君が使える魔法は

  大陸の中央に広がる内海へと通じる唯一の門――ヴァルム海峡。

  その近くの海辺の村で、フリーレンとフェルンは海岸清掃の依頼をこなしていた。

  日が傾き、潮の香りが宿の窓から吹き込むころ。

  買い出しに出たフェルンと別れたフリーレンを出迎えたのは、

  床にぺたんと寝転がったアルタだった。

  体力の限界なのか、耳やしっぽが狼のままでしおれている。

  「…おかえり、フリーレン。」

  「うん、ただいまアルタ。……どうしたの?そんなに疲れた?」

  アルタは顔だけ上げて、情けない声を出した。

  「そりゃ疲れるよ!!なんで私だけ猟犬扱いで、村の猟師と一緒に狩りの手伝いなの!?

  2人みたいに魔法でひょいひょいする楽な仕事がしたいー!」

  「また始まった。」

  フリーレンはため息をつく。

  「村長の依頼は海岸清掃だけじゃなくて新年祭の準備だよ。食料も毛皮も全部その一環。

  それに、水を吸った船の残骸を魔法で持ち上げるのも簡単じゃないよ。」

  淡々と諭すフリーレンに「うぅ…」とうなることしかできないアルタ。

  その後もしばらく起き上がらずに今度はベッドの上でゴロゴロしていたアルタだったが、

  ふと、ベッドの上で魔導書を読んでいたはずのフリーレンがずっとこちらを見ているような気がして目をやる。

  「ねぇ、アルタ? 突然で悪いんだけど、服、脱いでくれない?」

  「っはああ??脱ぐわけないでしょ!! なんかジロジロ見てるなと思ったらかなりド直球!!」

  「そういえばその人間の姿、魔法で変身してるんだったなと思って。

  …つまるところアルタ、キミには魔法の才能があるかもしれない。まあ、フェルンほどではないだろうけど。」

  「…え、ホントに!?どんな魔法が使えるの!?」

  とち狂った要求をしてきたフリーレンの「魔法の才能」という言葉に引き寄せられてしまう。

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  「ふふん、じゃあ取引だ。私にその変身できる魔法を教えてもらえれば、いくつか簡単な魔法を教えてあげよう。

  …もっとも、キミは完全に感覚で魔法を使いこなしている、人に教えるなんて毛頭無理だろうから、

  さっきも言ったように直接、服を脱いで魔力の流れ自体を見せてもらうことになるけど。」

  「…うぐうぅ。…わかったよ!!脱げばいいんでしょ脱げば!!!」

  アルタが服をたくし上げ、フリーレンが腹をさする。

  「ふふ…かなり複雑だね…皮膚の下を血管みたいに魔力が通ってる。

  今まで気にしてなかったけど、顔と手足だけじゃなくて服の下も精密に魔力が練られてるね。こことか特に…」

  「…うぅ、これ以上は無理…っ」

  ガチャ

  「ただいま戻りましたー…」

  買い物袋を手に帰ってきたフェルンの目に飛び込んできたのは、

  涙目で服をたくし上げるアルタとそれを触診しながら「…ふふ」とにやけるフリーレン。

  「…って何してるんですか。」

  「魔法の研究だよっ」と満面の笑みで言うフリーレン。

  「拷問だよぉ…」と目にたまった涙がこぼれつつあるアルタ。

  「一旦、どっちが悪いかは理解できました。フリーレン様、今日の夕飯は抜きです。」

  「なんでさっ」

  ―――――――――――

  そうは言いながらも結局3人とも夕食を食べた後。

  「アルタ、さっきはごめん、取引の続きとして君に使えそうな魔法を教えてあげるよ。」

  「ホント!?早く教えてよ!」と人間の姿にもかかわらず、揺れているしっぽが見えてきそうなアルタ。

  「君が使える魔法は、ずばり自己強化の魔法だね。」

  「…じこきょうか?」

  「さっき見せてくれたアルタの魔力の特徴なんだけど、はっきり言って普通の魔法は使えない、

  というか普通の魔法が本来とは違う形で発現すると思う。」

  頭の上にハテナが浮かんだままのアルタにフリーレンは続ける。

  「…まあ、少しずつ試していこうか。」