モノマサは考えている。
そろそろメリデが起きてくるはずだ。
朝に弱い彼女は支度に時間がかかる。だから部屋の外でじっと待っている。
オリエントシティ内、奥まった区画にあるマンション。外装も内装も最低限の飾り気しかないが、以前のセーフハウスに比べたら遥かにマシになった。彼女のためにも、それだけでとてもいいことだ。
「おはよう、モノマサ」
「おはよう、メリデ」
扉が開いて、交わすいつもの挨拶。
けれど今日は少し様子が違った。少女が後ろ手に何かを隠して、はにかんでいる。なんだか嬉しそうだ。
「どうした。何か、あったのか?」
問いにも何か言いたげにしている。
身長差があるから、モノマサは目線を合わせるために屈んだ。
「モノマサ。これ、プレゼント」
「俺に?」
「そうよ」
差し出された紙袋。綺麗にラッピングされている。
受け取って――メリデがうなずくのを見てから開けてみる。
「マシュマロだ」
袋に入った色とりどりのマシュマロ。いつも白いのばかり食べていたから新鮮に映る。まじまじ見ていると、メリデが堪えきれなかったようにコロコロと笑った。
「どうして笑う?」
「だって、そんなに真剣に見ているんだもの」
そうかもしれない、とモノマサは今度はそう考える。
「お兄ちゃんとね、あと会社のみんなと買いに行ったの。アカシさん、モクダイさん、スイさん……。駅の近くに素敵なお菓子屋さんができてね、今度モノマサも一緒に行きましょう」
「ああ……しかし、これは、どうしてだ? クリスマスは終わっただろう」
「プレゼントは、いつ何回あげてもいいのよ。知らなかったでしょう?」
「知らなかった」
お姉さんぶって、すました顔をする彼女。姉弟子?とやらになってから、そんな振る舞いも増えた。好ましい変化だ。
と、隣の部屋と繋がっているドアが開いて、イカつい男が入ってきた。
相変わらず腹を空かせていそうな顔――モノマサを見てニヤついた。
「おっ、ワンコがご褒美もらって尻尾振ってらあ」
「ヨシオリお兄ちゃん。からかっちゃだめ」
「へいへい」
で、叱られてすごすごと退散していった。何をしに来たのか。
メリデが朝ごはんの支度をしてくれるのを待ちながら、モノマサは窓の近くに立って外を見ることにする。その間もカラフルなお菓子はずっと胸に抱えたままだ。マシュマロはいつかのサーカスで食べてから好物になった。
――だから、これはきっと“俺”の「[[rb:好き > 感情]]」だ。
静かな朝の光に包まれながら、モノマサは考えている。
ならば、“モノマサ”。
今、お前の心は、どこにあるのだろうか?
その呼びかけに対する返答は、ない。
◆◆◆
「マシュマロを、ありがとう」
「えっ? ああ、うん」
[[rb:P F > パラレルフライト]]社オフィス。
モノマサが話しかけたのは、若いオペレーターだ。メリデの弟弟子?でもある。
今は書類仕事に苦戦中。パソコンからは目を離さないまま会話を続けてくれる。
「もしかして、皆にもありがとうって言ってきた?」
「ああ。――少し、驚かれたようだ」
気になっていたそのことを付け足して言うと、笑った。親しみのある笑み。
彼はメリデに次いでか並んでか、モノマサにとって心を開いて話せる相手だ。だから気になっていたことを訊いてみる。
「俺が、そういうことを言うのはおかしいだろうか」
「あんまり絡みなかったから、驚いたんじゃない?」
「俺は、感情がわかりにくいか」
「淡々としてるようには見えるかも」
モノマサ――ドロヴァインは、カイブツである。だった。
感情豊かなヒトと同じとは言えない自覚はある。
「君にはそうではない?」
「うん?」
「俺が……感情が……、淡々としているわけではない、と、君は思うか」
「うん」
うまく言えずたどたどしい質問になっても、オペレーターはうなずく。いとも当たり前のように。
――胸の奥の何かが動いて、モノマサは自然と鼻面を寄せていた。
「こーらナチュラルに!」
