オーバー・ザ・マイヒーロー!!【後編】

  そして始まる最終ウェーブ。

  巨大カイブツが出現して、与えたダメージを競う。

  ゲームで言えば、レイドボス戦のダメージレースみたいなもんか。

  これなら撃破数が最低だったオレたちでも挽回のチャンスはあるはず。

  けど戦闘不能や制限時間オーバーしたらポイント没収。

  戦闘に自信のないペアは脱出してもよく、そうやって自分たちの限界を見極めるためのテストだ。

  「緊張してる?」

  「……結構な。そっちは?」

  「いっつも……うまくいかなかったらどうしようって、思ってる」

  「――うん」

  「でも、今日リグザが呼んでくれてよかった。話せて、ちょっとスッキリした」

  「ああ――オレも」

  

  二人で見上げる空。参加者が集まっているポイントは大きな湖のほとりだ。遠く向こうに天に伸びる巨大な樹が見える。

  最終決戦の、あの場所だ。

  「――――ッ!!!!」

  揺らぐ空間。空気をビリビリ震わせる叫びと共にカイブツが出現する。

  もちろん再現データだ。ホンモノじゃない。でも、武器を握る手に汗がにじむ。

  ――大丈夫。今回だって、一人じゃないんだ。

  「行こう!」

  「うん、オペレーション開始!」

  カイブツが存在証明を確定。

  その姿は、何本も触手が絡まった……あれ? 前のと違う。別のモデルだ。

  ――瞬間。

  ぶっとい触手が一直線に空間を裂いていた。

  すぐ横、砕かれる地面。爆音。衝撃。足がよろめく。

  「っ……!」

  「わぁっ!?」

  咄嗟にかばった背後で、[[rb:オペレーター > こいつ]]が悲鳴を上げている。

  飛んできた土や石の破片がバチッとバイザーの端を叩いた。

  バイザー選んでよかった――なんて言ってる場合じゃない!

  地面には爆発でも起きたくらいの大穴が。あんなの喰らったら――。

  その周囲、他の見習いヒーローも皆、立ち尽くしてる。

  そりゃそうだ。丸太みたいな触手が激突してきて竦まない奴がいるか?

