でね。どちらかといえば自然に囲まれた暮らしの方が好きなんだ」
「あ、オレもです!あの賑やかなのもいいけど、自然の中の方がオレには性に合ってる」
「自然の中で一晩を過ごすことが出来たんだ。そんな感じがするよ」
好きなものが似ていてよかった。そんな風に思っていると、辿り着いた。
「ここが僕の家だ」
「ここが、ダイゴさんの…」
玄関の前、平屋の一軒家。街と同じレンガ調の大きな家。外からでもわかるほどの広さがあるだろう。
「家に入る前に、僕の家族を紹介してもいいかな?」
「ダイゴさんの家族?」
「うん。2人とも、出ておいで!」
そう言うと、ダイゴは手に赤と白のボールを2つ手にし、そして同時に空へと投げた。
ボールからは光が漏れだし、何かが出てきた。
「な、なに…?」
思わず目をつぶってしまい、その目をゆっくり開けた。
「メタッ」
「ゴドラッ」
そこには、硬そうな体を持つ灰色の巨体が居た。
「僕のポケモン、メタグロスとボスゴドラだ」
メタグロスとボスゴドラ。ダイゴは2人の体を優しく撫でた。
その見た目から、とても強そうで、サトシは目を輝かせた。
「カッ、カッコイイーー!!」
そして、手に拳を作り、輝かせていた瞳をもっと輝かせ、メタグロスとボスゴドラに近づいた。
「メタグロスとボスゴドラ、コイツらもポケモンなの!?」
「そうだよ」
「そのボールみたいなやつから出てきた!」
「これはモンスターボール。この中にパートナーとなるポケモンを入れて持ち運ぶんだ」
「パートナー!じゃあ、ダイゴさんが言ってた家族ってメタグロスとボスゴドラの事だったんだ!」
「ふふっ、そうだよ。この世界リンクは、パートナーとなるポケモンと共に暮らすこともある。メタグロスやボスゴドラのような硬い体を持つ子も入れば、フサフサの毛並みを持つ子もいる。水の中を泳ぐ子も入れば空を飛ぶ子も居る。本当にたくさんのポケモン達がこの世界で僕たち獣人達と同じように生きているんだ」
「ポケモン…すごいや」
自分の世界では、こんな生き物はいなかった。犬、猫、ねずみ…様々な生き物たちが人間と共に生きている。
最初にポケモンを見た時は、動物に似ているが、どこか違うと思っていた。それが、ダイゴから話を聞いてはっきりと違いがわかった。
チラッとピカチュウを見た。すると、ピカチュウもサトシに顔を向けていた。そして、ふと思う。
「オレも、ピカチュウとパートナーになれるかな」
期待と寂しさ。その両方がサトシの心を映した。
「何言ってるんだい。サトシくんとピカチュウは、もう既にお互いを助け合う唯一のパートナーじゃないか」
「えっ?」
もう一度、ピカチュウに顔を向けた。すると、ピカチュウは自信に満ちた表情を向けていた。
「そう、なのか。ピカチュウ」
「ピカチュッ」
確かな頷き。昨日出会ったばかりなのに、まるでずっと一緒にいたかのようだった。
「ピッカ」
「わっ」
地面に居たピカチュウは土を蹴り、飛んだ。飛んできたピカチュウをサトシは抱き止めた。
「ピカチュウはね、本来あまり人に寄り付かないポケモンなんだ。そんなピカチュウが、サトシくんを選んだ。君たちは見えない絆で繋がっているんだろうね」
「そっか…オレを選んでくれてありがとう。ピカチュウ」
「ピカチュッ」
お互いに笑い合った。そんなサトシとピカチュウをダイゴとメタグロスとボスゴドラは優しく見つめた。
「よし、じゃあ今日はサトシくんが僕らと一緒に暮らす記念として、みんなで外で夕ご飯を食べよう」
「いいですね!賛成!」
それから、星空の下でみんなでご飯を食べた。この時間がとても楽しいと思えた。元の世界よりもずっと、ずっとーーー
「ふっふっふっ。こちらにおびき寄せる事は成功した。後は奴を使って私がそちらの世界に行くのみ。計画は間も無く進行する」
黒い影。それは少しずつ近づいていた。