で、既にそんなやり取りは慣れたもので、容赦なく掌で押し返される。本当にワンコにするみたいに。
だからモノマサも鼻を鳴らしてみせる。不満のポーズ。
「そうしていたいんだ」
「オフィスじゃだめだってば」
「オフィスじゃなければ」
「だーかーらー」
「仕事中でなかったら」
「グイグイくるじゃんもう」
結局、画面から目を離して彼はモノマサに向き合ってくれた。
「メリデがいないから、手持ち無沙汰なんでしょ」
「……ああ」
今日は珍しく別行動なのだ。メリデはPF社の他のメンバーと日帰り出張。
モノマサはなるべく一緒にいたかったのだが、今回は人員が多く相手先と食事もあるからと言われて。
納得はしたがいささかしょげた。それでオペレーターに絡みに来たというわけだ。モフモフの尻尾も垂れている。なお顔には出ない。
「寂しいんだ」
「俺が? ――そうだと、思う」
聞き返したのは、寂しいという感情の理解に時間を要したから、ではなく。
胸にあるわだかまり。メリデにも言えていなかったことが口をついてしまった。
「モノマサが、答えてくれない」
「――えっ?」
「クリスマス以降、呼びかけても反応がないんだ」
「…………[[rb:いなくなっちゃった > ・・・・・・・・・]]わけじゃ、ないよね」
事情を理解しているオペレーターが声を潜めて訊く。おそらく、最悪の事態も想定して。
モノマサはしっかりとうなずく。それは確かだ。
「疲れて深く眠っているのかもしれない。平常とは全く違う力を使ったから」
「うん。心配だね」
「ああ……それに――これも寂しい、という気持ちなのだろうと思う」
モノマサはまた言葉を探さなければいけない。
感情をうまく表現できないのは――俺がヒトとは違う、カイブツだからなのだろう。
「"俺"には好きなものもできた。大切なものも。だが……モノマサは一人なんだ。モノマサに何をしてやれる。俺は、モノマサの……」
[[rb:訥々 > とつとつ]]と話すその様子は感情の大きな起伏が見えず、端から見ればわかりにくいと思われるに違いない。
それでもそのように言葉を紡ぐしかなく……けれど。
「ほら」
「……何だ?」
口をつぐむ。オペレーターが両の手を取ってくれていた。
モノマサに比べたらずっと細く、か弱いヒトの手。
「モノマサは、全然わかりにくくなんかない。誰かのこと、こんなに心配してる」
「…………」
「そ・れ・に!」
胸をとんっと突かれて、ハッと息を呑む。
「[[rb:キミ > ・・]]も、モノマサでしょ!」
「――――」
モノマサは考える。オペレーターは、少し怒っているのかもしれない。
正面から真っすぐ視線を合わせてくる顔に、うつむいて。それから、こくん、とうなずいた。
鼻面が勝手に前に出る。今度は押し返されたりしなかった。くっつけて目を閉じる。人肌の感触。匂いをかぐ。それでとても安心する。
出張組を見送りに行っていた他のメンバーが戻る気配があるまで、そうしていた。
このニンゲン相手にしかできないことも、あるのだ。
「ちょっと休憩しよっか」
それから、オペレーターはモノマサが持っていたマシュマロでマシュマロラテを作ってくれた。
モノマサは熱いそれに何度も悪戦苦闘しながら、考えている。
好きなものがまた増えた。
“モノマサ”。
お前の好きなものも、こうやって増えていってくれたら、いいのだが。
◇◇◇
それからはほぼ何事もなく時間が過ぎた。
PF社の先輩社員は、定時前にコソコソ上がる支度をして、ひたすら謝っていた。
「ごめん相談してたけど今日どうしても欲しい限定品の発売日で上がらせてもらうねほんとごめんあっ社長には内緒にしてねお願い今度ご飯奢るからえっデデデデデート!!??? そんなつもりじゃってまたからかってるでしょもう!」
モノマサは来客用のソファでぼんやりしたり、屋上で空を見上げたりしていた。