  でも、テストだからってカイブツが容赦する様子は一つもなかった。

  太い触手が再び持ち上がって、重い風切り音すら響かせて。

  今度は呆然と立ち尽くす一人を明確に狙って――、

  「あぶない!」

  咄嗟に動いていたオレの身体。

  駆けだして突き飛ばして――その途中で思っている。

  もっと後先考えられてたら、この後の態勢も何とか出来てただろうけど。

  無理だった。

  「ぐっ――!!」

  内側から突き飛ばされたみたいな衝撃。

  痛みはなく、ただただ激しく揺さぶられる感覚だけあって。

  そのまま、自分の身体が放物線を描いて跳ね飛んでいるのを、スローで回る視界の中で見ている。

  顔が硬い壁にぶつかって――違う、これ地面だ。土と草の匂いまでする。

  バイザーのグラス部分が割れて、嘘みたいな青い空がはっきり見えた。

  そうして、オレの視界は暗転する。

  ◆◆◆

  見慣れた玄関。

  いつも追いかけて見送っていたあの場所で。

  大きな背中に向けて、オレが何かを言っている。

  「……、――――――――?」

  たぶん、なにかワガママを言ってたんだと思う。

  子供らしい、あまり意味のない、けど本人にはとても大切なワガママ。

  行かないでとかいっしょにいてとか、もっとゲームしてとか。

  ……ん、たぶんそうだ。全然勝てなくてヘソ曲げてたんだな。

  見上げる[[rb:そのヒト > ・・・・]]がこちらを見下ろして、笑う。

  「――、――――――――。――――――――」

  「――? …………!?」

  「――、―――。だから―――――、■■■■■」

  屈んで目線を合わせて。

  そしてぎゅっと、手を握ってくれる。大きな手。

  それだけでオレは安心する。本当は、ただそうして欲しかったんだ。

  けどその記憶も今は少しずつ遠くなって。

  それさえ、いつか消えてしまうんじゃないかって。

  オレは――。

  ◆◆◆

  「――ザ! ――――リグザ!」

  「!!」

  バッと身を起こす。目の前には、見慣れたオペレーターの顔がある。

  一瞬グラつく視界。ここがどこだかわからない。

  なんかあったかい――あ、手、握ってくれてる。

  向こうで響くカイブツの叫びが、朝の容赦ないアラームみたいに意識を揺らした。

  まだ電脳世界の中だ。なんてこった、戦闘続行だ。

  「っ、どれくらい意識飛んでた!?」

  「全然っ――倒れてすぐだよ」

  数秒ってところか。思い出したように、身体が鈍い痛みを訴えてくる。

  シミュレーターだからダメージのフィードバックはかなり抑えられているはずだけど、それでもまだくらくらする。

  現実だったらあれでノックアウトだったかもしれない。クソ、まだ未熟だ。

  「どうしよう、リグザ」

  見れば――他の奴らもバラバラだった。戦ったり、逃げたり。ダメだ、もっと連携しないと。

  それに、完全に萎縮してしまってるのも何人かいる。――泣いてるのも。

  責められることじゃない。カイブツと、それもこんな巨大なのと戦う経験なんてまずない。オレだってそうだった。

  いくらヒーロー志望だからって、容赦なさすぎだろライダルク社!

  脱出――ゲートがカイブツの後方にあるのが見えた。あれじゃすぐ駆けこむってわけにはいかない。

  カイブツが守ってるって設定か。くそ、こんなとこだけゲームっぽくして。

  手を強く握り返し、オレは言う。

  「戦えないやつらを脱出させてやってくれ。オレが、カイブツを引き付けるから」

  「でも」

  「戦況を整えないとダメだ。それに――」

  そしてもう片方の手で握りしめるのは、アックスソードの柄。

  「それに、かわいそうだろ。これからヒーロー目指そうってやつらが、こんなところで夢を諦めたりしたら……そんなの、ツライじゃんか!」

  オレをじっと見るオペレーター。それから――、しっかり頷いた。

  「わかった。脱出させたらすぐ戻るから、気を付けて!」

  走っていくその背を見送りながら思う。

  なあ、お前は気付いてないかもだけど。こんな前線でビビらず――いやビビってても、いっしょに戦ってくれるオペレーターって、すごいんだよ。

  お前は、オレの――。

  [chapter:オーバー・ザ・マイヒーロー!!

  【後編】]

  「こっち来ぉぉい! カイブツ!」

  足元での[[rb:雄叫び > ウォークライ]]に、カイブツが反応する。

  ボス戦で大切なこと。まずはヘイト管理だ。意識を[[rb:防衛 > タンク]]職に向けさせて攻撃をコントロールする。

  どこに攻撃が来るかがわかれば、それだけで対処しやすくなる。

  「ずぁっ――!」

  ムチのごとく繰り出される細い触手攻撃を、ソードの刃で受けて流す。

  グラつく身体は踏ん張って何とか堪えて。

  最近筋トレを増やした効果が出てる。筋肉は、裏切らない!

  それを何度も繰り返す。時に流して、時に斬り払い。

  しびれてくる手と足。でも我慢、我慢だ。あのぶっとい触手だけは死ぬ気で避けて。

  そのうちに、カイブツが完全にこちらを向いた。――よし!

  「来い!」

  オレが後退すると、カイブツも少しずつこちらに向かって移動を始める。

  その背後で何人かが脱出していくのが見えた。いいカンジだ。

  「リグザさん!」

  後方からの声。

  目線だけ走らせた先には残った参加者。ビビりながらも武器を構えている。

  まだまだやる気だ。心強い。

  「なるべく遠距離攻撃で! 近接職はヒットアンドアウェイ!

  触手を振り切ったのを見てからだ! 避けやすいようにバラけて!」

  [[rb:頷 > うなず]]いて散開する彼ら。

  ゲーム大会だったら、もっと綿密に打ち合わせするんだけど。

  でも今は実戦。それぞれ得意な[[rb:距離 > レンジ]]があるはずだから、各自に任せる!

  カイブツが主にオレに集中してるおかげで、彼らの攻撃には余裕が生まれた。

  その援護でオレも断然やりやすくなったのを体感する。

  払って、避けて。見えてくるカイブツの行動パターン。

  この演習がゲームらしくデザインされてるってんなら――。

  中心の巨大な触手がもたげられた。攻撃の予兆。

  オレを狙って、来る――!

