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第12話 水晶奪還

  ミレイユの案内で、小さな石造りの家へ入る。

  外見は古びていたが、中は意外なほど整っていた。

  「ここなら話せるわ。」

  ミレイユが静かに扉を閉める。

  リュミエは懐から通信結晶を取り出した。

  青白い光が広がる。

  「セラ、聞こえる?」

  しばらくして、見慣れた少女の姿が光の中へ映し出された。

  「良かった。無事だったのね。」

  「何とかね。」

  ユリシアは苦笑する。

  リュミエは宮殿で見た光景を説明した。

  祭壇。

  生命エネルギーの水晶。

  巨大な窯。

  そして、水の結晶。

  セラは最後まで黙って聞いていた。

  「なるほど……。」

  「予想以上に厄介ね。」

  ミレイユも続ける。

  「バルトロメウは、生者から奪った生命エネルギーと、水の結晶の力で存在を維持しているの。」

  「だから傷がすぐ再生したんだ。」

  リュミエが呟く。

  セラは静かに頷いた。

  「なら、答えは一つ。」

  「生命エネルギーを取り戻して、水の結晶を解放する。」

  「それしかないわ。」

  ◆

  その時だった。

  ミレイユが窓の外へ目を向ける。

  「……来る。」

  「え?」

  「今日よ。」

  彼女は小さく頷いた。

  「バルトロメウは定期的に地上へ向かうの。」

  「新たな死者を迎えに。」

  リュミエたちは息を呑む。

  「その間だけ。」

  「宮殿の警備が薄くなる。」

  ◆

  港の方角から汽笛が響いた。

  ボォォォーーー……

  海底世界とは思えないほど重い音だった。

  ミレイユが静かに言う。

  「船員だった骸骨たちも一緒に出航する。」

  「宮殿へ残る者はごくわずか。」

  ユリシアが尋ねる。

  「そんなことまで知っていたの?」

  ミレイユは苦笑した。

  「四十年。」

  「毎日、見ていたもの。」

  「いつ見張りが交代するか。」

  「どこに抜け道があるか。」

  「全部覚えてしまった。」

  少し寂しそうに笑う。

  「でも、一人では何もできなかった。」

  「失敗したら終わりだから。」

  リュミエは静かに頷く。

  「でも今は違う。」

  「俺たちがいる。」

  ミレイユも小さく微笑んだ。

  「ええ。」

  「あなたたちだからお願いできる。」

  ◆

  三人は町外れへ向かう。

  崩れた石壁。

  海藻に覆われた裂け目。

  その奥に、人一人がようやく通れる細い通路があった。

  「ここ。」

  「宮殿へ続く裏道よ。」

  リュミエは感心する。

  「こんな場所、普通は気付かない。」

  「四十年かけて見つけたもの。」

  ミレイユは静かに答えた。

  三人は慎重に奥へ進んでいく。

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  ◆

  宮殿の内部は静まり返っていた。

  先ほどまで巡回していた骸骨兵の姿はほとんどない。

  遠くから聞こえる足音も少ない。

  「本当に手薄だ。」

  ユリシアが囁く。

  「急ぎましょう。」

  ◆

  祭壇の間。

  壁一面の台座。

  数え切れないほどの生命エネルギー水晶。

  リュミエはすぐに自分たちの水晶を見つけた。

  桃色。

  そして茶色。

  名札には二人の名前と肖像が表示されている。

  「これだ。」

  リュミエが桃色の水晶へ手を伸ばす。

  ユリシアも茶色の水晶を持ち上げた。

  その瞬間。

  二つの水晶が眩く輝き始める。

  柔らかな光が二人を包み込んだ。

  「身体が……!」

  淡い青色だった肌へ少しずつ血色が戻る。

  重かった身体も軽くなる。

  メニューを開く。

  【スキル使用可能】

  文字が表示された。

  「戻った!」

  リュミエは剣を握り締める。

  ユリシアも安堵の表情を浮かべた。

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  ◆

  祭壇の奥。

  巨大な窯の中心で、一つの青い結晶が静かに輝いていた。

  「……あれが。」

  ミレイユが呟く。

  「水の結晶。」

  結晶は絶えず青白い光を放ち、巨大な窯へ力を送り続けている。

  リュミエはゆっくりと近付いた。

  そして。

  水の結晶へ触れる。

  その瞬間だった。

  眩い蒼い光が海底世界全体を駆け抜ける。

  ゴォォォォ……。

  空間そのものが震えた。

  ◆

  同じ頃。

  地上。

  ノスタリアの港。

  幽霊船を見つめていたセラが顔を上げる。

  「結界が……。」

  これまで見えなかった道が、月明かりの中へ浮かび上がる。

  少女は小さく微笑んだ。

  「待ってなさい。」

  セラは月の結晶と火の結晶を握り締める。

  次の瞬間。

  その姿は光となり、海の底へ消えた。

  ◆

  眩い閃光。

  セラが祭壇の間へ降り立つ。

  「遅くなったわ。」

  「セラ!」

  二人は思わず笑顔になる。

  セラは二つの結晶を掲げた。

  「三つ揃えば十分。」

  「行くわよ!」

  月。

  火。

  水。

  三つの結晶が共鳴する。

  巨大な窯が激しく震え始めた。

  轟音。

  亀裂。

  そして。

  窯は激しい爆発とともに砕け散った。

  青白い光が海底世界全体へ広がっていく。

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  町のあちこちで住人たちが驚き、空を見上げる。

  「何だ……?」

  「止まった……。」

  誰かが呟いた。

  長年続いていた生命エネルギーの流れが、静かに途絶えていた。

  ◆

  その頃。

  幽霊船。

  船首に立っていたバルトロメウがゆっくりと振り返る。

  遠く海底から立ち上る青い光。

  窯の気配が消えている。

  空洞の眼窩に宿る蒼い炎が大きく揺らいだ。

  「……何者だ。」

  巨大な帆船が勢いよく進路を変える。

  船首は一直線にネレイスの宮を目指していた。

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  反撃の幕が、ついに上がる。

  ――第12話 了

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