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森のオオカミ親分は釣りが好き

  「釣りに行くぞ」

  集落でネストリの軽い雑用を手伝っていると、今日はまだ日が高いうちに帰って来ていた親分が、2本の釣り竿とバケツと木の板を持ち、腰に魚籠(びく)を着けてぼくを誘った。もちろんぼくとしてはやぶさかではないし、ネストリにも行っておいでよと勧められたので、ぼくは親分と川上のほうへ向かった。

  親分は川沿いの大岩の上にどっしり腰掛けると、ぼくに釣り竿と木の板と固くなったパンくずを渡してくれた。ぼくも親分のすぐ近くに座って、針にパンくずをつけ始めた。ぼくは釣りなんかしたことがない。貴族たちは娯楽として魚釣りをすることもあるというけど、宗教的な理由もあって――全然熱心じゃないぼくには関係ないけど、まあ世の中の風潮として――ぼくら庶民は生計を立てる以外の理由で釣りなんかしないのだ。ぼくはそういうのは全部魚屋さんに任せているから、自分で獲ることはしない。魚が欲しいときは魚屋さんで塩漬けや干物を買う。

  慣れない釣りの手順にもたもたしていると、親分はぼくにやり方を見せるかのように慣れた手つきで針にパンくずをつけ、針を川に投げた。なんか怖いなあ、とがったものをあんなふうに振り回すのは。ぼくは恐る恐る、ゆっくりと針を水に垂らした。

  「これって何分くらいで釣れるの?」

  「釣れるときは釣れる。釣れんときは釣れん」

  それはごもっともです。他愛もない釣りについての質問を(ぼくが一方的に)投げかけていると、親分の釣り竿がきしんだ。

  「あっ、かかった? ええと、どどどうするの?」

  「なんでお前が焦っとんのや。釣り上げるときはこれを使うんや」

  親分は木の板を手に取ると、釣り竿の糸を巻き付け始めた。ああなるほど、ああやって糸を手繰り寄せていくんだな。親分が手早く糸を巻き付けていくと、やがて水面からパシャリと魚があげられた。

  「それ、なんて魚?」

  「パーチや。見たことないんか」

  「いつも塩漬けか干物を魚屋さんで買ってるから……」

  「……」

  親分はあきれた様子でパンくずを針につけると、ふたたび川に投げ入れた。

  「それにしても、どうしてぼくを誘ってくれたの? 夕飯の足しにするなら、ぼくよりもっと釣りがうまい人を誘ったほうがたくさん釣れるでしょう」

  「……アカンかったか」

  「ううん、楽しいけど」

  「そうか」

  質問には答えず釣りを続ける親分の空気は、少し和らいだように見えた。

  一時間ほど経っただろうか、親分はどんどん魚を釣り上げていく。一方ぼくはまだ一匹もかかっていない。えー、同じようにパンくずをつけて、同じように水中に投げ入れてるだけなのに、どうしてこんなに違うんだろうか。集中力が切れたぼくは、腰袋――火打石や硬貨を入れておく小さなバッグ――を漁り出した。はちみつ入りのライ麦焼き菓子が入っていたので、ひとつかじる。サクサクとまではいかないまでも、ナッツの香ばしい香りが口に広がって、小腹がすいたときに最適だ。視線を感じたので親分のほうを見ると、口を半開きにしてこちらをじっと見ている。

  「なんやそれ」

  「焼き菓子だけど。食べたことないの? 街では定番のお菓子だけど」

  「金は全部飯と生活用品に消えてまうからな。余計な菓子なんぞ買ってる余裕はあらへん」

  「じゃあひとつ食べる?」

  「ん」

  親分は焼き菓子をクンクン嗅ぐと、大きな口でかぶりついた。

  「……うまいな」

  「でしょう」

  親分は夢中で焼き菓子にかぶりついた。食べ終わってもまだ欲しそうな顔をしていたので(本人はそんな気はないだろうけど口が半開きになっていたので)もうひとつあげた。あんなにいかつい顔なのに、まるでおやつの時間の子供みたいだ。それも食べ終わると、親分は少し残念そうな顔をしたように見えた。うーん、できればもっとあげて、親分が純真に、嬉しそうにお菓子を食べるところを見たいんだけど、残念ながらお菓子はもう持っていない。そう親分に言うと、親分はどこか寂しそうな顔をしたように見えた。親分は革袋から水を飲んでふうと息を吐くと、おもむろに立ち上がって針を上げ、釣り竿を置いた。そして森に入って5分もすると、手のひらいっぱいの木の実を持って戻ってきた。