  「ッ!」

  触手がオレの顔面を砕くその刹那。

  今度は受け止めなかった。首を僅かに[[rb:捻 > ひね]]っただけ。

  通過する目の僅か横。跳ね飛ぶバイザー。ビッと千切れるこめかみの体毛。鋭い痛み。

  でも、オレは目を閉じない。

  「こ――――のぉぉっ!」

  よろめいても逆らわず、そのまま身を[[rb:翻 > ひるがえ]]して。

  身体が泳ぐまま、ソードからアックスに[[rb:形態変形 > モードシフト]]。

  変形の勢いも乗せ、すくい上げる刃で触手を――斬り飛ばすッ!

  「――――、――――ッ、――ッッ!!」

  可聴域を超えた絶叫が電脳空間を揺るがした。

  メインウェポンの無効化に成功! これでグッと楽になるはず!

  共闘する皆が、絶叫に負けないくらいの歓声をあげる。

  「まだ油断するな! コアを叩く、援護してくれ!」

  よろめきながらも地を蹴ってオレは走る。

  一気に距離を詰め、カイブツの胴体を蹴って駆けあがる。

  目指すは中心のコア。でもあっという間に細いツタが覆い重なって――クソ、間に合わない!

  

  けど、後方からの射撃がそれを許さなかった。集中砲火。ツタが吹き飛ぶ。

  下の彼らだ。[[rb:狙うのマジでうまい > ナイスエイム]]! 最高だ!

  そして再度、高く跳び上がったオレは、その全部を一段高い所から見ている。

  跳ねる自分。援護してくれる彼ら。[[rb:蠢 > うごめ]]くカイブツの触手。

  ゲームでもたまにある、ゾーンに入った時の全能感。

  空中。ほんの数秒もないその瞬間。

  アックスからソードへの再換装。手元を見なくても指は勝手に動く。

  だって何度も見たから。“リグザ”の一番カッコいいところ。

  状況に合わせた最適武装の最速選択。

  これがリグザの真骨頂!

  「プロゲーマー、なめんなぁ!!」

  ビームエッジの軌跡が光を描く。

  剥き出しになったカイブツのコアに、オレは深く刃を突き立てた。

  ◆◆◆

  「――――!!!!」

  「うわ……!」

  仰け反るごとくカイブツの体躯が天に伸びて、オレはぶっ刺したソードの柄に何とかしがみついて耐えた。

  でも――カイブツの動きが止まった。やった!

  「やったあ! リグザ最強!!」

  下からの歓声。ぶら下がったまま見下ろせば、あいつが満面の笑みで手を振っていた。オレも、グッと親指を立てて応える。

  それから他にも、こちらを見上げるいくつもの視線。笑顔。

  むずがゆいくらい純粋で、まっすぐな。

  ――ああ。どうして、彼らを放っておけなかったかというと。

  いつかのオレと、同じだったからなんだ。

  「――ッッッッッ!!!!!!」

  「!?」

  再度、痙攣するみたいに跳ねる巨体。ソードがすっぽ抜けて、オレは不格好に着地する。

  カイブツがまた動き出した!?

  『まもなく、作戦終了です。各員は退避行動を――』

  同時に響くアナウンス。

  このタイミングで? いや、今の撃破がトリガーだったのか?

  だったらゲームのイベントボスみたく、コイツはもう倒せないかもしれない。どっちみち潮時だ。

  「全員、退却を!」

  残っている彼らに声を上げて[[rb:促 > うなが]]す。

  かなり動いたから、余裕でボスを迂回して脱出ゲートへ向かえるはず。

  ――だけど。

  他にはと見渡して、オレは気付いてしまう。

  

  「リグザっ!?」

  「悪いっ――先に脱出してくれ!」

  走る。皆とは反対に。リグザ――父さんのアバターに向かって。

  あたり前だけど、あれはただのアバターなんだ。ホントじゃない。

  でも。でも――!

  駆け寄った先。丘の上。息が切れる。

  ……オレはこれを残していけない。オレの、大切なヒーロー。

  そして気付く。向こう、世界の果てからこちらに向かってホワイトアウトしてくる。あれがリセットライン。超えたら強制退去。失格だ。

  「!!!!!」

  さらに振り返れば、そっちからはボスが向かってくるのも見えた。さすがにヘイトかいすぎた。

  ……前も後ろも絶体絶命か。戦っていたらまず間に合わない。

  アバターを庇うように武器を構えながら、弱気な自分が顔を出す。――ここまで、よくやったよ。

  そうだよな。ホンモノのヒーローになったら、こういう二者択一もしなければいけないんだ。

  何かを諦めなきゃいけないはず。いけない、よな? たぶん。わかんない。

  ……ねえ、どうしたらいい?

