人喰い猫と喰われたがりの青年

  食刑に処された人族の青年は、泣く子も黙る同じ犯罪者の喋る猫の部屋に押し込められた。

  喋る猫は四つ足のキジ猫が服を着ずに人間のように生活を営んでいるといった風の猫で、

  他の野ざらしの牢屋とは違う壁つきで中からは外のようすは何も見えないつくりになっていた。

  喋る猫は何匹もいて、人の味を覚えた者は人族の所有する牢屋にいれられる。

  投獄されていない喋る猫たちにとって、人の味を覚えたものが自分達の縄張りにいようと関係ないのだが、やたらと数が多く猫たちの縄張りにも住居を構える人間達にとって、

  自分達を捕食する可能性のある猫の捕獲、行動の制限は死活問題であった。

  猫を殺すという選択肢は、この世界では有り得ない。猫族より人族は弱いので平身低頭して、下僕のように付き従うしかないのである。

  一応先人の外交努力の結果、先猫との約束として人族を害する猫族は、人族で拘束をしてもいいということになっており、定期的に人族の犯罪者を「食刑」と称して拘束した猫族に譲渡・提供するという取り決めがされていた。

  そして、貧しさにより120円の惣菜パンを万引きした青年の不幸は、杜撰な裁定により、

  「食刑」に処されるまでに至ってしまった。

  運悪くも人族の供給が間にあっていない時期だっただけ。

  「じゅるっ…やっと来たぁ…お腹空いてたんだよ。え?キャットフード?馬鹿にしてんの?なんであんなパサパサな物食べなきゃいけないの?ふふっ可笑しいね。今じゃ新鮮な人間が食えると聞いてわざわざ牢屋に入りにくる猫も少なくないってのに。

  まー、よろしく。もう君は僕の所有物なんだ。

  エサ。分かる?惣菜パンを万引きしたそうだね。

  わかるよ。空腹で食えない気持ちは。だからこそ、わかってくれるよね。

  お肉が目の前にいるときの喜び。」

  猫は青年を抱擁しながら、耳元で「おお、ご馳走よ、来てくれてありがとう!」と囁く。

  そして囁いた耳を口に含み噛みごたえを確かめるように甘噛みした。

  人肉にありつける猫の気分は高揚していた。

  「悲しそうな顔して…かわいいなあ。食べられちゃうのそんなに悲しい?痛く…しないから、あっお腹の中では溶けていくから、ほら、痛み止めあげる。これのんだら、あとは死ぬ覚悟だけ、だよ。

  君も死にたくないかもしれないけど、でも僕も君以外の人族もみんな君が餌になるのを望んでるんだ…それってとっても残酷なことだね。だからさ、せめて僕が僕のお腹の中で、やさしく愛してあげる。きっと君は美味しいよ?」

  よく喋る猫だと青年は思った。肉球のついた指から肌色の指へと移った錠剤を飲み込んだ。

  「かなり素直だね。よくいるんだよ。助けて助けてって泣き叫ぶ人間がね。君も惣菜パン万引きしたくらいであんまりだよぉって泣きわめいてもいいんだよ。どうしたの?泣くのをこらえているの?僕の胸借りてもいいよ。人肉たんぱく質でふさふさのふわふわになった柔らかな毛並み、堪能していいよ。」

  「サイコパスみたいってよく言われるんだ。サイコパスって誰のことだろう。反社会的人格?よくわかんないな。どう?気持ちいいでしょ…君もこのふわふわのたんぱく質になるんだ。どんな味がするんだろうね。え?優しくしたいのかドSなのかわからないからサイコパスっぽい?S?エスってなんなの?いじめたいのかって?うーん、どうかなあ。でも確かに優しくしたいとは思っているけど、

  怖がらせたいとも思ってるよ?どうも僕、

  人間が恐怖で怯えながら許しをこうのを見てると慰めたくなるんだけどさ、でも途中でやめたくなるんだよね。なんだか絶望のどん底に突き落とされたような顔もかわいいから見たくなるんだ。だから、優しくなれないんだなって思って落ち込んじゃうんだよね。」

  確かにサイコパスっぽいなと青年は思ったが、そのことは彼にとって問題はなく、寧ろ青年にとっては目の前の人食い猫にいじめられながら食い殺されるのが本望であったから、そのことをどう伝えようかと考えた。

  「え?優しくなれなくてもいいって?君もなかなか残酷だね…ドS?にしかなれないよ。」

  「え?ドSでもいいって?なに?君こそ頭イッてんじゃないの?…いじめられてもいい?

  へ、変態…なの?それでいいのきみは?

  猫にいじめられながら丸呑みにされた方が幸せ?

  ほんとに?言わされてない?大丈夫?

  …ああ、じゃあ君に対しては何も気を遣わなくていいんだ?

