夏の過ごし方を、二人で決めた。
村から距離を取り、見回りは最低限にすること。
昼はなるべく静かに過ごし、熱が強い日は洞穴から出ないこと。
そして――衝動に飲まれそうな夜は、無理をしない、体を重ねること。
どれも、ガレンが長年ひとりで守ってきたやり方だった。
だが今年は、そこにエリアスの声が混じる。
最後だけ違う。
「……私もいるよ」
そう言われたとき、ガレンは返事ができなかった。
獣人の理性を削る期間をどう過ごすかは、生き方そのものだった。
話し合って、決めた。
避けるのではなく、奪うのではなく、折り合いをつけることを。
力を抑えるのではなく、形を変えることを。
――人の姿で、共に在る夜を選ぶことを。
最初の夜は、ためらいから始まった。
火の残り香が、洞穴の奥に薄く漂っている。
夜は深く、外の気配は遠い。
ガレンは、エリアスの前に座ったまま、しばらく言葉を探していた。
視線を合わせない。だが、離れもしない。
「……すまない、エリ」
低い声だった。
謝る必要のないことを、謝るときの声。
「……やはり、熊の姿は……お前の負担が大きい」
一拍、息を整える。
「……その、たくさん……したいときは……」
言葉が、少しだけ詰まる。
「……人の姿で、抱いたほうが……いいと思った。
…したことはないが…できると、思う」
それは、提案というより、告白だった。
己の力を恐れ、同時にエリアスを欲しているという、正直すぎる言葉。
エリアスは、すぐには答えなかった。
少し驚いたように目を瞬き、
それから、ゆっくりと笑った。
「……どっちでも、ガレンはガレンだよ」
当たり前のことを言うみたいに。
「……ガレンが、つらくないほうが、いいに決まってる」
健気すぎる答えだった。
自分の身体のことより、相手のことを先に考える声。
ガレンの喉が、わずかに鳴った。
「……エリ……」
名を呼ぶだけで、胸が詰まる。
人の姿のまま、そっと近づく。
熊のときのような重さはない。
だが、その分、距離が近い。
指先が、肩に触れる。
心地よい力で抱きしめ、唇を食む。
エリアスは、身を引かなかった。
むしろ、少しだけ前に出た。
「……ん、…ぁ、」
小さな声。
驚きと、気づきが混じった音。
人の体温。
人の呼吸。
人の鼓動。
それらが、こんなにもはっきり伝わる距離は、初めてだった。
「……近い、ね……」
思わず漏れた言葉に、ガレンは小さく息を吐いた。
「……嫌なら、言え。王は獣で抱かれるほうが好きか」
低い声。
だが、手は離さない。
エリアスは、首を振る。
何を言われてるか理解した顔は真っ赤に染まっていた。
「……な、嫌じゃ、ない…そうじゃない…」
それから、少しだけ言い直す。
「……なんか……安心する……人間のガレン…」
その一言で、ガレンの肩から、目に見えて力が抜けた。
(人間の俺、か…)
人の姿で、抱き寄せる。
包むように、支えるように。
重さはない。
だが、肌のぬくもりがある。
エリアスは、ガレンの胸に額を預けた。
呼吸が、自然と合っていく。
(……これ……)
熊のときとは、違う。
荒々しさも、圧倒的な存在感もない。
けれど――
「……ガレン……」
名を呼ぶと、すぐに返事がある。
「……ここにいる」
それだけで、身体の奥が、じんわりと緩んだ。
初めて、人の姿で交わる夜は、
激しさよりも、時間があった。
確かめるように、何度も触れて、離れて、また近づいて。
解れきった後ろをガレンの熱が出入りする度に声が漏れた。
「あ、あ、あっ…ん、ガレン…」
愛らしく震える身体、伝う汗、濃くなる互いの匂い。
そのたびに、
「壊れていない」
「拒まれていない」
という事実が、積み重なっていく。
「出すぞ、」
ガレンの喉が低く鳴った。
交わりが終わる頃、エリアスは、ぼんやりとした頭で思った。
(どっちも、ガレン。
熊の姿も、愛おしい…人の姿のガレンは、こんなにも…安心する)
「エリ、愛おしいな…」
(人間が発情期を持たない理由が少し、わかりそうだ…こんなの、止められるか、)
それは、後戻りできない感覚だった。