  ――その時。

  とんっ、と。

  背中を押されていた。

  「えっ……?」

  全く予想してなくて、足がもつれて前のめりになる。

  慌てて振り返ろうとする――寸前、声が響く。

  「走れリグザァァッ!!」

  「!!」

  叫びながら走ってくるあいつ。

  おい危ない! カイブツのすぐ後ろで!!

  「いっしょに一番目指すって言っただろー! カッコつけてよ!

  リグザはっ――、リグザはオレのヒーローなんだから!」

  ――今度こそ。

  その言葉にばちんと尻を叩かれたみたいに、オレは走り出した。

  アバターを、後ろに残したまま。

  ……誰だって勝手だ。

  誰かや何かに、想いを乗せて生きている。

  アイドルやタレントでも同じ。それは時に一方的でもあって。

  [[rb:相手 > その人]]がどう考えてるかなんてわからなかったりする。でも――。

  「ぅわわわっ!!」

  「危ないって! もっと下がれ!」

  でも、わかることはある。

  過去でも未来でもない、今の自分のこと。

  オペレーターは、変身させることしかできないって?

  なあ、そんなことないだろ。

  お前がそこにいるから、オレには、こんなに力が湧いてくるってのに。

  今、[[rb:現在の > この]]オレが、お前の想いに応えたいんだ。

  [[rb:君 > ・]]もオレの、ヒーローなんだから!

  「ッ!!」

  カイブツの眼前でスライディング。

  叩きつけられる何本もの触手をかわす。そのうち一本はソードで地面に串刺しにして。武器からも手を離して駆け抜ける。

  カイブツの真下を潜り、転がって、土にまみれて、また立ち上がって駆けだして。

  オレは、待っている君とほとんど交錯するみたいに合流する。

  そして、

  君の手を取って。

  君を追い越して。

  君を引っ張って。

  電脳世界の出口へと駆けていく。

  繋いだ手が、ぎゅっと握り返してくれるのを感じながら。

  もう振り返らない。

  だってもうバイザーも無いから。

  泣きべそかいてる顔を見られたりしたら、恥ずかしいじゃないか。

  「っ、ああ――――っ!!」

  何かに向けて叫ぶ。

  強気なのに弱気な自分、自信があるのに考えすぎな自分。

  未来を夢見ながら、過去を振り返ってしまう自分。

  ――全部。全部だ。どれかなんて言わない。

  どんな自分も、オレが全部連れていく!

