オーバー・ザ・マイヒーロー!!【前編】

  「おはよー」

  「おはよう」

  高い天井、向こうまで見渡せる大広間。

  空間には、エンジンがかかる前の、朝のさわさわした独特の空気が満ちている。

  席を取ってくれていたそいつと同じテーブルに着きながら、オレは口を開く。

  軽いジャブのつもり。いかにも何でもない感じで、

  「すっごい寝ぐせついてるぞ」

  「えっやば……ホテルついて速攻寝ちゃったから」

  「そんなに仕事忙しかったのか?」

  「ううん、ベッド良すぎて爆睡――そっちも、後ろ跳ねてるよ」

  「マジか? さっきシャワーしたのに。まあいいか、あとでセットするし」

  で、そんな小突き合いみたいな会話のあと。

  二人で、ほとんど同時に吹き出して笑い合う。

  「ひさしぶり、リグザ」

  「ああ。ひさしぶり!」

  オンラインでは何度も話していたけど、実際に会うのは久しぶり。

  変わらない笑顔に安心する。パラレルフライト社のオペレーター。

  オレの大切な――仲間だ。

  [chapter:

  オーバー・ザ・マイヒーロー!!

  前編]

  「オレンジジュース、飲む?」

  「ありがとう」

  「ホテルの朝ってさ、ヨーグルトとコーンフレーク定番だよね。おいしい」

  「バターロールにソーセージもな。あとスクランブルエッグ」

  あ、カリカリベーコンもあるか。あとで食べよう。

  「そっち、食うのそれだけか?」

  「ううん。ご飯にしようかパンにしようか考えてる」

  「ライスにすれば? 日本人なんだし。あと納豆」

  そんな会話を繰り返す内に、少しずつ頭が動き出してくるのがわかる。

  オレ達が今いる場所は、ライダルク日本本社――が用意してくれたホテル会場。

  目的は、前回のヒーローグランプリで使用された超仮想現実「[[rb:Neoaxis > ネオアクシス]]」、その改良版のテスト運用に参加するためだ。

  どうもオレが提出したレポートが技術者の目に留まったとかで、それで声がかかったのだ。

  「あの厄介カスタマーの陳述書みたいなやつ」

  「言い方!」

  パンをちぎりながら抗議する。いや確かに軽く80ページは超えたけどさ。

  「プロゲーマーとして、そういう所は手を抜くわけにはいかないからな」

  「さっすが」

  「それに、ヒーローライセンス取得の実績にもなるし」

  そう。引き受けた大きな要因はどちらかと言えばそっち。

  今回のテスト運用も、ヒーロー協会との共同で行われていて。

  他のテーブルには、オレたちと同じくらいの年頃のヒーロー志望生が何組もいるのが見て取れる。

  ――何とはなく、オレは胸ポケットから自分のライセンスを取り出した。

  「見せて―」

  「ん」

  まだ仮免許だけど、正式発行はもうすぐだ。

  実際、この演習に参加しなくても取得には何の問題もなかったのだけど、推薦時の案内に書いてあったことがオレの心を動かした。

  一人パートナーを、つまりオペレーターの指名を認めてくれていたことが。

  ……久しぶりに、リアルで会いたかったしな。

  ちらと見るこちらの、そんな内心には気付いてないだろうけど、テーブル向こうのこいつはオレのカードをひっくり返したりして眺めている。

  「アカシはもっとすぐライセンス発行された気がするんだけど」

  「パラレルフライト社はヒーロー稼業の会社だしな。特例とかあるのかもしれない。S級ヒーローもいるし、その付き添いがあれば実務経験にカウントもしてもらえるはず」

  「車の免許みたいだね」

  「日本てそうなのか?」

  「あっ、アメリカってもっと簡単なんだっけ取るの……」

  そんな、何でもない会話がやけに楽しい。

  オンラインとは、なんというか空気感みたいなのが違う。

  匂いとか手触りみたいな……いや、変な意味じゃなく。

  で、オレにライセンスを返しながらふんぞり返ってみせるこいつ。

  なんでドヤ顔してるんだ?

