ベッドの上にいた。
「どうしたの?寒い?」
この部屋にはベッドしかない。大きいベッド。
人間用というより人間より大きい猫専用のダブルベッドという感じだ。
優しそうな猫が僕を腹のもふもふで捕らえていた。
蜘蛛の巣にひっかかる虫のような心地で、何故だか早く離れないと大変なことになる気がするんだけど、暖かくて離れられない。
「あったかいけど…」
思考がおぼつかない。
「それはよかった。きみのなまえはなんだっけ?」
「えと…」
思い出せない。思い出したくない気もする。
「思い出せないんだねぇ。」
そう言いながら、ねこさんの肉球で頭をよしよしと撫でられる。
「きみはー、なんでここにいるとおもう?」
「…なんで、かな?」
心地良すぎる暖かさの中で考えるのも億劫だ。
「ふふ…それはね…きみのことをさらってきたんだ。きみがかえりたくなくなるように記憶も消したからね。」
「ゆう…かい…?」
「そうだよぉ」
「なんで…?」
ねこさんの唇が歪む。
「たべるためだよぉ。」
ぞくっとした。食べられちゃうから、離れなきゃいけないと思ったんだ。でも、なんかめんどくさくなって、ねこさんの舌舐めずりを聞いたまま動けなかった。
「だいじょうぶだよぉ。きみはぼくのみとめたおいしいおやつなんだから。こわくても、やさしくたべてあげる。」
なんだか、暖かい空気がよく分からないものに変わったような気がする。
ねこさんの優しそうな目は僕が美味しそうだからなんだろう。怖くて仕方がない。
丸い大きな舌でべろべろと舐められて、僕は飴玉みたいに涎まみれにされた。
「あぁ~いいなあ、やっぱり、もっと中身も食べてみたくなるんだよねえ。心も体も僕の物になってよ…」
そう言いながら猫のクリームパンのような手の肉球で優しく撫でられて…
「素直になって…ねぇ、すぐだから」
逃げようかどうしようか、迷っている間に費やされていくエネルギー…
「眠いのかい?おねんね…するかい?いいよ…おやすみなさい…」
猫のお腹に抱かれながら僕は目を閉じた。
「おやすみ…おやすみ…暖かいお腹の中でゆっくりおねむり…」
ゴクン…
できれば、僕に抱かれながら眠った記憶だけで、
幸せに死んでほしいなぁなどと満腹感に酔いしれた猫も暖かくしてすやすやと眠りました。
めでたしめでたし