ぶち猫の男の娘に食べられちゃう話

  あきらくんは猫獣人好きな人間の男の子だ。

  けれど、猫獣人の中でも女の子より男の子が好きだった。あきらくんは猫獣人の女の子からアプローチをしばしば受けるほど顔が整っているほうだったが、たいていあきらくんが告白されるとき、彼の興味関心はあさっての方向に向いて、やんわりとはぐらかす形で、好意を拒絶されるため、あきらくんは罪な男として噂されていた。

  そんな中、あきらくんに新たに近づこうとする猫獣人がいた。

  全体的な顔の右半分が黒くて左半分が白いぶち猫のものくろ君だ。ものくろ君も男の子だったが、男の子らしさよりも雌猫の色気があり、男の娘寄りだった。

  あきらくんが罪な男と噂されるのはその端麗な容姿だけではなく、彼は一部を除いて猫獣人であれば誰にでも素直に接するので、優しくされた猫獣人たちはまるで自分が好意を持たれているかのように錯覚する。そして、錯覚、突撃、玉砕というのが、ありがちなのだ。ものくろ君もそれと同じで、消しゴムを拾ってくれたあきらくんに好意を抱いてしまった。それも、ものくろ君は顔半分半分で白黒柄が違い、性格もなよなよしているということから友達が少なかった。自分が雄猫であるという自覚は揺らいでいないものの、威圧的な両親のもとで顔色をうかがいながら暮らしてきたものくろ君は、自分の女々しさとは正反対のたくましさを持つ同性に心が惹かれる性質だった。そして、ものくろ君はあきらくんが自分に無条件にやさしくしてくれたことに心を奪われてしまった。自分の物にしたいという独占欲を叶えようとはいかないまでも、もっと仲良くしたいという欲求が膨らみ、今に至る。

  「あきらくん、今日も肌もちもちだね!そんなあきらくんにプレゼント!これあげる!」

  ものくろ君は自分の感情が、友情というよりも性愛に近いものであるということに気づいていないまま、あきらくんにアプローチを繰り返す。今日もあきらくんの肌に合いそうな保湿液を贈ろうとしていた。

  絶えず持ち掛けられる交流にあきらくんはうんざりしていた。しかし、ものくろ君のお誘いは止まず、どんなに素っ気ない態度をとってもものくろ君の方から離れる気配は1ミリもなかった。人間の肌はみんな同じだし、似たようなものじゃないのと言っても、「あきらくんの肌ってー…なんだかみずみずしくて触り心地がいいんだよねー」と、離れてくれない。「肌、触っていーい?」やだよとは言えず、しぶしぶ、いいけど…と承諾してしまうので、ものくろ君の意のままにされてしまう。

  あきらくんも他人との付き合い方に聡いわけではなかった。彼は優しくすると相手も優しくなり、みんなハッピーになるという考えの持ち主だった。それは彼が今まで幸運だったというわけでもなく、あきらくんの実家はとても太く、博愛精神を持ちなさいという教育環境で育ったためである。あきらくんは他人に優しくすることは得意でも、嫌なことを断ったり、強く出たりすることが不得意だった。だから、ものくろ君がどんなに距離を詰めてきても強くは言えず、どうしたらいいかわからなかったので、ずるずるとその関係を続けてしまっている。あきらくんとものくろくんはある種似た者同士だった。

  時に、この世界では度々流行る奇病がある。

  それは、予兆もなく突然体の大きさが縮んでいき、最終的にカブト虫ぐらいの大きさになってしまうという病気だ。この病にかかってしまったら、即座に保護されない限り、まず助からなくなる。単純に同類の人間に踏み潰されたり、昆虫や小動物に捕食されてしまうことが原因だ。

  運が悪いことに、あきらくんもこの奇病にかかってしまった。もし、あきらくんの肉親や良心あるクラスメートが、あきらくんのことを机の足の陰にうずくまっているのを見つけていたら、まだ救いがあったのかもしれない。あきらくんを見つけたのはものくろ君だった。

