十一月⑳_おむつで赤ちゃんだっこ

  ほどなくして、ユウタがリョウたちのもとへと戻ってきた。

  おむつ丸出しでロビーに立たされ、リョウは茹であがったような顔をしていた。

  「先生の報告とか支払いとか、後のことはやっておきますんで、リョウくんを部屋に連れて行ってください」

  「はいはーい」

  ユウタが手短に言うなり、ノッポが間の抜けた返事を返した。

  「うぅ……?」

  リョウが呆けた顔をしている間に、ノッポの手はリョウの腋の下に差し込まれていた。

  「こっちのほうが早いかなー」

  ぐいっ

  そして軽々と持ち上げられる。

  「え、えっ?」

  まるで赤ちゃんを抱き上げるようにあっさりと、ノッポに抱きかかえられてしまった。

  胸板を押し付けられ、まるで子供のように正面から持ち上げられてしまう。お尻の後ろに手を回され、赤ちゃんだっこのポーズだ。

  「だって、歩くのいやいやそうだったからー」

  「い、いやっ……」

  恥ずかしさで歩きづらかっただけで、別に一人でも歩ける。

  「こうやってだっこしたほうが、きっと早いよー」

  「くっ……離せっ……」

  腕の中であがいても、いつものようにまったく振りほどけない。

  「別にいいじゃーん。赤ちゃんなんだしー」

  「うう……」

  お尻を大きく突き出した体制で持ち上げられ、恥ずかしいおむつが大きく見せつけられてしまう。

  なんとか身体をよじらせようとするが、お尻と背中に回されたノッポの腕は頑として動かなかった。

  「じゃあ、部屋までお願いします」

  「はーい」

  ノッポに抱かれたまま、ホテルのロビーを移動する。

  ほとんどの生徒は自室で自由時間を過ごしているらしく、玄関にもロビーにも人通りは少ない。

  とはいえ抱かれた向きが進行方向と逆向きになるため、前に誰かが居ても見えたものではない。

  「くっそ……」

  おむつのおしりをつきだしたまま、ノッポに抱かれたまま廊下を移動していく。

  恥ずかしさで顔が真っ赤に染まり、思わずノッポの肩をぎゅっとつかむ。

  ポンポン……

  お尻に回した腕で、軽く叩かれる。

  ノッポは気にした様子もなく、にこにこしながら廊下を歩いた。室内はしんと静まり返っており、スリッパの音が響き渡る。歩みを進めるたびに、おむつに包まれたお尻がゆさゆさと揺れた。

