Ad
戦いを終えた私たちは、カエルの姿になったメイカを、ナギの家の広いリビングにある大きな水槽へと移した。
透明なガラスの向こう――
そこでは、紫色に変色したカエルが、悲痛な鳴き声を上げて泣き叫んでいた。
かつて四天王として威風を放っていた姿は、もうどこにもなかった。
「ゲロゲロ……ゲロゲロゲロ……!」
「うーん、泣いてるみたいだけど……何を言ってるのか、さっぱりだね」
ナギが困ったように水槽を覗き込む。
[uploadedimage:21518357]
私はふと、彼女がカエルになったことで、その魔力――とくに“土の力”を吸収できるのではないかと考え、能力を試してみた。
だが、なぜか何の反応もない。
「おかしいな……今までは、怪人の魔力を吸収できたのに……」
首をかしげる私に、クロベエが胸元からひょこっと顔を出し、淡々とした声で言った。
「それは、その“土の力”が、魔法少女としてのものだからだよ」
「えっ!?」
私もナギも、ユキも、そしてウインズやナヴィールまでもが目を見開く。
「魔法少女……?」
ナギが信じられないという顔でクロベエを見つめた。
クロベエは赤い瞳を光らせながら、ゆっくりと語り出す。
「メイカは、元々は普通の人間だった。そして、かつては魔法少女としての力を持っていた。
だが、大魔王に操られ、強化された“変身能力”を与えられたんだ。
いまの姿や怪人を生み出す能力は大魔王の力によるものだけど、“土の力”の根源は、彼女が魔法少女だった頃のもの。
だから、エリス。君が吸収できるのは“怪人化した存在”の魔力だけ。魔法少女としての根源的な魔力は、吸収できない」
……まさか、敵だった四天王の一人が、元は魔法少女だったなんて――
私は言葉を失っていた。
「でも……人間の姿に戻す方法は、ないの?」
ユキが、哀れな目で水槽のカエルを見つめながら呟いた。
「方法は、ひとつだけある」
クロベエが私をじっと見つめて言った。
「エリス、君が彼女の魔力を吸収し続けながら、“人間の姿に戻れ”と強く念ずるんだ。
魔力の源を断ちながら、同時に形態変化の魔法を上書きする。
ただし、失敗すれば――君の魔力に反動が返ってくる可能性もある」
一瞬、私は迷った。
だが、水槽の中で泣き続けるカエルのメイカを見て、心を決める。
「……わかった。やってみるよ」
私は手をかざし、能力を発動。
水槽の中から、カエルのメイカをふわりと浮かび上がらせ、空中で静止させた。
「戻れ……人間の姿に」
私は強く念じながら、魔力の吸収を開始する。
するとメイカの身体が水色の光に包まれ――
次の瞬間、その光がパッと弾けた。
現れたのは――
艶のある黒いラバースーツに身を包まれ、首・手首・足首にパステル水色の魔法リングを帯びた、月島ミカだった。
[uploadedimage:21518363]
右胸には、水色の魔法紋様が浮かんでいる。
「……ミカ……」
彼女は宙に浮いたまま虚ろな目をしていた。意識はまだ戻っていないようだ。
私は彼女の足元に落ちていたスマートフォンを拾い、顔認証を試す。
ロックは、あっさりと解除された。
中を確認すると、フォルダには信じがたい写真が大量に保存されていた――
囚人服を着せられた人々。黒いラバースーツに拘束された姿。
そして――カエルに変えられた人々の姿まで。
その中には、私とナギの姿までもが、はっきりと写っていた。
「……これ、どういうことだよ……ミカ……!」
私は震える手でスマホを握りしめる。だが、ミカは沈黙を守る。
その瞳は、以前学校で見たときと同じ、どこか遠くを見るような虚ろな光を湛えていた。
「ッ……!」
私は意を決して、再び能力を使い、彼女を再び紫色のカエルへと戻し、水槽へ戻した。
リングをつけたままのカエルは、水槽の底でじっと動かなくなった。
そのときだった。
ミカのスマートフォンの画面に、突如として怪しい紋章が浮かび上がる。
それは、大魔王のものと思われるものだった。
すぐに暗転し、画面には「Welcome」の文字。
その直後、スマホは完全に初期化されてしまった。
[uploadedimage:21518371]
「これは……」
クロベエが、冷静に解説する。
「“大魔王のMDM”だね。
企業や学校で使われてるモバイル端末管理システムさ。
紛失時には位置情報取得や端末ロック、初期化ができて、情報漏洩を防ぐやつ。
つまり……このスマホを使ってたってことは、もう君たちの情報は、大魔王側に漏れてるってことになる」
クロベエは静かに水槽の中のカエル――ミカを見つめた。
[uploadedimage:21518379]
その胸の奥――うっすらと光るコアを。
「――力が、欲しいか?」
その瞬間、ミカの体内のコアが、まるで応えるように微かに光を放った。
クロベエは満足げに目を細め、静かに、そして力強く言った。
「さあ、行こうか。魔法少女協会へ」
Ad