  ものくろ君はあきらくんを保護しようとはしたが、これ幸いにと独り占めしようとする。あきらくんには「治し方がはっきりするまで僕が世話をすることになったから」と嘘をつき、自分一人で何とか治してあきらくんの気を惹こうとした。もしくは治せなくともものくろ君が言わなければあきらくんの生殺与奪の権を、ものくろ君自身が握っているのだから、最悪あきらくんに言って聞かせて僕自身が養ってあげれば互いに幸せだと腹黒いことを案じていた。それに、ものくろくんは以前も同じような状況に遭遇したことがあるのだ。今回はいけるかもしれないと、ものくろ君は思っていた。

  あきらくんは日に日に小さくなっていき、手のひらサイズになってしまう。というのは予定通りで、ものくろ君は、あきらくんを治すために、その治療方法自体をあきらくんに発見させるため、その雑誌を彼の近くに置いた。

  奇病を治す方法が見つかったからものくろ君に頼みたいと、自分から言わせるために。…その方法は、奇病にかかった者が好意を抱いている者から舐めてもらうことだった。まるでおとぎ話のような治療法にあきらくんはばかばかしくも藁をもすがるような気持ちで自分を保護してくれた少し変わったぶち猫獣人に頼んだ。ぶち猫もとい、ものくろ君の思惑通りに。

  その「好意」というのがどれほどの強さを基準にしているのかわからなかったが、実際あきらくんの最低限の身の回りの世話を、甲斐甲斐しく施してくれるものくろ君に心を許し始めていた。しかし、あきらくん自身、ものくろ君に対して想い人レベルの好意は持てていないのが現実だった。しかし、あきらくんはどうしても元の大きさに戻りたかったがゆえに、ものくろ君を信じ切ってしまっていた。「あきらくんをものくろ君が舐めたとき、戻らなかった場合、…つまりはあきらくんがものくろ君を好きでないことが確定してしまった」そのとき、ものくろ君がどんな反応をしてしまうかということについて、あきらくんは想像できなかった。日常的にどんなにそっけない態度を取っても明るく接してくれるものくろ君だけを信じて…。

  一方、ものくろ君はあきらくんのはっきりしない態度に若干の苛立ちを感じていた。次第に仲良くしたいという建前が剥がれていき、遠慮の無い独占欲を抑えきれなくなっていた。

  …以前にもそのような不安定な時期の、同じような状況のことがあった。あきらくんとはまた別の好きなチルくんという男の子がいて、チル君が小さくなる病にかかってしまい、ものくろ君がたまたま見つけた、という状況。この治療法自体はネット上の体験談といういささか不安な情報元からであるが、治療法と銘打っているものはこれだけだった。

  ものくろ君は、奇病の治療と称して縮小病にかかったチル君を味見できる。という大義名分を発見して、葛藤した。味見なんてとんでもない…とものくろ君は自戒を込めて考え直したけれど、そもそも自分一人で解決しようとしているのもエゴで今更のことだとものくろ君は冷静に状況を見つめた。

  …チル君を味見できる絶好のチャンスじゃないか。何を躊躇う必要があるんだ…と、危うい選択肢がちらつく。もし、チルくんが戻ってしまったら、その時は感謝されるかもしれないし、彼が自分のことを好きってことだから大団円に。

