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ミレイユの案内で、小さな石造りの家へ入る。
外見は古びていたが、中は意外なほど整っていた。
「ここなら話せるわ。」
ミレイユが静かに扉を閉める。
リュミエは懐から通信結晶を取り出した。
青白い光が広がる。
「セラ、聞こえる?」
しばらくして、見慣れた少女の姿が光の中へ映し出された。
「良かった。無事だったのね。」
「何とかね。」
ユリシアは苦笑する。
リュミエは宮殿で見た光景を説明した。
祭壇。
生命エネルギーの水晶。
巨大な窯。
そして、水の結晶。
セラは最後まで黙って聞いていた。
「なるほど……。」
「予想以上に厄介ね。」
ミレイユも続ける。
「バルトロメウは、生者から奪った生命エネルギーと、水の結晶の力で存在を維持しているの。」
「だから傷がすぐ再生したんだ。」
リュミエが呟く。
セラは静かに頷いた。
「なら、答えは一つ。」
「生命エネルギーを取り戻して、水の結晶を解放する。」
「それしかないわ。」
◆
その時だった。
ミレイユが窓の外へ目を向ける。
「……来る。」
「え?」
「今日よ。」
彼女は小さく頷いた。
「バルトロメウは定期的に地上へ向かうの。」
「新たな死者を迎えに。」
リュミエたちは息を呑む。
「その間だけ。」
「宮殿の警備が薄くなる。」
◆
港の方角から汽笛が響いた。
ボォォォーーー……
海底世界とは思えないほど重い音だった。
ミレイユが静かに言う。
「船員だった骸骨たちも一緒に出航する。」
「宮殿へ残る者はごくわずか。」
ユリシアが尋ねる。
「そんなことまで知っていたの?」
ミレイユは苦笑した。
「四十年。」
「毎日、見ていたもの。」
「いつ見張りが交代するか。」
「どこに抜け道があるか。」
「全部覚えてしまった。」
少し寂しそうに笑う。
「でも、一人では何もできなかった。」
「失敗したら終わりだから。」
リュミエは静かに頷く。
「でも今は違う。」
「俺たちがいる。」
ミレイユも小さく微笑んだ。
「ええ。」
「あなたたちだからお願いできる。」
◆
三人は町外れへ向かう。
崩れた石壁。
海藻に覆われた裂け目。
その奥に、人一人がようやく通れる細い通路があった。
「ここ。」
「宮殿へ続く裏道よ。」
リュミエは感心する。
「こんな場所、普通は気付かない。」
「四十年かけて見つけたもの。」
ミレイユは静かに答えた。
三人は慎重に奥へ進んでいく。
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◆
宮殿の内部は静まり返っていた。
先ほどまで巡回していた骸骨兵の姿はほとんどない。
遠くから聞こえる足音も少ない。
「本当に手薄だ。」
ユリシアが囁く。
「急ぎましょう。」
◆
祭壇の間。
壁一面の台座。
数え切れないほどの生命エネルギー水晶。
リュミエはすぐに自分たちの水晶を見つけた。
桃色。
そして茶色。
名札には二人の名前と肖像が表示されている。
「これだ。」
リュミエが桃色の水晶へ手を伸ばす。
ユリシアも茶色の水晶を持ち上げた。
その瞬間。
二つの水晶が眩く輝き始める。
柔らかな光が二人を包み込んだ。
「身体が……!」
淡い青色だった肌へ少しずつ血色が戻る。
重かった身体も軽くなる。
メニューを開く。
【スキル使用可能】
文字が表示された。
「戻った!」
リュミエは剣を握り締める。
ユリシアも安堵の表情を浮かべた。
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◆
祭壇の奥。
巨大な窯の中心で、一つの青い結晶が静かに輝いていた。
「……あれが。」
ミレイユが呟く。
「水の結晶。」
結晶は絶えず青白い光を放ち、巨大な窯へ力を送り続けている。
リュミエはゆっくりと近付いた。
そして。
水の結晶へ触れる。
その瞬間だった。
眩い蒼い光が海底世界全体を駆け抜ける。
ゴォォォォ……。
空間そのものが震えた。
◆
同じ頃。
地上。
ノスタリアの港。
幽霊船を見つめていたセラが顔を上げる。
「結界が……。」
これまで見えなかった道が、月明かりの中へ浮かび上がる。
少女は小さく微笑んだ。
「待ってなさい。」
セラは月の結晶と火の結晶を握り締める。
次の瞬間。
その姿は光となり、海の底へ消えた。
◆
眩い閃光。
セラが祭壇の間へ降り立つ。
「遅くなったわ。」
「セラ!」
二人は思わず笑顔になる。
セラは二つの結晶を掲げた。
「三つ揃えば十分。」
「行くわよ!」
月。
火。
水。
三つの結晶が共鳴する。
巨大な窯が激しく震え始めた。
轟音。
亀裂。
そして。
窯は激しい爆発とともに砕け散った。
青白い光が海底世界全体へ広がっていく。
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町のあちこちで住人たちが驚き、空を見上げる。
「何だ……?」
「止まった……。」
誰かが呟いた。
長年続いていた生命エネルギーの流れが、静かに途絶えていた。
◆
その頃。
幽霊船。
船首に立っていたバルトロメウがゆっくりと振り返る。
遠く海底から立ち上る青い光。
窯の気配が消えている。
空洞の眼窩に宿る蒼い炎が大きく揺らいだ。
「……何者だ。」
巨大な帆船が勢いよく進路を変える。
船首は一直線にネレイスの宮を目指していた。
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反撃の幕が、ついに上がる。
――第12話 了
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