  「どうや、食うか」

  「あ、うん。いただくよ」

  甘酸っぱいベリーだ。採りたてのベリーは店で買うものよりもおいしいように感じた。いや、この森が豊かだからというのもあるかも知れないな。つい顔をほころばせながら食べると、親分は満足そうにぼくを見ながらまた釣りを始めた。ふふ、親分は相変わらず何も言わないけど、お返しのつもりなんだろうな。親分は言葉数は少ないけど、こういうかわいいところがあるんだよな。

  「そういえばお菓子は買わないって言ってたけど、こないだのお茶はどうしたの? ハーブティーとはいえ、きれいに包まれたお茶なんて安いものではないでしょ」

  「ン……まあ、来客用や」

  やっぱり親分は外からくる人間に興味があるんだろうな。そのための、親分なりの精一杯の歓迎ともてなしなのかもな。有り体に言えば原始的なこの集落に、街から来た人をとどめるために、少しでも喜んでもらおうとしているんだろう。

  「じゃあひょっとして、あの日肉を持って帰ってきてくれたのも……」

  「アホ、勘違いや。たまたま肉が食いたかっただけや」

  真相は分からないけど、まあ親分ならそう言うだろうな。

  少し日が傾いてきて、そろそろ親分の魚籠がいっぱいになりそうだ。いい時間になったし、そろそろ帰るころ合いだろうか。あの後ぼくも、親分ほどではないけど何匹か釣ることができた。少しは集落の食事に貢献できただろうか。最後に親分が大きめの魚を釣り上げると、何か言いたげな様子だ。

  「……楽しかったか」

  「うん」

  親分は少し口ごもる。

  「……ワシとおって楽しいか?」

  「うん」

  親分はあごの毛をもしゃもしゃする。

  「よう喋らんおっさんと居て楽しいんか」

  「うん」

  「変なヤツやな……」

  今日ずっと釣りをしていて、ネストリやトイヴォが親分は分かりやすい人だと言った理由が分かった気がする。親分は口下手だけど、考えていることは全部その態度に表れているんだ。まったく親分のことを知らない人が傍目から見れば、ずっとぼくばっかりが一方的に喋っているように見えただろうけど、ぼくからすれば親分との会話はちゃんと成り立っている。少なくとも、必死に何か話そうとしてくれていたことは分かる。親分は小さくため息をつく。

  「何を話したらええか分からん」

  「なんでもいいんだよ。昨日何を食べたとか、ベリーがおいしかったとか。それでも話すことがなかったら、無言でもいいよ」

  「そういうもんか」

  親分は釣り道具を片づけると、ゆっくりと立ち上がった。ぼくを背にして歩き始めながら、親分はぼそっと言った。

  「まあ……ワシも楽しかった……かも知れん」

  親分の気持ちを親分から直接聞いたのは初めてだ。それだけでも、今日一緒に釣りに来た意味がある。でもちょっとからかってみよう。

  「え、何なに? 聞こえなかった。もっかい言って」

  「なんでもないわ! 帰るぞ!」

  親分は照れ臭そうにしながら、少し速足で歩き出した。

  集落に帰ると、すでにトイヴォは鍋に煮立つ穀物雑炊と、魚焼き用の串を用意して焚火の前で待っていた。トイヴォは親分から魚籠を受け取ると、大漁に喜んだ。これならひとりに一尾ずつ配ってもまだ余る。トイヴォはさっそく魚をさばき始めると、まだ幼いとはとても思えないナイフさばきで次々に内臓をとっていった。台の上に魚を並べ、乗り切らなかった分は葉っぱの上に並べて塩を振っていく。その様子から、夕飯の気配を察知した他のケトラ族もぞくぞく集まってきた。魚に塩を振り終わると、トイヴォは食糧庫に走り、酒の入った小樽を持ってきた。親分が白樺のカップで酒をすくい取って飲むと、他のみんなもそれに続いた。場の空気が和らいで雑談が始まると、トイヴォは魚を串に刺して、焚火から少し離したところに刺した。やがて辺りには魚の焼ける香ばしい香りが漂う。うーん、普段ぼくは日もちが悪い生魚を買ってくることなんてないから、生魚が目の前で焼けるところなんて初めて見たかも知れない。こうして見てみると、彼らの食生活は全然粗末になんか見えないんだよな、というより毎日腹いっぱいまで食べているような気がする。それはみんなが頑張っているからこそなんだろうけど。

