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放課後の空気は、どこか寂しげで、少しだけ冷たかった。
ナギとユキと別れ、ひとりきりになった通学路。
ほんのさっきまで賑やかだった日常が、ふいに色を失ったような気がした。
その違和感に気づいたのは、細い路地に差し掛かった時だった。
「……ッ!」
背筋を、氷のような気配が撫でた。
その瞬間――目の前に現れたのは、妖艶な笑みを浮かべた女と、彼女の隣に立つ、異様に巨大な犬型の怪物だった。
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(な、なんだあれ……!?)
女の目が細くなる。冷たい視線が、俺を射抜いた。
「やっておしまい。ザ・ワン」
女が命じると、犬の怪人が低く唸る。
「了解ワン。メイカ様」
ザ・ワンと呼ばれたその怪人が、一瞬にして俺との距離を詰めてきた。
「うわっ――!」
反射的に飛び退く。だがその隙に、ナギとユキの姿が、怪人の足元に倒れていた。
「ナギ!? ユキ!?」
触れられた瞬間、彼女たちの身体から、淡い光が吸い取られていく。
その光がザ・ワンの体内へと溶けていくのを、俺は呆然と見ていた。
「やめろッ!!」
叫ぶことしかできなかった。恐怖で足がすくむ。
その時――足元に何かが転がってきた。
あの、黒いうさぎのぬいぐるみ。クロベエだ。いつの間に……?
その瞳が、ぞくりとするほど赤く光った。
「僕と契約して、魔法少女になってよ。君は――選ばれた存在なんだ」
声は、直接頭の中に響いた。
優しさも同情もない、ただ事実だけを告げるような、冷たい声。
(まるで……あいつみたいだ……!)
かつて観たアニメの、あの白いマスコットキャラの姿が重なった。
願いを叶える代わりに少女たちを過酷な運命に導いた、あいつに。
(契約……魔法少女……しかも今回第3話だぞ……?)
迷う暇はなかった。
「……わかったわ! 契約する!!」
俺が叫ぶと、クロベエの瞳が細くなった。満足げに。
次の瞬間、クロベエは粒子となって宙に舞い、俺の胸元へと吸い込まれていく。
そして全身を、温かな光が包み込んだ。
(……この声……「これで、やれるわ」?)
どこか遠くから、誰かの声が聞こえた気がした。
それは懐かしくて――優しくて――まるで、エリス本人のような……
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眩い光がはじけた。
その中で、俺の体は変化していた。
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金色のショートツインテール。ピンクと水色を基調とした、華やかな魔法少女の衣装。
軽やかで、それでいて芯のある体の感触。
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「ザ・ワン、あなたなんかに、好き勝手はさせないわ!」
叫ぶと同時に、体が勝手に動いた。
地面を蹴ったその瞬間、信じられない速度で怪人へと肉薄する。
(なんだこのスピード……!)
ザ・ワンの爪が迫る。それを紙一重で避け、拳を叩き込んだ。
「ぐっ……がぁああっ!!」
怪人の巨体がよろめく。
エリスの体は細い。でもその拳は――俺の想像以上に強かった。
「行ける……!」
俺は、胸元からクロベエの姿をした“杖”を取り出す。
ピンク色の杖の先端には、小さな星の装飾。
そこから、光が集まり――一点に収束していく。
「――スターライト・シューティング!」
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「ワォオオオ――――!!」
爆音のような咆哮を残し、ザ・ワンは光の粒子となって消滅した。
「チッ……今回はここまでか」
怪人を操っていた女――メイカと呼ばれたその存在は、忌々しげに舌打ちし、闇の中へと姿を消した。
去り際に、彼女がぼそりと呟いた。
「面白いデータが取れたわ」
――聞き間違い、だといいが。
力が抜けるように、体から光が失われ、制服姿に戻った。
「っはぁ……!」
その場に膝をつく。魔法少女の力は消え、普通の女子高生の姿に。
「ナギ! ユキ!!」
駆け寄ると、二人はうっすらと目を開けた。
「……エリス……?」
「私、なんで……ここに?」
混乱する二人を見て、ようやく俺は――ほんの少しだけ、安堵した。
その背後で。路地の暗闇の奥――
黒いうさぎのぬいぐるみが、静かに赤い瞳を光らせていた。
まるで、次なる試練が迫っていることを、知っているかのように。
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