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第3話 魔法少女誕生

  放課後の空気は、どこか寂しげで、少しだけ冷たかった。

  ナギとユキと別れ、ひとりきりになった通学路。

  ほんのさっきまで賑やかだった日常が、ふいに色を失ったような気がした。

  その違和感に気づいたのは、細い路地に差し掛かった時だった。

  「……ッ!」

  背筋を、氷のような気配が撫でた。

  その瞬間――目の前に現れたのは、妖艶な笑みを浮かべた女と、彼女の隣に立つ、異様に巨大な犬型の怪物だった。

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  (な、なんだあれ……!?)

  女の目が細くなる。冷たい視線が、俺を射抜いた。

  「やっておしまい。ザ・ワン」

  女が命じると、犬の怪人が低く唸る。

  「了解ワン。メイカ様」

  ザ・ワンと呼ばれたその怪人が、一瞬にして俺との距離を詰めてきた。

  「うわっ――!」

  反射的に飛び退く。だがその隙に、ナギとユキの姿が、怪人の足元に倒れていた。

  「ナギ!? ユキ!?」

  触れられた瞬間、彼女たちの身体から、淡い光が吸い取られていく。

  その光がザ・ワンの体内へと溶けていくのを、俺は呆然と見ていた。

  「やめろッ!!」

  叫ぶことしかできなかった。恐怖で足がすくむ。

  その時――足元に何かが転がってきた。

  あの、黒いうさぎのぬいぐるみ。クロベエだ。いつの間に……?

  その瞳が、ぞくりとするほど赤く光った。

  「僕と契約して、魔法少女になってよ。君は――選ばれた存在なんだ」

  声は、直接頭の中に響いた。

  優しさも同情もない、ただ事実だけを告げるような、冷たい声。

  (まるで……あいつみたいだ……!)

  かつて観たアニメの、あの白いマスコットキャラの姿が重なった。

  願いを叶える代わりに少女たちを過酷な運命に導いた、あいつに。

  (契約……魔法少女……しかも今回第3話だぞ……?)

  迷う暇はなかった。

  「……わかったわ! 契約する!!」

  俺が叫ぶと、クロベエの瞳が細くなった。満足げに。

  次の瞬間、クロベエは粒子となって宙に舞い、俺の胸元へと吸い込まれていく。

  そして全身を、温かな光が包み込んだ。

  (……この声……「これで、やれるわ」?)

  どこか遠くから、誰かの声が聞こえた気がした。

  それは懐かしくて――優しくて――まるで、エリス本人のような……

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  眩い光がはじけた。

  その中で、俺の体は変化していた。

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  金色のショートツインテール。ピンクと水色を基調とした、華やかな魔法少女の衣装。

  軽やかで、それでいて芯のある体の感触。

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  「ザ・ワン、あなたなんかに、好き勝手はさせないわ!」

  叫ぶと同時に、体が勝手に動いた。

  地面を蹴ったその瞬間、信じられない速度で怪人へと肉薄する。

  (なんだこのスピード……!)

  ザ・ワンの爪が迫る。それを紙一重で避け、拳を叩き込んだ。

  「ぐっ……がぁああっ!!」

  怪人の巨体がよろめく。

  エリスの体は細い。でもその拳は――俺の想像以上に強かった。

  「行ける……!」

  俺は、胸元からクロベエの姿をした“杖”を取り出す。

  ピンク色の杖の先端には、小さな星の装飾。

  そこから、光が集まり――一点に収束していく。

  「――スターライト・シューティング!」

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  「ワォオオオ――――!!」

  爆音のような咆哮を残し、ザ・ワンは光の粒子となって消滅した。

  「チッ……今回はここまでか」

  怪人を操っていた女――メイカと呼ばれたその存在は、忌々しげに舌打ちし、闇の中へと姿を消した。

  去り際に、彼女がぼそりと呟いた。

  「面白いデータが取れたわ」

  ――聞き間違い、だといいが。

  力が抜けるように、体から光が失われ、制服姿に戻った。

  「っはぁ……!」

  その場に膝をつく。魔法少女の力は消え、普通の女子高生の姿に。

  「ナギ! ユキ!!」

  駆け寄ると、二人はうっすらと目を開けた。

  「……エリス……?」

  「私、なんで……ここに?」

  混乱する二人を見て、ようやく俺は――ほんの少しだけ、安堵した。

  その背後で。路地の暗闇の奥――

  黒いうさぎのぬいぐるみが、静かに赤い瞳を光らせていた。

  まるで、次なる試練が迫っていることを、知っているかのように。

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