【新春けもケット11】オツドラ「ある冬の日の転換点」【B-07】
冬の寒空の下で茶毛の熊獣人が、白い息を吐きながら誰かを待っていた。彼の名前は荒木ユウ、とある四年制の大学に通う学生である。待ち合わせしているのは同じ大学の、二年先輩の黒城ウルスという黒い毛皮の同じく熊獣人。ふたりは先輩後輩という関係だけではなく、幼馴染でもあった。
ユウのコートの腰ポケットに入っているスマホから、チャットアプリの着信音が鳴る。送り主はウルスからで、電車が待ち合わせの時間に間に合わないかもしれないという内容と共に、かわいらしく頭を下げた熊のスタンプが送られてきていた。
つぎの春からの就職も無事決まって、大事な時期なんですから……慌てて怪我とかしないように気を付けてくださいね。ゆっくりで大丈夫ですよというメッセージをユウは返信し、既読が付いた事を確認しアプリを閉じる。今日はイルミネーションを一緒に観て、帰りに良く行く店のイチオシのラーメンを食べる約束をしていた。
待ち合わせの場所と最寄り駅が間違ってないかどうかを確認し、ユウは先輩が来るまでの時間をゲームでつぶす事にした。このことを深く考えるよりは、気楽に考えておいた方がいいと思う事にして。
しばらくしてウルスから、もうすぐ着くというメッセージといっしょに、鮭を咥えた熊のスタンプが添えられてきた。ユウはゲームを終わらせ、ここで待っていますと目印の写真を送り、近くにあるコンビニで暖かい飲み物を買っておく。今月発売したホットでも美味しい蜂蜜ドリンクの新フレーバーだ。
「ごめん、ユウ。待ったよな」
「先輩こそ、電車の遅延で大変でしたね」
「この時期は仕方ないさ。幸い、誰かが怪我したり病気で運ばれたとかじゃなかったから良かったよ」
「ですね。あ、先輩。身体冷えてると思って暖かい飲み物を買っておきました。ホット蜂蜜ドリンクです、あったまりますよ。これ、冬の新フレーバーなんです」
「気が利くな。あ、でも、ただ奢ってもらうのは悪いから俺も何かあたたかいもの買ってくるわ」
数分後、ウルスが二つの大きな肉まんを持ってコンビニから帰ってきた。熊獣人の大きな手のひらにすっぽり収まるくらいのサイズの肉まんをユウは受け取り、そのお返しに先程の蜂蜜ドリンクを渡す。
肉まんを頬張りながらイルミネーションの開催会場へ向かう。ユウはウルスと手をつなごうとしたが、周りの目を恐れたのか、途中で拳を握った。その事にウルスは気付いてはいたが、彼もまたその手を握り返すことはできなかった。
「先輩、彼女とはこういう所に行かないんですか?」
「ユウ、お前俺に彼女がいないって知ってるだろ。それに、もし俺にそういう相手が居たとしても、ユウとは行くつもりだしな」
「先輩はいつも優しくしてくれますね。子供の頃に名前を男らしくないとからかわれて気に病んでいたら、気にすんな、かっこいい名前じゃないか! って褒めてくれましたし」
「ユウだって帰国子女の俺の名前をかっこいいと言ってくれたじゃないか、お互い様だろう?」
そういえばそうだった、とユウは思い出す。気付けば自分達の手のひらを温めていた肉まんは、冷めると共に半分近くが胃に消えていた。熱いくらいだった蜂蜜ドリンクも、今ではすっかり冷え切っている。
「はは、せっかく買ってきてくれたのに冷めてしまったな。会場に着いたら改めてあたたかいものを買おうな」
「……これは、これでいいです。もったいないからゆっくり食べましょう」
「そうか? ユウがいいならいいけどよ」
会場へと向かう街路樹に、イルミネーションがキラキラと輝いている。昼間は落葉してさみしそうなイメージの街路樹も、夜はこうして光の葉が咲き美しく光り輝く。会場まで徒歩で五分程度の道の先には、入口の門が美しく飾られているのが遠目からでも視認できた。