  「ま、こっちもー? オペレーターとしては結構な経験を積んでますからー?」

  「……だから?」

  「だから存分に頼ってくれていいのだよ、リグザ君。ふふふんンフッ」

  「言いながら照れるなよ……」

  これだ。こいつ、割と調子乗りだったりする。

  いろんなヒーローと対等に渡り合うにはそれも必要なのかもしれないけど。

  「言っとくけど、オレの方が業界人としては先輩なんだからな」

  「わかってますって。売れっ子芸能人のリグザ先輩」

  「やめろお」

  “リグザ”として、少しずつ顔出しするようになったも最近で、売れっ子ってほどじゃない。まだ。

  それでもちょっとだけ強がっておきたい部分があるのは否定できなくて。

  ――とは言え、こいつのオペレーターとしての活躍が色々と耳に入ってくるのも確か。かなりハードな事件にも関わっていたとかで、しばらく連絡が取れない期間もあって、結構心配していた。

  そして今日しばらくぶりに会って、どことなく目つきが変わったのがわかる。

  経験を積んで落ち着いたというか、オトナになったというか。

  ……そしてそれは、オレのほんの少しの、焦りの理由でもある。

  「確実に目の前のことやってこうよ。リグザなら、大丈夫だよ」

  「――うん」

  こちらの表情に何かを察したのか、なりをひそめるお調子者。

  やや素直な気持ちになって頷くオレだったけど、

  「ふっふっふ」

  「……また。なんだよ」

  「ではそんなリグザに、オレが出会ってきたヒーローの話をしてあげよう」

  「ええ? なんだよそれ。ん、でも……、聞きたい」

  「うん、じゃあまずはねー。温泉で知り合った[[rb:なんか不定形の生物 > スライムみたいななにか]]だったけどヒーローになった……あれ、ヴィランだっけ?」

  「いや待っていきなりハードル高い」

  そうして、こいつは話す。出会ってきたヒーローたちのことを。

  ――すごく、楽しそうに。

  本当に好きなんだ。ヒーローが。

  『間もなく、今回の特別演習についての説明を行います。

  到着したばかりの人もいますので、皆、座ったまま聴いてください』

  会場にアナウンスが流れる。

  前方に投影されたのは、ヒーロー協会の偉い人の姿だ。

  そちらに顔と身体を向けながら、ぼんやり思う。

  ――オレも、君がそんな風に話すヒーローに、なれるだろうか?

