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「今日こそ認めてもらえたらいいわね」
アイラの言葉にアルスとマリベルは揃って頷く。
「最大の難関だ。……嫌われてはいないと思うけど」
「大丈夫よ! あんたなら。ほら、背筋を伸ばして」
眉を下げて不安そうな恋人の背を叩き、発破をかける。
「ありがとう」
世界が平和になってから数年後、結婚を決めた幼馴染の二人。周りには報告済みで祝福された。
ただ、まだ認めてもらえない彼がいる。
高まる緊張と、少しの不安。もし今回も認めてもらえなかったら……。
近づく結婚式。その前にどうしても認めてもらいたかった。
覚悟を決めて部屋のドアノブを掴む。
カチャリと中を覗けば、そこにいたのは一匹の猫。
「……チ、チロルこんにち……」
「シャーーー!!」
挨拶代わりの威嚇と弓なりポーズで、ぴょんぴょんと素早くステップをするチロル。
「やんのかは悲しいな……」
「チロル! アルスは敵じゃないわよ、あたしの夫になるんだから。ね、賢いあなたならわかるでしょ?」
分かるから、敵意を剥き出しなのだ。
チロルは子猫の時にマリベルに拾われ、愛情いっぱいに育った。その彼にとって彼女は飼い主ではなく母であり、世界そのものだから。
それを奪おうとするアルスの存在は邪魔でしかない。
マリベルと付き合い始めてから、アルスは猫と仲良くなろうとあれこれ試してきたのだ。
まずは好きだという猫じゃらしをプレゼント。
しかし見向きもせず、しばらく放置された後に村のほかの猫に譲った。
その後も色々な手作りおもちゃを渡しても、全て無視され断念。
猫は構いすぎると嫌われる。ならばと敢えてしばらく会わずにいたら、すっかり忘れられた。
「猫にとって一年は、4年くらいだから……」
「……そうだね。ぼくが悪い」
飼い主ですら忘れられることもある。なら他人ならすぐだろう。
その後も色々試したが、うまくいかなかった。
そして今回ーー
使いたくなかった最終手段、餌付けだ。
「ほら、ち〇~るだよ」
フンッと鼻息荒く、見向きもしない。
「フィッシュベルの、採れたての魚を食べてるからかな?」
ならばと採れたてを刺身にして差し出せば、と提案するとマリベルから止められる。
「チロルは焼き魚しか食べないのよ。子猫の時に生魚は食べ過ぎると身体に悪いから、あげなかったの。そしたら生では食べなくなったわ」
「君が焼いてあげてたの?」
「当たり前でしょ? あたしのチロルよ」
チロルのために彼女が焼いたのを知って、マリベルの得意料理が焼き魚だったのも納得いった。
それだけチロルのために毎日焼いてあげてたんだと。
「優しいんだね、マリベル」
彼女の細い手にそっと自分のを重ねる。
「……あんたにも焼いてあげるからね」
「ミャッ!」
見つめ合う二人の間に、チロルがぐいッと割り込む。
「チロル……お願い。アルスと仲良くして」
ママからのお願いも、そっぽ向かれて窓際へと行ってしまう。
「いいよ、マリベル。無理強いは」
ツンと澄まして、窓から外を眺めるチロル。
「チロル……」
もので釣るのも、構わないのも全てだめ。
「チロルのことは、あたしが世話するから……」
マリベルはチロルのことが大切。仲良く出来ないのは辛いが、猫とアルスに我慢をさせたくない。
「あのね、マリベル。ぼくは君が大切にしてる家族と仲良くなりたい。もちろん、ぼく自身チロルが好きだから。
それに本当にぼくを嫌いなら、姿を現さないと思うんだ」
確かに怒りながらも、必ずアルスの前にいるチロル。何より、『大切にしてる家族』と、猫も家族として見てくれる彼にマリベルは嬉しくて。
「うん。そうだね」
「焦らず、ゆっくり家族になろう」
微笑むマリベルと、彼女を穏やかに見つめるアルスの顔を、チロルは眺めていた。
軽やかに二人の傍に来ると、チロルがポトリとネズミのおもちゃを足元へ置く。
「えっ、おもちゃ?」
「チロル?」
「にゃっ」
ひと声上げてチロルはいつもと変わらず、大きな欠伸をしながら思いっきり背伸び。
長い尻尾をピーンと立ててビビビと震わせると、マリベルのベッドに横たわり、念入りに毛づくろいを始める。
「……これって?」
おもちゃを渡されて戸惑うアルスをよそに、マリベルはクスクスと鈴のような声で笑う。
「あんたは大人じゃなくて、子供だったのね」
「もしかして、猫認定なのかな?」
チロルはアルスを認めた。
だって彼は大好きなママを笑顔にしてくれるから。
でっかい猫に、狩りの仕方を教えるため
大好きなネズミを渡したのだった。
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