  戻らなかったら、その時は飼うなり食べるなり自分のものにしてしまえばいい。

  どっちに転んでもハッピーじゃないか。

  と、それと同じようにものくろ君は判断すると考えるのをやめて、以前好きだったチルくんにそうしたように、自分の机に体育座りをしているあきらくんに向き直った。

  チル君は舐めても治らなかったから、どうでもよくなっておいしく食べてしまったけど、あきらくんは、きっと、好きだよね?と思い込んで。

  「それにしてもあきらくん…こんなに小っちゃくなっちゃって…こうしてみると可愛らしいねー…」

  は、恥ずかしいからあんまりじろじろ見ないでよと照れ臭く、ものくろ君のぷにっとした掌球の上で体育座りをしたあきらくんが顔を埋め目をそらす。

  「えへ、じゃああきらくんのー、この、もちもちですべすべとした柔肌が傷つかないように…舐めちゃうね。えへへ…。あっよだれがでちゃった…ふふっ」

  あきらくんの奇病を治すためという理由があるから仕方ないとばかりに欲望を隠しきれていないものくろ君に、若干怯えながらも受け入れざるを得ないあきらくん。

  ものくろ君のざりざりとした猫の舌で、まるでほっぺたを舐めてじゃれるように、全身をまんべんなく舐められるあきらくん。

  日常的に猫同士でない限り、他人に手のひらでさえも物理的に舐められるということを経験していない彼ははじめて猫獣人の舌の肌触りと全身に人肌より熱めの唾液がまとわりつく感覚に責められ、思わず声が出てしまう。

  いくら猫獣人が好きな彼でもこれほど背筋がざわつくような経験はなく、怯えた声を出してもやめてくれそうにない飴玉扱いに我慢ができず、あきらくんはなんとか言葉をひねり出して、や、やめて…と声をあげる。

  しかし、その一言が聞き取れなかったのか、ものくろくんはひたすら長い時間あきら君を身体を舐め回しつづけた。ちょっと舐めるだけだったはずなのに。

  「ごめんごめん、つい…、味見しすぎちゃった…」

  味見という言葉にあきらくんは、も背筋がひんやりとした。

  「こ、これ、味見じゃないよ……怖いこと言わないでよ…ものくろくん…。」

  「だいじょーぶだよあきらくん。あきらくんはやっぱり食べちゃいたいくらいかわいいけどー、でも、まだべつに、たべないかなーって…」

  「ま、まだって…?」

  「だってさ!あきらくん。このちいっちゃくなるのが、本当に治るのかわかんないんだよ。現にさ、僕が舐めても治らなかったってことはさ…ちょっと、考えたくないけど…」

  しばらくものくろくんは口をつぐむ。

  「あきらくんの好きな子は他にいるってことじゃんね。あきらくん」

  「い、いや、えっと…ぼく…」

  「違っても違わなくてもさ、あきらくんは小さいままってことじゃん?ってことは、もしかしたら、あきらくんはちいっちゃいまま生きていくしかないかもしれないんだよ?

  かわいそう、それはかわいそうだよー、あきらくんがさー」

  「そう…だね…」

  ものくろ君のことを好きでなかったことをゆるしてくれたってことなんだろうか。あきらくんは怖くなって、言葉が出なくなった。ものくろ君に見捨てられたら生きていけない。あきらくんは不安でたまらなくなった。

  「怖いよねーちいっちゃいまま、生きていくなんて怖くて泣いちゃうよね。」

  怖い。怖くてたまらない。優しいものくろ君であってほしい。そんなかりそめの希望にすがって息をひそめて、ものくろくんの言葉を待つ。

  「でもね大丈夫だよ!ぼくがあきらくんをごっくんして、一つになってしまえばずーっと僕の中で守ってあげられるからさ。大丈夫だよ、あきらくん。」

  「ご、ごっくん…?」

  一瞬意味がわからなかった。あきらくんの勘違いでなければ、今、ものくろ君はあきらくんをごっくん…つまり飲み下すと言ったのだ。

  「ぼくを…たべ、食べるの…?」

  「うん!食べて、守って、あげる!」

  あきらくんは、あわててものくろ君のてのひら、掌球から逃れて、逃げようとした。しかし、しっかりとものくろ君はあきらくんを握って捕えてしまう。

  「いや、ややや、そんなこと言わないで!お願い!ものくろ君!何でもするから殺さないで…おねがい…!」

  見捨てられるどころか、まさか唯一の頼りの猫獣人に殺されかけるなんて!