時々オペレーターの横に座って、キャスター式の椅子でちょっとずつ近づいてみたりした。二人きりだったからか叱られることはなく、「そういうゲームじゃないから!」とつっこまれるまで。
夕刻を過ぎ、オペレーターがぐーっと伸びをして立ち上がる。
「今日はそろそろあがろっか」
「ああ。メリデから連絡は」
「んー、まって。あっ――」
端末にメッセージがあったらしい。じっと読んでいたオペレーター、モノマサが見ていることに気づいて慌てて顔を上げた。
「ハッあのねモノマサ。姉弟子、帰り遅くなりそうなんだって。どうしようねー!」
明らかに嘘である。嘘というか、隠し事。
モノマサはこんなに隠し事が下手なニンゲンを見たことがない。エクシオが頭が痛くなると言っていた理由を少し理解する。
「俺がいては、まずいか」
「えっ!? いやいやそうじゃないよ! ただちょっとシークレットミッション――あっシークレットって言っちゃった!」
何がなのか。
オペレーターはオホンオホンとワザとらしく咳払いをして、
「モノマサって、メリデと一緒じゃないときってどうしてるの?」
「帰ってくるまで待っている」
お留守番だね、と呟く。更に電撃的に素晴らしいアイデアを思いついた顔をした。
「じゃあさ、今日はうちでご飯食べよ!」
◇◇◇
「君の家に行くのは初めてだ」
「そうだっけ。もういろんな人来るからわかんないや」
「誰彼見境なく招いている」
「……その表現はあんまりよろしくないからね」
訪れた部屋は、いたって普通の一人暮らし用のそれである。
玄関を先にあがったオペレーターが振り向いて、
「モノマサ。家入るときは靴脱ぐんだよ」
「――そうか。そうだった」
「今も、そっちだと靴履いたままなの?」
指摘にうなずく。今の住居に移ってからも、全員靴は履いて生活している。過去いつトラブルに遭うかもわからなかった頃の名残だ。
洗面所を示されてそちらへ。ついてくると思っていたオペレーターが来なかったので顔を出した。
「何をしている?」
「ほがぁっ!?」
なぜか玄関に屈みこんでいたオペレーター、驚いて飛び上がって、ついでに戸棚にガツンと頭を打って悲鳴を上げている。
「さっきから、どうしたんだ?」
「な、なんでも……なんでもない。手洗ってて……」
「?」
――何かわからないが、とにかくなんと隠し事が下手なニンゲンなのだろうと、モノマサは考えている。
それから二人での夕食は、メリデ達とのそれとは違いジャンクフードやら何やらが山盛りの賑やかな食卓だった。
「フフ……今日は社長がね、留守番組も好きなもの食べなさいって言ってくれたから、普段頼めない高いやつ頼んじゃった!」
「悪い顔だ」
夕食後、モノマサはオペレーターの部屋の中を探索する。くんくんする。
棚や壁に、いくつもの写真があるのを見つけた。いずれもヒーローたちの姿……先日のクリスマスの写真も。最後の興行直後だったか、全員ヘトヘトで座り込んでいる。ヴィクセン、後ろで白目をむいてヘバっている。
「皆、いい顔してるでしょ」
「ああ……俺は、こんなに仏頂面なのか」
「いまさら?」
片付けを終えてやってきたオペレーターが横で笑う。他の写真についても教えてくれる。PF社の皆、見知った軍人ヒーロー……。
その楽しそうに語る横顔に、モノマサは言っていた。
「君は、ヒーローが、好きなんだな」
うん、とうなずくその様子には、一瞬の躊躇いもなく。
「モノマサは?」
「――俺が? 何がだ?」
「今も夜にパトロールしてるでしょ。ヒーローするの、好き?」
「……わからない。好き、でやっているのでは……ないと思う」
不意に訊かれ、考えてしまう。それは考えたことがなかったからだ。
だが返答内容はそんなに問題ではなかったようで、オペレーターが小走りで玄関から靴をもってきた。モノマサのものも。
「ね、ね、今日も行こうよ!」
「どうしてそんなにワクワクしている?」
「窓から出入りするのって、すっごいロマンじゃない!?」
まったくわからない。窓から出入りしたい?
