犬の気持ち ①

  ほんのりイザ武な人間×獣人パロのみっち愛され……になるんだろうか?

  幻覚とか妄想とかを捏ねくり回した結果の産物

  最後の世界線から並行世界に移動してる

  みーんな仲良く会社立ち上げて社畜してるよ

  獣人は今のところみっちのみ

  最終的にはハッピーエンド……を目指したい

  いずれ本になるかもしれない

  著作権は放棄してないんで無断転載とか止めてくだせぇ

  [newpage]

  (やっべーな……本当にどうしよ)

  少し大きめな公園の片隅にあるベンチ裏で、花垣武道と呼ばれていた彼は1人縮こまっていた。

  とある一定の人と握手をすると過去にタイムリープでき、人とは違う能力を持っていると発覚した彼は、最悪の未来を避けるために何度も何度も過去と未来を行き来していた。

  最後の1つ前の世界線、武道はどうしても救いたい佐野万次郎の手を握った。

  現代から数えて10年以上前の過去に戻り、それこそ小学生時代から万次郎と2人で皆を救えるように動いた結果、見事それを成し遂げた……記憶まではあった。

  しかしどういうことか、自身の結婚式からその後の記憶はプツリと途切れ気がつけば真っ白な施設の中にいた。

  明らかに違法なことをしていますと言わんばかりの白衣の連中に戦慄しつつ、ここにいるのはやべぇ!と過去の教訓から、最後から1つ前の世界線で発現した未来視を駆使し逃げてきたばかりだった。

  そしてもっと困っていることは身体はどう見ても小学生より小さい。万次郎と最後にタイムリープした頃よりやや幼いくらいだろうか。さらに人語を発せない上に、極めつけは頭に犬と思われる耳と尻辺りに尻尾が生えているのが大変困ったことだった。

  身体の小ささは最後の記憶時に経験してるからまだいい。言葉は発せないが鳴くことはできるからまだ何とかなる。しかし犬耳尻尾とはどういうことだ!中身はもう精神年齢50近いのに誰得か!

  イヌピーくんによく耳と尻尾の幻覚みたいなのは見えたけどリアルはいらねぇんだよな……と公園のベンチ裏で絶望していたところだ。

  (心なしか耳も尻尾も気持ちに連動してるのかしょんぼりしてる気がする……でもどうしようもねぇしな、どうしたもんか)

  逃げている時、裏道などを走ったためところどころ傷だらけだ。施設を出る前は裸足だったが流石に外は危ないと思い、シーツを破って足に巻き付けたのは正解だったようだ。

  そのため足は無事だが上半身は結構ボロボロだ。決して鈍臭い訳では無いと思いたい。逃げている途中、前よりも足が速いような気がしたし、何より匂いに敏感になったのは犬のような獣人になったからかもしれないが、如何せん身体が小さくて上手く動けないのは難点だ。

  途中ホームレスのようにグループで固まっている似たような出で立ちの獣人?がいたため、情報収集のため話しかけようと思ったが未来視が見せたのはボコボコに袋にされる未来だったので、その場から急いで脱するしかなかった。

  過去の自分のように、普通の人間もいることは施設の連中や逃げる途中で確認済みではある。だからおかしくなったのは自分自身というのもよくわかる。

  が、犬耳尻尾は誰も得しない。嬉しくない。

  (どうにかして情報手に入れてぇけど、獣人のグループに話しかけたらボコボコの未来しか見えねぇし。だからといって知り合いもいるかもわかんねぇってこれ詰んでね!?)

  以前であれば直人や千冬といった協力者が居たため、過去と未来を行き来していても情報がすぐ集められたが、今回はスタートから外れまくっている。信用できるのは自身の未来視くらいしかない。

  意図せず口からクゥンと鳴き声を出してしまい慌てて口を抑えた。どうにも幼い身体と気持ちが連動して鳴き声が漏れてしまうようだ。

  (耳や尻尾、挙げ句に鳴き声を上げるなんて犬のまんまじゃん……油断すると鳴くなんて気をつけねぇと)

  いつまでも耳と尻尾をぺしゃりとしていても仕方ない。さっさとここから離れた方がいいかもしれない。もしかしたら施設のヤツらも追いかけてきている可能性もある。

  思い立ったら即行動。ここから移動するかと顔を上げた瞬間、目と目があった。しかも瞳孔ガン開きのアメジストのような目と。

  「キャイン!(イ、イ、イザナくん!?)」

  それは壮絶な過去を持つ、万次郎の義兄である黒川イザナであった。過去最大級に疲れきった顔の上、瞳孔が完全に開いた目で武道をジッと見つめていた。

  [newpage]