  「オレがプロになってもさ」

  「うん?」

  声を小さくして、言う。

  「――オペレーション、頼むから」

  「もちろんいいけど……そしたらウチに就職してもらわないと」

  「べ、別に外部から依頼する方法だってあるだろ」

  「ウチ高いですぜダンナー? よく知らないけど」

  「知らないのかよっ」

  営業のくせに。まったく。

  「リグザがいつでも会えるところにいてくれたらいいのに」

  「んえっ……いやっ、でも――日本に住むのヤダ。なんか狭そうだし」

  「アメリカンは言うコトちがうね」

  「そっちこそ、こっちに来ればいいじゃんか。前遊びに来たみたいに」

  「えー、アメリカの人って野菜の代わりに毎日ポテト食べてるんでしょ」

  「偏見が過ぎるしポテトはそもそも野菜だ!」

  『そこ、静かにしなさい』

  二人して慌てて頭を下げる。

  下を向いたままこっそり目線だけを合わせて――また笑い合った。

  「いっしょにがんばろ、リグザ」

  「ああ、もちろん!」

  ◆◆◆

  一度部屋に戻って身支度を整えて。オレたちは用意された会場に移動する。

  講演なんかに使うであろう大ホールに、いくつも設置された卵型のカプセル。

  あの夏と比べたら数は少ないけど、オレたちには懐かしい光景だ。

  今回は電脳世界の体験と合わせて、カイブツとの戦闘訓練も予定されている。見習いヒーローたちが呼ばれているのはそういうこと。

  カイブツとの戦闘データなんて簡単に得られるものじゃないから、ライダルク社にもヒーロー協会にもウィンウィンというわけだ。

  「リグザは……電脳ヒーローのほうでいいんだよね? 変身」

  「ああ。戦い方もよくわかってるしな。それにしても――」

  さっと見渡せば、みんな一様に緊張した面持ちをしているのが見てとれる。

  ここに呼ばれるんだからそれなりに成績優秀なんだろうけど、それでも経験者はオレたちくらいか。

  「うん。フレッシュマン多いね。オレにもあんな時代がありましたよ」

  「急にベテラン目線か」

  こちらは本番前ルーティンの軽いストレッチをしながらツッコむ。

  「若くて才能あるやつらがどんどん出て来てるんだ。オレも[[rb:新参者 > ニュービー]]たちには負けてらんないぜ」

  「きゃーリグザパイセンかっこいー!」

  「フッ、よせよ」

  そんなバカみたいな会話も交わしつつ、カプセルへ搭乗。

  シュッと音を立てて扉が閉じていく。

  暗くなる視界。脳裏に飛来するのは、いくつかの記憶。

  あの夏いっしょに戦った皆、黒いヴィラン。巨大なカイブツ。

  それから、大切なあの人のこと――。

  『間もなく、Neoaxisへの接続を開始します――』

  [[rb:眩暈 > めまい]]にも似た感覚に、オレは目を閉じる。

  大丈夫、お前ならやれるさ――リグザ。

  ◆◆◆

  ――――。

  ――そして。

  「えっ…………」

  電脳世界に、第一ウェーブが終わる合図が響く。

  呆然と立ち尽くすオレたち二人。目の前に浮かぶスコア表。

  そこに表示されている結果は――、

  「最下位……」

  「な、なんで?」

  まさかの成績。いや、そんなことよりも。

  電脳世界の中なのに、心臓の音がやけにうるさく聞こえてる。

  だって。

  だって、オレの横には――[[rb:リグザが立っている > ・・・・・・・・・]]からだ。

  [newpage]

  体毛が逆立つ。尻尾の先がきゅっとなる。

  でも――違う。これは違うんだ。理性がなんとか押しとどめてくれる。

  バイザー越しのその目に光はない。動く気配もなく、ただマネキンみたいに突っ立っている。

  ……アバターだ。オレと分離したのか? なんで?

  「ね、これ分身? リグザの新しい必殺技?」

  「そんなわけないだろっ」

  思わずツッコむ。いやもしかしたらホントにオレの光と闇の力が覚醒して電脳世界無双しちゃい――ああダメだ混乱してる。

  第一ウェーブ。小型カイブツの出現に合わせて、他の参加者同様に変身を行った、その直後の出来事だった。

  オレは私服のまま。当然ながら武器もなくて。

  アバターから装備を取り外そうとしたけど、おそらく“リグザアバター”として一体になっているから、パージもできなかった。

  「不具合……だよね、これ」

  「たぶん。テスト運用に予想外のバグはつきものだけど……」

  「取り消し要求しなきゃ! 訴えてやる! 訴訟の時間だアメリカン!」

  「アメリカ人がみんな訴訟してるわけじゃない……」

  オレよりヒートアップしてる奴が横にいるおかげで冷静になれる。

  でも……最下位か。討伐数ゼロだからそりゃそうだけど。

  この成績が何かに影響するわけじゃないとは言え、見える結果で示されて現実的な重みとして[[rb:圧 > の]]し掛かってくる。じわりと感じる背中の嫌な汗。

  ……前も思ったけど、電脳世界なのにこんな感覚のリアルさ、必要なのか?

  「――ね、ね。でも前から思ってたんだけどさ。このアバターって、すっごいところまで作り込んであるよね」

  「ちょっ、父さんのアバターの変なトコ触んないでぇ!?」

  ◆◆◆

  で、クレーム……もとい状況を聞くべく運営チームに連絡をすれば。

  投影映像の向こうで、ベテラン技術者ぽいオジサンが応答してくれる。

  『キミら、前回の参加者だよな? 実はキミらのデータ、その時のを流用させてもらったんだが、今チェックしたら現状と想定外に齟齬が大きくてな。コンバートが上手くいってないみたいなんだ』