しかも戦闘行為もないのに変身させたいらしい。既に端末を構えている。
……このニンゲンは、俺の理解を簡単に超えてくる。頭が痛くなってきた。
窓が開けられる。カーテンが夜風にふわっと舞った。湿気を含んだその匂いに不思議と惹かれて、ベランダに出ていた。
オペレーターが、モノマサの手をぎゅっと握った。
「――ね、キミの好きなことをしよう、モノマサ!」
モノマサは考える。
このニンゲンは、ヒーローがとても好きなのだ。そして俺はヒーローになれる。ならばその「好き」に応えるのも悪くない、はずだ。
だからモノマサは、手を強く握り返す。
◇◇◇
身体能力を活かして跳躍――更に体表を覆う触手を伸ばしてビルの看板に固着、振り子のように飛び上がる。
「ちょっ……前から思ってたけどス○イダーマンじゃないんだから!」
「なんだ、それは?」
「そうじゃなかったらヴェ○ム!」
「???」
ぐんっと速度を上げれば、オペレーターがモノマサの身体に思い切りしがみつく。悲鳴を上げながら、笑っている。とても楽しそうに。
だからモノマサも思わず笑ってしまう。
「あ、ようやく笑った」
「……俺が?」
「そうだよ。今日元気なかったでしょ」
「わかるのか」
「わからないヒトいないって! 仏頂面とか言ってー、耳下がってるし尻尾しょんぼりしてるし! 姉弟子と一緒じゃないと迷子みたいなんだから。寂しんぼ。寂しんぼモノマぶわーーーー!!」
「喋ると舌を噛むぞ」
「ぜったいわざとだーー!!!」
街の喧騒は遥か下。
世界を照らす大きな満月。
重なった二人のシルエットが空を舞う。
オペレーターを強く胸に抱き、夜を駆けながらモノマサは考える。
俺は明るい夜が好きなのだ。
いつか、“モノマサ”に出会ったあの夜みたいに。
だから今も……夜の中に何かを探しているのかもしれない。
「――ね、モノマサ。そういう気持ちになる時はあるよ。“誰”にだって」
「…………ああ」
モノマサは、そうしてまた自身のことを知る。
――その後、三十分ほどパトロールをしてから部屋に戻った。
カイブツが出るようなことはなかったが、二人で路地裏で埃まみれになったり野良猫に引っかかれたりした。
そんなですぐお風呂場に連れていかれて熱いシャワーを浴びせられる。
ルームウェアのズボンを膝までまくったオペレーターが吹き出して、
「すごい不満げな顔するね」
「……毛が濡れると、重くなるんだ。それは好きじゃない」
「こんな汚れてたら、姉弟子に怒られちゃうよ」
それは確かだったので我慢する――が、結局堪えきれず、ぶるっと体を震わせて一気に水滴を跳ね飛ばしていた。
「ぶわー! こらー!!」
ツボに入ったらしい。このニンゲンはまた笑っている。
その笑顔にまた胸の奥の何かが動く。動いたからか熱いシャワーのせいか、体温が上がっている。熱の移しどころを探すみたいに、モノマサはその身体を抱きしめていた。
衣服が濡れても叱ったりせず……オペレーターは少し黙って、それから手を伸ばしてシャワーを止める。
「……甘えんぼ。甘えんぼモノマサ」
否定はしない。くっついていたいのだ。
「――これも、俺の「好き」なんだ。そうしても、いいんだろう?」
「…………ほんと、今日はグイグイくるね」
クリスマスの時みたい、とかなんとか。
そのまま抱き上げてリビングへ。ソファへ下ろし、躊躇いなく身体を重ねた。
腕と足を差し込む。何度も鼻をつけて、熱と匂いをよく確かめる。
邪魔な衣服を取り除く途中で気づいて、テーブルの上にあったマシュマロをひとつ、口にくわえた。
口から口へ。
「んっ…………」
オペレーターがそれを咀嚼して飲み込むまで、モノマサはじっと見ていた。
選んだのは、一番好きな白いマシュマロだった。
勝手に口から出る言葉。
「俺の好きなものを、君にも好きになってほしい」
再度身体を合わせれば、どちらのものともわからない鼓動がコクンコクンと響き合っているのがわかった。
モノマサは考える。
好きなものが増えると、心の[[rb:在処 > ありか]]がわかるようだ。
だったら――俺はもっと、自分の「好き」を知ろうと思う。
そうすれば、“モノマサ”。
きっとお前の心がどこにあるのかも、わかるはずだ。
◇◇◇
遅くに帰ってきたモノマサは、メリデも戻って休んでいることを確認してから自分の部屋に入った。ほとんど何もないそこで、いつものようにマットレスの上で丸くなって目を閉じた。
そして朝、起きて気付く。枕元に、綺麗に包装された大き目の箱があった。
