一緒にオヤツ

  「テディっ!」

  そう僕の名前を呼びながら、ジェシーとお兄ちゃん達がパーカスの所に集まって来た。僕は降ろしてもらって、自慢げにクルリと回って見せた。すると思った通りの反応に気を良くした僕は、パーカスにリュックを下ろして貰うと、蓋をあけてリュックいっぱいのオヤツを見せて言った。

  「んーちょね、いっちょに、たべう、ねー?」

  するとジェシーがじっと僕を見つめて言った。

  「…なんか、テディ変わったな?大っきくなったか?」

  僕とパーカス、一体どちらがギクリとしたのだろう。僕は人間の幼児だから、この異世界ではあり得ないくらい早いスピードで成長するだろう。見る度に違和感を覚えるに違いない。でも僕は気にしない事にしたんだ。

  成長を止める事は出来ないし、人間としての有り様を探さなくちゃいけないのだから、今のままよりは大きくなった方が便利だ。

  「ちょうかも。ちゅぐ、じぇちーより、おっきくなりゅ。」

  僕が冗談半分、半分本気でそう言うと、周囲の子供達がどっと笑った。僕は皆にオヤツを配ると、一緒に大きな木の下で座って食べた。パーカスはいつもの様に屋台の側でこっちを向きながら街の人達とお喋りしている。

  「これ、どうしたの?テディ。」

  甘い匂いの真っ赤な木の実をかじりながら、ジェシーのお兄ちゃんが僕に訊ねてきた。僕は首を傾げてどうしてオヤツが貰えたのか考えた。

  「…わかんにゃい。ちゅわってたら、くえたの。みんな。」

  僕がそう答えると、お兄ちゃんは眉を上げて僕をジロジロ見ると、金色の瞳を煌めかせてクスッと笑った。

  「確かにテディと目が合ったら、何かあげたくなるかもね?凄い可愛いから。」

  ん?何かお兄ちゃん、妙な色気があるな。10歳のくせに。大人になるまであと20年もあるのにね?あ、でもダグラス農園のブルさんは27歳で見習いって言ってたな。僕はお兄ちゃんに訊ねた。

  「じゅーじん、なんちゃい、ちごとちゅる?」

  するとお兄ちゃんは首を傾げて、考え考え言った。

  「仕事?そうだね、仕事によるかもしれないけど…。例えば職人の弟子や見習いだったら、成人前の25歳くらいから習い始めるかな。王都の王立学校へ進む子は仕事じゃないけど、やっぱり22、3歳から家を出るし。

  それは騎士も一緒かな。もっとも騎士は地方と国とで分かれていて、地方の優秀な成績の騎士が希望すれば王国騎士団に入れるんだ。」

  僕は騎士と聞いて、パーカスの事を思い出した。確かあの青や赤髪の竜人騎士達から、熱心に騎士達の教育を頼むと請われていた気がする。そして自分は王国騎士だったって。

  「きち…。」

  僕が眉を顰めてそう呟くと、お兄ちゃんが驚いた様に言った。

  「え?テディ、騎士になりたいのかい?…まぁ、まだ先だからね。テディが凄く大きくなるかもしれないし。」

  ん?何か含みのある言い方だなぁ。僕がお兄ちゃんの顔を見つめながら揚げたパンの様なものを齧ると、隣に座っていたジェシーがもう食べ終わったのか、手についた粉を払いながら僕に話しかけてきた。

  「俺はきしになるぜ。兄ちゃんはおーりつ学校行くからさ。兄ちゃんはお父さんみたいに、さいばんかんになるんだ。な?にいちゃん。俺はじいちゃんみたいに、きしに決まってる。かっこいいだろ?テディ。」

  僕は初めて聞くことばかりで戸惑った。お兄ちゃんは苦笑してジェシーに言った。

  「ジェシー、テディはそんなこと言っても分からないよ。テディ、うちのお父さんはこの街の裁判官なんだ。えーと、色々丸バツを決める獣人ていうか。何て説明したらいいかな…。僕は裁判官になれるか分からないけど、勉強するのは嫌いじゃないから王立学校へは行きたいかな?」