  「つまり――、今のオレたちと前回のデータとで、思ってたより実数値が違っててエラーが出たってことか?」

  『そうそう。んで仮想変身もうまくできなかったのかもしれん』

  「もー、手抜きしないでくれよオジサン」

  『スマンて!』

  オレは大きく息をつく。困ったけど、理由がわかっていくらか安心した。

  技術者としての心情は痛いほどわかるし。毎回プログラムをゼロから組むなんて正気の沙汰じゃない。こんな大規模なシステムならなおさらだ。

  『取り急ぎ、武器は今のニイちゃん用に変換したのを送る。受け取ってくれ』

  そしてすぐ目の前に転送されてくるアックスソード。

  リグザの代名詞ともいえる換装武装。父さんが愛用していた武器で、バトル中に流れるようにモードシフトして戦うの、メチャクチャかっこいいんだ。

  手に握ると、ずしりとした重みがざわついていた心を少し安心させてくれた。

  『あとパーツ一つくらいなら間に合うと思うんだが、何がいい? やっぱり胸か足のアーマーか?』

  「え、じゃあ――」

  そんな会話を経て。

  今は第二ウェーブ。戦闘のクールダウンも兼ねた電脳世界の体験タイムだ。

  歩き回りながら、表示がおかしくなっている箇所を見つけたりしたら報告する。要は[[rb:体 > てい]]のいいデバッグってこと。

  「ほら、こういう水の処理って大変だからさ。バグが出やすいんだ。オレ、バイトでバグ取りだってやってたんだぜ」

  水場に屈みこんで言う。

  これも見つけた数でポイントになるから、最終ウェーブと合わせて挽回しないとな。気合入れてこう、オレ。

  「こういうチマチマしたのも楽しいけどさ、でもずっとはムリだな。デバッカーって一種の才能だよな」

  色々喋りながら、ふと気付く。なんか静かだな?

  「どうかしたのか?」

  「あのさ…………なんか、ごめん」

  「――は? なにが?」

  しゃがんだまま振り返れば。一歩引いたところでオレを見下ろすオペレーター。

  その背後に、際限なく広がる嘘くさいほど青い空が見えた。

  空はやけに高く。ただ、高く。

  逆光になった人影が、少しだけ目線を伏せた。

  「変身……オレがもっと上手くできれてれば、こうならなかったかも」

  「…………」

  オレは一瞬その言葉の意味がわからなくて固まる。瞬きだけ、何度か。

  ……え? そんなことに責任感じてる?

  立ち上がって、慌てて手を振った。

  「いやいや、だからデータのコンバートが上手くいってなかったせいって、オジサン言ってただろ。そっちのせいじゃないよ」

  「うん……でもこっち、オペレーションというか、変身させるのしかできないし。

  リグザが、せっかく呼んでくれたのに」

  ――――あ。

  こいつが何を気にしてるかがようやくわかって、また固まる。

  なんで気付かないんだ、オレ。

  「そういう言い方、するなよ」

  気付いた時には一歩前に出て――、自然とその手を取っていた。

  「“しか”とか、言うなよ。それだけって思っちゃったら、それ以下しか出来なくなるんだぞ。自分で限界を決めるなよ」

  ぎゅっと、握る。両手で強く、しっかりと。

  いつかあの人が、そうしてくれたみたいに。

  「これからも、この仕事やってくんだろ。そん中でうまくいかないことだって、いくらでもあるよ。そういう時のために仲間がいるんだろ」

  そしてこれは、これまでいっしょに戦ってきた皆から教えてもらったことでもある。ゲーム仲間や、あの夏いっしょに戦った彼らから。

  それを伝えたくて言葉を繋ぐ。どうしてか、やけに、必死で。

  「だからさっ、もっと……もっと頼れよ。いまは、オレがいるじゃないか」

  [[rb:バイザー越し > ・・・・・・]]に覗き込むその目が、わずかに揺れたのが見えた。

  それは大人びたように見えていたけど、ちょっとしたことにもすぐ揺れ動いて迷う――オレと同じ、年齢相応の若者の瞳なんだ。

  「――うん。ありがと」

  「マインドセット。プロなら、こんなのあたり前なんだからな」

  ……つーか手、握られたままでいいのかよ。

  結局こっぱずかしくなって、こっちから離す。なんでこっちが照れてるんだ。

  「ったく、すぐ謝るのとかホント日本人気質なんだからな。納豆食べすぎ」

  「どんだけ納豆食べると思ってんの!?」

  ふふん、今度はツッコませてやった。お返しだ。

  とその時、横手から声がかかる。

  「リグザさん!」

  ◆◆◆

  「――リグザ、大人気だったねえ」

  「んん……、顔出しし始めたのちょっと前からなのに……驚いた」

  オレたち二人、呆気にとられながら呟く。去っていく彼らを見送りながら。

  彼ら――同じ参加者のニュービー君たちだった。オレのファンだとかで、声をかけてくれたのだ。

  リアル活動に慣れてないオレはしどろもどろになってしまったけど、つい先日のゲーム大会の話題が出て盛り上がれた。ありがたい。

  けど演習中だからと話を切り上げてすぐ去っていって。マジメだ。

  あ、手振っている。ウッ邪気のない笑顔が眩しい。

  片手をあげて応える。ちょっとキザだったか?

