「おお!……あれ? これって私、ちゃんと防御魔法使えてるの?」
「うん、ちゃんと使えてるよ。予想通りだ。」
フリーレンは頷いて、アルタの体をじっと観察する。
「やっぱりアルタの魔法は、体の中から外へ出られない仕組みになってるね。」
防御魔法を初めて成功させたアルタの全身は、
毛並みがふわりと逆立ち、青白い光を帯びていた。
魔力の流れが血管のように巡り、狼の姿を淡く照らす。
「体にかかってる“獣化の呪い”が跳ね返して、
外に出ようとした魔力が体内で循環してる。
――つまりそれが、昨日言ってた“自己強化魔法”の正体だね。」
「へぇ……!」
アルタはしばし見惚れながら、前足を上げて自分の体の光を見つめる。
「でも、アルタはそもそも魔力量が少ないから、一般的な攻撃魔法を防ぐのは無理そうだね。
せいぜい、矢とか刃物くらいかな。……魔法使いとは戦っちゃだめだよ。」
「えぇ~……」
耳と尻尾が同時にしょんぼりと垂れる。
フリーレンは小さく笑って、立ち上がった。
「まぁ、そこまで落ち込まないで。試す魔法は他にもあるから。」
ーー
村を発つ前日の朝。
冷たい潮風が吹き抜ける森の中で、アルタは軽やかに駆け抜けていた。
灰色の毛並みが陽光を反射し、
しなやかな肢体が地を蹴るたび、砂や草が風のように流れる。
フリーレンに教わった“モノを移動させる魔法”。
本来は遠くの物を動かすための術を、自分の筋肉に使う。
その力が、アルタの体を内側から押し出すように加速させていた。
「すごい……前よりずっと速い……!」
木々の間をすり抜け、獲物の匂いを追う。
仲間の猟師たちが遅れて声を上げた。
「おい、借りてきたあの狼むすめ……信じられない速さだぞ!」
「まるで風みてぇだ……!」
ビュンとしなる弓の音。
矢が放たれるよりも早く、アルタは獲物の影を追い抜いていた。
――
その日の狩りは、村の新年祭に必要な肉と毛皮をすべて集める大成果となった。
村長が両手を叩いて喜ぶ。
「あなたたちには感謝してもしきれませんよ。
海岸清掃、新年祭までに間に合わせてもらってありがとうございます。
村の猟師たちも、狼の子がいてくれて大変助かったと言っておりました。」
フェルンも少し誇らしげに言う。
「最近のアルタ、頑張ってましたからね。フリーレン様の教えのおかげです。」
フリーレンは、口元に微かな笑みを浮かべながら
「……まぁ、努力したのは本人だよ。」と
疲れ果てて、床で眠りながらも耳だけ傾けているアルタに聞かせるように言った。