  黒川イザナは疲れていた。連日会社の仕事にぶん回され、愚弟の尻拭いをし、家にも寝に帰るだけのような状態が連日続いていた。睡眠時間も圧倒的に足りていない。

  イザナの会社は若い頃にヤンチャ(だいぶやんわり表現)をしていた奴らや愚弟と共に立上げ、軌道にも無事に乗り現在急成長を遂げていた。

  しかし急成長をするということは、自身らの仕事もアホ程降ってくるというものである。嬉しいが嬉しくない……そんな限界社畜生活を繰り返していた。

  そんな社畜なイザナが公園のベンチに座ったのはたまたまだった。会社からほど近い少し大きめの公園。会議をしても方向性が決まらず、行き詰まった状態だったため休憩となり、鶴蝶からも少し外に行ってきたらどうかと無理矢理出されたようなものだ。

  久しぶりに明るい時間に外に出たはいいものの陽の光が目に痛い。外に出されたのにも関わらず、店に入るのもどうなんだとぶらぶら歩いた結果、辿り着いたのは近くの公園だった。平日の昼間のため公園の中でも隅にあるベンチには人っ子一人いない。ここ数日は天気が悪く、気圧で痛かった頭も嘘のように落ち着いている。

  しかし戻ったところで待っているのは、結論の出ない会議と大量の仕事なもんだからテンションは上がらないし頭も痛いような気がする。今が頑張り時というのもわかる。頭のイイヤツはいる。気心しれた仲間もいる。けれどそれを上回る忙しさにイザナはほとほと疲れていた。

  大きく溜息をつこうとした瞬間、イザナの後ろからクゥンと悲しげな犬の声が聞こえた。物音を立てないようにそっと後ろを振り向くと、黒髪で幼子の獣人がベンチ裏にしゃがみ込んでいた。

  少し癖のある黒髪から出ているのは同色の耳。尻尾も同様に真っ黒。日本由来の獣人ならば柴犬か、それとも雑種か。

  しかし服装は明らかにおかしく大人用のボロボロのTシャツ。出ている腕や足には切り傷や青痣が大量についていて、足は靴どころかボロボロの布が乱雑に巻いてあるだけだ。

  どちらにせよこんなに小さな獣人が1人でいるのは異様なことだった。

  古来より人間と獣人はパートナーとして共に歴史を歩んできた存在だ。過去に一部の人間のせいで急激に獣人の数が減ることはあったものの、法も整い昨今は獣人に対しての扱いもよくなってきている。

  一部は人に飼われるのが嫌で、野良としてコロニーを形成する獣人もいるが、今は法の元で圧倒的に人間と共に暮らしている獣人がほとんどだ。

  しかし、世の中には腐った奴らは表からは見えない裏の世界にうじゃうじゃいるわけで、見目がよかったり珍しい獣人は違法売買など目も当てられない目にあっているという。

  イザナの会社内部署でも獣人に対しての部署がある。そういった売人の摘発や違法行為に曝された獣人の保護などを行っている。

  そんな保護されるような獣人の子供が目の前にいる。ジッと見つめていると視線に気がついたのかこちらを振り向きその顔が見えた。

  サファイアのように大きな瞳が印象的な可愛らしい犬の獣人だ。ただ本人はイザナの瞳孔がカッ開いた目にビビって鳴き声を上げて震えているが。

  (なるほどな……)

  宝石のような瞳に保護欲を駆り立てる幼い容姿。裏の世界のクソ共が好きになりそうな要素がたっぷり詰まっている。ただコイツはそんな奴らから着の身着のまま逃げてきたのだろう。裸足は危ないからと足に布を巻く頭の良さはあるようだ。

  平時のイザナなら保護をして、それ相応の施設に入れるように動いただろうが、何より今は疲れ果てていた。思考能力は低下し、常ならば考えないような思考が働いたともいえる。

  (よし、コイツ、飼うか)

  即断即決。その言葉に相応しいように勢いよくベンチから立ち上がると、震えている獣人を両手で抱き上げる。未だ震えているがキュッとイザナの服を握るその姿にギュン!!とイザナの心臓が変な音を立てた。

  「ぐっ……お前、今日からオレの家族な」

  「クゥン……(えぇ……)」

  謀らずもその言い方は、嘗ての世界線で武道に言い放った佐野万次郎にそっくりであった。

  [newpage]

