特別な時間

  「ゲフゥ〜………!」

  大きなゲップが誰もいない教室に響く。正確には私と"彼女"しかいない教室だ。

  今回は最高記録かもしれない…。

  持ち込んだ全てのゼリー食を詰め込んだ彼女のお腹は、今の瞬間にも弾け飛んでしまいそうなほど重く大きく張り詰めている。

  彼女はお腹が大きすぎてもう椅子に座っていられず、壁にもたれかかっている。

  ああ…すごい。毛皮の上から血管が見えるほどお腹をここまで巨大にできるネズミ族なんていままでいたのだろうか……。もう私2人分が軽く収まってしまうほどの……

  「フッ…ゲフッ……どうしたカリナ?もうおわったのかー?」

  彼女がおくび混じりに声をかける。

  「あっ…はい!みね先輩、もう終わりました…!全部ですっ…!」

  いけない。彼女のお腹の存在感に圧倒されてしまっていた。

  彼女は鼠原みね先輩。お腹の大きさが正義のこのアルファ達が支配している世界で、おそらくアルファを圧倒することができるお腹を持つ唯一のネズミ族。しかもネズミ族でもさらに小柄ときているのだ。

  「ふふっ…カリナがぼーっとしてるの珍しいなあ…。げふ…なぁ、腹擦ってくれよ。」

  みね先輩がうっとりした表情で私を見る。

  なんて素敵なお腹なんだろう………。私は言われるまま、みね先輩の巨大な皮袋のようなお腹に優しく触れる。熱を持ったお腹はもうパツパツだ。爪を少しでも立てて引っ掻こうものなら、正中線から勢い良く裂けてしまうだろう。

  でも彼女のそんな姿も見てみたい。そんな欲望が鎌首をもたげる。

  「破裂するまで食べる」「お腹パンパンではち切れそう」そういうセリフはよく聞くが、アルファ達にとっては破裂することが一つのステータスのようなものになっている。私達は回復力が凄いとは言え、破裂してしまえばもちろん命を落とす危険もある。しかしそれこそがあふれんばかりの富や力、権力を証明する行為でもある。

  大昔に私達獣人が野生だった時、エサを多く手に入れる、多く体に貯めておくことは肉食、草食に関わらず優れた個体の証明だった。

  言葉通り破裂してしまうことは、まさに自分で食べきれない量を手に入れられた証ということだ。

  私はそんな欲望を抑えながらも、考えてしまった一瞬で体が火照るのを感じた。

  外へ飛び出そうとする内臓に押されて広がりきったへそから、ゆっくりと彼女のお腹の上部へと手を動かす。指先から伝わる皮の張り詰め具合と、過去に彼女が裂けた跡…私達獣人にとっての勲章とも言える、破裂した時の古傷の感触を感じながら彼女の胃袋の位置へと手を動かす。

  「ふふ…気持ちいいぜ。カリナさするの上手だよな。」

  みね先輩がお腹の向こうから声をかけてくれる。私はみね先輩の"群れ"の一人。彼女が群れのリーダーで私は彼女の右腕…と自負している。少なくとも彼女の理解者であると思っている。

  彼女の群れの皆は全員体の小さな種族だ。この世界においてどんなに頑張ってもアルファになれないような子達。もちろんネズミ族のみね先輩も本来ならアルファなんてものは夢のまた夢でしかないはずの種族。それでも彼女は小学校の時から才能を発揮し、破裂しながらも着実にお腹を大きくさせる事に成功し続けている。かつてサイやクマのアルファ候補ともお腹の大きさを比べたそうだ。

  だからだろう。昔から彼女は小さい種族の中でもある意味希望の星のような存在だったし、彼女の明るくボーイッシュな性格的にいつも取り巻きが多く、小学生の時からしっかりと群れを作っていたと聞いている。残念ながら私は高校からしか彼女を知らないが、それでも彼女お腹を大きくする理由には、反骨精神があるのはわかる。高校の時も体の大きいアルファ達へ果敢に食ってかかっていき、自身のお腹の大きさで勝つことでアルファ的素質を証明していった。

  私は彼女のその姿勢に共感している。

  先日も私の友人がアルファのトラのオスに精液を注がれすぎて破裂した。元々体が弱い子だったせいか治りも遅く、お腹に大きなキズができてしまった。私達獣人はお腹や体を大きくすることでセックスアピールも兼ねている。元々体が小さい種族はお腹の大きさだけでなくお腹の美しさもつがいに相応しいか相手から見られているのだ。まして自分で破裂するならともかく、相手に破裂させられるのは獣人としては大きな敗北を意味する上、お腹に大きなキズができた友人は今後パートナー探しで苦労するだろう。体が弱いからあまりお腹を大きくさせられない子だったのに。