  魚が焼けると、例によってまず親分がとってかぶりつく。それを見た子分たちも、次々に魚にかぶりついていく。ぼくも恐る恐る口に入れると、ほくほくしたやわらかい身から油がしみ出してくる。クドくもなく淡白な味だけど、塩味が味を引き締めて満足させてくれる味だ。魚屋から買ってくる干物じゃ絶対に味わえないおいしさだ。獲れたてを焼いてすぐ食べるからこそなんだろうな。

  魚をある程度食べ終わると、親分はトイヴォに雑炊を持ってくるように言った。運ばれてきた雑炊にほぐした魚の身を入れると、匙ですくって口に入れた。ぼくも親分に倣ってさっそくそれを試してみる。雑炊のやさしい味に魚の香ばしさが加わってとても美味しい。こんなに美味しいものが食べられるなんてうらやましい。むしろ普段のぼくの食事のほうがずっと寂しいくらいだ。こんな生活なのに彼らが豊かでいられるのは、美味しいごはんがあってこそなのだろう。美味しいものを仲間で騒ぎながら食べるのが彼ら流なんだろうな。

  親分はリラックスはしているけど、相変わらずの仏頂面で雑炊をすすりながら静かに酒を飲んでいる。時々子分から酒を勧められたり、親分の世話をするトイヴォやネストリに話しかけられたりはしているけど、盛り上がっている若い子分たちと一緒にどんちゃん騒ぎって感じでもなさそうだ。親分としてはドンと構えていなければならないし、子分たちと同じ目線でいるわけにはいかない。それに親分はガハハと笑って子分たちとじゃれ合うような性格でもない。これじゃあ寂しいのも無理はないかな。ぼくはそっと立ち上がると、魚と雑炊を持って親分の隣に座った。親分はひとこと「おゥ」と言うと、再び酒を煽った

  「ようけ食っとるか」

  「うん。まさか焼き魚がこんなに美味しいなんて」

  「ワシらの飯もまんざらやないやろ」

  親分は少し得意げだ。

  「お前もあっちで盛り上がらんのか」

  「うーん、ぼくは酒飲んで盛り上がるって性格でもないしなあ」

  「気ィ合うな、ワシもや」

  そう言いながらも親分は少し楽しげだ。白樺のカップを飲み干すと、また小樽から酒をすくった。

  「そういえばさっき、どうして親分だけあんなに釣れたの?」

  「チョイチョイ揺らしたり、藻が多い場所を狙って投げたりするんや」

  「えー、さっき教えてくれたらよかったのに。あ、そういえば釣りの時に食べたお菓子、どうだった?」

  「うまかったな。あれどうやって作るんや」

  「簡単だよ、ライ麦粉にはちみつと乳とナッツを入れて窯で焼くだけ」

  「ほぉ」

  酒を飲む親分と、とりとめもない会話を続けた。親分はいつになく饒舌だ。しばらく話を続けていると、ほろ酔いのネストリがニヤニヤしながら話しかけてきた。

  「あれ? 二人ずいぶん仲いいじゃーん」

  「アホ、魚の釣り方と菓子の作り方の話や」

  「ふーん。ふふ、ごゆっくり」

  親分は「何やアイツは」なんて口では言っているけど、さっきまでより上機嫌で楽しそうだ。親分はもうひとつ残っていた焼き魚の串焼きをとると、それを肴に酒を飲んだ。

  「今日はえらい旨いな」

  辺りがすっかり暗くなった頃、みんなで飲んだとはいえ、小樽になみなみと入っていた酒は空になった。親分が「えらい酔った、寝る」と言って小屋へ引っ込むと、子分たちも少しずつ小屋へ帰っていった。トイヴォは「片づけは自分がやるッス」と譲らないので、せめて残っている皿やごみを集めて片づけていると、まだ座っていたネストリはカップに残った酒を飲みながらつぶやいた。

