おおかみ☆いんふれーしょん 第2章 おなら風船の狸

  「げっぷ、ここはどこだ?」

  お腹が風船になってから、しばらく経った。俺は、山小屋の老婆に木の実をたらふく食わされて、ぶっくぶくの風船体になっちまったらしい。ま、頼んだのは俺なんだがな。しかし、空を飛んじまうのは予想外だったぜ。おかげで、森からだいぶ離れちまった。

  すると、目の前にまん丸い何かが浮かんでいるのが見えた。茶色い、動物か?腹だけぷっくり膨れてやがる。狸のようにも見えるな。全く、俺みてぇな体のヤツもいるんだな。

  「あら、いいお腹してるじゃない!」

  その丸い物体はこちらに気付くと、そう話しかけてきた。そいつが近づいてくると、異臭が鼻をついた。この匂い、おならか?

  「くっさ!」

  あまりの激臭に、叫んでしまった。あのまん丸ヤローが近づくと、ぶうっ、ぶうっとデカイおならの音が聞こえる。やはり匂いの元はあそこか。

  「あら、臭かった?失礼〜」

  まん丸ヤローは、自分のお尻をさすりながら言った。

  「臭いに決まってんだろうが!何食ったらそんなにデカくなるんだよ!?」

  まん丸ヤロー、いや、近くで見ると狸だと分かった。狸は、笑って答えた。

  「ちょうどこの真下にある森で、すっごいおならが出る芋が獲れるのよ」

  狸は、腹を叩きながら、景気良くでっかいおならをぶうっ、と出した。まさか、アイツの腹、おならが詰まってるのか!?確か、どっかの森にえげつねぇおならが出る芋があるって噂を聞いたが、まさか本当にあるとはな。今までの話から推測するに、アイツはおならで空を飛んでるんだろう。

  「で、あなたはどうしてそんなに膨れてるの?」

  「ふうせんの実を食べたせいだよ」

  俺は淡々と答えた。俺が望んでやったんだ。いや、正確には山小屋の老婆にやらせたのか。ま、空を飛ぶのは想定外だったけどな。

  「まあ!そんな実があるのね!」

  狸は、目をキラキラさせて近づいた。匂いが強くなる。臭ぇ。。。

  「だあっ!近づくな!くせぇだろうが!」

  「あらごめんなさい」

  俺が恫喝すると、狸は潔く距離を取った。狸は、申し訳なさそうに俯いている。すると、狸は思いついたようにこう言った。

  「ねえ!あなたの森、案内してよ!ふうせんの実、食べてみたい!」

  俺は、ぎょっとした。まさか俺の他に膨張フェチのヤツがいたとはな。コイツとは話が合うかもしれねぇ。おならは臭ぇけど。

  「お前、気に入ったぜ」

  俺は狸に向かって微笑んだ。

  「だが、俺のこの体じゃあ、思い通りにに動けねぇ」

  しかし、俺の体は風船みてぇにパンパンに膨れている。ここへも、風に乗せて来たようなもんだ。これじゃあ、案内なんて容易じゃねーぜ。狸のおならはくせぇし。

  「それじゃあ、芋、食べてみる?」

  「はあっ!?」

  俺が悩んでいると、狸は突然とんでもないことを言い出した。

  「おなら、出ないんでしょ?これ食べるとすっごいのが出るのよ」

  狸はぶうぶうおならを出しながら言った。説得力あるな。。。だが、これ一つでこんなにでるのか!?第一、おならなんて。。。

  いや、これは使えるかもしれねぇ。おならの勢いで、多少は方向転換ぐらいはできるんじゃねーか?

  「仕方ねぇ、一口だけだぞ」

  俺は、狸の持っている芋を少しちぎって口に含んだ。ああ、美味い。ふうせんの実も美味いが、こっちはこっちで好きな味だ。

  直後、俺の腹がギュルギュル鳴り出した。おならが出ようとしている。俺の体が、芋を食べたことで、おならを出す準備を始めたようだな。

  「どう?すごいでしょ?」

  狸は得意げに胸を張った。胸っていうか、腹が張ってるけどな。

  俺は、大きく息を吸い込んだ。そして、「ぶっ放せぇぇぇぇぇ!」と叫んだ。すると、腹が爆発するように一気に膨らみ始めた。そして思いっきり、腹に力を入れるとーーー

  ぶばぁっ!!