  年もそんなに違わないだろうに、やけに可愛くみえるのはファンていう欲目があるからかどうか。弟がいたらあんな感じかもしれないけど。

  「リグザさん、バイザーもつけるんですねー! カッコいいです!」

  そしてその言葉で気付く。

  ……ああ。今の彼らには、バイザーをつけてないオレのほうが自然なのか。

  彼らがもっと遠くなってから、横のオペレーターがこっちを見た。

  「なんで、バイザーにしたの?」

  ――きっと訊かれると思っていたから、動揺はなかった。

  オレはバイザーを外す。武器のほかに転送をお願いした、唯一の装備。耳に直に当たる風が心地いい。

  ちょっとハナシ逸れるけどさ、と前置きしてから、

  「変身のこと……オブザーバーって、夢を観測するんだろ?」

  「うん、そうみたい」

  「トウシュウとかシャフトもそうだった?」

  「たぶん。正直、わかんないことばっかりなんだ」

  オレは頷く。オブザーバーは希少なうえに特異すぎて、しかも個人差がかなりあるらしいから、一般化して評価ができない。あんな励ましをしたけど、本当の意味で、こいつの心配や不安をわかってやることはできない。

  けど不確定な武器や能力を頼りにしなきゃいけないことが、どれだけ苦しいのかは、想像できる。

  「今は顔出ししてるし、このアバターじゃないとダメってこともないんだけどさ」

  少し離れたところに目をやる。

  小高い丘の上、木陰に移動させたアバター。

  重かった。実はダイエット必要だったんじゃないの? なんて。

  ――そう。一瞬でも、あの人が……って、そう思ったのがオレの動揺の正体。

  「前はあの“リグザ”じゃなきゃダメだって思い込んでた。でも、皆のおかげでそうじゃないって思えて……今のオレのファンだって子たちにも会えたし」

  でも、とオレはバイザーのフチを撫でる。耳に合わせた柔らかい曲線。

  「でもさ。追加の装備何にするって訊かれて、[[rb:バイザー > これ]]がすぐ浮かんだんだ。やっぱり、オレはこのリグザも好きなんだよ。大好きなんだ」

  「リグザ……」

  笑ってみせる。たぶん、あんまりカッコつけられなかったかもしれないけど。

  「決められないのってカッコ悪いよな。でも――これが今の、最新のオレなんだ」

  言ってからふと気付く。……不思議だ。

  プロになること。顔出ししてやってくこと。それから、言語化できてない色々なこと。会えたらたくさん話したいと思ってたのに。

  今はなんか、スッキリしてる。なんでだろ?

  青空にオレは手を伸ばす。高い高い空に向かって。

  確信めいたものがある。透き通った心の中心、輝く炎みたいな。

  「プロになってまたいっしょに仕事したらさ。また[[rb:その時の最新のオレ > ・・・・・・・・・]]を観測してくれよ。そん時は、すっごいカッコいいのになれると思うから。こう……バーってなってガーッてなるやつ!」

  どんなのそれ、と横のこいつはようやく笑って。

  いつもの冗談を言うようなのとは少し違う、柔らかい笑みで。

  「どのリグザも、全部カッコいいよ」

  「……っ、そりゃ、どうも。ほら、もうちょっとバグ取りしようぜ」

  オレは慌ててバイザーを付け直す。照れ隠し。

  ……ったく、急にしおらしくなったりして。心の準備ができてないって。

  そして今度はゆっくり、並んで歩きながら、

  「そういや、最近フィットネス動画とかもあげてるんだけど、見た?」

  「もち。でもあれちょっとパンツがローライズすぎると思うな。NGです」

  「どこ見て……プロデューサー目線か」

  「お腹冷えちゃうでしょ」

  「お母さんかよ!」

  結局またツッコまされた。

  そうしてまた笑い合って。うん、やっぱりこういうのがいい。

  ――気付いてる。

  ひどい成績や想定外の展開にビビっていた身体からはもう、震えは消えている。

  『まもなく、最終ウェーブを開始します。強大なカイブツとの戦闘になります。

  これは、自身の戦闘能力と判断力を見極めるテストです――』

  最終ウェーブ開始のアナウンス。

  頷き合ってガシッと拳も合わせて。

  「カッコつけてこうぜ。目指すは一番だ」

  「もちろん!」

  ああ、大丈夫。やれるさ、オレたちなら!

  ◆「オーバー・ザ・マイヒーロー!!」後編へ続く