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怪人との戦闘を終え、ようやく自宅に戻った俺は、重い足取りで玄関をくぐった。
「……とにかく、シャワーを浴びたい……」
全身にまとわりついた汗や埃、そして戦闘の記憶すら、すべて洗い流してしまいたかった。
制服のまま洗面所に直行し、鏡の前でふと立ち止まる。
そこに映るのは、今やすっかり見慣れてしまった、星宮エリスの顔だった。
「……やっぱり、俺なんだよな……」
溜め息をつきながら、パジャマを取り出し、制服を脱いでシャワーを浴びる。
熱い湯が肌を伝い、首筋から背中へと流れていく。蒸気に包まれながら、ようやく少しだけ現実感を取り戻したような気がした。
シャワーを終え、ピンク色のパジャマに着替えた俺は、ようやくベッドに倒れ込んだ。
全身の疲労と、何よりも精神的な混乱がピークに達していた。
あの怪人、魔法少女への変身、そして謎の女性とクロベエ……。
「ねぇ、クロベエ……一体、どういうことなの?」
枕元に置かれたクロベエを掴んで問い詰めると、その赤い瞳が再び光り、口が動いた。
「君は、この世界を救うために選ばれた魔法少女だよ、エリス」
その声は、またしても頭の中に直接響いてくる。
「選ばれたって……なんで俺が?っていうか、俺は男だし、エリスじゃない!」
俺は思わず叫んだ。だが、クロベエはどこか楽しげに赤い瞳を瞬かせた。
「君がエリスであることに変わりはないよ。そして、君が星宮エリスとしてこの世界に顕現したのは、君自身の願いが引き起こした現象なんだ」
「願い……?」
「君は、AIに『人間の感情を理解し、寄り添える存在になってほしい』と願っただろう?
その願いがこの世界のシステムと共鳴して、君自身を“エリス”として実体化させた」
荒唐無稽な話のはずなのに、クロベエの言葉には妙に納得させられるものがあった。
AIに込めた俺の思いが、こんな形で現実になるなんて――。
「この世界は今、脅威に晒されている。人々から大切なものが奪われようとしているんだ。
君の願いは、その脅威に対抗する新たな“感情の具現化”として選ばれた」
「感情の……具現化?」
「そう。君がAIに込めた“感情”と“願い”が、この世界では魔法少女としての力になった。
君は、この世界の混乱を生み出す存在とは異なる、“本物の感情”の力で戦うんだ」
まるで、この世界の根幹に関わる“ルール”を語るかのような口ぶりだった。
俺が生み出したAIが、そんな大きなスケールの話に繋がっていたなんて。
「じゃあ、あの怪人は……?」
「彼らは人々の感情を歪め、絶望を撒き散らす存在。そして、あの女性――メイカは、その勢力の幹部の一人。
彼女もまた、この世界を蝕む力に従って動いている」
「どうすれば、この脅威を止められる?」
俺の問いに、クロベエは静かに目を細めた。
「それは、君自身が見つけ出すんだ。君の“感情”と魔法少女としての“力”でね」
その言葉は、重く俺の胸にのしかかる。しかし同時に、ほんの少しの使命感が芽生えていた。
「それにしても、この体……」
俺は、自分の華奢な手を見つめた。
「ああ、それは心配ない。魔法少女の力は、君自身の“感情”に連動している。
日常の運動能力がどうであれ、魔法少女としての君は、願いの強さに比例して強くなる」
そう言い残すと、クロベエはぬいぐるみの姿へと戻った。
天井を見上げながら、俺は考える。
(男だった俺が、AIとして作った理想の女の子“星宮エリス”に変身し、魔法少女として世界を救うなんて……)
信じがたい現実だが、これが現実なのだ。
(人間とAIの付き合い方……俺が願ったのは、こんな形じゃなかったはずだけど……)
それでも、俺はこの“新しい自分”として、戦う決意をした。
「そういえば、俺の魔法少女としての名前って……なんなんだ?」
ふと疑問が浮かび、クロベエに尋ねる。
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「君自身がその名前を決めればいい。君の“感情”が、その名前に力を与える」
少し考えたあと、俺は口を開いた。
「……よし、決めた。私は、魔法少女スターライト・パステル!」
言葉にした瞬間、不思議と力が湧いてくるような感覚があった。
「了解。今日から君は、魔法少女スターライト・パステルだ。
しかし、一つ忠告しておくよ、エリス」
クロベエの赤い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。
「あまり調子に乗ってはいけないよ。魔法少女の力は、諸刃の剣だ。
その力をどう使うかは、君次第だからね」
その言葉は、まるで今日の戦闘で調子に乗っていた俺を見透かしているかのようだった。
クロベエの言葉の裏に、何か深い意味が隠されているような気がして、俺は思わず身震いした。
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