  「いやあ、あんなに楽しそうな親分は見たことがないよ。普段はあんなに酔うまで飲まないし、それだけ君と話すのが楽しかったんだろうね」

  確かに、いつもだったら親分は仏頂面で食事して、たまに親分や親として必要なことを話すくらいで、おなかが膨れたらさっさと自分の小屋へ帰っていく。今日ぼくとあんなにしゃべってくれたのは、心の距離が縮まったからだろうか。そうだとしたら嬉しい。もちろん、酒が大らかにしてくれているというのもあるだろうけど。

  「さ、片づけはぼくがやるから、君は親分のところに行ってあげなよ」

  親分の小屋に入ると、親分はベッドに横たわっているけどまだ寝ておらず、上機嫌というふうだった。いつも通り服は脱いで、肉付きのいい体を股間に巻き付けた腰布が縛り付けるという煽情的な恰好でゴロゴロしている。ぼくを見ると「おう」と言って座るよう促した。

  「飲みすぎてもうたわ」

  親分は柄でもなくニヤリと笑う。その表情はまるでいたずらっ子のように幼くも見えた。こんな顔、子分たちの前ではしないんだろうな。

  「ご機嫌だね」

  「なんや楽しゅうてな」

  「どうして?」

  「さあな、何でやろな。しょうもない話しかしとらんかったのに」

  「友達同士ってそういうもんでしょう」

  親分は細い目を開いて目を丸くした。そして初めて歯を見せて声を上げて笑った。

  「がははは! ボウズはワシのツレか!」

  酔いも手伝ってか、親分はこちらを見て豪快に笑う。

  「そんなモン出来たのはガキの頃以来やな」

  やっぱりそうなのか。親分はこんなふうにしょうもない会話をする相手がいなかったんだろうな。だからわざわざお茶を用意したり、肉を振舞ってくれたり、釣りに誘ってくれたりして、必死にぼくをここにとどめようとしたんだ。初めて自分と対等に話が出来るぼくを離したくなかったんだろう。そしてそれがようやく叶ったから上機嫌なんだろうな。親分になってからずっとそうしてきたのだとしたら、親分はいったいどれくらい寂しい時間を過ごしてきたのだろうか――と偉そうに言っているぼくだって、今友達と呼べるような人がいるかと言われると怪しいものだ。学校を卒業して、薬師になってからずっと一人でお気楽な人生を送ってきたけど、ぼくだって寂しいこともある。患者さんや商売上の付き合いで少し冗談を言ったりはするけど、つまらない話で盛り上がれるような相手はいなかった。でも親分には気を張る必要はないし、寂しいという境遇も似ている。人付き合いを好まないぼくが、最近この集落に来るのが楽しかった理由のひとつが分かったような気がする。

  「なァ、次はいつ来るんや」

  「明日はちょっと忙しいんだ。明後日にまた来るよ」

  「そうか」

  親分は明らかに残念そうだ。まあ気持ちは分かる。ぼくだって寂しいし、出来たばかりの友達には毎日でも会いたい。

  「アカンアカン、酔いでいらんこと言うてしまいそうや。寝るぞ」

  親分はランタンを消すと、そのまま眠りについた。ぼくもその隣で目を閉じた。

  なにやらゴソゴソと音がして目が覚めた。目を閉じたまま現状を把握しようと試みる。もう秋だというのに暑いくらいだ。体の感覚を集中させてみる。何かゴワゴワとした毛皮が背中にある。どうやらぼくは親分の抱き枕にされているようだ。親分は後ろからがっつりとぼくに抱き着いて、低いいびきをかいている。動こうにも動けない。なんとか抜け出ようともぞもぞ動くと、親分はよりいっそう強い力でぼくをがっしり掴んだ。そして、ぼくの尻には何か暴力的な大きさの固いものが当たっている。

