カミングアウトの結末

  とうとうパーカスに僕の真実を言ってしまった。説明が足りなくて、僕が直ぐに死ぬと思ったパーカスはショックを受けてしまったけれど、僕にしてみればこの世界が異常なだけで、90歳も生きれば御の字なんだ。

  とは言え、パーカスが『人間』について聞いたことがあると知れたのは収穫だっただろう。僕の様にこの世界に迷い込んだどなたかが居たという事なのかも知れない。

  僕はそれを知っただけで、凄く安堵したんだ。パーカスがきっと色々調べてくれるだろうし。でも調べた結果が悲惨な結末だったらショックだな。もう考えてもしょうがないんだけど…。

  それに今回の事で、パーカスが僕を大事に思ってくれているのが実感できて、僕はもうあまりクヨクヨするのは止めようと思った。考えてもしょうがない事だ。

  それよりせっかくだから、この異世界を楽しみたいし、何といっても魔法の親和性があるなんて本当にラッキーなんだ。ふふ、命燃やすぜ!

  心配顔のパーカスが僕を見つめているのに気づいて、僕は家の中に入ると、少し照れくさい気分で言った。

  「ぱーかちゅ、ぼく、こえからも、よろちくおねがいちまちゅ。ぱーかちゅ、ぼく、かじょくいっちぇくえて、うれちかっちゃ。…ぱーかちゅ、だいちゅき。」

  僕が照れ隠しに少し口を尖らせて言うと、パーカスは少し泣きそうな表情で僕を抱き上げると、ぎゅっと抱きしめてくれた。

  「ああ。テディは私の大事な家族じゃよ。私が名前を付けたのじゃからな?…今度娘の結婚記念日に王都へ招待されてるんじゃが、彼らにも新しい家族としてテディを紹介しよう。」

  僕はパーカスの安心する匂いに包まれて、ホッとして鼻の奥がツンとしていたけれど、パーカスの言葉を聞いてハッとして身を起こした。

  「ぱーかちゅ!おーと?いちゅ?」

  するとパーカスは楽しげに笑って言った。

  「3ヶ月後じゃよ。テディを連れて一気に飛ぶわけにもいかぬから、ゆっくり旅行がてら時間をかけて上京しようかの。」

  僕はあの絵本に載っていた挿絵の、お城や街並みを思い出した。こことはまるで違う王都へ行くのか。それはそれで楽しみかも知れない。僕がニコニコしていると、パーカスは抱き上げた僕の身体をマジマジと見つめて言った。

  「ふむ。仕立てた服が少し合わなくなってきたかも知れぬの。しかもテディサイズは王都にも扱いがない。これは旅行のためにも幾つか作る必要があるの。テディ、街へ行こうかの?」

  僕はにっこり笑って言った。

  「うん、ぱーかちゅ。ぼく、じぇちーちょ、おにぃたんにあいちゃいち。いきゅ!」

  床に降ろされた僕は、前回パーカスにねだって革屋で作って貰った、小さなリュックを背負わせて貰った。中には魔法の訓練でゲットしたパーカスからのお小遣いコインの入った革袋と、汚しがちな僕の顔を拭くための、大判のハンカチサイズの布を入れてある。

  自分で持つ必要が無いとは言え、気分だ、気分。

  パーカスは笑いを堪えた顔で僕を見下ろすと、僕の張り切った顔を見下ろして頭を撫でて言った。

  「こうして見るとテディも一人前だのう。革屋もその姿を見たら喜ぶに違いないの?」

  僕は革屋の立派なツノを思い出した。鹿獣人はツノが日常生活で邪魔じゃないのかな。僕はパーカスに笑い掛けながら、革屋のオヤジさんにリュックを使ってる姿を見せに行く事にした。

  今日はバッシュが柵のそばに居ないので、どうもパーカスが竜化するみたいだ。パーカスは顎に手を当てて考え込みながら呟いた。

  「ふむ。旅行の時は竜化は必須だが、長時間テディを手の中に入れて運ぶのは危険かも知れぬのう。テディを落とさない様に、何かを革屋に頼む必要があるかも知れん。気を抜いてテディを森の中に落としたら大変じゃ。」

  僕はちょっとそれを想像してぞっとした。落ちたら速攻で命は無いだろう。そう考えると街へ行くのも怖い気がする。

  「ぱーかちゅ、こえに、ちゅめ、かけちぇ?」

  僕は背負ったリュックの肩ベルトにパーカスの指を掛けてくれる様に頼んだ。街へ飛ぶ時間は10分ぐらいだとしても、落ちる事はあるかもしれない。

  

  街に到着すると、早速パーカスと革屋へ行った。僕が自慢げにリュックを背負った姿を見せると、オヤジさんは満面の笑みで喜んだ。

  「こんなちっせえリュックに何を入れるのか知らねぇが、さすが俺様だ。ちいせぇけど、ちゃんとしてるな。これ実は凝ってるんだ。見つけたか?隠しポケットが有るの。」

  僕は首を傾げた。そんなものあったかな?僕はパーカスにリュックを下ろして貰うと、中身を取り出した。皮袋とハンカチだけだけど。面白そうな顔をして僕の所有物を見つめるギャラリーを放って、リュックの中に手を突っ込むと指先に何かが引っ掛かった。

  

  フックの様なものを引っ張ると、何とリュックの底が外れて二重底になっていた。僕は目を見開いて革屋のオヤジさんの顔を見上げた。オヤジさんは僕にウインクして言った。

  「お前さんの絶対に無くしたくない大事な物を仕舞って置けるだろう?」

  僕はオヤジさんにお礼を言うと、パーカスとオヤジさんが話をしてる間に革屋の入り口のベンチに座って、通りを眺めていた。すっかり僕はこの街では有名人で、皆僕に手を振ったり、近づいてきてちょっとしたオヤツの様な物をくれる。

  もちろん僕の頭を撫でるのがワンセットだけど。僕も礼儀正しく、あんがちょってお礼を言うのだけど、それを言う度に皆馬鹿みたいに嬉しそうにするから、この舌たらずの言い方がツボなのかな。僕には厄介なだけなんだよね。

  ようやくパーカスが店から出て来て僕の膝の上を眺めると、眉を上げて笑った。

  「おお、今日もテディは大量のオヤツを貰ったのう。皆、テディが可愛くてしょうがないのじゃよ。」

  僕はパーカスに手伝って貰って、リュックにオヤツを詰め込んだ。空っぽのリュックが今やパンパンだ。革屋のオヤジさんはそれを眺めていたけれど、そう言う使い方なのかと笑いが止まらない様だった。え、違いますけど。オヤツ用じゃないですけど。

  ちょっと気分を悪くした僕は、それでも礼儀正しくさよならをすると歩き出した。主にパーカスが。リュックがいっぱいになったら、ちょっと重くて歩くのが嫌になったんだ。

  「仕立て屋の後は何処か行きたい場所はあるかの?テディ。」

  そうパーカスに尋ねられて、僕はあの広場でジェシーたちに会いたいと思った。それにこの背中のオヤツもとてもじゃ無いけど食べきれない。僕はパーカスに甘える様に言った。

  「んちょね、じぇちーたち、あそびゅ!おやちゅ、いっちょに、たべう!」

  パーカスが微笑んで頷くと、僕は感謝を込めてパーカスにぎゅっと抱きついて頬にキスした。ああ、なんかもう心配事は無くなった気がする!ははは!