  「怖がっちゃって…悲しそうなあきらくんもかわいいな。…かわいくて、かわいくて、食べたくなっちゃう。口の中で噛んで、味わって、ちゃんと食べてあげたくなっちゃう…、あきらくんの命をそっくりそのまま飲み込んであげるからさ。」

  守るという言葉が詭弁であることをもはや隠す気もないものくろ君にあきらくんは取り乱し始める。

  「や、やめてっ…おねがい、死にたくないっいたいのやだよお!!」

  「でもね、あきらくん、僕も苦しくて苦しくてたまらないんだ。あきらくんが僕のこと、好きじゃないかもって半分はわかっちゃったんだから、あきらくんってー、ほんとにわるいよね。僕のことが嫌いなら嫌いって言ってくれればいいのに、どっちつかずではぐらかしちゃうんだから。」

  ものくろ君は糸目な微笑みであきらくんを見つめた。あきらくんの全身を指で優しく触って確かめながら。

  「でもすっきりしちゃった…あきらくんって多分僕のことちょっとうっとうしいって思ってたのかなあって思うと、僕もう未練なくなっちゃったからー。」

  「そ、そそ…そんなことないよっものくろくんのこと、やさしいなって」

  「ふ~ん。うそっぽーい…えへ。でも、もう決めちゃったんだ。お腹もすいてきたしー、あきらくんをおやつにしてもいいかなあってえ…」

  「ぼ、ぼくなんてたべても…それに、捕まっちゃうよ?」

  「そこは自信持っていーよ!あきらくんのもちもちな肌は絶品だよ!

  かみごたえもよさそうだし。それにね、あきらくんを飲み込んでしまったら、血もつかないんだから、僕は全然平気だよ!知らないって言えばいいんだから…あきらくんってさ、優しいよね。本当にだいすき…だから、はふ」

  そのタイミングで、あらかた何も尖ったものなどを身につけていなかったのを確かめたものくろくんは、薬でも飲むようにあきらくんを口の中に収めると、慣れた動作であきらくんをこんにゃくゼリーのようにちゅるんと飲み込んで頂いてしまった。

  ごくん…。

  「はー、おいしー!っんんっのどごしとはいとくかんやばーいっ」

  あきらくんは優しいから、僕も優しくしてあげた。噛まずに飲み込んであげた。と、本気でものくろくんは思いながら、あきらくんを口に入れて、その身体を味わってしまったことに並々ならぬ興奮を感じていた。ものくろくんはもう我慢できないとばかりに自身の下半身を脱ぎ晒して、自分の指球や掌球で小さくて赤いそれを慰め始める。

  「はぁっ、はぁっ、…」

  抑えていたあきらくんへのみだらな思いをを発露させ始めるものくろくん。

  「あ、あきらくん…すごく、かわいかった…はぁはぁっ…うっ…でちゃう…あきらくん、かわいそう…うっ」びゅるっびゅるるっ

  ものくろくんはあきらくんが必死に命乞いを自分にしている様子ですでに興奮していた。

  あきらくんに見られたらドン引きされてしまうので、なるべく抑えていたのだが、もう本人は自分の腹の中だから、見られることはないのだと。食べたくて食べたくて、うずうずしていたけど、とうとう我慢できずに食べてしまった。

  「はぁっ…はぁっ…こ、殺した、僕が殺した…食べちゃった…ああ、あ」

  チルくんの時と同じように、好きな男の子を食べて、あまつさえその命乞いの様子をおかずにして抜いて、遺体に精液をぶちまけてしまうようなマネをして…ものくろくんは自分のことが嫌いになりそうだった。

  「あ、あきらくん…ごめん…」

  ものくろくんは自身のお腹に手を当てて、じんわりと温かい消化中の熱を感じた。