  「ちょっと、親分」

  「んァ……なんや……」

  親分は下腹部の固いものをぼくの尻に押し付け、少し腰を動かしてこすりつけた。エッチなことをしているというより、ぼくにマーキングしているようにも感じられる。そして耳元で舌をピチャリと鳴らすと、ぼくの首筋をなめ始めた。ざらついた舌で首元をなめられるたび、ぞくぞくとしびれるような感覚が全身を走る。ピチャピチャという音がぼくの劣情を煽る。ぼくのちょっとした抵抗とは裏腹に、股間が充血しはじめる。

  「ン」

  親分は低くつぶやくと、ゆっくりと体を起こし、そして仰向けにしたぼくにまたがり、両腕を床に押さえつけた。野性味あふれる力強い体に強引に押さえつけられて心臓が高鳴る。親分は下腹部をぼくのそれに荒っぽくこすりつけ、まるで自分の所有物だとアピールするかのように匂いをつけていく。ぼくだって負けていられない。ぼくも親分に応えるように、親分の上体を引き寄せながら股間をこすりつけると、親分は自分を奮い立たせるかのように「オォ……」と大げさに喘いでみせた。ぼくもそれに続いて上ずった声を上げる。暗闇の中で鋭敏になった体の感覚と、なまめかしく響く声の感触が、ぼくたちの心を高ぶらせる。ぼくたちは呼吸を荒くしながら、淫靡な声を絡ませてお互いの劣情を誘った。

  散々体をまさぐりあった後、親分は体を起こすと、ぼくの前で屹立した。板壁のすき間から入り込む薄い月明りが、その肉感的な体を浮かび上がらせる。胸板から腹にかけてのライン、丸太のような太ももの形、そして剛直する股間の盛り上がりがぼくに見せつけてくる。みっちりした布に縛られた股間には中身がみっちりと窮屈に収められていて、棒のシルエットから浮き出したくびれの形までがはっきりと見て取れる。親分はまるでそれを見せつけるかのように突き出す。荒い呼吸のたびにその体が揺れる。ぼくの呼吸も荒さを増し、鼻から取り入れられる空気に孕む親分の匂いが、鼓動をさらに早くする。親分は乱暴にぼくの体を起こすと、頭をつかんで自分の股間に押し付けた。玉の裏側から親分の雄の匂いが立ち上り、息を吸い込むとクラクラする。ゴシゴシと顔に股間をこすりつけられながら、ぼくは親分の下半身に抱き着いた。太い体に手を回すと、引き締まってはいるけど年相応に肉のついた尻と、その間を締め付ける太いひものような布の感触に触れて気分が煽られる。親分の尻を撫でまわしながら、股間に顔を埋める。尻からふとももにかけてをゆっくり撫でまわすと、親分は上気したように「ええぞ……」と漏らして、その感触を愉しんだ。しばらく続けると、親分の尻は時折ピクッとなり、そのたび股間もドクンと脈打った。やがてぼくが顔を押し付けているふくらみからじっとりとした濡れた感触がし始めた。親分がぼくと交わって興奮して、液を漏らしてしまっているのが嬉しい。ぼくは親分の尻にあった手を親分の股の間にしのばせ、玉の裏や下腹の奥を爪を立ててまさぐった。親分はいっそう激しく喘ぐと、ふたたびぼくを押し倒した。親分はいよいよ腰布をほどき、ぼくのパンツもひっぺがすと、ベッドの脇にこっそり置かれていたびんをとりだして、天を衝くその巨砲へと垂らした。これから行われることを考えれば、おそらくあれは植物油かなにかだろう。親分は濡れた巨根をごつごつした手でつかむと、その固い手の刺激を愉しむかのように前後にぐちゅぐちゅとこすった。太い根をつたって流れる液体が玉を伝って落ちる。親分はぼくに自慰を見せつけるように、喘ぎながら、腰を振りながら手を動かす。その動きはどんどん早まり、親分の声は狭い小屋の中を埋め尽くす。ぼくは左手で親分の玉を伝う液体を手ですくい取り、その大きな玉の裏や太ももの内側に塗りつけてぬるぬると撫でまわした。親分は「うぉ、おっ」とビクビク体を震わせながら、その恥ずかしい姿をぼくにさらした。そんな姿を見て耐えられるわけもなく、ぼくは親分を左手でいじめながら、右手にもぬるぬるした液をつけて自分のものをこすり始めた。すでに親分の痴態を散々見て高ぶっている陰茎は、はちきれんばかりに膨れ上がっていて、同時にいつもより敏感になっている。ぬるついた液体で一度こするだけで、下腹部からせりあがってくる劣情が、解き放たれるときを今か今かと待ち構えている。親分のオナニーショーを見ながら、ぼくはうっかり射出してしまわないように、指の先を小さくまとわりつかせて快感を愉しんだ。

