子供部屋のベッドの上で、アベルはよく眠っている。
小さな胸が規則正しく上下し、寝息は乱れない。
昼間あれほど駆け回っていたとは思えないほど、無防備な顔だ。
エリアスは一度だけ、その寝顔を確かめる。
毛布を直し、額に触れ、起こさないように息を潜める。
「……よく、寝てる」
小さく告げると、背後で気配が動いた。
ガレンが人の姿のまま、距離を保って立っている。
静けさの中で、互いの呼吸だけが、妙に大きく聞こえる。
母の役割となってから、ガレンに初めて抱かれる夜。
胸の奥が、じわじわと熱を持つ。
期待と、不安と、長い時間を越えて戻ってきた感覚が、複雑に絡み合う。
近づきたい。
触れて確かめたい。
うまくできるだろうか。
その揺れを、ガレンは見逃さなかった。
「……無理は、しないが」
低く、欲を抑えた声。
しかし、抑え込もうとしている内側の昂ぶりが伝わってくる。
エリアスはゆっくり息を吸ってから、振り返る。
「……大丈夫」
けれど視線は逸らさない。
「ずっと、願ってたから…」
そう言って、部屋の扉を閉め、ガレンより先に手を伸ばす。
触れたのは、ガレンの胸元だった。
確かめるように。
今、ここにいるのが本当に愛しい人だと噛み締めた。
ガレンの手が、そっとエリアスの背に回る。
服の中に指を滑り込ませ、その途中で、一瞬、動きが止まった。
背中に残る、古い切り傷。
指先で、なぞるように触れられて、エリアスの喉から小さな息が漏れる。
「……ん、っ……」
それだけで、身体が反応してしまうことに、エリアス自身少し驚く。
「…エリ、…すまない」
悔しそうな声。
守れなかったことを、今も悔いている声だった。
「いい、」
エリアスは、首を振る。
「……ガレン、来てくれたでしょ」
その言葉に、ガレンの指が、確かに温度を持つ。
「……エリ…エリアス」
確かめるように愛しい名前を呼ぶ。
その一音一音に、エリアスの身体の奥が熱を持ち、無意識に呼吸が乱れる。
「……ぁ……」
抑えきれずに、エリアスの形のいい唇から声が漏れる。
自分でも驚くほど、甘く。思わず口を手で覆った。
ガレンの呼吸もつられて深くなる。
「…声、聞かせろ」
抑えようとして、抑えきれない。
愛おしさと欲が、同時に滲む。
ガレンはエリアスの手を取り、指を絡めると深く口付けをした。
「…ん、ふっ……ぁ、」
口付けだけでエリアスの腰は砕けてしまいそうだった。
ガレンの身体に体重を預けると、ガレンはエリアスを軽々と抱き上げ、ベッドに横たえた。
触れ合いは、急がない。
しかし、止まらない。
もつれながら服を脱ぎ、月明かりに照らされた身体を見つめ合えば、互いの昂ぶりが待ちきれないように主張をしていた。
「エリ、綺麗だ…」
ガレンはエリアスの瞳をじっと覗き込み、微笑んだ。
「ガレン…私、もう…」
エリアスは熱に浮かされ、身体中が切なかった。
とりわけ後ろは、産後の変化なのか――準備をしていないのに濡れ始めていた。
身じろぎをするエリアスに覆い被さったガレンは、ゴクリと喉を鳴らした。
優しく、してやりたい。
だが、あまりにも欲を煽るエリアスに抑えが効かなくなりそうだった。
ガレンは奥歯を噛み締め、呼吸を整えると、ゆっくりとエリアスの後ろに指を挿れた。
「もう、こんなに濡れている…」
ゆっくりと、一定の律動で水音が響く。
確かめるように、何度も、何度も。
「あ…言わな、で…」
エリアスは頭をふるふると横に振り、潤んだ瞳で抗議した。
「エリ…身体のほうが、心より素直らしい、」
名を呼ばれるたび、身体が応えてしまう。
「……ひぁ、あっ…、んっ!!…、ガレン……」
意図せずエリアスの、声が高く漏れてしまった。
ガレンの指が、エリアスの中のしこりを掠めたからだ。
その声を聞いたガレンは少し驚き、エリアスの口を手で塞いだ。
「……アベルが、起きる」
掠れた声で、囁く。
エリアスの顔はたちまちに赤くなった。
困ったように微笑む、ガレンの顔。
この顔がエリアスは大好きだった。
快感と、少しの恥じらいと、緊張感がないまぜになる。
「……ごめ、」
エリアスは口を覆うガレンの手ごと、自身の顔を両手で覆った。
「いや、気持ちいいのだろう…俺は嬉しいが、」
ガレンはそういうと、エリアスの首筋に舌を這わせた。
――
ほぐす必要がないくらい濡れた後ろは、久しいガレンの昂ぶりを簡単に咥え込んだ。
母として生きてきた身体は、愛する人に触れられることを、ちゃんと覚えている。
「ん、ん、ガレンっ…あ、きもち、」
(ちゃんと、できてる…私、)
後ろの圧迫感はあるが、快感を拾う。
エリアスはガレンと向かい合ったまま、そのたくましい首に腕を回した。
「エリ、エリ…、」
ガレンは呼べなかった分を取り戻すようにエリアスの名前を愛おしそうに呼びながら、己の熱を打ち付けた。
深く、何度となく、その身体が許す限り。
エリアスを揺さぶる熱は、やがて大きな動きとなった。
ガレンはエリアスの細い腰を両手で優しく掴み、逃さないようにしながら、奥へ奥へと熱を落とし込む。
いつもは逃げられるようにしていたが、今夜はできそうになかった。
二度と離さない。
獣としての本能も混ざった、愛欲だった。
「あ、あ、あっ…ガレン、ガレンっ…もう、……~ッ…」
エリアスは無意識にガレンの背中に爪を立てながら、吐精した。
つま先がぴんと伸び、一瞬身体に力が入ったかと思えば、深い息とともに、静かに力がほどけていく。
「…エリ、…っ、」
その動きを確認するかしないかのところで、ガレンもエリアスの中に精を放った。
――
二人は呼吸を整えながら、寄り添う。
名を呼び、触れ合い、戻ってきたものを、何度も確かめ合った。
「エリ…エリアス…、愛している」
ガレンはエリアスの髪を無骨な指で優しく梳きながら、何度も囁いた。
「ん…、ガレン…たくさん名前、呼んでくれてありがとう…」
エリアスは愛しいその指に、自身の指を絡ませながら目を細めた。
世界は変わったのだろうか。
答えは誰にも分からない。
しかし、ここに根付く愛情とぬくもりは、忘れられた記憶を少しだけ照らした。
After Story 完