⑬勇者の剣

  「お待ちしておりました。フリーレン様」

  「あなたが今の里長? かなり小さいけど。」

  「世襲なもので……」

  勇者の剣を守る“剣の里”。

  もっと屈強な刀鍛冶たちが無骨に剣を作っている場所を想像していたアルタは、

  家の前に立つ小柄な少女を見て、思わず瞬きをした。

  「遅いですよ、フリーレン様。半世紀ごとという約束だったはずです。

  まったく、時間にルーズなんですから。……というのが先々代の遺言です」

  「ごめんよ。というか、先々代の遺言どうなってるの」

  ちょっとむくれた顔がまた、拍子抜けするほど可愛らしい。

  アルタは思わず心の中で呟く。

  ──これで“勇者の剣の守り人”って、ギャップありすぎでしょ。

  「まあでも、今日はもう日が暮れるので、魔物退治は明日にしましょうか」

  「別に今からでも大丈夫なんだけど、そんなに時間かかりそうなほど寄ってきてるの?」

  「はい、最近、特に大きい魔物がうろついてるので…誰かさんが遅刻したせいで。」

  「…ごめんってば」

  里長のかわいい嫌味も受けつつ、案内された宿で夜を過ごした。

  次の日、里から少し離れた勇者の剣が安置されている祠に向かった。

  祠に近づくにつれ、魔物が多くなる。

  「思ったより数が多いです。アルタ、里長と一緒に離れていてください。」

  「うん、わかった!」

  フェルンの指示通りにアルタは狼の姿になり、里長を背中に乗せて退避する。

  戦闘から離脱すると背中の上から里長が話しかける。

  「まあ、仮にも"里長"なわけですし、ちょっとやそっとは戦えるんですけどね。」

  「えっ!?そうなんですか?」

  「そうですよ、今だって、勇者の剣を守る結界を応用して、私たちだけ魔物に見つからないようにしてるんですから。」

  「え、ええぇ!?いつのまに!?」

  驚くアルタを小さな手でなでながら続ける。

  「かわいいわんちゃんですね。人を見た目で判断しちゃだめですよ。…これも先々代の遺言です。」

  「!?!?その遺言どうなってんの!?」

  今度こそ活躍の場を奪われたアルタはただ棒立ちで3人の戦闘が終わるのを待つしかなかった。

  「うう…何かできることは…」

  アルタがしょんぼり耳を垂らすころには、祠の周りはすっかり静かになっていた。

  里長と近くまで行くと、祠の前でシュタルクが立ち尽くしていた。

  「てっきり、祭壇か何かに置かれてるもんだと思ってたけど、なんで…勇者の剣が岩に突き刺さったままなんだ。」

  フェルンやアルタも祠の中をのぞく。

  勇者ヒンメルの伝説によれば、剣は岩から引き抜かれ、魔王を討伐した後に返還されたはずだった。

  「ヒンメルは、その剣を抜けなかったんだ。勇者の剣を抜いた話は、ヒンメルを英雄にしたい人たちがつけた尾ひれだよ。」

  フリーレンが遠くを見るような目で勇者の剣の真実を話し、気まずそうな顔で里長が続ける。

  「里に"大きな災厄を撃つ勇者だけがその剣を抜ける"という言い伝えがありますが、その"大きな災厄"というのが、かつての魔王のことを指してるわけではないのかもしれないですし…」

  その後もしばらく剣を眺めるシュタルクにアルタが話しかける。

  「抜けちゃったりしないかな…なんて、思ってたりする?」

  「いやいや、思うわけねぇだろ!……実はちょっとだけ想像したけど。」

  「いいですよ、試してみても。」

  「マジか!?」 / 「いいの!?」

  即答で許可が下りたことに驚きながらも、順番に持ち上げようとしてみる2人。

  もちろんピクリとも動かなかったが、かつての英雄と同じく、ここから本物になる勇気が少しだけ沸き上がった。