  僕は心の中でふむふむと思いながらお兄ちゃんの話を聞いていた。なるほど、お兄ちゃんのこの大人びた振る舞いは、お父さん譲りなのかもしれない。大型魔物討伐に参加してたから、二人のお父さんとはほとんど話はしてないけど、体格の良いシュッとした獣人だったな。

  僕はジェシーの方へ顔を向けて訊ねた。

  「じぇちー、きち?ぱーかちゅ、きちよ。」

  するとジェシーとお兄ちゃんは顔を寄せてヒソヒソと話し始めた。

  「やっぱり、隠者様は王国騎士団だったって噂は本当だったみたいだね、ジェシー。もっとも討伐に何度も参加してくれて居たから、そうじゃないかって皆思ってたみたいだけど。

  この前、赤い髪と青い髪のカッコいい騎士達が街に来たから噂になってたんだよ、テディ。きっと隠者様のところへ行ったんじゃないかって。やっぱり家に王国騎士団は来たの?」

  そうお兄ちゃんに言われて、それが最初の来客時のことだと分かった。僕はあの時の気持ちを思い出して、思わず顔を顰めて呟いた。

  「ちた。あおとあかのちと。ぼく、きあい。」

  するとジェシーがびっくりした様子で大声を出した。

  「ええー!?嫌いなの?騎士が?あんなにかっこいいのに!?やっぱりテディはちびっこだな?俺みたいに、おっきくならないと、かっこいいの分かんねーのか。ま、俺が騎士になったら、テディも騎士の事好きになっちゃうだろ?」

  僕は思わずジト目でジェシーを見つめると、ため息をついて呟いた。

  「じぇちー、ぼく、きちちゅき。ぱーかちゅ、ちゅき。あおのちと、わるくちいっちゃ。…あ、れもおかちくれちゃ。やっぱ、ちゅき。」

  面白そうに聞いていたお兄ちゃんが僕に訊ねた。

  「もう一人居たでしょ?赤い髪の騎士。あの人はどうだった?」

  僕はあの口の上手い、世渡り上手そうな赤い髪の竜人騎士を#朧__オボロ__#げに思い出して首を傾げた。

  「…わかんにゃい。くち、うみゃい。」

  それを聞いたお兄ちゃんがクスクス笑った。

  「まったく、テディは本当ちっちゃいのに良く見てるよね?テディも王都の王立学校行こうよ。きっと楽しいよ?」

  そう言われて、僕は近々王都へ行く事を思い出した。その準備のために今日は街まで来たんだから。二人にその事を言うと、二人とも目を輝かせて王都がどんな獣人や竜人が多いか、お店が多いかと話してくれた。

  「‥とは言え、全部聞いた話だけどね。そっか隠者様がテディを乗せて飛ぶから王都まではそんなに掛からないのかな。普通はダダ鳥を乗り継いで行くから、20日ぐらいは掛かるんだよ?楽しみだね、テディ。」

  そう言って、にっこり微笑むお兄ちゃんは相変わらず獣人が出来てる。ジェシーはすっかり話に飽きたのか、立ち上がると僕の手を引っ張って言った。

  「ほら、テディももうちょっときたえないと騎士になれないぜ?あっちであそぼ!」

  僕はジェシーに手を引かれて足をもつれさせながら、皆が走り回っている方へと連れて行かれてしまった。流される様に鬼ごっこをしながら、僕はあっという間に捕まって鬼にされたものの、なぜかジェシーのお兄ちゃんや、大きい子が側に寄って来てタッチさせてくれた。

  それからジェシーの様なちびっ子達が鬼になって追いかけるのに疲れてくると、僕を捕まえる。ひとしきり追いかけるとやっぱり大きい子がタッチさせてくれる。僕は何だコレと思いながらも、思わず必死になって鬼ごっこに勤しんでしまった。

  

  流石に疲れて蹲っていると、パーカスが僕を迎えに来て抱き上げた。

  「そろそろ限界かの。では帰ろうか。」

  僕は皆に手を振りながら、パーカスの歩くリズムにあっという間に睡魔に引き込まれていった。はぁ、眠い…。