  いつもの通りでいいんだ?」

  「なんだか変な気分…でもさ、いじめられたいってどうしたの?何があったの…まあいいか、僕は腹が満たせればそれでいいし。それに、いじめられたいってことは、怖がらせてあげれば君にとって優しいってことになるのかな。…そうなんだ。へえ。」

  そうして築かれた一夜のSMプレイ的な捕食関係。奇妙な人生の終わりを青年は幸せに思いながら、人食い猫にいじめられながら食われることになった。

  ■■■■■

  「じゃあ…どうしようか…ふう…しかしきみ、本当に良かったのかい?少しでも逃れたいという気持ちがあったなら、僕にとってはとても食べ心地がいいのに。だってそうだろ?逃げるネズミの尻尾を押さえて、つまみながら無理やり口の中に放り込んで喉ちんこの奥に押し込んでしまうのは、とてつもなく快感だもの。君には…たぶんそういうのはないよね?」

  「え?本当に優しくしたそうじゃないって?やめたって言ったじゃん。君と話してて、僕も気づいたんだよ。優しくしたい理由に。

  僕は、相手に優しい自分を受け入れてもらって、少しずつ落としていくのが好きだったんだなって。

  優しさは手段だって気づいちゃったんだ。だから、優しくなくても良いって気づいちゃった。君のおかげで。だから、今度は君の痛がる顔とか怖がる顔が見たくてうずうずしてるんだ。本性を目覚めさせてくれた君なら僕がどんなに君を傷つけても受け入れてくれるよね?そうでしょ?

  だから、今から君をたくさんいたぶってあげよう。嬉しいんだよね?それが君の幸せなんだから。」

  「え?早く食べて欲しいって?そんなこというのは君が初めてだよ。」

  …でもまだだーめ。そう耳元にこそばゆく熱い声で囁いてくる。

  「だってさ、食べたら君は死ぬ。それで終わりさ。僕は君ともっとたくさん遊びたくなったんだ。

  ああ、そう。それ。困惑する表情が欲しかった!

  はあ、まずはそうだな…まずは君が食べられたい理由を教えてくれないかな…?包み隠さず話してごらんよ…あっちょっと待って全部脱いで、裸になって?え?恥ずかしい?いいじゃん。

  どうせ食べられるんだから、真っ裸になっちゃいなよ。誰も見てないよ、僕が見ててあげる。さむい?なら仕方ないか…一枚だけ着ていいよ。何、嫌がってるの?

  僕が脱げと言ったら脱ぐんだ…君に拒否権なんてないんだけど?」

  キジ猫は少し怖い声を出し、脅しつけ半ば強引に青年の下着から上の衣服を引き裂くように剥ぎ取った。そして、また撫で声で優しく語りかける。

  「君が大人しく脱がないから、脱がせてあげたよ…怖かったね、ごめんね?

  あれ、あれれ?おちんぽ、勃っちゃってるね?もしかして性癖なの?食べられたいっての。気持ちよくなるためにパン万引きして、捕まって猫に食べられたいんだ?へえ…大胆だね。でも命も名誉もかきすてて、どうしてそんなに食べられたいの?そこを教えて欲しいな…」

  「人間とかぁ…同族とつるむの嫌になっちゃったの?それとも出来損ないで仕事も出来なくてご飯にありつけなかったから罪をおかしちゃったの?僕はそれだから、狩りやすい人間食べて捕まったから分かるんだけどお。

  どうかな?あっ両方?生きていけないから、ご飯も盗ったし、半ばやけくそでここまで来ちゃってちょっとラッキーって思ってるんだ?へえ、僕と似てるね。似てるやつは好きだよ。それに利害も一致しちゃってる。

  で、死に場所も僕のお腹の中でって感じ?死にたくてたまらない?そっか。僕のお腹の中で気持ちようく溶かされて、身も心も溶けてしまいたいんだ。へぇ、じゃあ…痛み止め、もう1錠飲もっか。

  溶かされる痛みというのはね想像以上にきついものだから、一錠だけだと首締めの痛みしか我慢できないと思うよ。え?首締め?するよ?鶏を食べるときは首を締めるじゃないか。それと同じで首を締めてから食べるときもあるんだよ。今回は君が酸欠状態になるところを見るために締めようと思ってたんだ…怖い?怖くないよ。」

  「おくすり飲んだ?ちゃんと口の中を開けて見せて?そんなに疑り深い顔しないでよお、ほら見せて!…うん、飲んだね。

  ごめん。これで痛み止めの成分は無効になっちゃった。いつも通りに首を締められても苦しいし、お腹の中でも悲鳴を上げるのを我慢できなくなるよ。

  えへへっ話が違うって?残念だねえ。

  もう支給された薬はないんだ。騙されてくれないと君は飲まないだろうし、そんな余裕ぶった顔をしながら、僕のお腹を棺桶みたいにして安らかに死なないで欲しかったんだよ。そんなのつまんないから。痛みに喘ぎながらやめて!やめて!って泣き叫びながら、僕のお腹の中かあるいは腕の中で屠殺されて欲しいからね。わかるだろう。君なら理解してくれるよね?あっ悲しそうな顔して、かわいい。大丈夫だよ。ちょっと苦しんで餌になって貰うだけでいいんだから…。」