  友人は「破裂するのも悪くないかも」と努めて明るく振る舞っていたが、内心ショックのはずだ。しかし破裂させた張本人のトラのオスは自慢話として仲間のアルファ達にそれを話しまくっている。

  友人の将来のことを思うと私はふつふつと怒りがこみ上げるが、相手がアルファである以上社会的にも体格的にもできることが限られている。私達の種族が小さいだけでアルファ達だけでなく体の大きい種族に下に見られているのがどうしようもなく腹立たしい。

  でもみね先輩なら……と思う。

  みね先輩のお腹ならそのトラのオスを丸呑みして消化してしまうことができるかもしれない。丸呑みプレイのように最後は吐き出すことなんてせず、彼女の血肉になれば捕食者であるトラのオスに敗北を味合わせることができるはずだ。ほんの小さなネズミ族がだ!

  だから私はみね先輩の大きいお腹や可能性だけでなく、その生き方に共感している。でも群れの子達は大きくなったお腹にしか興味がない。「小さい種族でもこんなに大きくなれるんだ」なんてまさにアイドルに向けるボヤッとした憧れでしか彼女を見ていないのだ。それもまた少し腹立たしく思う。

  そんな事を思っていると少し手に力が入っていたようで

  「カリナちょっと今日積極的だぜ?そんな力強く腹をいじってくるなんて誘ってるのか?w」

  ボッと顔から火が出そうになった。しまった。大きなお腹の陰に顔を隠しながら「あっ、すみません先輩…なんでもないんです…」と言い訳をする。

  でも大きなお腹のみね先輩と二人きりで夜を過ごすなんて考えただけで子宮が熱くなる。メガネで地味なガリガリのイタチ族の私がこんなにキラキラした先輩のお腹を独り占めする。一晩中好きなようにみね先輩のお腹にご奉仕するなんて昇天してしまいそうだ。

  擦っている手は胃袋の上へと来た。ああ…なんて熱く硬いんだろう。ネズミ族らしく小さく引き締まった体をグイグイと押し拡げてゼリー食をこれでもかと詰め込んだ胃袋は岩のように硬く、グルグルと低く唸っていた。上へ下へ、そして前へと膨らみギッチギチに張り詰めた胃袋が、みね先輩の内臓のほとんどを圧迫しているのは一目瞭然だった。

  なんてたくましく、愛おしいのだろう。先程まで考えていた雑念など吹き飛んでしまうほどの圧倒的な捕食者の証としての存在感がそこにあった。

  もう考えなど吹き飛び、私は思わず彼女のへそへと口づけをし、舌で大胆に舐め回してしまった。

  「んんっ//やっぱり誘ってるだろっ//他のやつとの予定やめるから今夜一緒にするか?//」

  その言葉でハッと我に帰った。

  「い、いえすみません先輩。思わずしちゃいました…//」

  もう顔が熱い。恥ずかしさで毛皮までも真っ赤になってしまってそうだ。

  それを聞いて、フフン、とみね先輩は笑い

  「今日のカリナ変だけど、そういうとこも好きだぜ……。ふう。だいぶ腹も楽になったわ。ありがとな。カリナ。」

  と礼を言う。

  「こちらこそありがとうございました。すみません、それでは。」

  と恥ずかしさからそそくさと教室を出ようとする私に

  「あ、忘れてたことあった。ちょっと顔近づけてほしいわ。」

  と先輩。

  「えっ、はい。なんでしょうか…!」

  と顔を近づけた私にみね先輩は私の顎をぐいっと掴み口づけをした。

  「いつもありがとうな。カリナ。さ、一眠りしていくから適当な時間になったら皆呼んできてくれるか?」

  もう何度目か分からないが私は真っ赤になりながら

  「はっはい!わっ、わかりまひた//」

  とカミカミになりながら返事をする。

  先輩は眠ったあと私を含めて群れの皆とまた外食する予定だ。その後群れの誰かと一晩過ごすのだろう。

  でも今回みたいなとてつもなくお腹を大きくする時のお腹を擦る役割は私と決まっている。

  私はそれが幸せだ。

  教室の扉に手をかけた瞬間にはもうみね先輩の寝息が背中から聞こえていた。

  起こさないようにゆっくりと扉を閉め教室を出る。

  火照った体を冷ましながら廊下を歩いていると股にじんわりと熱い感触が広がっていた事に気がつく。

  皆を呼ぶまでまだ余裕がある。まだ少し先輩との特別な時間の余韻を一人で味わうのには時間は十分あるだろう……。