  廊下を何度か曲がり進むが、後ろ向きのせいでどのくらい進んだか分からない。

  「うぅ……」

  クシュ……

  ノッポの腕の中で身じろぎする。がっちりと掴まれてまるで動かないが、少なくとも落とされる心配は無さそうだ。

  ガラス窓からは、大小の木々が植えられ、小さいながら芝生が広がる中庭が見える。日が暮れた夕闇に、小さな電灯で控えめながらライトアップされている。

  「んー? もう暗くなるのが早くなったねー」

  ノッポがふと足を止める。

  薄明かりに浮かぶ日没直後のオレンジと群青の空を見上げる。季節が移り、空には冬の空気が増してきた。

  「知らねーよ……」

  視線を上げるつつ、ふと暗い一角を切り取る窓ガラスを見ると、室内の蛍光灯に照らされたリョウとノッポの姿が反射している様子が目に入る。

  大きなおむつからに包まれたリョウのお尻、そこから伸びた足はノッポの体を挟む。言われるがままにがっしりと抱き着いていて、本当に甘えた子供のようだった。

  「んー? あー、こっちを見てたのかー」

  ノッポはこれみよがしに向きを変える。一際暗がりに大きなガラス戸が見えた。

  磨かれたガラスには、リョウはお尻を大きく突き出したポーズで、ノッポに抱きかかえられた姿がありありと写る。

  「ぁ……」

  それからガラス越しの反対の廊下に、他の生徒の往来が見えた。こちら側が反射して見えると言うことは、向こうからもこっちが丸見えだということだ。

  リョウは顔がかぁっ、と熱くなるのを感じた。

  「アハハ、鏡みたーい」

  リョウの羞恥を尻目にノッポがゆさゆさと腕を揺する。

  「うっ……こら……」

  体ごと上下にゆすられ、恥ずかしさでノッポにぎゅっと抱き付く。

  クシュ……

  持ち上げられたお尻が、大きなおむつを小さく鳴らす。

  恥ずかしさと寒さで思わず身震いする。

  ノッポの腕の中でじたばたしてもがこうとするが、身動きひとつ取れない。

  「おい……部屋に行くんだろ?」

  リョウは腕の中で抗議した。

  「はいはーい」

  ノッポはリョウの様子を意に介さず、大きく足を開いて廊下を闊歩した。

  トントントン……

  廊下からこちらに向かってくる足尾が聞こえる。

  正面からではなく、別の廊下からこの廊下の交差部に近づいているらしい。

  「あ、あぅ……」

  この体制では隠れようもなく、リョウはただ唇を噛んだ。

  「あれ?まだこんなところにに居たんですか?」

  足音が途絶え、隣から聞き慣れたユウタの声が聞こえる。

  「あっ……あ、ユウタ?」

  「そうですけど?」

  ふっと息が漏れる。

  こわばった体が緩み、だっこされたまま、はーはーと大きく息を吐いた。

  「あれー? なんでこっちから?」

  「教員の部屋を通ってきたら、こっちの廊下が近かったんですよ」

  「へー」

  後ろ向きのせいでどの道を通ったか分からないが、ノッポのことだから無駄に遠回りしていた可能性も高い。

  「ああ、連れてくれてありがとうございます。リョウくんもらいますよ」

  「はいはーい」

  ノッポにヒョイと持ち上げられると、今度はユウタの腕が脇に差し込まれた。

  「お、オイッ」

  無力な抵抗も甲斐なく、赤子を抱き渡すように、今度はユウタの手に回った。

  お尻に手を回され、おむつがクシュっと鳴る。

  胸板をおしつけられ、ノッポと比べて細くて華奢な体がリョウの肌にくっつく。背丈があまり変わらないから足が地面につかないように、ユウタに巻きつくようにリョウは足を回してだきついた。

  年頃の少年として情けないことこの上ないが、体がついユウタの言うことを聞いてしまう。

  トストス……スタスタ……

  今度はユウタに抱かれたまま、ホテルの廊下を移動する。

  「ほら、こっちの廊下ですよ」

  「あれー?」

  静かな廊下に二人分の足音が響く。

  相変わらず前が見えないが、ユウタが先導して歩いているなら少し安心感があった。

  「おー、今帰り?」

  不意に知らない男子生徒の声が耳にはいり、体が強張る。

  クシュッ

  ユウタの体に回した足の間で、おむつが静かに鳴った。

  「はい、先生に事情を説明して、やっと戻れました」

  「ふーん。あ、俺たちの班、そろそろ風呂の時間だぜ」

  今まで考えないようにしていた単語が耳に入り、リョウはまたびくりと体をふるわせる。

  ポンポン….....

  またなだめるように、お尻に回した腕でユウタがおむつを叩いてくる。

  「お風呂ってー?」

  隣のノッポが話に入る。

  「ここのホテル、大浴場が広くないから、班ごと入れって話」

  「なーるほどー」

  「ユウタたちが遅れるって聞いて、一番最後になったんだけど、もうぼちぼち時間だぜ」

  「りょーかーい」

  顔は見えないものの同じ班の人間だったらしく、とりあえず胸をなでおろした。

  ポンポン……

  なだめるように、またお尻を叩かれた。

  ぎゅっと抱きついた体にユウタの体温が伝わり、少しだけ気持ち良く感じてしまう。

  「このまま行っても良いですかね」

  「良いんじゃね? 他の班とちょっと時間離れてるし」

  ユウタの問いかけに、男子生徒が軽く返事する。

  「どうしたのー?」

  「リョウくんのシャツも脱がせたいと思っていたところなので、ちょうど良いですね」

  またポンポンと、お尻を叩かれる。

  リョウは真っ赤な顔でユウタの肩に顔を埋めた。

  「タオルは部屋に有るんでしたっけ?」

  「僕は部屋に行くから、人数分持ってくるよー」

  「助かります」

  ノッポの提案をユウタが受ける、

  「俺は自販機行ってから戻るけど」

  「じぁあ、一緒に行こうかなー」

  ノッポは男子生徒と一緒に、行動するらしい。

  「ユウタは直接風呂な、班のやつにも伝えとくよ」

  「はい。お願いします」

  「そんじゃ、お前もいい子でな」

  ポンッ……

  知らない誰かから、元気よくお尻を叩かれる。

  「あっ……」

  思わず体がビクンと上反り、ユウタの体をぎゅっと掴む。

  トットットッ……

  軽快な小走りの音とともに、話しかけていた生徒は去っていった。すれ違いは一瞬だったので顔まではよく見えなかった。

  遠くで走るのが早いと文句を垂れるノッポの声が聞こえる。

  ギュ……

  リョウは何も言わず、ユウタの体を強く握る。

  恥ずかしさや情けなさで頭のなかがぐるぐるしていたが、なにより同じ班の生徒からすっかり子供扱いになっていることに、動揺を隠せないでいた。

  「ふふっ、優しいお兄ちゃんたちで良かったですねー」

  ポンポン……

  お尻を叩かれる。

  それからくしゃくしゃと、頭を撫でららた。

  「んんっ……」

  リョウはユウタの肩に顔を埋めて鼻を鳴らした。両手と両足でぎゅっとユウタを抱き返す。

  クシュ……

  お尻の下でおむつの音が聞こえた。