  親分は散々手淫を愉しむと、ふうと息をつき、一旦手を止めて荒々しくなった呼吸を収めた。そしてぼくを再び乱暴にベッドに押し倒した。親分はぼくに覆いかぶさって、今度は体を密着させるように固く抱き合う。ふたりで下半身をくねらせこすり合わせると、ネチャネチャと湿った卑猥な音が、さらにぼくたちの劣情を持ち上げる。潤滑油の滑りが二人の接点を吸いつけ、より密着しているように感じる。今親分と抱き合って性器を交わらせているのだという実感が増す。

  親分が動きを止めたので、ぼくもそれに従った。荒い息を収めながら、お互いの接点の感触を味わった。親分の固い毛、やわらかい腹、交わる下半身。親分に受け入れられている多幸感。こんなに幸せな気持ちになったのは初めてかも知れない。ぼくらはしばらくの間、そのままくっついていた。

  強く抱きしめ合って体を激しくこすりつけ合い、行為が再開した。まったく萎えることのない密着した股間を滑らせはじめると、少し落ち着いていたせりあがる欲求が再び鎌首をもたげた。ヌメヌメと少し性器を絡めると、そのうめくような反応で、お互いにもう限界に近付きつつあることが分かった。親分はぼくの目を見ると、ニヤリと笑った。そして舌なめずりをすると、荒っぽく腰を振りながら、びちゃびちゃと激しい音を立ててぼくの首元をなめ始めた。卑猥な水音とざらついた舌が、あと少しで限界というところまでぼくを追い詰めていく。二人で激しく腰を振る。粗末なベッドがギシギシと軋む。親分の舌がぼくを舐め上げる。ぼくは固く親分を抱きしめる。

  二人で声を上げ、同時に体をビクンとのけ反らせた。発射したと同時に、親分がぼくの上で勢いよく噴き出したのを感じた。太い陰茎は何度も体を震わせ、やがて親分はぼくの上ですべてを吐き出してぐったりした。

  「……重いよ、親分」

  「んァ……ええやろ、もうちょいだけや」

  親分は満足げにつぶやくと、ぼくを抱きしめて眠りに落ちた。

  *

  親分の朝は相変わらず早い。起こされて目が覚めると、まだ夜が白み始めた時間帯で日は登っていない。それでもトイヴォはすでに集落を走り回って、食事の準備をしている。

  「ごはん出来てるッス!」

  「うん、ありがとう。おはよう」

  「おう」

  トイヴォはベリーの入った穀物粥を器にすくってみんなに配った。例によって親分がひとくち食べると、それに従って子分たちもスプーンをつける。穀物粥には昨日食べたのと同じ新鮮なベリーが入っていて、さっぱりとしたやさしい甘味が眠っていた体を起こしてくれる。

  「そういえば、ここのベリーは美味しいね」

  「食糧庫に干しベリーがあったはずや。好きなだけ持ってけ」

  「ほんと?」

  「その代わりやが……昨日のはもっとないんか」

  「あのお菓子? 作り方をトイヴォに教えておこうか?」」

  「石窯をしばらく使っとらんのや。用意するまでに時間がかかる」

  「分かった、持ってくるよ」

  「ぎょうさん頼むで」

  饒舌に何気ない会話をするだけでも珍しい親分が、ぼくにお菓子をねだる姿を見て、トイヴォはポカンとしている。子分たちもざわつく。ネストリはニヤニヤしている。まあ、そうなるだろうな。でも親分は外野の反応井を意に介する様子はない。結局ぼくらは出発の時間になるまで、ずっと何でもない会話をした。

  「じゃあ、次はまた明後日だね」

  「おう。はよ帰って来いよ」

  親分は優しく見送ってくれた。

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