「ハイター…大丈夫?」
いくら教えてもしなかったノックを初めてしながらハイターの寝室に入るアルタ。
「?大丈夫ですよ、どうかしましたか。」
「いや、特に用はないけど、今日は一緒に寝たいなと思って。」
「いつになく甘えんぼさんですね。いいですよ。」
少し驚きつつもいつもと変わらず穏やかに受け入れるハイター。
アルタは狼の姿になってハイターの上に乗らない場所で丸くなる。
そっぽを向きながらではありつつも、アルタがぽつりとつぶやく。
「……ハイター、ありがと。アタシを家族にしてくれて」
「どういたしまして」
ハイターはいつも通りの声で答えた。
それが、かえって優しすぎて、アルタは胸が痛くなる。
「ハイターやフェルン、フリーレンはアタシを人間だって言ってくれたけど……」
アルタは視線を逸らしたまま続けた。
「自分でも、わかんないんだ。本当は魔物なんじゃないかって。
生まれたときから狼で、物心ついたときにはもう狩りをしてた。
……家畜を襲ったこともある。これって、人間じゃないよね」
「違いますよ」
ハイターの否定は、驚くほど強く、静かだった。
「あなたは、人間です。――少なくとも、私にとっては」
丸くなった狼にハイターは続ける。
「正直、あなたと暮らし始めた時点で、自分に残された時間が短いことくらい気づいていました。
そして、結局、あなたにかけられた呪いを解くことはできなかった。」
「うん」とただ頷くアルタ。
「少しだけですが、私が分かったことをお伝えしておきますね。」
ハイターは、静かに息を整えながら言葉を紡いだ。
「あなたにかけられている“獣の姿になる呪い”……。それは、あなた自身が受けたものではありません。」
アルタの耳がぴくりと動く。
「おそらく、もともとはあなたの母親が受けた呪いです。
女神さまの魔法で解呪しようとした形跡がありました。けれど、完全には祓われていなかった。
そのとき母親のお腹の中にいたあなたへと、呪いが転移したのだと思われます。」
「……じゃあ、わたしは、生まれる前から呪われてたってこと?」
ハイターは穏やかな笑みを浮かべながら続ける。
「そうです。あなたは誰かの呪いを代わりに背負ってまでこの世に生まれてきて、生き続けているということです。
ここまでの人生も消して楽ではなかったはずです。そしてここからも。
そこで、フリーレンに少しお願いをしておきました。」
「お願いって?」
「私が死んだら、フリーレンとフェルンの旅路にあなたを同行させてほしいと。
一緒にある場所まで旅をするんです。…きっと、あなたの心の靄も晴れると思います。」
アルタは何も答えなかったが、そのしっぽは穏やかに揺れていた。