  大丈夫、すぐ死ねるから…と青年の耳もとで熱くしめった呼吸をかけながらささやく鬼畜猫はさて、と言って、青年の首、うなじ、肩、背中へと体温の火照った右左それぞれの肉球を滑らせて、もふもふのお腹に抱き寄せた。

  「じゃあ…こうやって…ほら」

  青年の体を半回転させて、胸板を肉球で捕まえるようにふさふさのお腹に押さえつけた。

  猫の顔が見えないように。

  そしてぷにぷにの肉球でうなじや首筋や顎下を前戯のようにいやらしく一周ぐらい撫で回しながら、耳元に囁く。

  「声が震えてるよ?声、出すの我慢してるの?緊張しないでいいんだよ?…首まわりくすぐられて、恥ずかしそうに声洩らしちゃってさ。」

  どうせこうするんだからと、さらさらとした毛並みに覆われた右腕、その人間の肘に当たる曲がったかどの部分ががっちりと青年の首にがっちりとはまり、背中は猫のお腹に塞がれてしまう。

  「…何するのかって?さっき言ったじゃん。首締めるって聞いてなかったの?大丈夫…怖くないよ…怖くないから…」

  首を締める腕の持ち主である猫は、腕と背中とお腹の筋肉にぎゅうう…と少しずつ力を加えながら、徐々に息のできない痛みに苦しみだす青年の様子をじっと見つめながら、さも優しげな声で慰めるようにそう言った。

  「苦しい…?かわいそ…うふふっ。このまま、窒息死させたげよっか?」

  母親がひそひそと子供に内緒話をするように猫が青年の耳に口を近づけてそう言うと、青年はついに殺され死に絶える恐怖と酸欠の苦しみに耐えられず、わなわなと腕を震えさせて、猫の腕を両手でつかみもがこうとした。

  「もうこれだけで意識が朦朧とするぐらい痛いのに…お腹の中で肌から肉から内臓まで生きたままじゅーじゅー溶かされちゃうのはとっても苦しいよ?このまま僕の腕の中で絞め殺された方が苦しまずに死ねるよ?」

  青年はそれでも顔を茶色くさせ、涙で顔を濡らしながら、腕から逃れようと必至にもがく。

  すると、やーめた。と猫がつぶやき、

  腕の力が緩くなる。青年はひゅーひゅーと虫の息をしながら激しく咳こみ、その場から離れようとしたが、猫の腕は首から胴体へ下がっただけで、その場で彼は激しい嗚咽と咳に喉を痛めた。

  「…やっぱりさあ、僕は君が痛がりながらお腹の中で苦しむ方がいいから、まだ殺さないであげる。」

  そう言いながら猫は青年の右頬に、はぁ…と息をかけ、下から上へ右頬をざらざらした舌先を滑らせて血の匂いのする唾液で汚す。

  そうして右腕から左腕に青年の体を持ちかえて、まだ爪を出していない柔らかな肉球のついた右手のひらで、青年の泥汚れのないすべすべした人間特有の肌ざわりを味わう。粗末なぼうきれの袖や襟のなかに手を突っ込み、

  ビィーッと器用に音もなく出した爪で衣服を引き裂き、真っ裸にしてしまう。

  冷や汗でぐっしょり濡れた布切れが剥がれ落ちあらわになった青年の恥部は、彼の意思に反して真横30度斜め上へ固くなってしまっていた。

  「あれれ、興奮してるんだ?…へえ…いつから勃起してたの?

  首締められながら、ちんちん固くして喜んでたのかなあ?だとしたら、気持ち悪いくらいマゾだねぇ…。

  …でさ、何を期待してるのこのちんぽは。こんな汚いちんぽを僕に舐めさせようとか…お尻の中に突っ込みたいとか…そんな気持ち悪いこと考えてるの?ねえ…」

  爪先でそっと竿の皮をとんとんさせながら、

  猫は青年に聞いた。

  「それとも、ほんとうに自分の体を餌にされて食べられちゃうってだけで、興奮して、精液ピュッピュッしちゃうの?…君、ぶっ壊れてるじゃん。フフッマジで笑えるんだけど。

  でも怖いんでしょ?怖いのにおっきするんだ?あ、それとも恐怖感さえ気持ちよさに変換しちゃうんだ?ドマゾじゃん、マジでさあ。首締められながら興奮してたんだよね…パンツ、我慢汁でぐっしょり濡らしてさ。気持ち悪いなあ…死んで?

  …嘘だよ…ちんぽ跳ねちゃってさ。ちゃんと僕の手で殺してあげるから安心しなよ。」