街道をゆく荷馬車に揺られる3人。
フリーレンはフェルンの膝に頭をおいて眠っている。
村からの出発ギリギリまで寝ていたアルタは
寝癖を指でくるくると遊ばせながら自分たちを引く馬を眺めていた。
「アルタ、最近姿を変わる機会が多くなってきたので気になっていたんですが、
アルタは生まれつき狼の体だったんですよね?」
「ん?そうだよー?」
「では、その人間の姿は自分でいちから想像して変身しているのですか?」
「いや、え、えーっと…」
アルタは少し目を逸らして言いよどんでしまう。
少しの沈黙の後、また髪を触りながらぽつぽつと話し始める。
「……この姿はね、私の飼い主のものなんだ。」
「飼い主……?」
フェルンが小さく首を傾げる。
「うん。昔ね、物心ついたときには山奥の村で女の子に拾われて飼われてたの。
私の体もまだ小さくてただの子犬だと思ってたのか、毎日一緒に遊んでくれて、一緒に寝て、やさしくしてくれた。」
アルタは小さくため息をついて続ける。
「……でも、体もそこらの犬より大きくなるし、私も人間の言葉を覚えてたまに“ありがとう”とかしゃべっちゃうし、
極めつけは村の魔法使いに魔物の気配に似てるって言われて、自分からその子の家を離れた。」
「その子は、何も言わなかったんですか?」
フェルンの声は、荷馬車の揺れに溶けるように静かだった。
「泣いてた。すごく。
“また遊ぼうね”って言ってくれたけど……私はそれに返事できなかった。」
アルタは指先で自分の髪をつまみながら、ほんの少し笑った。
「だからね、この姿は、その子の姿。
あの子が大人になったら、きっとこんな感じだったろうなって。
…それが私の“人間の顔”なんだ。」
フェルンは言葉を失って、ただアルタを見つめていた。
一瞬おいて、寝ていると思っていたフリーレンが、目を閉じたままぼそりとつぶやく。
「……いい魔法だね。それは。」
「えっ!?聞いてたの!?」
アルタが驚いて振り向くと、フリーレンは目を開けずに続けた。
「少しうらやましいかな。その人の姿になれるほど、鮮明に覚えてるのも。」
そう言って、またすぐに静かな寝息に戻る。
フェルンが、ふとやさしく笑った。
「似てますね。フリーレン様も、たまに同じ目をしています。
……遠い誰かを思い出しているような。」
荷馬車のきしむ音と、遠くの風の音だけが残る。
アルタは少しだけ目を伏せて、そっと笑った。