⑧遥か父の面影

  中央諸国、ブレット地方。

  雑木林を抜けたその先、岩の陰にたたずむ赤いマントのドワーフがいた。

  「アイゼン、遊びに来たよ」

  「三十年ぶりとは思えん態度だな……」

  眉間にしわを寄せ、ゆっくりと振り返るアイゼン。

  アルタは思わずフェルンに小声でつぶやいた。

  「(……あの人、ちょっと怖い人かも)」

  「そんなわけないです」

  フェルンに肘でつつかれ、アルタは小さく身を引いた。

  「たった三十年でしょ」

  何気なく返すフリーレン。

  アイゼンはその後ろの2人を見ながら小さく笑った。

  「ふっ、そうだな。」

  ーーー

  アイゼンが頼んだ“手伝い”――それは、かつてフランメが残した手記の捜索だった。

  その手記には、〈死者と対話した〉という記録があるという。

  聞いた瞬間、アルタの胸の奥で何かがつながる。

  ――ハイターが語っていた“この旅の終着点”は、

  自分の両親に会える場所、オレオールのことだったのだと。

  夜の焚き火の光が、アルタの瞳に揺れていた。

  アルタは毛布にくるまりながら、見たこともない両親と会えるのか、会ったとして何を話すか、

  そんなことをぐるぐると考えていた。

  焚き火のはぜる音に混じって、どさっ、がさっ、と背中のほうで物音がした。

  装備の音でアイゼンだとわかる。けれど、振り返らずに寝たふりを続ける。

  しばらくして、ふわりと香ばしい匂いが漂ってきた。

  「……おい、起きてるだろ。犬っころ。」

  「犬じゃないもん! ……起きてるけど。」

  「晩飯が足らなかったろ。これでも食っとけ。」

  アルタの前に、葉で包まれた焼き鳥の肉が少し乱暴に置かれる。

  「お前はあの2人より、食いそうだったからな。……いらないなら俺が食うぞ。」

  「う、うぅ……なんでバレてるの。なんか悔しいけど……い、いただきます!」

  肉にかぶりつくと、塩気と煙の香りが口いっぱいに広がった。

  思わず、むふっと笑みがこぼれる。

  それを見てアイゼンが「ふっ」と鼻で笑う。

  アイゼンに見られながらも、手と口が止まらないアルタは肉を頬張りながら言う。

  「……おいしい、ありがと。」

  「……やっぱり俺にも少し分けろ。」

  アイゼンの口元がわずかにゆるむ。

  「アイゼンってさ、優しいよね」

  食べ物であっという間に手懐けられるアルタ。

  「ふっ、まあ少なくともお前さんと旅してるエルフよりはな。」

  「聞こえてるよ。」

  「えっ」とアルタとアイゼンが寝ていたはずのフリーレンを見る。

  焚き火の炭がカランと音を立てて崩れる。