楽しい魔法の訓練

  僕が予想するよりも異世界というものは想像を超えてくる。僕はミル目玉事件のショックも冷めやらぬまま、家のソファに転がってブツブツ言っていた。そんな僕にパーカスが声をかけて来た。

  「なんだ、テディ。まだミルの事がショックだったのか?あれはよく見ると可愛い顔をしてるがなぁ。今度テディにひとつ貰ってくるかの?育ててみれば、きっと可愛く感じるだろうて。」

  まるで教育ママの様な事を言うパーカスに、僕は[[rb:胡乱 > うろん]]な眼差しを向けて口を尖らせた。

  「おめめがひとちゅ、こあい!」

  

  パーカスはフォホホと笑うと、じゃぁシシ魔物の三つ目は怖くないのかと笑った。確かに二つ以上、二つ未満の目は怖い。でもここは異世界なのだからもう腹を括るしかないのだろうか。するとパーカスがウインクして言った。

  「怖がりテディは、魔法の練習も怖いのかの?」

  僕は跳ね起きて言った。

  「ちゅる!れんちゅーちゅる!」

  最近始めたパーカスとの魔法の練習は楽しい事のひとつだ。パーカスの魔法を見るのも花火を見る様で楽しいし、僕にも僅かながら魔法の兆候が感じられる気がしていた。

  僕たちは家の結界の柵から出ると、広い野原に立った。パーカスは僕に尋ねた。

  「昨日私がここらに魔法をかけたコインを埋めたんじゃ。テディにはどこにあるか判るかの?ちなみにひとつは地面に置いて、もうひとつは少し埋めた。最後のひとつはより深く埋めたんじゃが。」

  僕はパーカスから視線を地面に戻すと、じっと辺りを見回した。この魔法探索の訓練は何度目かだったけれど、ただ見ていても日差しのきらきらに紛れて時間が掛かる。しかも今回は対象物が小さくなった。僕は集中すると、薄目を凝らして見回した。

  右の端にキラリと光った気がして走っていくと、地面にキラキラと光るコインが転がっていた。

  「ぱーかちゅ、あっちゃ!」

  拾って空に手を突き上げると、パーカスは手を叩いて喜んでくれた。あと二つ。前回は深く埋めたものは結局分からなかったので、今回は頑張って見つけたい。

  何とか効率よく探し出せないものかな。あのシシ魔物の足に隠れていた魔石は大きかったから、肉の中であってもぼんやり光って見えたんだ。でもコインの様に小さなものが埋められていたらお手上げだ。

  僕はアレはどうかと思いついた。水源を見つける時に使うダウジングだ。僕の経験値の中にふざけて使用した記憶がある。無意識化に働き掛けるあの方法は、今の僕の中に存在する魔法の潜在能力を呼び出せる気がする。

  僕はパーカスに頼んで枯れた太い野草の茎を二本短く切ってもらった。そこにL字型に折れた長い花茎を差し込んだ。自由に動くのを確認して枯れ茎を握ると、中々上手く揺れる。この不安定な揺れる茎が魔法のありかを指し示すだろう。…多分。

  興味深々で僕を見つめるパーカスの視線を感じながら、僕は手を胸の前につけながらゆっくり歩いた。すると花茎が両方とも右方向へとぐるっと傾いた。何度やっても其方へ動くので、僕は其方へ向かって歩いた。花茎が右と左にそれぞれ広がったその場所に立って辺りを見下ろすと、何となくぼんやり明るい。

  「ぱーかちゅ、ここでちょ?」

  僕がニンマリして振り返ると、パーカスは明らかに驚いた表情で僕の側にやって来た。そして僕が地面を木の棒で掘ると、10cmほど下から銀色のコインが出て来た。

  「あっちゃー!ぱーかちゅ、ちゅごい?ちゅごいねー!?」

  思いの外上手く行って、僕は凄く嬉しかった。パーカスは僕の持っている使い捨てダウジング一式を手に持って眺めると、僕を見下ろした。

  「テディは何と言うか、私の理解を超えた行動をする事があるのう。一体どうしてこれを思いついたのか。いや、知っていたのか?このコインは一番深い場所のものじゃよ。この道具を使用したら、きっと浅い場所のものも見つかるのじゃろう?」

  僕はパーカスから茎ダウジング一式を渡されて歩き出した。さっきやった事で慣れたのか、早いペースで発見できた。僕は3枚のコインを手の上に並べて笑った。

  「ぱーかちゅ、じぇんぶ、あっちゃ!ぼく、ちゅごい?」

  パーカスは僕を抱き上げると、興奮した様に笑いながら言った。

  「ああ、テディは天才じゃ。こんなに小さいのに、難解な事を易々とやるとはのう!しかし、この道具をどうして思いついたのか聞かせてはくれまいか。」

  パーカスの言葉に僕ははたと我に返った。何て説明すれば良いのだろう。潜在能力を使った?僕の口でそんな難解な言葉が上手く言えるとも思えない。

  結局僕は首を傾げて『わかんにゃい』と言うしかなかったんだ。パーカスは困った表情を浮かべたが、諦めた様に僕の頭を撫でると、そのコインはご褒美にくれると言った。

  僕がお金を持っていても役に立つとは思えなかったけれど、ありがたく受け取っておく事にした。実際僕はこの異世界で自分の所有物を着実に増やそうと思っていた。だって、パーカスが途中で成長の早い僕を気味悪がって手放さないとも限らない。僕はある意味悲壮な決意を胸に秘めていたんだ。

  僕はパーカスと魔法の訓練をコツコツと続けるうちに、ダウジング無しでも埋められたモノは、明るさで判る様になった。それは同時に、生きている魔物や魔石が明るく見える事にもなった。

  夜、真っ暗な柵の向こうを窓からぼんやり眺めていると、時々明るい何かが走り去っていくのが見える。

  「ぱーかちゅ、なんかいちゃ!あっち、いっちゃ!」

  僕がそう言って暗闇を指差すと、パーカスは目を凝らすが、よく分からない様で僕の頭を撫でた。

  「さすがにこの距離では、私には気配も分からぬな。テディはある意味王の護衛にもなれるかもしれんぞ?フォホホ。…だが、この事はまだ誰にも言うで無いぞ?

  …特別な能力は諸刃の剣になる。まだテディは幼き者なのだから、そう焦って突出しなくて良いのじゃよ。まだまだ、私の庇護下に居れば良いのじゃ。」

  そう優しい表情で僕の頭を撫でるパーカスを見上げていたら、僕は思わず口を滑らせてしまった。

  「…ぱーかちゅ。ぼく、にんげんなの。りゅーじんちあうし、じゅーじんちあうの。ぼく、ちゅぐにちんじゃうの。にんげん、よあいの…。」

  僕は自分の声を耳で拾って、ああ、ついに言ってしまったと安堵する様な、怖い様な気持ちでパーカスを見上げた。パーカスは眉を顰めながら、何を考えているのか分からない眼差しで僕を見下ろしていた。

  真っ暗な夜のしじまを裂いて、家の外から何かが鳴く声がいつもより妙に響いて聞こえた。