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シーファは学校の校庭に立ち、指先に浮かべた魔法紋をじっと見つめていた。
その紋様は、クロベエから受け取った追跡の魔印。魔法カエルにされ、バブルに閉じ込められたエリスとナギ――ふたりの反応が、この周辺で完全に途絶えている。
「地上から隠されているってことね……となると、あれね」
彼女は地面に膝をつき、石畳を撫でるように指先を滑らせた。すると、ほのかに青白いラインが浮かび上がる。それは、かすかに魔力を帯びた地下施設の輪郭だった。
「やっぱり、魔法障壁でカモフラージュしてある。けど――透過解析、開始」
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小声で呟くと同時に、彼女の背に浮かぶ魔法紋が淡く光を放つ。次の瞬間、石畳の一部が歪み、透明な階段の入口が露わになった。
「見つけた……!」
シーファは階段を音もなく駆け下りる。彼女の得意分野――潜入と透明化が、その真価を発揮する時だった。
地下アジトの空間は、敵の結界によって歪んでいた。物理的な距離よりも遥かに広く、迷宮のような構造になっている。だが、彼女は迷わない。全体を俯瞰するように、魔力の流れを視覚化し、敵の動きや監視魔法の配置を読み取る。
「熱感知センサー、レーザートラップ……まるでスパイ映画ね」
軽口を叩く余裕を見せながらも、足取りは正確だった。通路の壁に取りつけられた魔眼の視線をすり抜け、魔法陣を踏まずに跳ね越え、静かに、確実に進んでいく。
(来たよ)
やがて彼女の存在が、誰にも気づかれることなく、バブルの中で閉じ込められているエリスの意識へと届いた。
バブルの中で身を寄せ合っていたカエル姿のエリスとナギが、透明になったシーファの姿を視認する。エリスの胸がかすかに高鳴った。
「今、助ける」
シーファはそう口の動きで伝え、静かに〈土の結晶〉へと接近した。
彼女は胸元から、小さな蒼い宝石を取り出す。それは、彼女が自ら設計・生成した魔法爆弾。あらゆる魔力構造を精密に破砕することに特化した一点集中型の魔具。
「これで、エナジー供給の源は断たれる」
土の結晶の根元にそれをセットし、魔法で起爆条件を設定――そして、シーファはスッと指を鳴らした。
――ズン!
次の瞬間、紫に輝いていた土の結晶が鈍い音を立てて砕け散る。その衝撃でバブルにヒビが走り、続けて音を立てて崩壊。カエル姿のエリスとナギが自由の身となった。
「今のうちに――!」
彼女はふたりのカエルをしっかりと胸に抱え、すぐさま出口に向けて駆け出す。
「警報発動! 侵入者を確保せよ!」
機械的な声とともに、通路に赤い照明が点滅を始める。だがシーファの姿はすでに光に溶け、誰にも追尾できなかった。
やがて、地上――公園の噴水広場にたどり着いたシーファは、そっとカエルたちを地面に置いた。
「クロベエ、ウインズ! 二人のリングを破壊して!」
合流したマスコットたちが頷き、蒼い光をリングに注ぎ込む。光に耐えきれず、リングが砕けた瞬間――エリスとナギの体が一閃の輝きに包まれ、人間の姿へと戻っていく。
「くっ……!」
突如、地面が揺れ、紫色のロングヘアを揺らした影が姿を現した。メイカだった。
しかしその瞳に、あの圧倒的な魔力の輝きはなかった。
「土を、植物を操るあなたの力は……乾いた地でこそ最大限の力を発揮する。でも今、あなたの足元は――氷よ」
シーファの冷静な声と同時に、彼女の手から走る冷気が地面を這い、メイカの足元をたちまち凍らせた。ガリッと音を立てて、土とツタが凍りつく。
「くっ……土の結晶さえあれば……!」
歯ぎしりするメイカの叫びが虚空に響く。かつて大魔王から授かった紫の土の結晶は、シーファの仕掛けた爆弾によって完全に砕かれた。今の彼女には、かつてのような圧倒的な魔力は残されていない。
それでもメイカはあきらめなかった。彼女は残る魔力をかき集め、最後の抵抗とばかりに地面に拳を叩きつける。残ったツタが暴れ狂うように地表を走り、シーファに向かって伸びてきた。
だが――。
「遅い」
シーファは氷の短剣を手に、姿をすっとかき消したかと思うと、すでにメイカの背後に現れていた。
「氷刃――《静流斬》!」
鋭い氷の斬撃が、メイカの背中に迫る。メイカは咄嗟に腕で防御するが、氷の冷気はその魔力を削り取るようにじわじわと浸食していく。
「くっ……こんな……!」
「もう終わりにしよう、メイカ」
その声に続いて、地上から降りてきたフラーブス、そしてパステルが並び立つ。
「あなたのやり方は、私たちの街には必要ない」
「……スターライトの名にかけて!」
三人のマスコットが合体し、巨大な魔法の砲へと変化する。
「スターライト・トリニティ・バースト!」
空が裂けるような閃光が、三人の力を束ねて放たれた――。
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蒼・桃・黄の三色の光が合わさり、巨大なビームとなってメイカを包んだ。
――轟音。爆風。そして、静寂。
倒れ伏すメイカの体はすでに限界だった。
「くっ……殺せ……!」
パステルは無言のまま、彼女の首・手首・足首に、淡い水色の魔法リングをはめていく。
「その前に、やられたことやり返さないとね」
リングが光り、エネルギーを吸収――次の瞬間。
「ゲコッ……!?」
そこには、紫色の肌をしたカエルが倒れていた。髪型は月島ミカのまま。その顔には、どこか哀しげな色が浮かんでいた。
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クロベエだけが、そのカエルの胸に宿る微かな紫の光を感じ取っていた。
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