  「戻った」

  「あぁ、おかえりイザ……ナ」

  会議に戻る前に自身の執務室へ戻ったイザナを見た鶴蝶は、持っていた書類をぶち撒けるのも気にせずにイザナの腕の中にいる小さい生き物に注視していた。

  会議が行き詰まり一旦休憩にして久しぶりの空いた時間ができたため、ここ最近激務過ぎたイザナを無理矢理外に出した時は手ぶらだったはずだ。それがどうだろうか。今はイザナの腕の中に少し汚れた獣人の幼子がいる。

  瞬時に鶴蝶が叩き出したのはイザナに対してすごく失礼な考えだが、この王ならば気に入った獣人がいれば拐ってくるくらいやりかねないと考えが過る。そんなこと口にすれば蹴りの1発や2発もらいそうなのに恐る恐る口にする。

  「イザナ……いくらなんでも誘拐は……」

  「ちげぇよ」

  イザナの額に青筋が浮かぶ。が、長年の付き合いである鶴蝶にとって特に気にせず、誘拐でないことにホッとするあたりこの王あっての下僕である。

  「そうか……ならどうしたんだ?」

  「そこの公園で拾った。とりあえずオレは会議に出るからコイツに風呂入れさせて手入れしてやれ」

  言葉は乱暴なものの幼子の獣人に対する手つきは優しい。元々懐に入れた者には優しい王でもあるがそれにしても……と幼子の獣人に目を向ける。

  獣人のわりには大人しすぎだと疑問が頭を過る。いくら幼子といえど獣人。小さくても力は大人並み……なんてのもザラなのに、対象の獣人は大人しくイザナの腕に収まっていた。なんなら少し震えているのが痛ましい。

  なんて傍から見たらそんな感想が過るのが普通だが、武道はただビックリしていてキャパオーバーしているだけだったりする。

  (イザナくん見た目と口に反してめっちゃ手つき優しいんだけど!?ってかイザナくん見た時も思ったけど、カクちゃんここ最近で見た感じと一緒ってことはもしかして今の俺より年上……!?)

  残念ながら言葉は発せないため、心の中での荒ぶりがわかるのは武道だけである。まさかの幼馴染みとも言える友人や年の近かった仲間が、今の自分より一回り以上年上ということは、下手したら知り合い全員が自分より年上ということに驚愕して震えが出ていた。

  悲しいかな。本人は驚いて震えているが、傍から見れば恐怖で震えている幼子の獣人だ。よくある勘違いをされるのもまた無理はなかった。勘違いポイント1点。

  「頼んだ」

  「あぁ、わかった」

  そっと優しい手つきで武道を鶴蝶に渡すと、イザナは颯爽と執務室を出ていった。イザナはさっさと会議を終わらせて武道と交流を深めたい……なんて考えは口に出さねば誰にもわからない。唯一察しているのはこの場にいる鶴蝶のみで、優しい瞳でイザナを見送った。

  「とりあえずシャワー浴びようか。オレは鶴蝶って言うんだ、よろしくな」

  ニカッと笑った顔は見慣れた幼馴染みの笑顔。どこの世界のカクちゃんでも、笑顔は変わらないんだなと少しホッとした武道だった。

  ……が、ここで思い出してほしい。現在の武道の格好を。

  ぶかぶかの薄汚れた大人用のTシャツ、足は靴を履いておらず汚れた布を巻いている、極めつけは肌が出ている腕と足には切り傷や青痣が複数付いている。それを改めて見た鶴蝶の心境を述べよ、といったところだ。

  明らかに初見での感想は虐待されてた?という感想を持つのは明白で、武道を抱き上げていた鶴蝶も漏れずにその考えに至ってしまった。勘違いポイント追加。

  鶴蝶の顔を見上げていると、最初は普通の笑顔だったのだが、武道をまじまじと見ると顔は笑顔なのにだんだんと目つきは武道を銃殺した世界線の目をしていった。ただ鶴蝶は頑張って殺気を抑えて幼子な武道を怖がらせないようにしようと思っていたが、ここで蘇るのは武道のトラウマである。

  「ク、クゥゥゥ……!(こ、こえぇよカクちゃん……!目が笑ってねぇ……!)」

  「……!ごめんな!」

  蘇ったトラウマは幼子な身体に引っ張られ、武道の犬耳と尻尾にわかりやすい形で見えてしまう。頭の耳はヘタっているし、尻尾はさらに丸くなり足と足の間で挟んでしまう。残念ながらこれも勘違いを加速させる要因でしかなかった。勘違いポイントさらに追加。もう分かりきった未来しか見えない。

