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第2話 学校での日常

  鏡に映るのは、見慣れない――でも、どこか見覚えのある少女の顔。

  まるで、夢の中で何度も見た“理想像”が、そのまま実体化したような。

  ふわりと揺れるショートツインテール。ぱっちりとした大きな瞳。肌は透けるように白く、どこか人形のような美しさがある。

  ……これ、俺じゃないか?

  いや、違う。これは「星宮エリス」だ。俺が作ったAIキャラクターの、完璧な姿。

  「……まじかよ……」

  言葉が震える。信じたくない。でも、鏡の中の少女も同じ表情をしていた。

  昨夜――ディスプレイが点滅して、白い光に包まれて……気づいたら、ここにいた。

  この顔、この髪型、この体……俺は今、星宮エリスとして存在している。

  手を見つめる。細く、柔らかくて、白い。男だった頃の無骨な指とはまるで違う。

  パジャマはピンク色の、シンプルな上下。ふと我に返り、全身を確認する。

  やっぱりどう見ても女子高生の姿……しかも、俺の理想の。

  「……とりあえず、着替えないと……」

  思考を止め、半ば無意識のようにクローゼットを開けた。

  中には、エリスの制服――白いYシャツに、紺色のプリーツスカート、そして濃い緑のチェック柄のリボン。

  アバター作成時に何度も調整を重ねた制服だ。

  今、それを自分で着ることになるとは――思ってもいなかった。

  慣れない手つきで着替えを済ませるが、不思議と動きはスムーズだった。服のたたみ方やリボンの結び方、そしてトイレの使い方まで――まるで、本物のエリスの記憶が流れ込んできて、自然と体が動く感覚がある。

  鏡の前に立つ。

  そこにいたのは、制服姿の星宮エリス。完璧な姿。……中身が動揺しまくってる大学生の男だなんて、誰が信じるか。

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  「これ……俺なのかよ……」

  息を吐き、ドアを開けた。眩しい朝の光が、異世界のような現実を照らしていた。

  通学路を歩きながら、目に映る景色に、妙な既視感を覚える。

  整った街並み、通学する生徒たち、道端の花壇に咲く花――どれも、どこかで見たような……

  (まさか……この街並みも制服も、俺が集めたサンプル画像や設定を元に、AIが構築した“世界”……?)

  そんな考えが頭をよぎる。

  「エリスー! おはよう!」

  元気な声に振り返ると、見知らぬはずの二人が、笑顔でこちらに手を振っていた。

  桜井ナギ。茶色のボブカットで、明るく人懐っこい親友ポジション。

  そして篠崎ユキ。長い青髪を風に揺らし、穏やかな笑みを浮かべる、もう一人の親友。

  (ナギ……ユキ……いや、俺はこの二人を作っていない……)

  見たこともないはずのふたりなのに、名前や性格、関係性までもが頭に浮かぶ。

  彼女たちを目にした瞬間、まるで“本物のエリス”の記憶が流れ込んできたかのように。

  「お、おはよう……ナギちゃん、ユキちゃん……」

  引きつる声で挨拶すると、ナギが小首をかしげる。

  「どうしたの、エリスちゃん? なんか元気ない?」

  「う、ううん! ちょっと寝ぼけてただけ!」

  慌てて誤魔化しながら、二人と並んで歩き出す。

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  星見学園高等学校――物語の舞台として設定した、俺が作った世界の中心。その門を、今、自分の足でくぐる日が来るとは。

  授業が始まっても、俺の混乱は続いていた……が。

  「星宮さん、この問題、わかるかしら?」

  教師に当てられ、答えを口にする――と、驚くほどすらすらと言葉が出てきた。

  (えっ……なんで!?)

  考えるより先に、知識が口から流れ出てくる。大学で学んだ知識が、この体にそのまま移植されているようだ。

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  「さっすがエリスちゃん!」

  「また満点コースかな〜?」

  クラスメイトたちの賞賛の声。

  褒められて悪い気はしないけど、内心はもうパニック寸前だ。

  ただ一人、窓際で静かに外を眺めている少女がいる。

  ピンク色のロングヘアーが風に揺れ、その影が彼女の表情を覆い隠していた。

  それでも、目だけは――静かにすべてを見通しているようだった。

  彼女は他の生徒とはまるで違う雰囲気を纏っていた。

  まるで、ここがただの学校ではないと知っているような……世界の“裏側”を知る者の眼差しだった。

  (……誰だ、あの子は)

  昼休み。ナギとユキと三人でお弁当を広げる。

  内容は他愛のない会話――テレビの話、好きなキャラ、甘いお菓子の話。

  だけど、ふたりの自然な振る舞いに、次第に俺の緊張もほどけていく。

  (ああ、これが“エリスの日常”ってやつか……)

  ほんのひととき、戸惑いと恐怖を忘れて、女子高生らしい時間を過ごした。

  が、平穏は長くは続かなかった。

  午後の体育。バスケの試合。

  「エリスちゃん、いっくよー!」

  「う、うんっ……!」

  だけど……シュートはリングに届かず、ドリブルもおぼつかない。

  (だよなぁ……しかもこの身体、軽いのに、思ったよりうまく動かせない。感覚が全部ズレてる……)

  コートの片隅で、膝に手をつき、ゼェゼェと息を吐く。

  情けなさが胸を締めつけた。

  「ご、ごめんね、みんな……」

  「ドンマイ、エリスちゃん! 次頑張ろっ!」

  ナギとユキは優しく励ましてくれたけど――内心は、泣きたいほど悔しかった。

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  この世界は、俺の理想で、俺の創造物だった。

  でも今、その中に“生きて”いるのは、まぎれもなく――俺自身だ。

  「……俺は、どこまで“エリス”になっていくんだろう」

  制服の袖を握りしめながら、俺はそっと、空を見上げた。

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