  強烈なおならが飛び出た。おお、ちゃんと飛んでる。この調子でどんどんいこう。ぶうっ、ぶうっ、

  「ほほう、なかなかやるじゃない」

  狸は感心して言った。俺は、さらにおならを噴射し続けた。ぶぼっ、ぶぼっ。

  しばらく飛ぶと、俺は元いた森にたどり着いていた。森を象徴する大木もある。間違いねぇ。

  「着いたぜ、ここだ」

  俺は、一旦おならを止めて、大木に向かって指差してみせた。

  「へぇ、いい森ねぇ」

  こっちも派手なおならをしたかか、はたまたしばらく一緒にいたからか、狸のおならにもう気にならなくなっていた。

  「で、どうやって降りるんだ?」

  そういえば、降りるときはどうするんだ?見たところ、狸は何度か空を飛んでいるようだから、何か知ってるんじゃないか?俺は狸に聞いてみた。

  「うーん、このまま降りようと思ってたんだけど、ちょっと難しそうだわねぇ」

  狸は腕組みをして考えた。まあ、そりゃあ難しいだろうな。俺は、ふうせんの実を食べたおかげで、なんとか飛べてる状態だからな。

  「あ!良いこと思いついた!」

  直後、俺の腹に強い衝撃が走った。狸が、俺の腹に殴りかかってきたらしい。

  「へぶっ!?」

  ぶうううううっ!!!

  その拍子に、腹ん中のおならが漏れ出ちまった。ふうせんの実で膨らんだ分と、芋食って溜まったおならの分。もしかして一生分のおならを出したんじゃないかってくらい出した気がする。

  「おい、何すんだよ!」

  俺が怒鳴りつけると、狸はこう言った。

  「これで降りられるはずよ」

  「えっ」

  その瞬間、俺の体は森に向かって落下し始めた。

  「うおっ!?」

  慌ててバランスを取る。危なかった。もう少しで森にぶつかるところだった。俺はほっとした。

  「なあ、お前なんで俺の腹殴ったんだ」

  「お腹のふうせん成分を出してやろうと思って」

  狸は悪びれもなく言った。コイツ、意外といいヤツなのかもな。

  「あっ!もしかして、これ?」

  狸は、迷いなく目の前の木の実を取ってはしゃいだ。そういや、狸はふうせんの実を食べたかったんだ。

  「ああ、それだぜ。食べすぎんなよ」

  俺は注意した。コイツのことだから、食べすぎて破裂なんてこともあり得るからな。

  「わかってるわよ」

  狸はふうせんの実をちぎって口に含んだ。その直後、ぶくんっ、と勢い良く、狸の腹が膨れた。

  「うぷっ、一個で結構膨らむのね。面白いわ」

  そう言うと狸は、次々とふうせんの実を頬張った。

  「おいバカ、やめとけって!」

  俺の忠告を無視して、狸は木の実を頬張り続けた。頬がでっぷり膨らんでいる。一見、クソでっかいリスに見えるぜ。なんて呑気なことを言ってる場合じゃない。このままだと、狸はおなら風船になっちまうぞ。

  ぶくぅんっ。

  その時、狸の腹が一気に膨れ上がった。そして、狸は無防備なまま、ふわりと浮かび出してしまった。

  「だから言ったのに。。。」

  「でも、面白そうじゃない!風船になって空を漂うなんて!」

  狸は、やけに嬉しそうだ。もしかして、俺以上に変わり者なのかもしれねぇな。前言撤回。こいつとは分かり合えねぇ。

  「じゃあ、あたしも行くね。バイバーイ」

  狸は笑顔で手を振ってきた。そして、そのまま空の彼方へと消えていった。