  鶴蝶は怯える武道を抱えて浴室に向かう。怯える姿は見せるものの大人しいし、逃げる素振りもない。暴れて人間側に怪我をさせるようなこともないため、さらにこれはもしかして……と考えてしまうのは致し方ない。外的要因がそうとしか思えない。

  ただ本人は幼馴染みの抱っこが抜群の安定感で安心しているだけであるのだが、言葉さえ発せられれば解決できたかもしれない。運命とはままならないものである。

  少し温めのシャワーを浴びて汚れを落としてもらった武道は、ソファーの上で鶴蝶に手当てを受けていた。獣人になり犬要素が加えられたからか、はたまた小さくなったからかわからないが、シャワーが滝のようで少し暴れてしまったのは鶴蝶に申し訳なかった。

  (そんなに水圧強くなかったのに、すげぇ勢いで降っているように見えたもんな)

  お湯は気持ちよかったが本能が動物寄りなのか、シャワーから出されるお湯がものすごく怖いものに見えた。動物は水が苦手だとは聞いていたが、実際に獣人になり体験するとその怖さもよくわかる。

  自身が人間に戻れたら動物に優しくしてあげようと思うが、暫くは自分がその恐怖を味わうと思うと何となくしょんぼりしてしまう。

  「よし、こんなもんだな。痛くないか?」

  恐らく鶴蝶のであろうYシャツを借りて怪我していた箇所を包帯や絆創膏で覆われた。巻かれた包帯や絆創膏の数を見ると、生身の肌の面積が少ない。気をつけなければと思うが、どうにも幼いからか身体よりも頭の方が大きく、バランスを崩しやすいため暫くはこの小さな身体に慣れる練習をしなければならないだろう。なるべく傷は負いたくないものだ。

  問いかける鶴蝶には首を縦に振ることで肯定を示す。ふと、鶴蝶が濡れないように捲り曲げられたシャツから除く腕に目をやると赤い線が走っているのが見えた。どうやら武道がシャワーに対して恐怖で少し暴れた時についた傷のようだ。

  (や、やっちまったー!ゴメンカクちゃん!!)

  慌てて鶴蝶の腕にすり寄り赤い線が走っている部分を小さな手で撫でる。身体が小さく幼くなったため涙腺が緩いのか意図せず目からホロホロと涙が零れる。

  必死に腕を擦る武道は気づかなかったが、鶴蝶は撫でられていない方の手で口から悲鳴が上がるのを抑え天を仰いでいた。所謂推しが尊いと天を仰ぐスタイルである。

  小さい命がキュンキュン鳴きながら、鶴蝶にとっては微々たるものだが怪我をしてしまった腕を擦っているのである。そんな可愛い姿に落ちないわけがなかった。

  [newpage]

  「戻った。アイツどうしてる?」

  「とりあえずシャワーを浴びさせて手当てはした。疲れてたのか今は寝てるな」

  「……そうか」

  会議を早々に終えたイザナは脇目も振らず鶴蝶の座っている場所へと寄る。少し早歩きなのは早くあの小さな命に会いたいからだろう。しかし残念なことに今は眠っているようで、心なしか落ち込んだように見える。そうわかるのは長年の付き合いがある者くらいだ。もちろん鶴蝶含む。

  鶴蝶はソファーには座らず、ラグの引いている上に胡座を組んで座っている。鶴蝶の胡座を組んだところを覗き込むとその場にすっぽりと収まり、鶴蝶の手を握りながらすぴすぴと音を立てながら武道は寝ていた。心なしか涎も垂れているようにも見える。

  初対面の人間の手を握り寝ている姿を見て、コイツの危機感死んでないか?野生とは?と心配になるが、見つけた自分より鶴蝶に懐いてることに少しばかりイラッとした。今は殴れないから後で必ず鶴蝶を殴ろうと心に誓ったのは言うまでもない。

  「……シャワーを浴びさせた時に全身を見たが傷だらけだったな。虐待を受けていたのは間違いないと思う」

  「やっぱりな」

  「自分の方が痛いのに、ちょっと引っ掻いたオレの腕の方を心配していたんだ……コイツ」

  握られていない方の手で優しく武道の頭を撫でる。無意識にその手に擦り寄る姿には心にくるものがあった。

  「とりあえず場地に獣人に必要な物が何か聞くか?」

  「そうだな、ここに呼べ。ついでに軽く見てもらう。あと三ツ谷。愚弟は絶対近づけさせるな」

  「わかった」

  鶴蝶から呼び出された場地は獣人向けのショップ経営や譲渡会を行っている。あともう2人いるのだけれども本日は店番のため会社にはいない。対獣人に対しては獣人医師免許取得を志しているため会社内でも場地は特に詳しかった。