あたふたと部屋を出ると、珍しくメリデが先に起きていて、それもモノマサを驚かせた。
「メリデ。またプレゼントがあった」
「まあ、そうなの。サンタさんが来たのかしら」
「誰かと間違えたのかもしれない」
「そんなわけないじゃない。――開けてみて」
促されてそうしてみると、中身は新品のスニーカーだった。
モノマサがじっと見ていると、メリデが堪えきれなかったように笑い出した。
「あのね、昨日のお仕事、ポラリスさんも一緒だったの。それでモノマサの話が出て……アスターさんにも連絡したの。そうしたら、靴を買ってやりなさいって……かなりくたびれていたからって」
ドロヴァインは、カイブツである。物事に対しヒトと同じような執着を抱かない。
そしてこの体の元の持ち主・大里モノマサも、あらゆる物への執着をほとんど持たなかった。
彼は与えられたものを何とか呑み込もうとし、必死に消化しようと努め、ただその為だけに生き――限界が来た。
あの時、どちらもこの世界から消えるはずだった。
けれど、その時に二人は出会ったのだ。
「靴」
「そうよ」
「新しい靴だ」
「モノマサのためのね」
今のスニーカーは、“モノマサ”がずっと履いていた靴だった。かなりボロボロ――全く気づかなった。ポラリスマスクもアスターも、あの性格にして周りをよく見ているのを、モノマサは改めて知る。
モノマサがたどたどしく履く準備しているのを横目に、メリデはまだ楽しそうに話している。話すべき友人や知人が増えたことが、それを共有する相手がいることが、何より嬉しいようだ。
彼女もそうやって変わっていく。モノマサはまたそれも知る。
――なあ、“モノマサ”。
俺たちはまだ、知らないことばかりじゃないか?
「それでね、でもモノマサの靴のサイズがわからなかったから、お兄ちゃんに調べてもらったの。内緒でね。びっくりさせたいから、絶対バレないでってお願いしたの。すごく大変なミッションだったって。本当?」
履いた靴は、もとからそうだったようにぴったりだった。
それで、モノマサは何度も履いたり脱いだりして、しまいには一度箱に戻して枕元に置いてみたりまでした。横になって目を閉じて、また起きあがってみても、まさか消えてしまうこともなかった。
それは確かに、モノマサのためのプレゼントだった。
昨日貰ったマシュマロと同じように胸に抱きしめてから、モノマサは改めてそれを履く。前の靴は空き箱に大切にしまった。
部屋を出れば、朝食を取るテーブルにヨシオリが座っていた。今日は黙ってニヤニヤしている。
それで気付く。就寝中のモノマサにも気付かれず接近できるのは……。
モノマサはふいと横を向く。
「メリデ。ヨシオリの顔がかなり変だ」
「てめ言い方ァ!!!」
怒号は無視。少し悔しかったのと、ワンコ呼びのお返しもある。
それから珍しく、今日はエクシオも揃って四人で朝食を取った。
いつもどおりの静かな朝。けれど今日は、いつもより温かい気がした。
朝食を終えて、メリデと二人で出かける準備をする。
スニーカーを何度もとんとんするモノマサに、
「気に入った?」
「ああ」
「ハックルさんとライキさんも、一緒に選んでくれたの。二人ってね、すっごく足が大きいの」
「彼らにも礼を言わなければ」
「そうね」
扉を開けて、弾むように先に出ていく少女。
その背に呼びかけた。メリデ、と。
心配をさせたくなくて、ずっと言えなかった[[rb:心 > ・]]の内。
「俺は、“誰か”に気持ちを、ちゃんと伝えることができるだろうか」
その言葉は、祈りにも似ていたかもしれない。
けれど彼女は一瞬きょとんとし、それから、あたりまえでしょうとお姉さんの顔をする。そしてまた笑う。ずっと一緒にいる彼の、そんな変化が心から嬉しいというように。
「モノマサは、いつもほんっとうにわかりやすいんだから!」
□■□■□■□■□
“モノマサ”は、考えている。
ならば、心は最初からここにあったのだろう。
見えにくかったり伝わりにくかったりしたとしても。あるいは、あまりに執着が無さ過ぎたせいで、[[rb:自身 > ・・]]でそうだと思えなかったとしても。
受け取ろうとしてくれる誰かはいる。手を伸ばせば握り返してくれた誰かがいたように。
今は、ほんの少しでも……それを信じることができるようになったと思えるから。
だから大丈夫だ。
モノマサ。
俺/僕たちはもう、孤独じゃない。
◆「ならば、心はどこにあるのか?」
――了。