  ゲートに飛び込めば、世界が白く包まれる。

  遠く、演習終了のブザーが響き渡るのを聞きながら。

  閉じる視界の中で、オレはやっぱり思い出す。

  リグザ。あのバイザーには最後まで、光は灯っていなかった。

  あれはただのアバター。ただのデータ。ただの思い出……。

  ――いいや、違うんだ。

  そうじゃなくて。

  オレが、あなたに伝えたいことがあるんだ。

  歯を食いしばって顔を上げる。

  これからも辛いこと、凹むこと、迷うこと、たくさんあると思う。

  でも、でも。こうやって精一杯強がって、カッコつけていくから。

  だから大丈夫だよ、父さん。

  ◆◆◆

  ホテルの会場に戻って、小休止のあとで成績が発表される。

  結果、総合二位。ちぇ、やっぱり第一ウェーブが響いてたか。クヤシイ。

  まあまだ伸びしろがあるってことにしておくか。最終ウェーブだって皆で協力した結果だしな。

  で、今は技術チームのニッコニコのオジサンたちに褒められている。『すっごいギリギリまでテストしてくれてマジ感謝』だって。いい気なもんだ。

  「ニイちゃん根性あるな。もしヒーローなれなくてもウチで雇ってやるよ」

  「変なこと言うなよ! なるから! オレ絶対ヒーローになるから!」

  「ははは。またレポート待ってるぞ。ヒト殴れそうな分厚いやつ」

  「言い方ぁ!」

  それから、オレのファンだっていう彼らともまた話せた。

  全員疲れてヘロヘロだったけど、一様にいい顔をしていた。きっと良いヒーローになる……なんて、オレがベテラン目線になってどうする。セルフツッコミ。

  そして今は、ホテルの部屋で帰り支度を終えたところ。

  タイミングを見計らったみたいに扉がノックされた。オレのオペレーター。

  「用意できた? 空港行きのバス、もうちょっとかかるって」

  「いつでもオーケー。たいして荷物もないしな」

  「結構強硬スケジュールだよねえ」

  「しょうがないよ。それにオレ、明日収録あるし」

  「ゲーム配信?」

  そう、と頷く。こいつともよくやるFPS。そういや――、

  「思ったんだけどさ、最近、[[rb:オレ以外の誰か > ・・・・・・・]]ともあのゲームやってるのか?」

  「ぅぇっ!? な、ナンデ?」

  「なんか急にうまくなったから。射線管理とかすごい良くなったよな」

  エイムは全然だけどな。

  で、どうやら図星だったらしく、やけに慌ててるこいつ。

  その妙な慌て方って、共通の知り合いってことか? ヒミツの特訓?

  誰だろ。ゲームのこと何でもピコピコとか言うオッサン……絶対違うな。

  PCやゲームに強い知り合い、誰かいたっけ?

  「まあ言いたくないならいいけどさ……オレともプレイする時間、ちゃんと作ってくれよな」

  「う、うん。もちろん…………鋭いなー、リグザ……」

  なんかぼそぼそ言ってら。

  で、ベランダに並んで外を見る。

  街中だからビル群で景色は良くない。やっぱり狭いな日本。

  あんまりムードはないけど、夕方の風は気持ちいい。

  獣毛が風に撫でられるのに任せながら、何でもないようにオレは言った。

  「あのさ。最後、アバターが……」

  「え?」

  「――――。いや、なんでもない」

  ……本当にあの時、アバターが動いたんだろうか?

  オジサンたちにもそれとなく訊いてみたけど、ピンと来ていなかった。

  手すりに背を預けて、少しずつ紐解くみたいに言葉を探す。

  「父さんのこと……」

  「――うん」

  「時々、思い出せないことがあるんだ。あんまり、子供の時すぎたから。

  父さんが消えちゃった時、誰も信じてくれなくてさ。覚えてることすっごいメモしたり、部屋中ポストイットだらけにしたんだぜ。

  ……カワイーだろ? 必死だったんだ」

  けどそんなこと、ずっとは出来ないって、心のどこかではわかってた。

  会話や、やり取りの一字一句まで覚えてようなんて。

  自分の勉強や仕事もしなきゃならなくなって――そうやって、だんだん過去になっていく。

  それがオトナになるってことなのかもしれないけど。

  「……でも、オレは忘れたくないんだ」

  「――ね、リグザ」

  こいつはやっぱり、手を繋いでくれる。あたたかい手。

  「武器変形して戦うの、超カッコよかったよ」

  「父さんの得意技なんだ。あんな上手くできると思わなかった」

  「うん。だからさ、それが最新のリグザで……最新のヒーロー。

  ――オレの、大好きなヒーローなんだよ」

  「――――」

  その顔は、夕日に染まっている。

  すこし会えないうちにちょっとだけ大人びて、でも時に子供みたいで大丈夫だよって言ってやりたくなる顔。

  どっちもオレをどきりとさせる表情。

  

  「十年……五十年とか百年経ったら、今この時のことは覚えてらんないかもしれないけど」

  「スゲエ長生きするつもりじゃん……」

  「でもさ! でも――その時は、[[rb:その時のオレが > ・・・・・・・]]、リグザのことちゃんと好きだと思う、から……」

  手を握る力が強くなった。ちょっとだけ。

  ……誰だって勝手だ。

  誰かや何かに、想いを乗せて生きている。

  でもその勝手さが、時に、背中を押してくれるのかもしれなくて。

  オレはその手を引いて、抱き寄せた。

  肩と胸が触れ合って、確かにここにある熱を伝えてくれる。

  これは本当。ホンモノ。オレの気持ちも。

  しばらく、そのまま。ただ夕方の風と優しい体温だけを感じている。

  そして勇気を出して、寄せる頬と頬。鼻と鼻。それから――。

  「――朝の、お返し」

  「お返し?」

  「だから、その。今度は……オレが好きなヒーローの話、する」

  「――ん、教えて」

  君は笑う。ホントに好きなんだ、ヒーローが。

  大丈夫。なってみせる。

  全部超えて、君の一番のヒーローに。

  「ああ。聞いてく……聞いて、欲しい。オレの」

  だから、[[rb:リグザ > オレ]]も笑うんだ。

  「オレの[[rb:大切な > 大好きな]]、ヒーローのこと!!」

  ◆オーバー・ザ・マイヒーロー!!

  ――完。