  そして三ツ谷はファッションデザイナーとして独自ブランドを出しており、ここ最近獣人向けのファッションも手がける予定のため……というのは建前上、武道に似合う服を着せるためである。

  出会ってまだ数時間だが、早くも親馬鹿の片鱗を見せている。ちなみにここでカリスマとも呼ばれていた灰谷兄弟を呼ばなかったのは、色々と後にも先にもめんどくさいから除外したというのはここだけの話。

  「ちっせーな」

  「色々見てみねぇとわかんねぇけど3……いや4歳くらいか?」

  呼び出しをしてから数分もしない内に執務室に訪れた三ツ谷と場地の2人は、未だ鶴蝶の足の中で眠っている武道を覗き込んでいた。

  「こりゃマイキー呼ばなくて正解だったな」

  「愚弟が来たらもっと煩くなるからナ」

  苦笑してそう言うのは三ツ谷。普段双龍の片割れがぶん回されており、自身も何度かぶん回されているため万次郎のことはよくわかってる。想像でしかないが恐らく武道を見た瞬間に欲しいとか叫ぶのだろう。

  「起こすのかわいそーだけどよ、健康状態見てぇな。鶴蝶起こしてくんね?」

  「う"……わかった」

  場地も場地でこの後店に戻らなければならないのであまり時間はない。そのため鶴蝶は泣く泣く武道を起こすことにした。小さく丸まっていた身体を優しく揺する。ムズムズと嫌そうにしていたが徐々に覚醒したのか、大きなサファイアのような目が開かれる。

  始めはボーッとしていたが、眠る前にはいなかった人が増えていたためビクリと身体を震わせる。イザナらは虐待を受けていたためかと怒りや悲しみを覚えるが、武道にとっては見知った顔が揃っているからである。加算される勘違いポイント。そろそろ天井も近い。

  (場地くんに三ツ谷くん!やっぱり大きい!こんな姿で会いたくなかったな……)

  自分よりも倍以上大きい上に成人した姿なもんだから泣きそうになる。気持ちと連動している耳や尻尾はへたれ、瞳からはうるうると涙が込み上げてくる。

  「よぉ。オレな場地圭介って言うんだわ」

  未だ鶴蝶の足の中にいる武道と目線を合わせて話しかけてくる場地。ニカリと笑う姿は1つ前の世界線では見慣れた幼馴染みの笑顔だった。

  「オレは医者の見習いなんだけどよ?お前の健康状態が見てぇんだわ。協力してくんね?」

  「言葉がわかるのか?」

  「……どうだろうなぁ。慣れれば人語も話せるようになるけど、こんぐらいちっこいと獣寄りか人間寄りかは分かりづらいんだワ。こんだけ大人しいならコイツは人間寄りだと思うけどな」

  思わずといった感じでイザナが話しかける。何せ半分誘拐するように、黙って抱き上げて連れてきたから少し申し訳ないのだろう。武道は場地とイザナを交互に見てゆっくりと首を縦に振った。

  「お、あんがとな!じゃあこっちに来てくれっか?」

  場地は武道に向かって手を伸ばすとどうやら抱き上げて少し明るい場所で診察するらしい。少し戸惑ってうろうろと視線を左右に揺らした後、暫くしてから鶴蝶の足から離れ武道も倣うように場地に向かって手を伸ばす。途中何か詰まったような声が複数聞こえたが、気の所為ということで場地に抱きついた。本当は幼馴染みに抱っこされるという葛藤はあったが、もしこの身体に何か不調があったらという武道の苦渋の決断である。

  「はぁー……オレ、あんま獣人と関わったことなかったけど獣人ってあんな大人しいもんなんか?」

  「もっとでっかいのとしかオレも見たことねぇな。それにしたって大人しすぎな気ィするけどな」

  「そういえば名前は決めた?」

  「いや、これからだな」

  場地と武道が陽のあたる明るめの場所でやり取りしているのを眺めながら、三ツ谷とイザナは会話を続ける。傍から見たら真剣に会話をするできる大人だが、話してる内容は幼い獣人のことや服についてだから残念極まりない。どういう機能性のある服がいいか、可愛い系か少し大人っぽいのがいいかなど真剣に協議している。鶴蝶はそんな彼らを眺めながら皆のためにお茶の用意をするのであった。ツッコミは皆無である。